先行投資

槇村焔

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先行投資・俺だけの人。

年月は、流れて。

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―いつまで、このままでいられるの?
漠然と不安に陥る時がある。

愛しているから、付き合っている。
愛しているから、抱かれている。
それに、何の不満もない。

けれど時々、これでいいのかと疑問に思ってしまう。

このままで、いいのか…と。

このまま、付き合っていいものかどうか、と。

このまま、一緒にいていいものか…なんて…。


ここ最近は、私は自分に自問自答ばかりしている。


答えなんて、出やしないのに。
それでも、考えてしまう。
これからの、こと。


何度も何度も自分に問いかけて、何度とない、もやもやにぶつかる。
行き場のない、思い。


多分、他人の事なんか気にかけない私がこんな気持ちを持つのはあいつだからだ。

樹だから。
私が初めて愛した、樹だから。
初めて、心を許した樹だから。

だから、このままでいいのか…不安なのだ。
毎日毎日不安が蓄積されていくのだ。

私は…樹とは、違うのだから。
樹と違って若くもない。
樹と違って、他人を魅了しない。
相変わらず人も嫌いだし、人付き合いだって下手だ。

樹と違って、私は…ただの投資家なだけだ。

誰にも、愛されない。
誰からも必要としない。
ただの、つまらない人間。
樹とは釣り合わない、人間。

樹は、誰も彼も魅了するのに、
私は誰とも人とうまく付き合えない。
そんな樹と私が付き合うのは…酷くおこがましいものに思えた。

樹。

私は、わからないのだ。
このままで、いいかどうか。
このまま、お前と私なんかがいてもいいのか。
お前を縛ってもいいのか。

お前が、私を愛した理由が。


樹…ごめん。
私は、今では…お前が、怖くて堪らない。
怖くて、たまらないんだ。

駄目な保護者でごめん。

駄目な…恋人で、ごめん。
樹、お前は私と出会って、本当に良かったのだろうか…。
こんな私で、本当にお前は良かったんだろうか…。
もし、もし私があのとき樹を引き取らなければ、樹はもっと別の人生があったんじゃないだろうか。

私は、もうわからなくなってしまった。



もう、私はわからないんだ。
お前のことも、私の事も。


<俺だけの人>

―ザァァァァ。
鳴り止まない雨音。
梅雨の長雨が、窓枠にあたる。
外では厚い灰色の雲。雨は斜めに振り、地面を濡らす。
絶え間なく、振り続けながら。雨はやむ気配をみせない。

ザァァァァ。

天気予報では、既に梅雨入りし、6月は雨の日が多いらしい。
降水量は、去年の1、5倍だそうだ。

ザァァァァ。
雨の日はどうも、苦手だ。身体がだるくて仕方がない。
気分も憂鬱なる。
最近は、とくに。

天気と共に、憂鬱な気分が消えない。
梅雨だから、そんな理由では片付けられないだろう。

「…っ」

雨音を聞きながら、だるいベッドから身をおこし、髪を掻き揚げる。

やせっぽっちの上半身。
日に焼けない白い肌。
抱きしめても抱き心地のよくないであろう、身体。

痩せた指先を見て、ひっそりとため息をつく。
また、痩せたようだ。


目に見える体調の変化に、年をとった感じがひしひしとする。
最近は寝不足だし…食欲もなくなった気がする。
年のせいもあるのか…?
私は今年29をむかえていた。
もうすぐ、30だ。

30、といってもただの節目…とは思っていたのだが、やはり若い頃よりも体力はなくなった。

ビールなど酒をしこたま飲んでも、昔は二日酔いなぞならなかったのに、今はしっかり次の日まで残っている。
なにより。
最近は、体力がないからか、恋人との付き合いについていけなくて、困っている…。
若い恋人は、私の身体を毎日のように欲しがるので、いつもくたくたになってしまうのだ。
たかが30前。されど30前だ。


「ん、公久さん」

低く掠れた声で、私を呼ぶ。
同じベッドで私の隣に寝ている恋人・樹の声だ。
ゆっくりと、樹の方を振り返る。

「樹…?」

私が樹を呼んでも樹は眼を瞑り、寝息を立てている。
昨日、散々やったからか…今はどこかすっきりとした顔で、むにゃうにゃと、口を動かしていた。
私の名前を呼んだのに…寝言…か…?


「んっ…」

樹は無防備な顔をし、気持ちよさそうに寝返りを打っている。
こんな、無防備で…私が何かしたらどうするんだ…。

…なにも、しないけれど。
私は苦笑し…樹の頭を撫でた。

樹のキャラメル色の髪が、サラリと指先の間から毀れ落ちる。


鼻筋は高く、彫が深いその顔は、西洋の血が混じっている証拠だ。

布団から、厚い胸板が覗く。
すっと伸びた手足。
無駄の脂肪のない、鍛え抜かれた体。


昨日…私は…この身体に。
昨晩のことを思い出し、かぁ、っと頬に赤みが差す。
昨晩のことを思い出して赤くなるなんて…乙女か…、私は。
もう何度も樹には抱かれているのに。
こんな…、


「ちゅーは、しないの?」

不意に下からかかった、声に身体が跳ねる。
視線を移せば、じっと下から見上げる樹の瞳とあった。


「い、樹…お前いつから…」
「う~んと…、随分前?」

どうやら、樹は起きていたらしい。
狸寝入りだったのか…。


「おはよ、公久さん」

うちゅ、と上体を伸ばし、樹は私に口づける。



「いつ…んっ」

最初は軽い唇のふれあいから、段々と深く、厭らしいものに変わっていく。

情熱的な、樹のキス。

私も、そんな樹の舌の愛撫に煽られて、樹の舌に自分のそれを絡めていく…。

ちゅちゅ…、と止まることのないキスの音。

樹の肩に腕を回せば、樹は私の後頭部に手を回し、より深く口づけてくる。


「…、やばい…」
「…?どうした…?」
「たっちゃった」
「は…?な、なに…」
「公久さん」


ニコッ。
樹が、とてもいい笑顔で笑う。

そう、それはまるで子供のように無垢な笑みで…。

でも、樹を知っている私には、あまりいい笑顔には見えない。
どちらかといえば、この樹の笑顔は…悪い事を考えたときの…。


「ね、公久さん、やろ」

案の定、樹は私を、押し倒してきた。
私の身体は再びベッドへ戻る。


「ま、待て、樹、朝っぱらから…、昨日散々…」
「待ては聞きませ~ん、俺、しつけの悪い犬だから♪
じゃ、いただきます。公久さん」

樹はわたしの上に覆いかぶさり、私のものを扱く。

シュッシュッ、と最早、慣れた手つきで扱かれれば、高ぶってしまうのは男のサガである。



「いただきますじゃ…あ…んっ…」

止めさせようと口を開いたところで、それは女のような喘ぎへと変わった。
こうなったら、もう私の負けだ。
もうどうしようもない。

仕方ない、人間は快楽に弱い生き物だ。

私は大人しく力を抜き、樹に身を任せた。

今日もきっと、樹は大学ぎりぎりになってしまうだろう。
嗚呼、私は親なのに。駄目親だ。



私の名前は戸塚公久。

こう見えて、一流投資家だ。

それなりに私が投資した企業は利益をあげているし、急成長もしている。
欲しいものは、大体手に入れているし、何か不満を持ったこともない。

人生は…上々だ…と、思う。


今まで後悔というものを感じたことがない。
自分の人生は、これまでちゃんと大成しているし、人が羨む経歴と収入だ。
後悔したことは多々あれど、やり直したいと思ったことは数回しかない。

のだが…、ここにきて、私は初めて後悔とやり直したい、という思いを感じているのかもしれない。

他でもない、その後悔は…恋人であり私の息子の樹だ。


樹は…私の若い頃、愚かな誘いに乗ってきた、綺麗な子供だ。
私と樹の出会いは今から、8年ほど前の事になる。
当時の樹は12歳。

その頃の樹の容姿は、地上に落ちた天使と言っていいほど、愛らしくまた、どこか作り物のような美しさがあった。

樹と私があったのは、近所の公園だ。
樹はどうやら親に捨てられたらしい。
自分にはいく場所がない…、と静かに泣いていたのだ。

樹の親には身内がいないようで、あわや施設へいくところを私が預かった。
樹の身体を自由にしていいという契約と引き換えに。

私の養子になることで、将来満足させるように、と約束させて。
いわゆる、私は樹の未来に〝先行投資〟したのだ。
以来、私は樹の父親になり…同時に、樹の未来を縛った。


今の樹は当時天使のような愛らしい面影は残っておらず、凛々しい綺麗な男へと成長していた。
女のように綺麗なんじゃない。
男として、美術品のように整っていて綺麗なのだ。

そう、こんな何の変哲のない私が縛っておくのは勿体ない…ほどに…。
あの頃から樹は、人を魅力して離さない。
天使、のように綺麗で…成長した今ではかっこよく、そして、愛らしさもある。
街中を歩いていたら、知らない人にナンパなんかしょっちゅうだ。


「っ…公久さん…も…いく…」
「っ…」

樹が私の中で、果てる。
熱いものが、私の最奥にあたる。
その飛沫を感じながら、私も、果ててしまった。

「…っあ、つ…い…いつき…」
「公久さん…」

樹は、一度果てたにも関わらず、2、3度ピストンを繰り返す。

ぐちゅ、ぐちゅ、と卑猥な音。

私は樹の胸を突っぱねて、まだやる気満々の樹のものを出した。
ドロリ…と、私の中から樹の放ったものが出てくる。

「…んぁ…」

樹の、欲望が。
こんなに、たくさん…。
樹の欲望が、私の腿を濡らした。
樹は私の足を掴んだまま、それをじっと見つめ…


「ねー、もう一回やろー。俺まだやりたりない」

自分のモノを再び私の臀部に充てる樹。

「もう、無理…」
「大丈夫大丈夫♪」
「無理だ…私をいくつ、だと…」
「無理じゃないって。あ、朝ご飯だと思って、ね?俺のミルク飲んで、公久さ」
「調子に乗るな」


とりあえず、下品な事を言う樹を一発殴っておいた。


樹は怒られているのに、にこにこしたまま「ごめんね?」と私の首筋にキスを落とす。
その樹のにこにこした笑顔を見るだけで全てを許してしまう私は…、親ばかだろうか。

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