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2章
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しおりを挟む□□□鈴side□□□
ーーーお前が会いたいと思えば、また会える…。
お前が俺を呼ぶ限り…ーー何度だって…ーー
あの人はだれなんだろう。
俺は、以前あの人とどこであったんだろう。
何を忘れてるんだろう……。
なんで、あの人のこと、こんなに気にかけちゃうんだろう。
恋人でもないのにーー。
「ーで、こうして、…って、聞いてんのか?鈴!」
「ふ、ふぁい…!」
「この俺様が、直々に教えてやってるというのに自分は居眠りとはいい度胸だなあ?ええ、鈴ちゃんよ」
むにーっと俺の頬を引っ張りながら、先生はヤンキーのように凄んだ。
「うう、暴力はんたーい」
「愛のムチだ」
「やる相手が違うと思うんだけどー」
俺じゃなくて、兄ちゃんともっとスキンシップとればいいのに。
俺は隼人さんの愛で充分だもんねーと先生に舌を出せば、先生は「おお、じゃあもう教えることはねえな」と持っていたスマホを俺へと放り投げた。
「ああ、駄目!教えて!おねがいぃ」
只今の俺、先生にスマホの使い方教えて貰っている真っ最中だったりする。
ちなみに、現在俺がいるのは、新しい我が家。
もとい、小早川家。新しい新居である。
午前中に無事に引っ越しを終わって。
新居引っ越し記念にと、新しいお父さん・晴臣医院長が俺に新しくスマホを買ってくれたのだ。
高校2年にして、初スマホである。
兄ちゃんは既にスマホを持っていたんだけど、俺は機械音痴だし、いつも兄ちゃんと一緒にいるでしょー!って母さんが持たせてくれなかったんだけど。
母さんもこれから出産で忙しくなるし、俺は俺で物凄い方向音痴で、心配した晴臣医院長が母さんを説得して買ってくれることになったのだ。
機種は兄ちゃんと選びにいって、手続き諸々も兄ちゃんが俺の分までやってくれた。
おニューの携帯は青色。ちなみに兄ちゃんは色違いの黒だ。
「えへへー…。俺の携帯ー!これからはラインなんかもできるんだー!友達と夜まで連絡取り合えるー」
「ラインねえ。せいぜい、遊びすぎないようにしろよ。薫さんに大目玉食らっても知らねぇからな」
「わかってるよ!」
もう少し、スマホデビューの喜びに浸らせてよ!
ムッスリとしながら先生を見ていると…先生は苦笑しつつ俺の手からスマホをとって細かな設定を登録してくれた。
そういえば。
先生って、昨日も助けてくれたあの男の人に凄い似てるんだよね。
雰囲気とか。
隼人さんはどちらかといえば繊細な感じなんだけど、先生は男らしさ全開のフェロモン教師で。
そんな先生と同じように、あの人も男の色気があった。
蒼い瞳は、海のように深くて吸い込まれそうで…ーー
「ねぇ、先生って隼人さんの他に兄弟いる?」
「あ?兄弟?」
「そう。あのね、この間先生に似た人にあったんだ。蒼い瞳をした…。先生もどこかの血が混じってるんだっけ?」
「ああ。じいさんがロシア人なんだよ。隼人も流れているはずなんだが、俺のほうが血が濃く出てるみたいだな。爺さんに俺は似てるらしい」
「ふぅん…」
「んでもって、俺の兄弟だが多分隼人だけだと思うぞ。
親父、結構初なやつだからな。
俺たちの母さんが死んだときも、すっごい落ち込んで数年、覇気なく過ごしてたし。薫さんに会ってなかったら今頃、まだ母さんを思ってグダグダしてたかもな。
その点、俺たち兄弟は薫さんに感謝してるんだぜ?」
「兄ちゃんとの距離も近くなるし?ってか、先生と兄ちゃんにちゃんと告白できたの?それでもって、ちゃんとーーー」
付き合えたのか?
俺の問いかけは、ジャストタイミングでやってきた兄ちゃんによって中断される。
「まだやってるのか?鈴も少しは、荷物ほどくの手伝って…」
「ああ、あともうちょっとだから。あ、先生。隼人さんの連絡先入れて!
短縮ナンバー3番に!」
「3番?
ああ、もう2つ登録されてるのか。
でも、なんで短縮1がなんで薫さんなんだ? お前のだと順番的に隼人、里桜、薫さんだと思うが?」
「母ちゃん変にプライド高いから、1番になってないと後が恐いんだよ」
「産んだ私が偉いのよ~って?」
リビングではしゃぐ俺たちを尻目に、兄ちゃんは、はぁ、とため息をつく。
「鈴、いい加減に荷物片付けないと、夕飯抜きにするよ?」
「えー」
「俺は本気だぞ」
「今やるー!」
このままスマホで遊んでいたいけど、そろそろ片付けないと兄ちゃんの堪忍袋の緒が切れてしまいそうだ。
急いで子ども部屋のある2階へ駆け上がる。
子供部屋は今までの部屋の1.5倍くらいの広さがあって、窓から海も見えるので気に入っている。
新居は小早川病院の裏手にあるので、時々病院を利用するお客さんの姿も見えるのだ。
「あれ?」
何気なく外の風を浴びながら、窓の下を見ていると、視界に隼人さんの姿が入った。
声をかけようと息を吸い込んだところで、隼人さんにかけよるもう一つの影が見えた。
春ちゃんだ。
春ちゃんは、隼人さんへ腕を絡めて、親密そうになにか喋っている。
その距離がとても近い距離で。
隼人さんも、春ちゃんも美男美女って感じで。
ぎゅーっと胸が痛くなって、俺は窓をしめその場にしゃがみこんだ。
1、2、3…と数字を数えて痛みがなくなるのを待つんだけど、なかなか胸の痛みは消えてくれない。
お似合いな二人。
そして、子供な俺に大人な隼人さん、不似合いな俺たち。
「鈴…って、やっぱりサボってる。お前、また里桜に怒られる…って」
先生はしゃがみこみうつむいている俺の方へ近づくと
「どうした?」と顔を覗き込む。
「…なんか…胸が痛くて…ーー」
「胸が?大丈夫か?親父に見てもらうか…って、今日はいないんだったか。でも確か隼人が…」
「だ、駄目…」
俺はとっさに先生の腕を掴んで、
「大丈夫だから」と無理矢理顔に笑顔を作る。
「大丈夫って…ーー」
「さあーって、荷物荷物ーーと。早くしないと、夕飯抜きだー」
変な節をつけて、歌う俺に先生は訝しがりながらも俺の隣に腰掛けて、
「俺も手伝う」と荷造りを手伝ってくれた。
気を使わせちゃったかな。
ちらりと横目で先生をみると、先生は黙々と荷物をダンボールから出して整理してくれている。
「先生っていい男だね」
「惚れんなよ」
「惚れないし。俺は隼人さん一筋だもん。でも…」
隼人さんは、俺、一筋なのかな…。
俺は隼人さんとしか付き合ったこと、ないけど。
隼人さんは、今まで誰かと付き合ったことあるのかな。
俺とやってきた、エッチなことも、他の人ともやってたりするのかな。
考えれば考える程、胸が痛くなる。
「先生はやっぱり美人が好き?」
「な…」
「好きだよね。だって、兄ちゃん美人だから……。
隼人さんも美人さん好きだよね?」
「まぁ、男なら美人は好きなんじゃねぇか?」
「だよねえ」
隼人さんだって、俺みたいなお子様なんかより兄ちゃんや春ちゃんみたいな美人さんに好きだ、って言われたらそっちのほうに心揺らいじゃうんじゃないかな。
兄ちゃんが隼人さんを好きだって言っていた時、隼人さんは俺を好きだって言ってくれたけど。
あれは、俺が兄ちゃんより先に好きだったからそう言ってくれただけで、本当は兄ちゃんのほうが隼人さんにはあっているんじゃないのか。
隼人さんは俺のことずっと好きだ、って言ってたけど。
ずっとっていつから?
俺のどこが好きなんだろう。
俺なんて子供で、兄ちゃんに比べたらいいところなんて全然ないのに。
「なんだ、いつものお気軽鈴ちゃんじゃねえな」
「お気軽って…失礼じゃない?」
「事実だろ」
言い返せないところが辛い。
確かに、兄ちゃんに比べたら楽観的で悩みなんてなさそうだねってよく言われるけどさ。でも、俺だって悩みくらいある。
他でもない隼人さんのことなんだから。
「…本気なんだもん。俺の初恋なんだもん。隼人さんは。
だから、俺を一番に思ってほしいって、それは俺の我儘なのかなぁ…」
過去も未来も、隼人さんの全部が全部、俺のものであればいいのに。
そうしたらこんな不安、きっと吹き飛んでしまえるのに。
「まぁ、俺の口から詳しくは言えないが、隼人はモテるぞ。そりゃあ、もう。そんなんでいちいち嫉妬してたら、お前年中嫉妬して隼人のこと嫌いになるぞ」
「嫉妬しどおし…。なら、どうすればいいの?
どうしたら、嫉妬しないようになるの?俺もっと隼人さんの前でスマートな自分でいたいよ。こんな嫉妬丸出しな俺、見せたくない」
いつか。
今日みたいな親密な二人を見ていたら、「隼人さんは俺のだから」って暴走して嫉妬で二人の前で取り乱してしまいそうだ。
兄ちゃんが隼人さんを好きだと告げたときも、俺は走って逃げ出したのに、あの時以上の混乱に陥ってしまう。
「いいんじゃねぇの?嫉妬したって。しなくなったら、それはもう恋じゃない。
大人になると、次第にどうしようもないことは受け入れていくものだけどな」
「俺は子供のままがいいな。聞き分けの良い大人になんてなりたくない」
子供のままでいたら、隼人さんは俺を構ってくれる?
対等に扱ってくれないだろうけど、子供だから見捨てず側にいてくれる?
早く対等な大人になりたいと思っていたのに、今度は見捨てられたくないから子供のままでいたいと思ってる。
自分のことなのに、昨日と今日とで意見が変わってしまっている。
自分は優柔不断じゃないと思っていたのに。
「まぁ、お前がそれでいいんならいいんじゃねえの?
恋なんて人それぞれなものだからな……。っとほれ、忘れ物」
そういって、先生は尻ポケットから俺のスマホを取り出した。
リビングに置きっぱなしだったらしい。
「どうしてもアドバイスがほしいときは、俺に連絡しろ。
俺の短縮ナンバーは4だからな」
「先生…」
「あ、惚気は送ってくるなよ。お前たちのエロエロ話は隼人からで充分だ」
「エロエロ…」
隼人さん、何先生に送ってるのー?
先生から語られる隼人さんの惚気ならぬエロエロ報告に、俺はただただ顔を赤らめることとなった。
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