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5章
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しおりを挟むストーカー男に襲われた僕を1人にすることはできないと、夏目くんはタクシーを呼び腰を抜かし動けなくなっている僕を乗せてくれた。
夏目くんに連れられたのは、椎名先生のマンションだった。
僕の怪我の手当をおえると夏目くんは、僕に真剣な表情で、「先生の家から、出て行ってくれませんか?」という。
「でも…」
「あれは、先生のストーカーですよね?
ずっと、あのストーカーにつけられていましたよね。宮沢さん。今日だけじゃありませんよね。あとをつけられていたのは…」
「なんで、それを…ーー」
「先生の娘さんに聞いたんですよ。
もしかしたら、宮沢さんが、危ない目にあっているかもしれないから、気をつけておけって」
花蓮ちゃんが、夏目くんに知らせてくれていたんだ。
花蓮ちゃんは夏目くんを嫌っていたはずなのに、僕が危険な目にあっちゃまずいと夏目くんに知らせてくれたのだろう。
「俺が、たまたま居合わせたからいいものの。
もし、俺がいなかった時は…ー、もしかしたら、今度は入院なんかで済まなかったかもしれないんですよ。わかってるんですか…」
怒鳴ってはいなかったが、夏目くんの口調は静かな怒気を孕んでいる。
声を荒げていない分、口調がかえって夏目くんが本気で怒っているのだと気付かされた。
「花蓮ちゃんから貴方のことを聞いて、どれだけぞっとしたことか…。相良先生を守るために、先生のもとにいたのかもしれませんけど、ストーカーがどういう手に出るか、考えてなかったんですか。
宮沢さんの家、火事に遭いましたよね?それが、あのストーカーの仕業だったとしたら…?」
「あの火事が…?まさか……」
「あのストーカー、事件があった日、近くにいたらしいんですよ…。
つまり、あのときの放火の犯人がさっきのストーカーならば、先生に近づく憎しみから宮沢さんを傷つけようとしていたってことです。危ないのは先生だけじゃなかったってことですよ…」
夏目くんの言葉に、今更ながらに恐怖心に襲われ、身体が震える。
夏目くんがいなかったら…今頃…。
あのストーカーは先生に近づく僕に制裁しようとしていた…?
「好きなんですか、先生のこと…」
「好きって…」
「先生のこと、好きだから見捨てられないんですか」
「そうじゃなくて…。先生のこと、見捨てられなくて。それに…、頼られているの、嬉しかったから…。」
「だからって、なんとも思ってない先生のところに居続けるつもりなんですか?」
「だって…」
「不用意に先生の側に行れば…こうなるとわかっていたのに。
あの人がストーカーに狙われてるって知ってたんですよね。
なら、なんで自分に危害が及ぶって思わなかったんですか?」
夏目くんの剣幕に、たじろく。
確かに夏目くんのように強くもない僕が、先生の護衛になれたらなんて不用意だったかもしれない。
でも…
「あ、あのね。だけど…」
「中途半端な優しさは、より誰かを傷つけるだけです。もし、貴方が怪我でもしたら、先生は自分が傷つくより傷つかれると思いませんか?貴方が…」
「だから、ひっこんでろって?
僕みたいな足手まといが先生の側によるなって、そう言いたいんですか?」
「なんでそう…ああ、もう…っ」
夏目くんは、僕の腕を取ると、強引に胸に抱き寄せた。
「夏目…くん」
「好きです…。貴方が…。
だから、先生に…誰にも、渡したくないんです。
好きな人に傷ついてほしくない。
いけないですか?好きな人が自分じゃない人と一緒に住むって聞いてヤキモチ焼くのは。渡したくないっておもうのは。
俺だけを必要としてほしいと思うのは…そんなにいけないことですか」
夏目くんの真っ直ぐな言葉に、僕の鼓動は大きく高鳴って。
戸惑う僕に夏目くんは、「好きです」と腕に力を込める。
「…ほ、本当に僕のことを?でも、相良先生のことは…」
「相良先生…?」
「あの日、相良先生が家を飛び出した日、夏目くん言ってたよね。相良先生は公園にいるって。
相良先生が昔書いた作品を、夏目くんは知っていましたよね。
その作品、この間、先生の部屋で見つけたんです。
相良先生は、それを大事な人のために書いたって言ってました。
相良先生と夏目くんは知り合いだったわけですよね。
夏目くんが前に言っていた初恋の人って…、相良先生のことなんじゃないんですか?」
そう考えれば色々と辻褄が合う。
先生は好きな人を裏切ってしまい、別れたと言っていた。
先生が好きな人のためだけに書いた作品を、夏目くんは知っている。
つまり…2人は…、元恋人同士だったのではないか…ーーー。
「大事な人ですよ。だって、あの人は…ー俺の初恋の人ですから」
「初恋の人?」
「そうです…。
あの人は…、相良先生は、俺の初恋の人なんです」
夏目くんの初恋の人…。
椎名先生も言っていた、夏目くんの忘れられない人。
それが、相良先生。
じゃあ、相良先生の担当になりたいって、酒井くんが言っていたのも?
「夏目くんの初恋の人って、相良先生だったんですね。
だったらなんで僕を好きになるんです?
僕は代わりですか?
先生の側にいる僕を邪魔に思っているから…だから、そんな…」
「俺の本気、疑っているんですか?」
夏目くんの鋭い視線と威圧感に、ビクリと全身が震える。
怯えた僕の様子に、夏目くんは一呼吸ついて、「今は宮沢さんだけです」と表情を和らげる。
「だって、夏目くんはいつも平然としてるじゃないですか…。いつだって、僕の前ではクールで…」
「クールなんかじゃありません。ずっと下心丸出しでした。
無防備な貴方を、どうやって犯そう…とか、そんなことばかり考えてましたよ…」
「嘘…」
「ほんとです。貴方が酔いつぶれた時、貴方が覚えていないことをいいことに、俺たくさん貴方に悪いことしましたよ…」
「悪いことって…、それって…」
「貴方と呑んだ日です」
「呑んだ日…って…ーー」
まさか、僕が夢だと思っていた数々のことは全部夢じゃなくて本当に起こっていたことで…ーー。
かぁぁ…と全身が赤くなる。
あれらが全部本当だとしたら、僕が夢だと思って夏目くんに言っていた言葉も現実ってことで…!!
「でも、ずっと、避けていたじゃないですか。先生と一緒に住むことになって。
あれって、先生に未練があって、それでおこったんじゃないですか?」
「どうしたら、そんな勘違いができるんですか…」
「だって…!」
信じることができないのは、君が好きだから。
僕も好きだとすぐに言えないのは、君の言葉を信じたいから。
僕の不安ごと包み込むように夏目くんは、ぎゅっと腕の中の僕を抱きしめなおすと、
「ずっと、こうしていたかった。貴方が起きている時に。
好きです…。貴方を襲いたいっていつも頭で考えるほど、貴方に惚れているんです」
そういい、夏目くんは僕の顎を掬い、口付けた。
「これは、なんのおまじない…ですか?」
「貴方が俺を好きになってくれますように…っておまじないです。
今度こそ、好きな人が困っていたら助けることができますように…って。今度こそ、好きな人が困っていたら、俺をすぐに呼んでくれますように…って」
唇が重なる。
好きです、そう告げた夏目くんに、僕は…
「僕も、君が大好きです」とようやく彼に想いを告げた。
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