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先行投資・俺だけの人。
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再び目を覚ましたとき、辺りはすっかり暗く、日は落ちていた。
昨日から、どれほど抱かれたんだろう。どれほど、樹は私の中にだしたのだろう。
意識が朦朧としていた私に、樹は何と言っていたのだろう。
ただでさえ、体力のない私は、途中からほとんど抵抗なく、まともに動くことすらままならなかった。
どうして?なぜこんなことに?樹はこんな凶器孕んだ性格だったのか?
私にどれほどの価値がある…?
考えるのさえ、だるい。考えるのも動くのも、億劫でたまらない。
何度も痛んだ胃が、またキリキリと痛む。
薬…まだあっただろうか。
私が目を覚ますと、樹は、表情も変えず淡々と、「俺、謝らないから」と呟いた。
その淡々とした、どこか全て諦めたような、割り切ったような顔は、昔初めて会った時にみた樹の顔とよく似ていた。
あの悲しげな、顔。
どこか割り切っているのに、捨てられたくないと叫んでいる子供、だ。
私が離れることにより、あの頃の樹に戻ろうとしているのだろうか。
「公久さんは、俺のものだ」
言い切って、樹は私の首筋に口づける。
くちゅ、と音が出るほどに口づけされれば、真っ赤な鬱血の痕が残る。
その痕を、樹は、愛おしそうにまるで猫の子のように、何度も舐めた。
「ふざけるな…」
背後から抱きしめてくる樹の腕から、逃れるように抵抗する。
しかし、どんなに抵抗したところで、樹にしっかりとつかまれている為、抜け出せない。
樹は、私を抱きしめたまま、だだっこのように、やだ、を繰り返した。
「こんなこと、して、私はお前の玩具か?いきなり無理やりあんな…。あんなのは…、あんなのは、強姦と同じだろう?お前はそんな非道な人間だったのか?」
「玩具…ね。どうせ、公久さんにとって俺は息子なんでしょ…?可愛い可愛い息子でしかないんでしょ…」
「いつき…」
「どうせ、俺は息子、で。いつかは離れるもの、って思っているんでしょ。いつかは、巣立つもの、いなくなるもの、って。割り切っているんでしょ。優しさだけ与えて、素知らぬ顔で、いなくなってしまうんでしょ?」
「いなく…なる…?」
「なら、優しさなんて、いらない。そんなもの、貰いたくない。
俺は、偽物の優しさとかいらないんだよ。俺が欲しいのは、公久さんの息子っていうものじゃない。
そんなのいらない。親なんて、いらない。親の公久さんなんて、いらないよ」
どこかやけになって、笑いながら言う樹。
公久さんなんて、いらない。
その言葉に、息が止まり、冷たい何かが背中を流れる。
私なんて、いらない?
もう、いらない…?
親の私は、いらない?
なら、私は…。
もう、樹には私はいらない…
「…、何を…言っている?私はっ」
「愛してる、でも不安なんだよ。身体で縛っても。何度言っても。
好きって言った分だけ、消えていく感じがするんだ…。なんだろうね。幸せだって思っても、姿が見えないだけで不安になって、怖くなる。いつ、いなくなるんじゃないかって。好きなのに、怖いんだ。
だから、確かなものが欲しくなる。確かな証が欲しくなるんだよ…」
「いつき…?」
「でもさ、消えちゃうなら。そんな俺の願いもかなわないモノなら、さ。
消えないように縛るしかないじゃない。どこにもいかないように…。それでもどこかへ消えようとするなら…」
樹は、沈んだ鬱々とした声で、
「壊すしかないじゃないか」
と呟いた。
凶器孕んだその声は、どこか恐ろしく、悲し気で、こちらまで胸が痛くなってくる。
どこにもいかないように縛る。どこにもいかないように壊す。
ずっと、樹の傍にいるように。
でも…、
「公久さん…、愛してるよ、」
「…いつき…、お前のその感情は愛じゃないよ。ただの…ただの恩なんだよ」
樹のその感情は、愛じゃない。
愛じゃないと、私は思っている。頑なに。
「え…」
「お前は、今まで一緒にいた人間がいなくなりそうだから、必死になっているだけだ。愛じゃないんだよ」
樹は、愛と私への恩を間違えている。
ありがとう、の代わりに愛しているといっているだけなのだ。
本当のお前は、わたしじゃない人間を愛することも出来る。それを私は知っているから。
なぁ、覚えているか、樹。
お前は、昔可愛いお嫁さんが欲しいって、私に言ったこと。
私さえいなければ、お前はこんな男好きにはならなかったんだ。
お前を抱きたいと、私が言わなければ、お前は普通の恋愛を歩めたんだ。
私さえ、あのとき、樹に会わなければ…。
お前は、私の言葉に捕らわれているんだ。
まるで、洗脳のように。
今なら、まだ間に合う。
今なら、まだ。
樹が好きだ。
愛している。
でも。
私は、離れる樹を止める術を知らない。権利もない。
なぁ、樹。
お前の未来に、私は本当に必要なのだろうか。
まだやり直せるうちに、離れてしまった方がいいのではないか。
「愛じゃない?この気持ちが愛じゃないの?」
「私が…私が無理やりお前を恋愛対象としたから…。お前は、」
「公久さんって、時々酷いよね…、」
ゆらり、と樹が動く。
私の上に覆いかぶさって。
どこかうつろな顔で、私の顔を見つめる。
「公久さん…、愛してるよ」
「…いつき…」
「愛してる…だから、」
そっと、唇を塞がれる。
ゆっくりと、舌を吸われる。
やんわりと絡め取られるキス。
このキスに、どんな樹の思いが、込められているんだろう。
こんな顔を樹にさせるのは、私が馬鹿だからだろうか。
こんなに近くにいつのに、樹が遠かった。
「いつき…」
「公久さんも、壊れてよ。俺に。俺に壊れて…愛しているから…」
樹は、そういって笑って、立ち上がり、部屋の隅の樹の机の中から銀の手錠を取り出す。
刑事ドラマとかでしか見たことのない、銀の手錠。
樹は徐に、それを弄ると、そのまま黙って私の手と樹の手を繋いだ。
「ずっと、一緒に、いようね…」
ガチャン、と、繋がれた手錠の金属音が、どこか遠くに聞こえた。
再び目を覚ましたとき、辺りはすっかり暗く、日は落ちていた。
昨日から、どれほど抱かれたんだろう。どれほど、樹は私の中にだしたのだろう。
意識が朦朧としていた私に、樹は何と言っていたのだろう。
ただでさえ、体力のない私は、途中からほとんど抵抗なく、まともに動くことすらままならなかった。
どうして?なぜこんなことに?樹はこんな凶器孕んだ性格だったのか?
私にどれほどの価値がある…?
考えるのさえ、だるい。考えるのも動くのも、億劫でたまらない。
何度も痛んだ胃が、またキリキリと痛む。
薬…まだあっただろうか。
私が目を覚ますと、樹は、表情も変えず淡々と、「俺、謝らないから」と呟いた。
その淡々とした、どこか全て諦めたような、割り切ったような顔は、昔初めて会った時にみた樹の顔とよく似ていた。
あの悲しげな、顔。
どこか割り切っているのに、捨てられたくないと叫んでいる子供、だ。
私が離れることにより、あの頃の樹に戻ろうとしているのだろうか。
「公久さんは、俺のものだ」
言い切って、樹は私の首筋に口づける。
くちゅ、と音が出るほどに口づけされれば、真っ赤な鬱血の痕が残る。
その痕を、樹は、愛おしそうにまるで猫の子のように、何度も舐めた。
「ふざけるな…」
背後から抱きしめてくる樹の腕から、逃れるように抵抗する。
しかし、どんなに抵抗したところで、樹にしっかりとつかまれている為、抜け出せない。
樹は、私を抱きしめたまま、だだっこのように、やだ、を繰り返した。
「こんなこと、して、私はお前の玩具か?いきなり無理やりあんな…。あんなのは…、あんなのは、強姦と同じだろう?お前はそんな非道な人間だったのか?」
「玩具…ね。どうせ、公久さんにとって俺は息子なんでしょ…?可愛い可愛い息子でしかないんでしょ…」
「いつき…」
「どうせ、俺は息子、で。いつかは離れるもの、って思っているんでしょ。いつかは、巣立つもの、いなくなるもの、って。割り切っているんでしょ。優しさだけ与えて、素知らぬ顔で、いなくなってしまうんでしょ?」
「いなく…なる…?」
「なら、優しさなんて、いらない。そんなもの、貰いたくない。
俺は、偽物の優しさとかいらないんだよ。俺が欲しいのは、公久さんの息子っていうものじゃない。
そんなのいらない。親なんて、いらない。親の公久さんなんて、いらないよ」
どこかやけになって、笑いながら言う樹。
公久さんなんて、いらない。
その言葉に、息が止まり、冷たい何かが背中を流れる。
私なんて、いらない?
もう、いらない…?
親の私は、いらない?
なら、私は…。
もう、樹には私はいらない…
「…、何を…言っている?私はっ」
「愛してる、でも不安なんだよ。身体で縛っても。何度言っても。
好きって言った分だけ、消えていく感じがするんだ…。なんだろうね。幸せだって思っても、姿が見えないだけで不安になって、怖くなる。いつ、いなくなるんじゃないかって。好きなのに、怖いんだ。
だから、確かなものが欲しくなる。確かな証が欲しくなるんだよ…」
「いつき…?」
「でもさ、消えちゃうなら。そんな俺の願いもかなわないモノなら、さ。
消えないように縛るしかないじゃない。どこにもいかないように…。それでもどこかへ消えようとするなら…」
樹は、沈んだ鬱々とした声で、
「壊すしかないじゃないか」
と呟いた。
凶器孕んだその声は、どこか恐ろしく、悲し気で、こちらまで胸が痛くなってくる。
どこにもいかないように縛る。どこにもいかないように壊す。
ずっと、樹の傍にいるように。
でも…、
「公久さん…、愛してるよ、」
「…いつき…、お前のその感情は愛じゃないよ。ただの…ただの恩なんだよ」
樹のその感情は、愛じゃない。
愛じゃないと、私は思っている。頑なに。
「え…」
「お前は、今まで一緒にいた人間がいなくなりそうだから、必死になっているだけだ。愛じゃないんだよ」
樹は、愛と私への恩を間違えている。
ありがとう、の代わりに愛しているといっているだけなのだ。
本当のお前は、わたしじゃない人間を愛することも出来る。それを私は知っているから。
なぁ、覚えているか、樹。
お前は、昔可愛いお嫁さんが欲しいって、私に言ったこと。
私さえいなければ、お前はこんな男好きにはならなかったんだ。
お前を抱きたいと、私が言わなければ、お前は普通の恋愛を歩めたんだ。
私さえ、あのとき、樹に会わなければ…。
お前は、私の言葉に捕らわれているんだ。
まるで、洗脳のように。
今なら、まだ間に合う。
今なら、まだ。
樹が好きだ。
愛している。
でも。
私は、離れる樹を止める術を知らない。権利もない。
なぁ、樹。
お前の未来に、私は本当に必要なのだろうか。
まだやり直せるうちに、離れてしまった方がいいのではないか。
「愛じゃない?この気持ちが愛じゃないの?」
「私が…私が無理やりお前を恋愛対象としたから…。お前は、」
「公久さんって、時々酷いよね…、」
ゆらり、と樹が動く。
私の上に覆いかぶさって。
どこかうつろな顔で、私の顔を見つめる。
「公久さん…、愛してるよ」
「…いつき…」
「愛してる…だから、」
そっと、唇を塞がれる。
ゆっくりと、舌を吸われる。
やんわりと絡め取られるキス。
このキスに、どんな樹の思いが、込められているんだろう。
こんな顔を樹にさせるのは、私が馬鹿だからだろうか。
こんなに近くにいつのに、樹が遠かった。
「いつき…」
「公久さんも、壊れてよ。俺に。俺に壊れて…愛しているから…」
樹は、そういって笑って、立ち上がり、部屋の隅の樹の机の中から銀の手錠を取り出す。
刑事ドラマとかでしか見たことのない、銀の手錠。
樹は徐に、それを弄ると、そのまま黙って私の手と樹の手を繋いだ。
「ずっと、一緒に、いようね…」
ガチャン、と、繋がれた手錠の金属音が、どこか遠くに聞こえた。
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