鬼畜狼と蜂蜜ハニー

槇村焔

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1章

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 通された部屋。
その部屋にいる人物を見て、里桜の足が止まる。

「にいちゃん?」

鈴は里桜の視線の先を追い絶句する。

「隼人さん!?」
「やぁ…」

 部屋にいたのは小早川院長と隼人だった。
 何故母が働いている病院の院長と、隼人がこんな場所に…?
今日は母さんの再婚相手に会うための集いだったはず。
まさか…ー。


「やあ里桜君鈴君、席に着いて」

初老の紳士は小早川医院の院長で、隼人の父親である。
落ち着いた空気を纏っており、トレンディー俳優のように一つ一つの動作が様になっている。

隼人の父親であるから、もちろん顔は整っており、患者や看護婦がぽぉ~っと院長を見ていることなどよくある。
わざわざ院長の顔を見に通院している患者もいるくらいだ。
彼の妻は、元々薫の親友だったのだが若くしてなくなり、院長も長い間1人身だった。
親友の旦那ということもあって、薫と院長は男女の仲というよりかは気兼ねない友達という間柄であったが…ーー。


「私の前の席においで鈴」

隼人が鈴を手招きをする。
隼人の声に促され、鈴は云われた場所に座った。
里桜も真ん中の席…鈴と薫に挟まれた席に腰を下ろした。
薫の前には院長、そして鈴の前には隼人がいる。


「びっくりさせてすまなかったね。薫さんが2人を驚かせたいって」
「凄いサプライズでしょう?」
「「サプライズって…」」

ある一つの可能性に、2人は顔を見合わせる。
母は、結婚相手とその家族と会う、と言っていた。
つまり…。


「君達のお母さんを私に下さい」

二人が尋ねる前に、院長は2人に頭を下げた。
やはり顔見知りの院長が…母の再婚相手だったようだ。

 この院長ならば、結婚相手としてもうしぶんない。いや、むしろおつりがくるくらいだ。
優しく、昔から二人をよく可愛がってくれたし二人もよく院長のことを知っている。
院長以上の人など今後、薫には現れないかもしれない。

「母さんが幸せなら」


二人はそろって、そう口にする。

「里桜、鈴、ありがとう~」

薫が2人まとめて嬉しそうにハグをした。

「お腹の子に障りますよ?薫さん」
「あらそうね、パパ」
「母さん、その年でママなんだ。孫じゃなく」
「なに、鈴くん。今後いっさいおやつなしにしてほしいの」
「いえ…」

なごやかなムードの中、里桜は輪に入ることができず、グラスに注がれた水を一息に飲み干した。
下手な男よりも院長はいい男だ。でも…なんだろう。
反対する理由もないのに…。


「母ちゃん、もうひとり誰か来るの?」

里桜の前の席、不自然に空いた席を見つめ、鈴は薫に尋ねる。

「そうよ~ってか料理冷めちゃうわ」
「先にいただきましょう。2人共たくさん食べるんだよ」
「「…はい」」
「うわ~さすが双子!ハモるね~」

隼人が楽しげに笑い、向かい側に座る鈴は頬を染めた。





 きたばかりの里桜と鈴の前に次々に洗礼されたスタッフが料理を運ばれる。
懐石料理が並べられた物を見て、鈴が盛大にお腹を鳴らした。


「お腹減った…」
「鈴はホタテが好きだよね」
「うん」

里桜は自然と自分の分のホタテを鈴の手取り皿に移す。
鈴は、にこにこと笑いありがとーと、礼を言った。


「里桜君も遠慮せずに食べるんだよ?」
「…はい…」

鈴はもうこの場所に慣れたのか眼を輝かせて割り箸を持って、始終笑顔だ。
それを隼人は愛しそうに見守っていた。

なのに自分は…、この場が落ち着かない。

母に、鈴。

それぞれ知り合いの…愛しい人がいるからか、とても幸せそうなのに。
なのに、自分はどこかおいて行かれたような気分になっている。

(置いていかれた…なんて、2人はそんなつもりじゃないのにな)

 隼人が誰を好きなのか、里桜は知っている。
言葉にはしていないにしろ、態度でわかる。
だからこそ、隼人が里桜を見ていないことも、ちゃんと理解はしているのだ。


「にいちゃん、ロブスターあげる」

里桜が海老が好きなの鈴は覚えていたのだろう。
へへと笑いながら、皿を寄越す。
さっきのお返しも兼ねているのだろうか。
里桜は微笑して「サンキュー」と礼を言った。


「でも良かったわ。あんた達年頃だからちょっと心配してたのよね~。ね、晴臣さん」

薫は、向かい側に座る夫である院長を見る。
院長もにこにこ笑いながら、うん、と頷く。

「そうだね。2人共ありがとう。
君達には新しいお兄さんが2人出来るし、きっと賑やかになるよ」

「「2人?」」

里桜と鈴が顔を見合わせる。
隼人のほかに、もう一人兄が出来る。
小早川の名のつく兄が。

「嫌な予感がする」

小早川の名のつく人間を、自分はもう一人知っている。
その人も、隼人同様に顔がよく、隼人や晴臣院長と並んでも霞まない美貌を持っている。

しかし、隼人とあの人が兄弟、と聞いたこともなければ、性格もまったく違う。

ありえない。
そうだ、ありえないんだ。

里桜は必死に自分にそう言い聞かせ、浮かんできた考えをなくす。
しかし…

「あ~ったく、今日は早く帰るって言ったのに、あいつら…、もう来てんじゃねぇか」
「噂をすればだ。もうひとりのお兄さんが来たよ」

ガラッと襖を開く。
鈴は持っていた箸を落とし、里桜は真っ青になってまたも絶句した。

よく知る、声。
ゾクゾクするほど、色気を帯びたその声は…。


「せ…せんせ?」
「遅いじゃないか兄貴」
「全くだわ、疾風さん」
「………よう、双子共」


新たにきたのは…里桜と鈴の担任教師、小早川疾風だった。
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