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先行投資・俺だけの人。
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静かに、眠っている樹の腕から抜け洗面所へ向かう。
樹は、私がいなくなると、少し身じろいだが起きる気配はない。
そのまま洗面所へいき、顔を洗う。
水が随分と冷たい。
タオルで顔を拭き、顔をあげると、どこかげっそりとした疲れた顔が、鏡に映った。
上半身には、数えきれないほどの、情欲の後。
その数の多さに、昨夜の行為がどれほど激しいものだったかを窺わせる。
いつも、樹にはキスマークなどあまりつけないように言ってある。
その…、やはり痕というのは恥ずかしいから。
こんな貧相な身体につけるものでもないと思っているし。
樹は、ええ~と抗議しつつも、いつも私の意思を尊重してくれた。
いつも私の体調を見て、セーブし、無茶はしないでくれた。
しかし、昨日の樹はたかが外れてしまったらしい。
激しい鬱血の後は、まるで、樹の心情をぶつけるかのようだ。
まるで、花のようにつけられたそれは、愛されたしるしのようにも見える。
「いつき…、」
一つ一つ、散らされたキスマークを指でなぞった。
昨夜の出来事が脳裏に過り、顔が赤らむ。
無理やりの行為だった。あれは、無理やりだった、のに…。
「わたし…は…、」
―ピルルルル。
不意に、電子音が辺りに鳴り響く。私の携帯が鳴ったようだ。
すぐさま、携帯がある寝室へ戻り、床に無造作に置かれた昨日着ていた服のポッケを漁る。
携帯画面を見ると、着信者は、蒼真からだった。
樹は…、と、チラリと視線をベッドにやるも、樹はベッドから動かない。
どうやら、眠ったままのようだ。
樹が寝ているベッドに背を向けて、部屋の隅までいそいそと移動する。
「もしもし…?」
7コール目で、電話に出ると、蒼真は相変わらず陽気な声でよう…、と呑気な言葉を返す。
いつもの明るい口調で。
その明るい口調に、どこかほっとする。
変わってしまった樹の事で、ぐるぐるとしていたから。
「蒼真…」
「いや、その、おはよう…。朝からわりいな。声聞きたくなって」
「…いや…、」
「今…平気か…?」
「え…、」
「その、今日なんだが…、仕事終わったら、公久とデート、っつぅか、ランチしたいなぁ、なんて…」
ランチ…か。
もしも、もしも、昨日樹が進藤君の家にいたままだったならば…
昨日あんな激しく抱かれなければ…、きっと、私は蒼真の誘いにうなずいていただろう。
でも…。
「蒼真、」
「ん…?」
「その、夜は、行けそうにないんだ。すまない。もう、お前にも会えないかもしれない」
「は?」
「お前に会えば、不安にさせてしまう気がするから…」
もし、また蒼真にあえば、今の精神不安定な樹がどうなるかわからない。
せめて、会うのは、樹が、元の樹に戻ってからだ。
今のままの樹をそのままにしておけない。
私たちは、もっと話し合わなくては…。
このままじゃ、いけない。
ぜったいに。
「あ?不安?なんだそりゃ…」
当然、突然決別を言われた蒼真は、訳がわからない、と私に言い寄る。
「すまない…そう…、」
そうま、そう口にするまえに…冷たい、手が首に回った。
冷たい冷たい、手。
ひんやりとした冷たいもの。
そのまま首を絞めてしまえるんじゃないだろうか。
冷たい手は、首をそっと撫でた。
「誰に電話しているの?」
ふと、首筋に息がかかる。ゾワリ、と恐怖からか、鳥肌が立つ。
ぞっとするほど、冷たい暗い声。
その声に、まるで蛇に睨まれた鼠のように体が硬直する。
「…いつき…」
首をひねり、振り返れば、そこには無表情の樹が立っていた。
樹は静かに怒っているようで、私の背後から、何も言わずに私が持っていた携帯電話を取り上げた。
「樹…なにを…」
「彼氏なんだね…、この電話…。そんなに、声聞きたかったの?昨日あんなに俺にされたのに…」
「はぁ?返しなさい、いつ…んん」
取り返そうと、掴みかかったところで、その手を取られ、唇を奪われた。
だん、と、壁に押さえつけられて、より強く唇を重ねられる。
強く舌を吸い上げて、貪るように、何度も何度も口づける。
「んっ…」
「聞かせないよ。声も、言葉も。公久さんは、俺のモノなんだから…」
「いつき…」
「ねぇ、彼氏さんに聞かせようよ。公久さんは息子に犯されてますって」
「んー」
吐息すら、奪うようなキスを繰り返した後、電話もそのままに、樹は私の頬を撫でる。
「酷いよ、公久さん…
俺には公久さんだけなのに」
酷く頼りない、樹の顔。
そんな顔するな。そんな…悲しそうな、顔。
どうして、お前は…。
初めてお前に抱かれたときも、お前はごめんといいながら、私を無理やり襲ったな。
なぁ、樹。
お前にとって、私は〝モノ〟なのか…。
謝りさえすれば、どう扱ってもいい存在なのだろうか。
「いやだ…っ」
「駄目だよ、公久さん…」
クスリ、と笑いながら、樹は、また私に覆いかぶさってくる。
電話はつながったままなのか、それとも切ってくれたのか…。
「そう…ま…、」
縋るように、そう呟けば、樹は酷く自虐的に笑って、私を責める手を激しくした。
その笑みは、酷く悲し気だった。
樹は、私がいなくなると、少し身じろいだが起きる気配はない。
そのまま洗面所へいき、顔を洗う。
水が随分と冷たい。
タオルで顔を拭き、顔をあげると、どこかげっそりとした疲れた顔が、鏡に映った。
上半身には、数えきれないほどの、情欲の後。
その数の多さに、昨夜の行為がどれほど激しいものだったかを窺わせる。
いつも、樹にはキスマークなどあまりつけないように言ってある。
その…、やはり痕というのは恥ずかしいから。
こんな貧相な身体につけるものでもないと思っているし。
樹は、ええ~と抗議しつつも、いつも私の意思を尊重してくれた。
いつも私の体調を見て、セーブし、無茶はしないでくれた。
しかし、昨日の樹はたかが外れてしまったらしい。
激しい鬱血の後は、まるで、樹の心情をぶつけるかのようだ。
まるで、花のようにつけられたそれは、愛されたしるしのようにも見える。
「いつき…、」
一つ一つ、散らされたキスマークを指でなぞった。
昨夜の出来事が脳裏に過り、顔が赤らむ。
無理やりの行為だった。あれは、無理やりだった、のに…。
「わたし…は…、」
―ピルルルル。
不意に、電子音が辺りに鳴り響く。私の携帯が鳴ったようだ。
すぐさま、携帯がある寝室へ戻り、床に無造作に置かれた昨日着ていた服のポッケを漁る。
携帯画面を見ると、着信者は、蒼真からだった。
樹は…、と、チラリと視線をベッドにやるも、樹はベッドから動かない。
どうやら、眠ったままのようだ。
樹が寝ているベッドに背を向けて、部屋の隅までいそいそと移動する。
「もしもし…?」
7コール目で、電話に出ると、蒼真は相変わらず陽気な声でよう…、と呑気な言葉を返す。
いつもの明るい口調で。
その明るい口調に、どこかほっとする。
変わってしまった樹の事で、ぐるぐるとしていたから。
「蒼真…」
「いや、その、おはよう…。朝からわりいな。声聞きたくなって」
「…いや…、」
「今…平気か…?」
「え…、」
「その、今日なんだが…、仕事終わったら、公久とデート、っつぅか、ランチしたいなぁ、なんて…」
ランチ…か。
もしも、もしも、昨日樹が進藤君の家にいたままだったならば…
昨日あんな激しく抱かれなければ…、きっと、私は蒼真の誘いにうなずいていただろう。
でも…。
「蒼真、」
「ん…?」
「その、夜は、行けそうにないんだ。すまない。もう、お前にも会えないかもしれない」
「は?」
「お前に会えば、不安にさせてしまう気がするから…」
もし、また蒼真にあえば、今の精神不安定な樹がどうなるかわからない。
せめて、会うのは、樹が、元の樹に戻ってからだ。
今のままの樹をそのままにしておけない。
私たちは、もっと話し合わなくては…。
このままじゃ、いけない。
ぜったいに。
「あ?不安?なんだそりゃ…」
当然、突然決別を言われた蒼真は、訳がわからない、と私に言い寄る。
「すまない…そう…、」
そうま、そう口にするまえに…冷たい、手が首に回った。
冷たい冷たい、手。
ひんやりとした冷たいもの。
そのまま首を絞めてしまえるんじゃないだろうか。
冷たい手は、首をそっと撫でた。
「誰に電話しているの?」
ふと、首筋に息がかかる。ゾワリ、と恐怖からか、鳥肌が立つ。
ぞっとするほど、冷たい暗い声。
その声に、まるで蛇に睨まれた鼠のように体が硬直する。
「…いつき…」
首をひねり、振り返れば、そこには無表情の樹が立っていた。
樹は静かに怒っているようで、私の背後から、何も言わずに私が持っていた携帯電話を取り上げた。
「樹…なにを…」
「彼氏なんだね…、この電話…。そんなに、声聞きたかったの?昨日あんなに俺にされたのに…」
「はぁ?返しなさい、いつ…んん」
取り返そうと、掴みかかったところで、その手を取られ、唇を奪われた。
だん、と、壁に押さえつけられて、より強く唇を重ねられる。
強く舌を吸い上げて、貪るように、何度も何度も口づける。
「んっ…」
「聞かせないよ。声も、言葉も。公久さんは、俺のモノなんだから…」
「いつき…」
「ねぇ、彼氏さんに聞かせようよ。公久さんは息子に犯されてますって」
「んー」
吐息すら、奪うようなキスを繰り返した後、電話もそのままに、樹は私の頬を撫でる。
「酷いよ、公久さん…
俺には公久さんだけなのに」
酷く頼りない、樹の顔。
そんな顔するな。そんな…悲しそうな、顔。
どうして、お前は…。
初めてお前に抱かれたときも、お前はごめんといいながら、私を無理やり襲ったな。
なぁ、樹。
お前にとって、私は〝モノ〟なのか…。
謝りさえすれば、どう扱ってもいい存在なのだろうか。
「いやだ…っ」
「駄目だよ、公久さん…」
クスリ、と笑いながら、樹は、また私に覆いかぶさってくる。
電話はつながったままなのか、それとも切ってくれたのか…。
「そう…ま…、」
縋るように、そう呟けば、樹は酷く自虐的に笑って、私を責める手を激しくした。
その笑みは、酷く悲し気だった。
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