上 下
13 / 24
2章

しおりを挟む

□□□鈴side□□□

ーーーお前が会いたいと思えば、また会える…。
お前が俺を呼ぶ限り…ーー何度だって…ーー
 あの人はだれなんだろう。
俺は、以前あの人とどこであったんだろう。
何を忘れてるんだろう……。
なんで、あの人のこと、こんなに気にかけちゃうんだろう。
恋人でもないのにーー。


「ーで、こうして、…って、聞いてんのか?鈴!」
「ふ、ふぁい…!」
「この俺様が、直々に教えてやってるというのに自分は居眠りとはいい度胸だなあ?ええ、鈴ちゃんよ」

むにーっと俺の頬を引っ張りながら、先生はヤンキーのように凄んだ。


「うう、暴力はんたーい」
「愛のムチだ」
「やる相手が違うと思うんだけどー」

俺じゃなくて、兄ちゃんともっとスキンシップとればいいのに。
俺は隼人さんの愛で充分だもんねーと先生に舌を出せば、先生は「おお、じゃあもう教えることはねえな」と持っていたスマホを俺へと放り投げた。


「ああ、駄目!教えて!おねがいぃ」
只今の俺、先生にスマホの使い方教えて貰っている真っ最中だったりする。
ちなみに、現在俺がいるのは、新しい我が家。
もとい、小早川家。新しい新居である。


 午前中に無事に引っ越しを終わって。
新居引っ越し記念にと、新しいお父さん・晴臣医院長が俺に新しくスマホを買ってくれたのだ。
 高校2年にして、初スマホである。
兄ちゃんは既にスマホを持っていたんだけど、俺は機械音痴だし、いつも兄ちゃんと一緒にいるでしょー!って母さんが持たせてくれなかったんだけど。

 母さんもこれから出産で忙しくなるし、俺は俺で物凄い方向音痴で、心配した晴臣医院長が母さんを説得して買ってくれることになったのだ。
機種は兄ちゃんと選びにいって、手続き諸々も兄ちゃんが俺の分までやってくれた。
おニューの携帯は青色。ちなみに兄ちゃんは色違いの黒だ。


「えへへー…。俺の携帯ー!これからはラインなんかもできるんだー!友達と夜まで連絡取り合えるー」
「ラインねえ。せいぜい、遊びすぎないようにしろよ。薫さんに大目玉食らっても知らねぇからな」
「わかってるよ!」
もう少し、スマホデビューの喜びに浸らせてよ!
ムッスリとしながら先生を見ていると…先生は苦笑しつつ俺の手からスマホをとって細かな設定を登録してくれた。


そういえば。
先生って、昨日も助けてくれたあの男の人に凄い似てるんだよね。
雰囲気とか。
隼人さんはどちらかといえば繊細な感じなんだけど、先生は男らしさ全開のフェロモン教師で。
そんな先生と同じように、あの人も男の色気があった。
蒼い瞳は、海のように深くて吸い込まれそうで…ーー


「ねぇ、先生って隼人さんの他に兄弟いる?」
「あ?兄弟?」
「そう。あのね、この間先生に似た人にあったんだ。蒼い瞳をした…。先生もどこかの血が混じってるんだっけ?」
「ああ。じいさんがロシア人なんだよ。隼人も流れているはずなんだが、俺のほうが血が濃く出てるみたいだな。爺さんに俺は似てるらしい」
「ふぅん…」
「んでもって、俺の兄弟だが多分隼人だけだと思うぞ。
親父、結構初なやつだからな。
俺たちの母さんが死んだときも、すっごい落ち込んで数年、覇気なく過ごしてたし。薫さんに会ってなかったら今頃、まだ母さんを思ってグダグダしてたかもな。
その点、俺たち兄弟は薫さんに感謝してるんだぜ?」
「兄ちゃんとの距離も近くなるし?ってか、先生と兄ちゃんにちゃんと告白できたの?それでもって、ちゃんとーーー」

 付き合えたのか?
俺の問いかけは、ジャストタイミングでやってきた兄ちゃんによって中断される。


「まだやってるのか?鈴も少しは、荷物ほどくの手伝って…」
「ああ、あともうちょっとだから。あ、先生。隼人さんの連絡先入れて!
短縮ナンバー3番に!」
「3番?
ああ、もう2つ登録されてるのか。
でも、なんで短縮1がなんで薫さんなんだ? お前のだと順番的に隼人、里桜、薫さんだと思うが?」
「母ちゃん変にプライド高いから、1番になってないと後が恐いんだよ」
「産んだ私が偉いのよ~って?」

リビングではしゃぐ俺たちを尻目に、兄ちゃんは、はぁ、とため息をつく。

「鈴、いい加減に荷物片付けないと、夕飯抜きにするよ?」
「えー」
「俺は本気だぞ」
「今やるー!」

 このままスマホで遊んでいたいけど、そろそろ片付けないと兄ちゃんの堪忍袋の緒が切れてしまいそうだ。
急いで子ども部屋のある2階へ駆け上がる。
子供部屋は今までの部屋の1.5倍くらいの広さがあって、窓から海も見えるので気に入っている。
新居は小早川病院の裏手にあるので、時々病院を利用するお客さんの姿も見えるのだ。


「あれ?」
何気なく外の風を浴びながら、窓の下を見ていると、視界に隼人さんの姿が入った。
声をかけようと息を吸い込んだところで、隼人さんにかけよるもう一つの影が見えた。

春ちゃんだ。

 春ちゃんは、隼人さんへ腕を絡めて、親密そうになにか喋っている。
その距離がとても近い距離で。
隼人さんも、春ちゃんも美男美女って感じで。
ぎゅーっと胸が痛くなって、俺は窓をしめその場にしゃがみこんだ。
1、2、3…と数字を数えて痛みがなくなるのを待つんだけど、なかなか胸の痛みは消えてくれない。
お似合いな二人。
そして、子供な俺に大人な隼人さん、不似合いな俺たち。


「鈴…って、やっぱりサボってる。お前、また里桜に怒られる…って」

先生はしゃがみこみうつむいている俺の方へ近づくと
「どうした?」と顔を覗き込む。

「…なんか…胸が痛くて…ーー」
「胸が?大丈夫か?親父に見てもらうか…って、今日はいないんだったか。でも確か隼人が…」
「だ、駄目…」

俺はとっさに先生の腕を掴んで、

「大丈夫だから」と無理矢理顔に笑顔を作る。

「大丈夫って…ーー」
「さあーって、荷物荷物ーーと。早くしないと、夕飯抜きだー」
変な節をつけて、歌う俺に先生は訝しがりながらも俺の隣に腰掛けて、
「俺も手伝う」と荷造りを手伝ってくれた。
気を使わせちゃったかな。
ちらりと横目で先生をみると、先生は黙々と荷物をダンボールから出して整理してくれている。



「先生っていい男だね」
「惚れんなよ」
「惚れないし。俺は隼人さん一筋だもん。でも…」

 隼人さんは、俺、一筋なのかな…。
俺は隼人さんとしか付き合ったこと、ないけど。
隼人さんは、今まで誰かと付き合ったことあるのかな。
俺とやってきた、エッチなことも、他の人ともやってたりするのかな。
考えれば考える程、胸が痛くなる。


「先生はやっぱり美人が好き?」
「な…」
「好きだよね。だって、兄ちゃん美人だから……。
隼人さんも美人さん好きだよね?」
「まぁ、男なら美人は好きなんじゃねぇか?」
「だよねえ」

隼人さんだって、俺みたいなお子様なんかより兄ちゃんや春ちゃんみたいな美人さんに好きだ、って言われたらそっちのほうに心揺らいじゃうんじゃないかな。

兄ちゃんが隼人さんを好きだって言っていた時、隼人さんは俺を好きだって言ってくれたけど。
あれは、俺が兄ちゃんより先に好きだったからそう言ってくれただけで、本当は兄ちゃんのほうが隼人さんにはあっているんじゃないのか。
隼人さんは俺のことずっと好きだ、って言ってたけど。
ずっとっていつから?
俺のどこが好きなんだろう。

 俺なんて子供で、兄ちゃんに比べたらいいところなんて全然ないのに。


「なんだ、いつものお気軽鈴ちゃんじゃねえな」
「お気軽って…失礼じゃない?」
「事実だろ」

言い返せないところが辛い。
確かに、兄ちゃんに比べたら楽観的で悩みなんてなさそうだねってよく言われるけどさ。でも、俺だって悩みくらいある。
他でもない隼人さんのことなんだから。


「…本気なんだもん。俺の初恋なんだもん。隼人さんは。
だから、俺を一番に思ってほしいって、それは俺の我儘なのかなぁ…」

 過去も未来も、隼人さんの全部が全部、俺のものであればいいのに。
そうしたらこんな不安、きっと吹き飛んでしまえるのに。


「まぁ、俺の口から詳しくは言えないが、隼人はモテるぞ。そりゃあ、もう。そんなんでいちいち嫉妬してたら、お前年中嫉妬して隼人のこと嫌いになるぞ」
「嫉妬しどおし…。なら、どうすればいいの?
どうしたら、嫉妬しないようになるの?俺もっと隼人さんの前でスマートな自分でいたいよ。こんな嫉妬丸出しな俺、見せたくない」

 いつか。
今日みたいな親密な二人を見ていたら、「隼人さんは俺のだから」って暴走して嫉妬で二人の前で取り乱してしまいそうだ。
兄ちゃんが隼人さんを好きだと告げたときも、俺は走って逃げ出したのに、あの時以上の混乱に陥ってしまう。


「いいんじゃねぇの?嫉妬したって。しなくなったら、それはもう恋じゃない。
大人になると、次第にどうしようもないことは受け入れていくものだけどな」
「俺は子供のままがいいな。聞き分けの良い大人になんてなりたくない」
 子供のままでいたら、隼人さんは俺を構ってくれる?
対等に扱ってくれないだろうけど、子供だから見捨てず側にいてくれる?

早く対等な大人になりたいと思っていたのに、今度は見捨てられたくないから子供のままでいたいと思ってる。
自分のことなのに、昨日と今日とで意見が変わってしまっている。
自分は優柔不断じゃないと思っていたのに。

「まぁ、お前がそれでいいんならいいんじゃねえの?
恋なんて人それぞれなものだからな……。っとほれ、忘れ物」
そういって、先生は尻ポケットから俺のスマホを取り出した。
リビングに置きっぱなしだったらしい。

「どうしてもアドバイスがほしいときは、俺に連絡しろ。
俺の短縮ナンバーは4だからな」
「先生…」
「あ、惚気は送ってくるなよ。お前たちのエロエロ話は隼人からで充分だ」
「エロエロ…」
 隼人さん、何先生に送ってるのー?
先生から語られる隼人さんの惚気ならぬエロエロ報告に、俺はただただ顔を赤らめることとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

イケメン幼馴染に執着されるSub

ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの… 支配されたくない 俺がSubなんかじゃない 逃げたい 愛されたくない  こんなの俺じゃない。 (作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

処理中です...