~短編集~≪R18有り≫

槇村焔

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子供扱いしないで<先生×元生徒>

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「洋平さん…そのまま聞いてね…」
「は?」
「顔…見たら絶対言えなくなるから…。
オレの我が儘にきっと顔しかめちゃう筈だから…。そんな顔見たくないから…


だからそのまま聞いて」
「…?あぁ…」


清史の我が儘なんて…無理矢理同棲させられた時に嫌という程きいている。
あれを超える我が儘なんて早々ないだろう。


ね?とねだれれば、返事の代わりに抱きしめている腕を強める。

それに清史はほっ、と溜息をついた。


「で…なんだ?まぁ…聞くだけなら聞いてやる…」

なんて偉そうな口調で言う洋平。

清史は洋平の腕の中で言いづらそうにもじもじとしながら、口を開く。

脅迫したあの時に比べれば、何を言っても同じだろうに


「…が…欲しいなぁ~、って」
「は?」
「だから…部屋の鍵が欲しいなぁって言ったの!」
「は?」


部屋の…鍵?
もっと凄い事を言われると思っていた洋平は肩をすかされた気分だ。

部屋の鍵、だなんて。

てっきりまた抱いて、とねだられるのかと思っていたのに…


家の鍵。
家の…鍵…

もう何ヶ月も同棲しているのに今更家の鍵とは…


「…お前の事だから俺の家の鍵くらい親に頼んで作らせていると思った」


清史の親は清史に甘い。
だから男同士とて二人の恋を一応応援?しているのだ。
普通親なら男同士などといばらでしかない道なんか進ませないものだが…

金持ちの心理はよくわからない。


「うん…と…、やっぱりそういうのは洋平さんから貰いたいなぁ…って。

だって、オレ、無理矢理ここに棲む事にしたんだし…。
なんか…オレがここにいてもいいんだって証が欲しくなって」

「証…ねぇ…」

「鍵…貰えたら、オレの場所はここなんだ、って安心出来ると思うんだ。
洋平さんと一緒にいてもいいんだって。


だから…」

いきなり同棲しろと迫ってみれば、こうして家の鍵一つで頼むのを躊躇う。

ベタベタと触れてきたと思えば、こちらから触ればまるで小動物のようにびくつく。
無理矢理押し倒し脅迫したと思えば、キス一つ上手く出来ない。

もしも狙ってやっていないんならとんだ天然小悪魔だ。


 洋平は背後から片腕を清史の腹に回し、抱きしめたまま片手で清史の髪を一房掴みそこへ口づけを落とす。
耳元くらいの位置でスッキリと切られている髪。


清史からは背後にいる洋平が今どんな表情をしているのか、とんと検討がつかない。


「セン…洋平さん…?」
「お前は人を虜にする天才だな」
「えっ…」

虜…?と清史は首を傾げる。
清史にしてみれば、未だにこれっぽっちも洋平に好かれていないと思い込んでいるのだろう。


(愛してるって言っているのに…な…)

考えて、自分は清史程に態度に出ていなかっただろうかと思い直す。

そういえば、告白も清史の言葉に返すだけで自分からはまともに与えた事がなかった。

腕の中にいる健気な脅迫者が不安に思うのも無理はないだろう。



「清史」
「は…い…」

どこか真剣な口調を切る洋平に、緊張し口を震わせる清史。

どうせまた怒られるだろうと思っているのだろう。

清史がここに棲みはじめた当初は清史の我が儘に怒ってばかりだったから。

洋平は清史を抱きしめていた腕を外し、こっち向け、と言う。

元来、洋平にベタ褒れな清史に洋平の言葉は絶対的なもの。

清史はゆっくりと後ろに振り返り、洋平の顔を見つめる。
顔を伏せ、洋平の顔を見ないようにしているが。


「…図々しかった…?ごめん…、最近センセイオレが何しても何も言ってこないから…。
好きって言ってくれるから

だからいいかな…って」
「清史」
「オレ…家に一緒にいるだけでもうれしいのに。

…でも不安で。恐くて。
センセイが本当はオレを追い出したいって思っていたら…」
「清史…」


ついには泣きじゃくり始めた清史。
それに洋平ははぁ、っと溜息を零す。

清史はまた洋平を呆れさせた…とショックを受けてますます涙を溢れさせる始末。

脅迫してまで自分を縛った子供が、嫌われて怖いとなくだなんて。


「あのなぁ…通知表にも書いただろう。最後まで人の話を聞けって。お前は一人突っ走り過ぎだ」

コツン、と軽く清史の頭を叩く洋平。

清史は涙をそのままに洋平の言葉にコクン…と頷く。

「この部屋は…一人じゃ広すぎるんだ。俺一人だと。お前がいないと」
「えっ…」

洋平の言葉にパチパチと目を見開く清史
すっ、と顔を上げるとそこには想像した難しい顔を裏切り優しげな洋平の顔。


「なんともなかったのに…。
お前が無理矢理入りこんできたんだろう?
俺の心の中に。
いつの間にか、お前は俺の心に住んでいたんだ。
今更一人じゃ広すぎる」

清史は洋平の言葉に激しく瞠目する。
じっ、と洋平を見つめれば洋平は柔らかく目元を下げ笑う。

「いつの間にかお前の存在が俺の中では大きくなってきてるんだ。
それこそ、俺は本当にお前が奥さんだなんて思う事もある」

「センセイ…」

奥さん。
洋平の奥さん。
清史がずっとなりたかったモノ。


「いいの…オレ、この部屋にいて…いいの」

恐々と、洋平に尋ねる。

「ここは…センセイの隣はオレの居場所なの?」

願っていた言葉。
願っていた関係。
願っていた居場所。


「いいよ…何度も言っているだろ」

洋平は、ニッと清史に笑いかけると

「先生とか男同士だとかそんな常識ぶっこわして、お前に惹かれてるって」

言いながら、目の前にいる清史の頭を撫でた


「センセイ…」

「この部屋は…ここはお前の居場所だから、
ちゃんと、お前は俺の中にいるから」

くいっ、と清史は顎元を取られ、上を向かされる。

「不安になるな…」

そういうと洋平は清史の口端に軽くキスをおとした。






「洋平さん、大好き大好き大好き大好き!大好きです…」
「はいはい…」

子犬のように嬉しくてじゃれて纏わり付く清史。

洋平はそれを受け止めて、優しく頭を撫でてやった。

-----



次の日、洋平は家に帰ると何食わぬ顔で清史に家の合い鍵を渡した。

まるで、ケーキや何かお土産を渡すかのようになんともない顔で。
ポイッ、っと清史にそれを投げ渡した。


「センセ…これ…」
「やる」
「え…、」
「この部屋はお前の部屋でもあるからな…」
「センセイ…」

清史は手の中にある貰ったばかりの合い鍵に凝視し…、その手のあるモノを確認すると

感極まってそのまま勢いよくに抱き着いた。


「おい…」
「ありがと…センセ…オレ、スッゴくうれしい」

握りしめた銀の鍵。

顔を破顔させて、幸せそうに笑う清史。

(…こういうのが幸せっていうのかね…)

ふっとシビアな自分らしくない考えが過ぎり洋平は苦笑した。
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