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5章
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「あれね。うん。行ったね。…取材だけどね」
「取材…?」
「今度の新作ハードボイルド系でいく予定でね。
主人公は刑事で、ヒロインはホステスって設定なんだ。
1人で夜の街に僕が取材に行くと、売春かなにかと勘違いされるから…ってついてきてくれたわけ。
やましいことはないんだけどな…。
それに、そーじくんは僕のタイプじゃないから…」
「…でも、これ抱き合っているように見えますけど」
先生はスマホを見つめながら、うーん…と考え込み、はたと手を叩く。
「それは、僕が酔いつぶれて介抱している時の写真だと思うよ。
この時、夜の街だーってはしゃいじゃって、お酒を自分の限界まで呑んじゃって…。
僕、酒グセ悪いんだよね。すぐ酔っ払うし…。酔っ払うと、人にベタベタくっつくわ、甘えるわで大変らしいんだよね。
ラブホも多分酔った勢いで寄ったくらいで、中には入ってなかったような…?」
「酔っ払って…抱き合ったんですか…」
「そうだと思うよ。なんなら、そのラブホテルに行ってみようか?
絶対、僕とそーじくんがホテルの部屋で泊まったとか、そういう証拠はでないはずだから。
だから、可愛いヤキモチ焼いても意味ないと思うけど?」
ヤキモチ…って…。
先生は、首筋まで真っ赤になった僕を見て、クスリと笑った。
しばらく先生はニヤニヤと僕を見つめていたが、不意に真顔になり
「でもね、そーじくんは僕が言うのもなんだけど、めんどくさい男だよ、恋人にするのは不向きかもね」と呟く。
「なんせ、そーじくんは、初恋のせいで、人生計画が狂っちゃったわけだし」
「初恋のせいで?」
「そうそう。
そーじくんはね、昔、恋人がいたんだけど、色々あって傷つけてしまったんだって。
以来、恋には慎重になってるって話していたよ。
あの腹黒のそーじくんがだよ。
担当作家が締め切りで苦しんで「もう死ぬー」って言ったら「じゃあ、死んでください」って毒のある笑みで笑いかける、あのそーじくんが、だよ?」
酷い言われようである。
そんな話を盛らなくても…と言えば、椎名先生は「天然って恐ろしい。あれで気づかないのはおかしい」とブツブツ呟いている。
「あの、勘違いってどういう意味です?」
「そーじくんも若かったってこと。
いつもは冷静な感じだけどさ、それは大きな猫かぶっているだけで。
本当はすっごい俺様だし、我儘だし、情熱的な人間だよ、彼は」
「椎名先生は、夏目くんのことよくみているし、信頼しているんですね」
「信用はしてるかもね。でも、それだけだよ。僕らの間に恋愛感情なんてものはないし。親友みたいなものだからね。
邪推するだけ時間の無駄だと思うよ。君にもいるんじゃない?僕とそうじくんみたいなお友達。
気にすべきはそーじくんの初恋の人のほうかな。
いつも、スマートな恋愛をしてきたそーじくんを変えたヒト。聞いた話じゃ、綺麗な年上の人らしいよ」
「年上の人ですか…。
今でも、夏目くんはその人のことを…?」
「さぁ…。本人に聞いてみたらどうだろう?
自分で聞くのも大事だよ。
これ、サービスとして貸してあげるからさ」
先生は背広のポッケを探り、手にしたものを机の上に放り出す。
先生から投げられたのは、銀色の鍵と名刺だった。
「なんですか、これ」
「僕んちの鍵。それから住所が書かれた名刺。今日、そーじくん、僕の家に泊まっているから」
「え…」
「そんな顔して…。何もないから。ただ、ペットの世話を頼むために来てもらっただけだし。
それに僕は…」
「椎名先生…!」
ここにいらしたんですね…!とまるで飼い主を慕う犬のように僕らに一目散にかけよってくる人影。
「編集長?」
「待っていてくれたんですね。嬉しいです」
編集長は椎名先生に近寄ると、にっこりと微笑んだ。
「ああ、まぁ…」
編集長の出現に、椎名先生は気まずそうに視線を彷徨わせる。
この間も思ったけど、編集長の前だと、椎名先生の態度はガラリと変わる。
編集長を椎名先生は凄く意識しているようだ。
そんな椎名先生に、編集長はいつにも増して、笑顔で…。
「あ、あの編集長。お疲れ様です」
声をかけると編集長は椎名先生の隣にいた僕に今頃気づいたみたいで「あれ、宮沢くんもいたのかい?」なんて驚いている。
編集長…そりゃ、僕は椎名先生みたいに綺麗じゃないですけど…、隣にいるんだからわかるでしょう。
「あのお二人、待ち合わせでもしていたんですか?」
「いや…。していないよ。今日はね」
「今日は…?」
「また僕の家に押しかけられたら困るからね。今はそーじくんがいるし…。仕方なく迎えにきただけ。変なこと言わないでくれます?」
椎名先生は、言い訳めいた言葉を吐くと、席をたちエレベーターへと向かった。
その後を編集長が飼い主を慕う犬のように追っていく。
エレベーターに乗り込む瞬間、椎名先生はふと思い出したように僕の方に振り返ると…ーー
「今夜は帰らないから、頑張ってね」
「え…あの?」
「じゃあ、またね…」
困惑する僕をよそに、編集長と椎名先生を乗せたエレベーターは、ゆっくりと扉が閉まっていった。
「取材…?」
「今度の新作ハードボイルド系でいく予定でね。
主人公は刑事で、ヒロインはホステスって設定なんだ。
1人で夜の街に僕が取材に行くと、売春かなにかと勘違いされるから…ってついてきてくれたわけ。
やましいことはないんだけどな…。
それに、そーじくんは僕のタイプじゃないから…」
「…でも、これ抱き合っているように見えますけど」
先生はスマホを見つめながら、うーん…と考え込み、はたと手を叩く。
「それは、僕が酔いつぶれて介抱している時の写真だと思うよ。
この時、夜の街だーってはしゃいじゃって、お酒を自分の限界まで呑んじゃって…。
僕、酒グセ悪いんだよね。すぐ酔っ払うし…。酔っ払うと、人にベタベタくっつくわ、甘えるわで大変らしいんだよね。
ラブホも多分酔った勢いで寄ったくらいで、中には入ってなかったような…?」
「酔っ払って…抱き合ったんですか…」
「そうだと思うよ。なんなら、そのラブホテルに行ってみようか?
絶対、僕とそーじくんがホテルの部屋で泊まったとか、そういう証拠はでないはずだから。
だから、可愛いヤキモチ焼いても意味ないと思うけど?」
ヤキモチ…って…。
先生は、首筋まで真っ赤になった僕を見て、クスリと笑った。
しばらく先生はニヤニヤと僕を見つめていたが、不意に真顔になり
「でもね、そーじくんは僕が言うのもなんだけど、めんどくさい男だよ、恋人にするのは不向きかもね」と呟く。
「なんせ、そーじくんは、初恋のせいで、人生計画が狂っちゃったわけだし」
「初恋のせいで?」
「そうそう。
そーじくんはね、昔、恋人がいたんだけど、色々あって傷つけてしまったんだって。
以来、恋には慎重になってるって話していたよ。
あの腹黒のそーじくんがだよ。
担当作家が締め切りで苦しんで「もう死ぬー」って言ったら「じゃあ、死んでください」って毒のある笑みで笑いかける、あのそーじくんが、だよ?」
酷い言われようである。
そんな話を盛らなくても…と言えば、椎名先生は「天然って恐ろしい。あれで気づかないのはおかしい」とブツブツ呟いている。
「あの、勘違いってどういう意味です?」
「そーじくんも若かったってこと。
いつもは冷静な感じだけどさ、それは大きな猫かぶっているだけで。
本当はすっごい俺様だし、我儘だし、情熱的な人間だよ、彼は」
「椎名先生は、夏目くんのことよくみているし、信頼しているんですね」
「信用はしてるかもね。でも、それだけだよ。僕らの間に恋愛感情なんてものはないし。親友みたいなものだからね。
邪推するだけ時間の無駄だと思うよ。君にもいるんじゃない?僕とそうじくんみたいなお友達。
気にすべきはそーじくんの初恋の人のほうかな。
いつも、スマートな恋愛をしてきたそーじくんを変えたヒト。聞いた話じゃ、綺麗な年上の人らしいよ」
「年上の人ですか…。
今でも、夏目くんはその人のことを…?」
「さぁ…。本人に聞いてみたらどうだろう?
自分で聞くのも大事だよ。
これ、サービスとして貸してあげるからさ」
先生は背広のポッケを探り、手にしたものを机の上に放り出す。
先生から投げられたのは、銀色の鍵と名刺だった。
「なんですか、これ」
「僕んちの鍵。それから住所が書かれた名刺。今日、そーじくん、僕の家に泊まっているから」
「え…」
「そんな顔して…。何もないから。ただ、ペットの世話を頼むために来てもらっただけだし。
それに僕は…」
「椎名先生…!」
ここにいらしたんですね…!とまるで飼い主を慕う犬のように僕らに一目散にかけよってくる人影。
「編集長?」
「待っていてくれたんですね。嬉しいです」
編集長は椎名先生に近寄ると、にっこりと微笑んだ。
「ああ、まぁ…」
編集長の出現に、椎名先生は気まずそうに視線を彷徨わせる。
この間も思ったけど、編集長の前だと、椎名先生の態度はガラリと変わる。
編集長を椎名先生は凄く意識しているようだ。
そんな椎名先生に、編集長はいつにも増して、笑顔で…。
「あ、あの編集長。お疲れ様です」
声をかけると編集長は椎名先生の隣にいた僕に今頃気づいたみたいで「あれ、宮沢くんもいたのかい?」なんて驚いている。
編集長…そりゃ、僕は椎名先生みたいに綺麗じゃないですけど…、隣にいるんだからわかるでしょう。
「あのお二人、待ち合わせでもしていたんですか?」
「いや…。していないよ。今日はね」
「今日は…?」
「また僕の家に押しかけられたら困るからね。今はそーじくんがいるし…。仕方なく迎えにきただけ。変なこと言わないでくれます?」
椎名先生は、言い訳めいた言葉を吐くと、席をたちエレベーターへと向かった。
その後を編集長が飼い主を慕う犬のように追っていく。
エレベーターに乗り込む瞬間、椎名先生はふと思い出したように僕の方に振り返ると…ーー
「今夜は帰らないから、頑張ってね」
「え…あの?」
「じゃあ、またね…」
困惑する僕をよそに、編集長と椎名先生を乗せたエレベーターは、ゆっくりと扉が閉まっていった。
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