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4章
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「ごめんね。せっかくの客人を帰らせてしまって。しかし、今の人は…?
随分宮沢さんとは雰囲気が違ったタイプだったけど…知り合いなのかな?」
「僕の友達です」
「恋人じゃないんだ。つまんないのー」
「先生…!」
椎名先生の言葉を、夏目くんが咎めた。
満と僕を恋人と間違えるなんて、カミングアウトしてなくても椎名先生には僕がゲイだってバレてしまっているんだろうか。
わかる人からみたらバレバレなのか…。
冷や汗を流す僕に気づくことなく、椎名先生の尋問は続いた。
「恋人とかいるの?」
「いません…けど…」
「そっかそっかー!恋人いないのか!」
椎名先生は僕の返事に、いたずらっ子のように目を輝かせると
「じゃあ、退院したらそーじくんの家にご厄介になったらどうだろう?」と、とんでもない提案をしてくださった。
そーじくんの家…。
そーじくんってのは、夏目くんのことで…。
告げられた言葉を理解するのに、僕は数秒要してしまった。
「え…えっと?」
「だから、宮沢さん、家が燃えちゃったんでしょう?
んで、新しい家を探すのもお金がかかる。
しかも、火傷で手術もしちゃったし、入院でお金も消えちゃう」
「そうですが…」
「だからね、もうこの際、そーじくんのご厄介になったら、どうかな…っと。
ほら、そーじくん、独身だし!
家事も得意だから、火傷の宮沢さんを親身にサポートしてくれそうだし…!宮沢さんにはいつもお世話になっているみたいだしね」
先生は名案だ!と当人を置いて、一人話を進める。
独身だからって、夏目くんの家に転がり込むなんて…。
そりゃ、誰かの家にご厄介になれたらいいなぁ…とは思ったけど。
夏目くんの家にご厄介になんて、考えるだけで脳が沸騰する。
好きな人と一緒の家に住めたらそりゃ、毎日楽しいだろうけど。
でも今でさえこんなドキドキしているのに、ずっと一緒なんてこの気持ちを隠しておくなんてできない。
飲み会の後見る夢のように、夢と現実の堺がなくなってしまって、素面でも夏目くんに甘えてしまうかも。
あまつ、僕が暴走して襲いかかる可能性だってある。
それに、夏目くんの家は…ーー。
「…すみません…うちは…」
「うわぁ、そーじくんの薄情者ー。
宮沢さんが困っているってのに、断るの?
そーじくん。それでも男なのかい。
困っているときこそ助けるのが男ってもんだろ?」
責め立てる椎名先生を、夏目くんは、ジロリと恨めしげに睨みつけた。
先生は知らないんだろうか。夏目くんの家のこと。
「あの…そんな、お世話になるなんて。
それに、夏目くんの家、独身寮だから…。家に呼べないんですよ」
夏目くんが今住んでいるのは、会社が用意した独身寮なのだ。
寮に部外者は基本、連れ込めない規則になっている。
だから、夏目くんの家にご厄介になることは、例え独身でもできないのだ。
付け加えて、現在寮は満員らしいから、僕がご厄介になること無理なわけで。
「ああ。そうか。ほーんと、いつまで寮にいるんだか…。
そんなんじゃ、いざって時に連れ込めないから不便だって言っているんですけどね」
「いざって時?」
「だから、セック…」
先生が全てを言う前に、夏目くんの裏拳が先生の顔面に炸裂した。
「静かにしましょうね、椎名先生」
「はい…」
「あの、お気遣いありがとうございます。
とりあえず退院して、しばらくは、カプセルホテルにでも過ごそうかな…って思ってます。
どうせ、家に帰っても寝るだけですから…」
「そう?
あーあ。そーじくんが、寮なんかに入っているから。
肝心なときに頼りにならないんだからさぁ…。だから早く出ろって言ってんのに。
マイホームの為にお金貯めるって聞かなくてさ。ローン組んで買えばいいのに。
そんなん貯めてたら爺さんになっちゃうだろっていう…」
そういえば、夏目くんマイホームを持つのが夢だって言ってたっけ。
「そんな…頼りにならないなんて。
夏目くんは毎回お見舞いにきてくれるし、頼りになってます。
それに、これ以上頼りにしたら怒られますよ、恋人さんとか夏目くんの好きな人に。
何の関係もないのに、これ以上甘えてしまったらバチがあたってしまいます…」
「恋人さん…ねぇ…」
椎名先生は、何か言いたげに、夏目くんに視線を投げかけたのだが、夏目くんはかおを顰めたままなにも言わない。
椎名先生と夏目くん。
2人でいるところを直接見るのは、これで2回目だけど、隣り合って立っているとやっぱりお似合いだと思う。
やはり2人は恋人同士なのだろうか。
2人は僕に聞こえぬくらいの小声で顔を寄せ合って何か喋っている場面に、疑惑が確信に変わっていく。
椎名先生へのフレンドリーな夏目くんの態度も、恋人だと思えば納得できる。
「…椎名先生と夏目くんは…」
「ん?なに、宮沢さん」
「なんでも、ありません…」
臆病な僕は決定的な言葉を恐れ、口を噤んだ。
椎名先生と夏目くんは、それから小一時間ほどで帰っていった。
いつもは面会時間ギリギリまで残ってくれる夏目くんであったが、今日はソワソワした様子で足早に病室を後にした。
これから、先生と2人で何処かへいくんだろうか。
もしかして、またホテル街に2人で…ーー。
チクチクと痛む胸に、ダメなやつ…と自分を叱咤する。
告白する勇気もないくせに、勝手に妄想して、傷ついて…お前ってドM?なんて満に笑われそうだ。
しっかりしなくては!
まず怪我を早く治して、しっかり生活できるようにならないと…と、一人気合を入れる。
すると…
「大丈夫…?宮沢さん」
今日は見舞客が多い日のようだ。
花蓮ちゃんと相良先生が、病室のドアに立っていた。
「え?先生?なんで…。ここ、病院ですよ…」
「お見舞いに。
酒井くんから宮沢さんが入院したって聞いたから…迷惑だったかな」
「酒井くんからですか…。いえ、迷惑っていうか…ー」
先生は、外出禁止令が出ていたはず。
それは他でもない、花蓮ちゃんからのお願いだったのに。
どうして、花蓮ちゃんと先生がここに?
モノ言いたげな視線で見つめていた僕に、花蓮ちゃんはいつものクールな表情で「なに?」とかえす。
「いや、あの…。今日はどうしたのかな…って」
「お見舞い。
火事にあったんでしょう?いつもお世話になっているから…」
お見舞い。いや、僕が聞きたいのはそう言うことじゃなくて…!
花蓮ちゃんのクールな対応に、相良先生はくすりと笑むと、こっそり僕に耳打ちをする。
「花蓮ね、反省したんだって」
「反省?」
「そう。2人で久しぶりに話し合ったんだ。
僕のこの対人恐怖症について。
今まで2人だった時は、できるだけ触れないように、見ないようにしてきたけど…。
宮沢さんに、花蓮が怒った日。
僕も花蓮も腰を添えて、今まで抱えていたもの全部、花蓮に打ち明けたんだ。
僕ら親子は会話する時間が足りなかったのかもしれないね。色々話して…ありもしない恐怖に怯えるよりかは前向きに克服していこうってことになったんだよ」
「そうなんですか…」
どうやら、花蓮ちゃんお墨付きの外出許可らしい。
先生がこうして、また外に出られることになったのは嬉しい。
嬉しいんだけど…ー花蓮ちゃんは、本当にいいんだろうか。
あんなに反対していたのに…。
「それより、宮沢さん。酒井くんから聞いたけど、家、大丈夫?
モノとか全部焼けちゃったの?」
「…まぁ…。
大事なものは実家に預けていたので…PCくらいかなぁ」
焼けたものといえば、生活用品や趣味の本、それに…元彼との思い出の品くらいだろう。
流石に元彼との思い出を実家に送ることはできなくて、だけど捨てるには未練があり過ぎていて、ずっと捨てられずにいた。
ずっと、ずっと、側にあり置いていたもの。
僕の未練がましい、一部だったもの。
それらも燃えてしまった。
いらないと思っていたのに、いざなくなるとポッカリとなにかがなくなったような消失感があった。
なんだろう…この感情はーー。
いつか捨てなくてはと思っていたのに。
思い返せば知らずしらずのうちに、ホロリと涙が零れおちる。
それは後から後から、流れ落ちて…すぐに止まってはくれなくて。
「あれ…、おかしいな…。なんか…」
「宮沢さん…」
「すみません…。なんか、今更キてしまって…」
必至に溢れる涙を服の裾で拭っていると、そっと先生は僕の腕を掴んだ。
「…先生…?」
「僕の家に、くる?」
「先生の…?」
「燃えてしまったから、新しく住む場所が必要でしょ?」
「ですけど…、でも…」
そんな迷惑かけられない。
先生は…凄くお世話になっているけど、あくまで担当と作家なわけで。友達でもないのに、泊めてもらうことなんて…ーー。
「迷惑かけられませんから」
「迷惑なんて。
宮沢さんがいれば美味しいご飯が食べられるからね。家事をしてもらいたいから、家にきてもらう。ね、利害は一致してない?」
「でも、花蓮ちゃんが嫌がるんじゃ…」
年若い女の子の家に、家族でもない男がいるなんて嫌なんじゃないか。
思春期の女の子なら特に。しかし、僕の意を反し、花蓮ちゃんは
「別に、いいわよ。宮沢さんなら」となんでもないことのように言った。
「え…でも」
「大丈夫。宮沢さんに男を感じてないから…」
「あ、そう」
「それに…」
花蓮ちゃんは、言葉を止めて僕をじっと凝視する。
「…花蓮ちゃん?」
「あとで…ちょっと話したいことがあるの。宮沢さん、ここの病院、1Fは携帯できるのよね?
8時に携帯に電話をかけるから…その時間、1Fフロアにいてくれないかしら」
「話したいこと?」
なんだろう。今話すことはできないってことは、相良先生に聞かれたくないことなのかな。
疑問に思いながらも、僕は花蓮ちゃんに「わかった」とだけ告げた。
随分宮沢さんとは雰囲気が違ったタイプだったけど…知り合いなのかな?」
「僕の友達です」
「恋人じゃないんだ。つまんないのー」
「先生…!」
椎名先生の言葉を、夏目くんが咎めた。
満と僕を恋人と間違えるなんて、カミングアウトしてなくても椎名先生には僕がゲイだってバレてしまっているんだろうか。
わかる人からみたらバレバレなのか…。
冷や汗を流す僕に気づくことなく、椎名先生の尋問は続いた。
「恋人とかいるの?」
「いません…けど…」
「そっかそっかー!恋人いないのか!」
椎名先生は僕の返事に、いたずらっ子のように目を輝かせると
「じゃあ、退院したらそーじくんの家にご厄介になったらどうだろう?」と、とんでもない提案をしてくださった。
そーじくんの家…。
そーじくんってのは、夏目くんのことで…。
告げられた言葉を理解するのに、僕は数秒要してしまった。
「え…えっと?」
「だから、宮沢さん、家が燃えちゃったんでしょう?
んで、新しい家を探すのもお金がかかる。
しかも、火傷で手術もしちゃったし、入院でお金も消えちゃう」
「そうですが…」
「だからね、もうこの際、そーじくんのご厄介になったら、どうかな…っと。
ほら、そーじくん、独身だし!
家事も得意だから、火傷の宮沢さんを親身にサポートしてくれそうだし…!宮沢さんにはいつもお世話になっているみたいだしね」
先生は名案だ!と当人を置いて、一人話を進める。
独身だからって、夏目くんの家に転がり込むなんて…。
そりゃ、誰かの家にご厄介になれたらいいなぁ…とは思ったけど。
夏目くんの家にご厄介になんて、考えるだけで脳が沸騰する。
好きな人と一緒の家に住めたらそりゃ、毎日楽しいだろうけど。
でも今でさえこんなドキドキしているのに、ずっと一緒なんてこの気持ちを隠しておくなんてできない。
飲み会の後見る夢のように、夢と現実の堺がなくなってしまって、素面でも夏目くんに甘えてしまうかも。
あまつ、僕が暴走して襲いかかる可能性だってある。
それに、夏目くんの家は…ーー。
「…すみません…うちは…」
「うわぁ、そーじくんの薄情者ー。
宮沢さんが困っているってのに、断るの?
そーじくん。それでも男なのかい。
困っているときこそ助けるのが男ってもんだろ?」
責め立てる椎名先生を、夏目くんは、ジロリと恨めしげに睨みつけた。
先生は知らないんだろうか。夏目くんの家のこと。
「あの…そんな、お世話になるなんて。
それに、夏目くんの家、独身寮だから…。家に呼べないんですよ」
夏目くんが今住んでいるのは、会社が用意した独身寮なのだ。
寮に部外者は基本、連れ込めない規則になっている。
だから、夏目くんの家にご厄介になることは、例え独身でもできないのだ。
付け加えて、現在寮は満員らしいから、僕がご厄介になること無理なわけで。
「ああ。そうか。ほーんと、いつまで寮にいるんだか…。
そんなんじゃ、いざって時に連れ込めないから不便だって言っているんですけどね」
「いざって時?」
「だから、セック…」
先生が全てを言う前に、夏目くんの裏拳が先生の顔面に炸裂した。
「静かにしましょうね、椎名先生」
「はい…」
「あの、お気遣いありがとうございます。
とりあえず退院して、しばらくは、カプセルホテルにでも過ごそうかな…って思ってます。
どうせ、家に帰っても寝るだけですから…」
「そう?
あーあ。そーじくんが、寮なんかに入っているから。
肝心なときに頼りにならないんだからさぁ…。だから早く出ろって言ってんのに。
マイホームの為にお金貯めるって聞かなくてさ。ローン組んで買えばいいのに。
そんなん貯めてたら爺さんになっちゃうだろっていう…」
そういえば、夏目くんマイホームを持つのが夢だって言ってたっけ。
「そんな…頼りにならないなんて。
夏目くんは毎回お見舞いにきてくれるし、頼りになってます。
それに、これ以上頼りにしたら怒られますよ、恋人さんとか夏目くんの好きな人に。
何の関係もないのに、これ以上甘えてしまったらバチがあたってしまいます…」
「恋人さん…ねぇ…」
椎名先生は、何か言いたげに、夏目くんに視線を投げかけたのだが、夏目くんはかおを顰めたままなにも言わない。
椎名先生と夏目くん。
2人でいるところを直接見るのは、これで2回目だけど、隣り合って立っているとやっぱりお似合いだと思う。
やはり2人は恋人同士なのだろうか。
2人は僕に聞こえぬくらいの小声で顔を寄せ合って何か喋っている場面に、疑惑が確信に変わっていく。
椎名先生へのフレンドリーな夏目くんの態度も、恋人だと思えば納得できる。
「…椎名先生と夏目くんは…」
「ん?なに、宮沢さん」
「なんでも、ありません…」
臆病な僕は決定的な言葉を恐れ、口を噤んだ。
椎名先生と夏目くんは、それから小一時間ほどで帰っていった。
いつもは面会時間ギリギリまで残ってくれる夏目くんであったが、今日はソワソワした様子で足早に病室を後にした。
これから、先生と2人で何処かへいくんだろうか。
もしかして、またホテル街に2人で…ーー。
チクチクと痛む胸に、ダメなやつ…と自分を叱咤する。
告白する勇気もないくせに、勝手に妄想して、傷ついて…お前ってドM?なんて満に笑われそうだ。
しっかりしなくては!
まず怪我を早く治して、しっかり生活できるようにならないと…と、一人気合を入れる。
すると…
「大丈夫…?宮沢さん」
今日は見舞客が多い日のようだ。
花蓮ちゃんと相良先生が、病室のドアに立っていた。
「え?先生?なんで…。ここ、病院ですよ…」
「お見舞いに。
酒井くんから宮沢さんが入院したって聞いたから…迷惑だったかな」
「酒井くんからですか…。いえ、迷惑っていうか…ー」
先生は、外出禁止令が出ていたはず。
それは他でもない、花蓮ちゃんからのお願いだったのに。
どうして、花蓮ちゃんと先生がここに?
モノ言いたげな視線で見つめていた僕に、花蓮ちゃんはいつものクールな表情で「なに?」とかえす。
「いや、あの…。今日はどうしたのかな…って」
「お見舞い。
火事にあったんでしょう?いつもお世話になっているから…」
お見舞い。いや、僕が聞きたいのはそう言うことじゃなくて…!
花蓮ちゃんのクールな対応に、相良先生はくすりと笑むと、こっそり僕に耳打ちをする。
「花蓮ね、反省したんだって」
「反省?」
「そう。2人で久しぶりに話し合ったんだ。
僕のこの対人恐怖症について。
今まで2人だった時は、できるだけ触れないように、見ないようにしてきたけど…。
宮沢さんに、花蓮が怒った日。
僕も花蓮も腰を添えて、今まで抱えていたもの全部、花蓮に打ち明けたんだ。
僕ら親子は会話する時間が足りなかったのかもしれないね。色々話して…ありもしない恐怖に怯えるよりかは前向きに克服していこうってことになったんだよ」
「そうなんですか…」
どうやら、花蓮ちゃんお墨付きの外出許可らしい。
先生がこうして、また外に出られることになったのは嬉しい。
嬉しいんだけど…ー花蓮ちゃんは、本当にいいんだろうか。
あんなに反対していたのに…。
「それより、宮沢さん。酒井くんから聞いたけど、家、大丈夫?
モノとか全部焼けちゃったの?」
「…まぁ…。
大事なものは実家に預けていたので…PCくらいかなぁ」
焼けたものといえば、生活用品や趣味の本、それに…元彼との思い出の品くらいだろう。
流石に元彼との思い出を実家に送ることはできなくて、だけど捨てるには未練があり過ぎていて、ずっと捨てられずにいた。
ずっと、ずっと、側にあり置いていたもの。
僕の未練がましい、一部だったもの。
それらも燃えてしまった。
いらないと思っていたのに、いざなくなるとポッカリとなにかがなくなったような消失感があった。
なんだろう…この感情はーー。
いつか捨てなくてはと思っていたのに。
思い返せば知らずしらずのうちに、ホロリと涙が零れおちる。
それは後から後から、流れ落ちて…すぐに止まってはくれなくて。
「あれ…、おかしいな…。なんか…」
「宮沢さん…」
「すみません…。なんか、今更キてしまって…」
必至に溢れる涙を服の裾で拭っていると、そっと先生は僕の腕を掴んだ。
「…先生…?」
「僕の家に、くる?」
「先生の…?」
「燃えてしまったから、新しく住む場所が必要でしょ?」
「ですけど…、でも…」
そんな迷惑かけられない。
先生は…凄くお世話になっているけど、あくまで担当と作家なわけで。友達でもないのに、泊めてもらうことなんて…ーー。
「迷惑かけられませんから」
「迷惑なんて。
宮沢さんがいれば美味しいご飯が食べられるからね。家事をしてもらいたいから、家にきてもらう。ね、利害は一致してない?」
「でも、花蓮ちゃんが嫌がるんじゃ…」
年若い女の子の家に、家族でもない男がいるなんて嫌なんじゃないか。
思春期の女の子なら特に。しかし、僕の意を反し、花蓮ちゃんは
「別に、いいわよ。宮沢さんなら」となんでもないことのように言った。
「え…でも」
「大丈夫。宮沢さんに男を感じてないから…」
「あ、そう」
「それに…」
花蓮ちゃんは、言葉を止めて僕をじっと凝視する。
「…花蓮ちゃん?」
「あとで…ちょっと話したいことがあるの。宮沢さん、ここの病院、1Fは携帯できるのよね?
8時に携帯に電話をかけるから…その時間、1Fフロアにいてくれないかしら」
「話したいこと?」
なんだろう。今話すことはできないってことは、相良先生に聞かれたくないことなのかな。
疑問に思いながらも、僕は花蓮ちゃんに「わかった」とだけ告げた。
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