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先行投資・俺だけの人。
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それから…ぼんやりとし…。
時刻は…10時を回っただろうか。
どうやら少し、うとうとしていたらしい。
とっくにテレビでは野球の試合が終わっていた。
頭がまだぼんやりとする。
このままここで眠ってしまいたいが…布団もないソファーで寝ても風邪をひくし疲れなんかとれないだろう。
コキコキ、と首を数回回し、伸びをする。
「ただいま…」
「っ、」
「ただいま、公久さん…」
不意に樹の声がした。
小さな消え入りそうな声で。
ゆっくりと目を開ければ…、玄関には樹の姿。
「樹…」
まるで幻でもみるかのように、ついつい樹の姿を凝視してしまう。
樹はそんな私に緩やかに、口角をあげて優しく笑いかけた。
「樹…」
「うん。ただいま…公久さん」
ただいま。
樹が帰ってきた…。
私の、もとに。
帰って、きた。
まだ誕生日も過ぎていないのに。
誕生日がきたら、私の元を去るんじゃないのか?
成人したら、もう私はいらないから、正式に出ていくんじゃ…。
進藤君の家にいっていたのか。
なんでいる…?
言いたいことは山ほどあるのに、何も言えない。
嬉しいのに、何故か、樹の傍によれない。
怖い。樹の、言葉が
いつもの私だったら、樹におかえり、の一つや二つ、駆け寄って言うのに。
今は何もできない
ソファーに座ったまま、視線だけ恐々と樹の方へと向ける。「ごめんなさい…10日間も…俺…」
樹の顔が歪む。
今にも泣きそうな顔で、樹は何度も私を見てごめんなさい、と謝る。
家出して、ごめんなさい、っと。
何度も何度も。
まるで、私が樹なんていらないと、捨てるのを怖がるかのように。
馬鹿だな、捨てられるのは私のほうなのに。
「公久さん…、お、俺ね…」
暗く、俯きながら、それでもぽつり、と言葉を零す樹。
樹は、進藤君のところへいった。
彼と樹は、恋人同士。
なら、私がとやかく言う必要は…ない。
もう言わないと決めたから。
「いいんだ、樹。お前の気持ちも…私はわかったから」
「えっ?」
ぽかん、と口をあけて私を凝視する、樹。
「俺の…気持ち…?」
「そう、樹は、もう大人なんだもんな」
「う、うん」
「もう…大人なんだもんな…」
笑ってそういえばコクリ、と樹は私の言葉にうなずく。
「俺、大人、だよ…」
「そっか…そうだよな」
大人、なんだから。もう樹は私の手を借りない。
一人で全て決められるんだ。進藤君の家に行こうと、私がとやかく言う権利はない。
「家、入ってもいい?」
恐々…と尋ねる樹。
そんな窺わなくたっていいのに。
もうここは樹の家ではないのか…。
それは…寂しいな。
私が「いいよ、」というと、樹はまてが解かれた犬のように嬉しそうに私の元へ走り寄ってきた。
そして、
「公久さん、」
ぎゅぅ、っと私の身体にアタックするように強くぶつかり抱きしめる。
きつくきつく、離さないように。
「樹…」
「俺…勢いのまま出てきたけど…途中で怖くて…もし、もし…公久さんが…」
ぎゅうっと私を胸に抱きながら、小刻みに震える樹。
もし?私がなんだというんだ?
「公久さん」
「ん?」
「キス、したい…」
「え…?」
「公久さんとキスしたい…、何回もちゅーして、抱きしめたい。公久さんを、抱きたい。公久さんが足りない」
「はぁ…?なにいって…んっ、」
私の抗議は樹の口の中へと消える。
くちゅ、と音を立てて、私の口内を荒らす、樹の舌。
10日ぶりの樹との、キス。
今まで毎日のようにキスをしてきたから、物凄く久しぶりに感じる。
私は、いつものように樹に与えられるキスに身を委ね…瞼を閉じる。
『え…樹君?うちに、きてますけど?なにか…』
「っ!」
不意に進藤君の言葉が蘇り、ば、っと、両手を突っぱね、樹の身体を遠ざけた。
「公久さん?」
突然のわたしの拒絶に樹は驚愕に目を見開く。
「…、ごめん、疲れているんだ…今日は…」
樹が…樹が進藤君にキスをしているかもしれない。
私にキスを送る、この口で。
そう思ったら、キスが嫌になった。
喧嘩した、あの日のように。
キスしたくない。
されたくなかった。
まるで、女のように女々しいかもしれないけれど。
樹のその唇に、キスされたくなかった。
「だ、大丈夫…?」
そんなことも知らないだろう樹は、私の言葉に動揺し、樹は私の周りで右往左往する。
私はそんな樹にごめんな、と謝り、そのまま自分の自室へ戻った。
樹が帰ってきて嬉しいのに…
素直に喜べない私は、
ほんと、馬鹿だ。
時刻は…10時を回っただろうか。
どうやら少し、うとうとしていたらしい。
とっくにテレビでは野球の試合が終わっていた。
頭がまだぼんやりとする。
このままここで眠ってしまいたいが…布団もないソファーで寝ても風邪をひくし疲れなんかとれないだろう。
コキコキ、と首を数回回し、伸びをする。
「ただいま…」
「っ、」
「ただいま、公久さん…」
不意に樹の声がした。
小さな消え入りそうな声で。
ゆっくりと目を開ければ…、玄関には樹の姿。
「樹…」
まるで幻でもみるかのように、ついつい樹の姿を凝視してしまう。
樹はそんな私に緩やかに、口角をあげて優しく笑いかけた。
「樹…」
「うん。ただいま…公久さん」
ただいま。
樹が帰ってきた…。
私の、もとに。
帰って、きた。
まだ誕生日も過ぎていないのに。
誕生日がきたら、私の元を去るんじゃないのか?
成人したら、もう私はいらないから、正式に出ていくんじゃ…。
進藤君の家にいっていたのか。
なんでいる…?
言いたいことは山ほどあるのに、何も言えない。
嬉しいのに、何故か、樹の傍によれない。
怖い。樹の、言葉が
いつもの私だったら、樹におかえり、の一つや二つ、駆け寄って言うのに。
今は何もできない
ソファーに座ったまま、視線だけ恐々と樹の方へと向ける。「ごめんなさい…10日間も…俺…」
樹の顔が歪む。
今にも泣きそうな顔で、樹は何度も私を見てごめんなさい、と謝る。
家出して、ごめんなさい、っと。
何度も何度も。
まるで、私が樹なんていらないと、捨てるのを怖がるかのように。
馬鹿だな、捨てられるのは私のほうなのに。
「公久さん…、お、俺ね…」
暗く、俯きながら、それでもぽつり、と言葉を零す樹。
樹は、進藤君のところへいった。
彼と樹は、恋人同士。
なら、私がとやかく言う必要は…ない。
もう言わないと決めたから。
「いいんだ、樹。お前の気持ちも…私はわかったから」
「えっ?」
ぽかん、と口をあけて私を凝視する、樹。
「俺の…気持ち…?」
「そう、樹は、もう大人なんだもんな」
「う、うん」
「もう…大人なんだもんな…」
笑ってそういえばコクリ、と樹は私の言葉にうなずく。
「俺、大人、だよ…」
「そっか…そうだよな」
大人、なんだから。もう樹は私の手を借りない。
一人で全て決められるんだ。進藤君の家に行こうと、私がとやかく言う権利はない。
「家、入ってもいい?」
恐々…と尋ねる樹。
そんな窺わなくたっていいのに。
もうここは樹の家ではないのか…。
それは…寂しいな。
私が「いいよ、」というと、樹はまてが解かれた犬のように嬉しそうに私の元へ走り寄ってきた。
そして、
「公久さん、」
ぎゅぅ、っと私の身体にアタックするように強くぶつかり抱きしめる。
きつくきつく、離さないように。
「樹…」
「俺…勢いのまま出てきたけど…途中で怖くて…もし、もし…公久さんが…」
ぎゅうっと私を胸に抱きながら、小刻みに震える樹。
もし?私がなんだというんだ?
「公久さん」
「ん?」
「キス、したい…」
「え…?」
「公久さんとキスしたい…、何回もちゅーして、抱きしめたい。公久さんを、抱きたい。公久さんが足りない」
「はぁ…?なにいって…んっ、」
私の抗議は樹の口の中へと消える。
くちゅ、と音を立てて、私の口内を荒らす、樹の舌。
10日ぶりの樹との、キス。
今まで毎日のようにキスをしてきたから、物凄く久しぶりに感じる。
私は、いつものように樹に与えられるキスに身を委ね…瞼を閉じる。
『え…樹君?うちに、きてますけど?なにか…』
「っ!」
不意に進藤君の言葉が蘇り、ば、っと、両手を突っぱね、樹の身体を遠ざけた。
「公久さん?」
突然のわたしの拒絶に樹は驚愕に目を見開く。
「…、ごめん、疲れているんだ…今日は…」
樹が…樹が進藤君にキスをしているかもしれない。
私にキスを送る、この口で。
そう思ったら、キスが嫌になった。
喧嘩した、あの日のように。
キスしたくない。
されたくなかった。
まるで、女のように女々しいかもしれないけれど。
樹のその唇に、キスされたくなかった。
「だ、大丈夫…?」
そんなことも知らないだろう樹は、私の言葉に動揺し、樹は私の周りで右往左往する。
私はそんな樹にごめんな、と謝り、そのまま自分の自室へ戻った。
樹が帰ってきて嬉しいのに…
素直に喜べない私は、
ほんと、馬鹿だ。
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