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1章
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「鈴っ!」
隼人が里桜の肩を押し退ける。
里桜がハッとして、隼人の背後に視線をやれば鈴が驚愕に目を見開いていた。
(やっちゃった…、)
ずっと、秘密にしていたのに…。
秘密にしていなきゃ、駄目だったのに…。
なのに…
「な…何」
震える鈴の声。
(もう…駄目だ…。
このまま、隠すのも、いいお兄ちゃんでいるのも…)
「にいちゃ…?」
「俺は隼人さんが好きだ」
「!?」
里桜の告白に鈴は後退さる。
やはり鈴は里桜の気持ちには気づいていなかったようだ。
パニックに陥った鈴は、そのまま隼人と里桜の横を勢いよく通り過ぎ玄関を出る。
「鈴っ」
隼人は慌てて鈴に手を伸ばすが、その手は鈴の身体を掴むことはなく
「鈴…」
玄関から飛び出した鈴を追いかけ、里桜を放置しかけだしていく隼人。
逃げる鈴に追いかける隼人。
キスして告白もしたのに、隼人のその瞳に里桜が映ることはない。
(わかって…た…。わかって、いたのに…)
自分には、鈴を必死に追う隼人のような存在なんかいない。
「…っう…、」
好きだった。鈴のように可愛らしくはなれないけれど。
好きだったのだ。
だから、告白してしまった。自分の弟が好きな相手にも関わらず。
でも…、里桜の告白は、隼人にとっては邪魔なだけなもの。
隼人には、どんなことがあっても鈴しか映らないのだ。
どんなに思っても。
「…っ、ふ……、」
乾いていた涙が、またこみ上げてくる。
今まで、隼人を思って必死に隠していた気持ちが溢れ涙になったように、止まらない。
「隼人…さん…隼人さ…」
「里桜、」
いつの間に来たのか…。
泣き崩れ、床にしゃがみ込む里桜を、そっと疾風は抱きしめる。
「せんせぇ…」
泣きじゃくる、里桜。
ボロボロ、と涙を零しているその姿は、普段クールで冷静と噂される生徒会長の姿はない。
ただ、一途に温めていた恋心に破れなく嘘偽りない里桜の姿しか、そこにはなかった。
「辛いよな…。好きな人が、他の誰かを好きってさ…」
優しく里桜の頭を撫でながら、言う疾風。
その優しい温もりに、ついつい里桜は瞳を閉じて、手のぬくもりを受ける。
「あんな…隼人のことなんか忘れちまえ。鈴しか見えない、馬鹿。お前がこんなに泣いているのにあいつほっといて鈴おいかけているんだろう…」
「…、だって、隼人さんは鈴が好きだから…」
「好きだから、でもな…。いくら好きだからって…」
「…いいんだ。これで、もう…、すっきりした、から…。キスもしちゃったし…」
「キス…ね…」
途端、疾風は苦虫を噛んだように顔を歪める。
「あの…ね…、俺二人の邪魔しないよ…。隼人さんの気持ち、わかったから。隼人さんは鈴が好きで、俺なんか見てくれないくらい鈴が好きってことわかったから…だから…」
「あああ、もう、そんな顔でそんな事言うんじゃねェ!」
ぎゅっと、己の胸元に里桜の顔を埋める。
「泣け…お前は少し、我慢しすぎだ…」
「せん…」
「ずっと好きだったんだろう?隼人だけを、ずっと。鈴と同じくらい好きだったんだろう…。言っちまえ。全部。俺の前くらい…、」
「うん…うん……っ、ああああ…」
疾風のシャツの胸元を握りながら、わんわんと泣く里桜。
疾風は何も言わずに、そんな里桜を抱きしめていた。
どれくらいたっただろう。
目元を真っ赤に染めて、すんすん、と鼻を鳴らしながら里桜はおずおずと疾風の腕から離れた。
泣いたのを見られたのが気恥ずかしいのか、疾風と目を合わせずに俯いたままでいる。
「もう…いいのか」
「…、うん…、」
「…そうか…なぁ…、」
「…ん?」
「顔あげろ…」
「な…んで…」
「俺が、見たいから。里桜の顔を」
「はぁ…?」
顔を上げて、疾風の顔を見つめれば、疾風は嬉しそうに破顔した。
「いつもの顔に戻ったな…、」
笑いかけながら、そっと、疾風は里桜の目元についている涙の粒を拭った。
「見ないで…、」
「いやだ…」
「俺の顔なんて…、見てもなにもないよ…」
「いいんだ」
クスクスと笑いながら疾風は里桜の顔を見つめ続け、見られている間中、里桜は俯き顔を赤らめた。
■
隼人が里桜の肩を押し退ける。
里桜がハッとして、隼人の背後に視線をやれば鈴が驚愕に目を見開いていた。
(やっちゃった…、)
ずっと、秘密にしていたのに…。
秘密にしていなきゃ、駄目だったのに…。
なのに…
「な…何」
震える鈴の声。
(もう…駄目だ…。
このまま、隠すのも、いいお兄ちゃんでいるのも…)
「にいちゃ…?」
「俺は隼人さんが好きだ」
「!?」
里桜の告白に鈴は後退さる。
やはり鈴は里桜の気持ちには気づいていなかったようだ。
パニックに陥った鈴は、そのまま隼人と里桜の横を勢いよく通り過ぎ玄関を出る。
「鈴っ」
隼人は慌てて鈴に手を伸ばすが、その手は鈴の身体を掴むことはなく
「鈴…」
玄関から飛び出した鈴を追いかけ、里桜を放置しかけだしていく隼人。
逃げる鈴に追いかける隼人。
キスして告白もしたのに、隼人のその瞳に里桜が映ることはない。
(わかって…た…。わかって、いたのに…)
自分には、鈴を必死に追う隼人のような存在なんかいない。
「…っう…、」
好きだった。鈴のように可愛らしくはなれないけれど。
好きだったのだ。
だから、告白してしまった。自分の弟が好きな相手にも関わらず。
でも…、里桜の告白は、隼人にとっては邪魔なだけなもの。
隼人には、どんなことがあっても鈴しか映らないのだ。
どんなに思っても。
「…っ、ふ……、」
乾いていた涙が、またこみ上げてくる。
今まで、隼人を思って必死に隠していた気持ちが溢れ涙になったように、止まらない。
「隼人…さん…隼人さ…」
「里桜、」
いつの間に来たのか…。
泣き崩れ、床にしゃがみ込む里桜を、そっと疾風は抱きしめる。
「せんせぇ…」
泣きじゃくる、里桜。
ボロボロ、と涙を零しているその姿は、普段クールで冷静と噂される生徒会長の姿はない。
ただ、一途に温めていた恋心に破れなく嘘偽りない里桜の姿しか、そこにはなかった。
「辛いよな…。好きな人が、他の誰かを好きってさ…」
優しく里桜の頭を撫でながら、言う疾風。
その優しい温もりに、ついつい里桜は瞳を閉じて、手のぬくもりを受ける。
「あんな…隼人のことなんか忘れちまえ。鈴しか見えない、馬鹿。お前がこんなに泣いているのにあいつほっといて鈴おいかけているんだろう…」
「…、だって、隼人さんは鈴が好きだから…」
「好きだから、でもな…。いくら好きだからって…」
「…いいんだ。これで、もう…、すっきりした、から…。キスもしちゃったし…」
「キス…ね…」
途端、疾風は苦虫を噛んだように顔を歪める。
「あの…ね…、俺二人の邪魔しないよ…。隼人さんの気持ち、わかったから。隼人さんは鈴が好きで、俺なんか見てくれないくらい鈴が好きってことわかったから…だから…」
「あああ、もう、そんな顔でそんな事言うんじゃねェ!」
ぎゅっと、己の胸元に里桜の顔を埋める。
「泣け…お前は少し、我慢しすぎだ…」
「せん…」
「ずっと好きだったんだろう?隼人だけを、ずっと。鈴と同じくらい好きだったんだろう…。言っちまえ。全部。俺の前くらい…、」
「うん…うん……っ、ああああ…」
疾風のシャツの胸元を握りながら、わんわんと泣く里桜。
疾風は何も言わずに、そんな里桜を抱きしめていた。
どれくらいたっただろう。
目元を真っ赤に染めて、すんすん、と鼻を鳴らしながら里桜はおずおずと疾風の腕から離れた。
泣いたのを見られたのが気恥ずかしいのか、疾風と目を合わせずに俯いたままでいる。
「もう…いいのか」
「…、うん…、」
「…そうか…なぁ…、」
「…ん?」
「顔あげろ…」
「な…んで…」
「俺が、見たいから。里桜の顔を」
「はぁ…?」
顔を上げて、疾風の顔を見つめれば、疾風は嬉しそうに破顔した。
「いつもの顔に戻ったな…、」
笑いかけながら、そっと、疾風は里桜の目元についている涙の粒を拭った。
「見ないで…、」
「いやだ…」
「俺の顔なんて…、見てもなにもないよ…」
「いいんだ」
クスクスと笑いながら疾風は里桜の顔を見つめ続け、見られている間中、里桜は俯き顔を赤らめた。
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