36 / 41
5章
・・・・・・・
しおりを挟む
■
貰った名刺を片手に、一度も行ったことのない椎名先生の家へ向かう。
夏目くんと会ったら、なんて切り出そう。
まだ怒っていて、話も聞いてくれなかったら…。
いや、たとえ拒否されても聞いて貰えるまで粘ってみよう。
必要以上に怖がるのは、もう辞めるのだ。
夏目くんが僕のことをどう思っているのか、僕が彼をどう思っているのか…、今しっかりと伝えないと後で絶対に後悔する。
これ以上、後悔は抱えたくない。
観覧車を前に切ない思いをするのは、もう辞めて玉砕覚悟であたって砕けてやる。
見知らぬ街を歩いて、頭の中では夏目くんのことを思い描いて…。
その時、僕の注意力散漫になっていたんだとおもう。
だから、僕のあとをずっとつけている男に気づかなかったのだ。
人通りが少ない小道を曲がると、前触れもなく背後から力強く肩を掴まれた。
なに?と思った瞬間に、背後から鼻と口を布で塞がれる。
抵抗しようと身体を攀じるが、背後にいるのはどうやら僕より体格のよい男のようで、容易にふりほどくことができない。
声を出そうにも、恐怖で声も出ないし、男の手を外そうと手を伸ばし爪を立ててみるけれど、手は緩まない。
身体をピッタリと押し付けられて、耳元に男の吐息がかかった。
「んぐ…」
「…お前がいけないんだ。
お前が…、あの人のそばにいるから……」
男は僕の口元を覆っていないほうの手を首元へ移動させ、指先に思い切り力を入れる。
ぎゅっと首を締め付けられる圧迫感に、呼吸がままならなくなる。
視界がぼんやりと、かすむ。
薬品の匂いが強烈すぎて、胃液が迫り上がったように吐き気がこみ上げた。
クロロホルムか何か翳されてるんだろうかー?
意識がどんどん、遠のいていく。
「…んんん…」
「お前があの人を誑かすから…。独り占めするから…。だから…」
この男…、先生のストーカー?
首を圧迫する手は、憎しみが込められているように強い。
首を絞められているだけでも恐ろしいのに、男はハァハァと荒い呼吸を零しながら、僕の腰辺りに硬いものをこすりつけていく。
その硬いものがナニかなんて、同じ男だから嫌でもわかってしまう。
腰を反らせ、ピタリとあててくるモノ。
男はこの状況にひどく興奮しているみたいだった。
人が苦しんでいる様をみて喜ぶ猟奇的な男かもしれない。
この場で捕まえることができれば…
しかし、焦れば焦るほど意識が朦朧としてくる。
なんとかしなくちゃいけないのに…どうすることもできない。
このまま、死んじゃうんだろうか。
夏目くんに、この気持を告げることのないまま。
夏目くんに、あの時のキスの意味も聞けないままに。
このまま、先生のストーカーに殺されて僕の一生は終わってしまうんだろうか。
「夏…目くん…」
君に、伝えたいことがあるんだ。
「な…つめ…」
ああ、もうだめだ。目の前が真っ暗だ。
立っているのも覚束なくなり、力が抜けた。
その時…ー
「俺の大事な人になにしてんだ…」
ドスがきいた低い声とともに、圧迫感が消える。
支えを失った僕はそのまま、フラリと地面に倒れ込んだ。
「…は…っごほ…ごほ…」
気道に入った酸素に噎せ返る。
僕が咳き込んでいる間、「うぐ…」だとか「あぁ」だとか、悲痛なうなり声があがった。
僕を襲ったストーカーだろうか。
それとも…ー
ぜぇぜぇと、荒い呼吸を整えながら、顔をあげると…。
「殺してやろうか?ああ?」
そこには鬼の形相をした、夏目くんの姿があった。
どうして、彼が。なんで、ここに?
湧き上がる疑問は、男を殴りかかる夏目くんを見て消えさる。
舞うように軽やかに拳で殴りつける夏目くんに、僕は見惚れてしまい、思考が停止した。
かっこいい…。
とにかくかっこいい。
なんでこんなにかっこいいんだろう。
男との戦いの差は歴然で。
男はサンドバックのように、なすがままになっている。
顔は殴られすぎて、原型を留めていない。
容赦ない夏目くんに、ストーカー男はぐったりと地に伏せていた。
「な、夏目くん…それくらいにしたほうが…」
「宮沢さん。でも…」
僕が声をかけた瞬間、夏目くんの意識が男から僕へと移る。
その瞬間を見計らって、ストーカー男は脱兎のごとく逃げ出した。
夏目くんは、舌打ちをうつと、すぐに逃げ出した犯人を追おうとした。
それを、僕は夏目くんの服を握りしめて、とめた。
ストーカー男をこのままにしてはいけない。
このまま、先生に害が及ぶかもしれない。
それはわかっていた。
だけど…ーーー。
「い、行かないで…」
「宮沢さん…」
「側にいてください…」
お願いします、と懇願すれば夏目くんはそれ以上、ストーカーを追うことはなかった。
震える僕を夏目くんは抱きしめると、「もう大丈夫です、俺がついてます」と僕の震えが止まるまで、側にいてくれた。
######
貰った名刺を片手に、一度も行ったことのない椎名先生の家へ向かう。
夏目くんと会ったら、なんて切り出そう。
まだ怒っていて、話も聞いてくれなかったら…。
いや、たとえ拒否されても聞いて貰えるまで粘ってみよう。
必要以上に怖がるのは、もう辞めるのだ。
夏目くんが僕のことをどう思っているのか、僕が彼をどう思っているのか…、今しっかりと伝えないと後で絶対に後悔する。
これ以上、後悔は抱えたくない。
観覧車を前に切ない思いをするのは、もう辞めて玉砕覚悟であたって砕けてやる。
見知らぬ街を歩いて、頭の中では夏目くんのことを思い描いて…。
その時、僕の注意力散漫になっていたんだとおもう。
だから、僕のあとをずっとつけている男に気づかなかったのだ。
人通りが少ない小道を曲がると、前触れもなく背後から力強く肩を掴まれた。
なに?と思った瞬間に、背後から鼻と口を布で塞がれる。
抵抗しようと身体を攀じるが、背後にいるのはどうやら僕より体格のよい男のようで、容易にふりほどくことができない。
声を出そうにも、恐怖で声も出ないし、男の手を外そうと手を伸ばし爪を立ててみるけれど、手は緩まない。
身体をピッタリと押し付けられて、耳元に男の吐息がかかった。
「んぐ…」
「…お前がいけないんだ。
お前が…、あの人のそばにいるから……」
男は僕の口元を覆っていないほうの手を首元へ移動させ、指先に思い切り力を入れる。
ぎゅっと首を締め付けられる圧迫感に、呼吸がままならなくなる。
視界がぼんやりと、かすむ。
薬品の匂いが強烈すぎて、胃液が迫り上がったように吐き気がこみ上げた。
クロロホルムか何か翳されてるんだろうかー?
意識がどんどん、遠のいていく。
「…んんん…」
「お前があの人を誑かすから…。独り占めするから…。だから…」
この男…、先生のストーカー?
首を圧迫する手は、憎しみが込められているように強い。
首を絞められているだけでも恐ろしいのに、男はハァハァと荒い呼吸を零しながら、僕の腰辺りに硬いものをこすりつけていく。
その硬いものがナニかなんて、同じ男だから嫌でもわかってしまう。
腰を反らせ、ピタリとあててくるモノ。
男はこの状況にひどく興奮しているみたいだった。
人が苦しんでいる様をみて喜ぶ猟奇的な男かもしれない。
この場で捕まえることができれば…
しかし、焦れば焦るほど意識が朦朧としてくる。
なんとかしなくちゃいけないのに…どうすることもできない。
このまま、死んじゃうんだろうか。
夏目くんに、この気持を告げることのないまま。
夏目くんに、あの時のキスの意味も聞けないままに。
このまま、先生のストーカーに殺されて僕の一生は終わってしまうんだろうか。
「夏…目くん…」
君に、伝えたいことがあるんだ。
「な…つめ…」
ああ、もうだめだ。目の前が真っ暗だ。
立っているのも覚束なくなり、力が抜けた。
その時…ー
「俺の大事な人になにしてんだ…」
ドスがきいた低い声とともに、圧迫感が消える。
支えを失った僕はそのまま、フラリと地面に倒れ込んだ。
「…は…っごほ…ごほ…」
気道に入った酸素に噎せ返る。
僕が咳き込んでいる間、「うぐ…」だとか「あぁ」だとか、悲痛なうなり声があがった。
僕を襲ったストーカーだろうか。
それとも…ー
ぜぇぜぇと、荒い呼吸を整えながら、顔をあげると…。
「殺してやろうか?ああ?」
そこには鬼の形相をした、夏目くんの姿があった。
どうして、彼が。なんで、ここに?
湧き上がる疑問は、男を殴りかかる夏目くんを見て消えさる。
舞うように軽やかに拳で殴りつける夏目くんに、僕は見惚れてしまい、思考が停止した。
かっこいい…。
とにかくかっこいい。
なんでこんなにかっこいいんだろう。
男との戦いの差は歴然で。
男はサンドバックのように、なすがままになっている。
顔は殴られすぎて、原型を留めていない。
容赦ない夏目くんに、ストーカー男はぐったりと地に伏せていた。
「な、夏目くん…それくらいにしたほうが…」
「宮沢さん。でも…」
僕が声をかけた瞬間、夏目くんの意識が男から僕へと移る。
その瞬間を見計らって、ストーカー男は脱兎のごとく逃げ出した。
夏目くんは、舌打ちをうつと、すぐに逃げ出した犯人を追おうとした。
それを、僕は夏目くんの服を握りしめて、とめた。
ストーカー男をこのままにしてはいけない。
このまま、先生に害が及ぶかもしれない。
それはわかっていた。
だけど…ーーー。
「い、行かないで…」
「宮沢さん…」
「側にいてください…」
お願いします、と懇願すれば夏目くんはそれ以上、ストーカーを追うことはなかった。
震える僕を夏目くんは抱きしめると、「もう大丈夫です、俺がついてます」と僕の震えが止まるまで、側にいてくれた。
######
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる