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4章
・・・・
しおりを挟む僕を好きになりたい…って、どういう意味だろう。
夏目くんも、先生も、どうして思わせぶりな台詞をかけてくれるんだろう。
これじゃあ、まるで…ーーー
『つかの間のモテ期ってやつじゃない?まぁ、楽しめよ』
満にラインで事を相談すると、案の定人を茶化したような文章が返ってきた。
『モテ期って…そんなんじゃ…』
『じゃあ、聞いてみたら。僕のことどう思ってるんですか?って。
それか手っ取り早くお前の方から告白しちまうとか…』
『あのねぇ…満。先生にはそんな恋愛感情なんて持てないし。それに夏目くんは…ーーー椎名先生が、いるんだよ』
文章を打つ手が一瞬、止まる。
夕日ちゃんから送られた夏目くんと椎名先生のラブホ街の写真。
椎名先生と夏目くんがそういう仲なら、なんで僕にキスしたんだろう?
どうして、僕と観覧車乗りたいなんて言ってくれたんだろう。
それに、メールで言っていた『相良先生のことで大事な話』って結局なんだったんだろう…?
先生が家から、飛び出した日。
夏目くんは、家から飛び出した先生の居場所をあてていた。
あれから、夏目くんが言っていた『淡い夜の夢』という作品を探してみたのだが、あいにく該当する作品は見つけられなかった。
一体、夏目くんはいつ、淡い夜の夢という作品を読んだんだろう。
それに、夏目くんに相良先生の写真を見せたとき。
夏目くんは相良先生の写真に、驚愕に目を見開いていた。
あの反応は、一体なんだったんだろう…。
「宮沢さん、お疲れ様です」
次の日。
夏目くんは、休憩室で休んでいた僕に声をかけた。
既に時間は19時を回っていて、幸いなことに休憩室には僕と夏目くんしかいなかった。
「あ、あの夏目くん。聞いてもいいかな。夏目くんのと椎名先生は…その」
担当であるまえに、恋人同士なの?
椎名先生と夏目くんのことを尋ねようとしたその時、
「そうじくーん!!」
「……」
「僕の、愛しのそうじくーん…!!」
夏目くんの名前を叫びながら、小走りでこちらに向かってかけてくる人。
その人は走り出した勢いで、夏目くんの背に思い切り抱きついた。
「あはは、そうじくん、捕まえちゃった」
語尾にハートがテンションで微笑むその人。
夏目くんはうすら笑いを浮かべながら、静かに背後の人に振りかえる。
「…椎名先生…」
抱きついてきたこの人こそ夏目くんの担当作家様であり、売れっ子・椎名先生である。
写真で見たときも思ったけど、実物は写真をも凌駕するくらい、ものすごい美形だった。
モデルさんですか?そう尋ねたくなるくらいユニセックスな不思議なオーラがある。
現れた椎名先生の美貌に見惚れていると
「ん…なにかな?僕の顔に何かついてる?」
僕の視線に気づいた椎名先生は、「誰?」と夏目くんに尋ねる。
椎名先生に何度も尋ねられ、夏目くんはしぶしぶ僕を紹介した。
「この人は…、宮沢さんです。
同じ部署の先輩の…。相良先生の担当です」
「ああ、君が!そうかそうかー!」
「あ、あの…」
「噂は色々とそうじくんから聞いてるよ!
こんな可愛い人だったなんてね。
地味だけど、なんか癒されるね!」
地味って。夏目くんのいとこさんに続けて、椎名先生まで!
確かに僕は地味ですけど!地味ですけどねぇ…!
「言っておきますが、宮沢さんに近づいたら、殺しますからね。センセイ」
ニッコリと夏目くんは、椎名先生に微笑む。
夏目くんの笑顔の下に、何かどす黒いものが見えたのは気の所為だろうか…。
「それにしても、何故、貴方がここに…」
「今日は、君たちの会社の編集長から呼ばれたんだよ。
今出している作品がありがたいことに、好調でシリーズを…って話が出てねぇ。
続きをお願いします、って頼まれたわけ」
「そうなんですか。それはおめでとうございます。」
「うん。ありがとう。
しかしだね、そーじくん。
僕は売れっ子作家なわけなの。
超多忙なわけ。
ここの出版社以外でも色々書いているし、ここだけを優先するわけにもいかないんだよ」
ふふん、と椎名先生は得意気に胸を張る。
相良先生とタイプは違うけど、椎名先生もなんだか子供っぽくてかわいいかも…なんて密かに思ってしまった僕に気づくことなく、2人の会話は続いていく。
「はぁ…。そうですか…」
「それでだね、返事を保留にしていたら、編集長に接待という名の飲み会に誘われてしまってだね…」
「へぇ…。
接待にご招待されたんですか。良かったじゃないですか。きっと奢りですよ。先生お金持ちの癖にケチだからいいんじゃないですか。思う存分接待されては?」
「うん。だから、今から飲みに行くんだけど…、その…そーじくんもついてきてくれないかなぁ…?その飲み会に」
椎名先生は、両手を合わせお願い!と可愛らしく夏目くんに懇願した。
先生の可愛らしいおねだりも夏目くんには効かないようで、夏目くんは爽やかスマイルで「嫌です」と即答する。
「なんで俺が…」
「なんで、って。僕とそーじくんの仲じゃないー!お願い。
編集長と二人きりなんて…無理!絶対に無理だから!!」
「はぁ…」
僕とそうじくんの仲…。
二人の仲睦まじい姿に、嫉妬にも似たドロドロしたものが胸に広がる。
こんな綺麗な人に嫉妬するなんて…、僕ってほんと、乙女というか。
諦めよう、って決めたばかりの癖に。
なんだか、いたたまれなくなって、椎名先生に一礼しその場から逃げ出そうとしたのだが…
「そんな連れないそーじくんなんて、もう知らない。
ねー、宮沢さん。僕と一緒に飲みに来てくれないかな?いいでしょ?」
先生は、ターゲットを変更し僕の腕をとるとしなだれかかった。
「僕ですか?」
「そう!宮沢さん可愛いから…、もっと一緒にいたいな?って…」
「えっと…」
「先生。宮沢さんを巻き込まないでください」
「巻き込んでないもん。いいじゃん。
飲み会は多いほうが楽しいし」
「…俺は楽しくないですけどね。
貴方といると厄介事が多くて」
「そーじくんが来てくれないなら、宮沢さんと3人でいくもんねー!
そんでもって、宮沢さんを酔わせて酔わせて、送り狼になってやるーー!」
「あの…」
送り狼?
ぎょっとする僕に椎名先生は、僕の首筋に手を滑らせる。
「大丈夫だよ、優しくしてあげるから…!」
「いえ、そういう問題では…」
「先生…、よっぽど、ひどい目に会いたいようですね…?」
「あは…あはは。まぁまぁ、そーじくん。心が狭い人間は嫌われてしまうよ。さ、宮沢さん。行こうか。下で編集長待っているし!」
「あ、ええ…」
椎名先生のペースに巻き込まれて、結局、僕は編集長と椎名先生の飲み会にお邪魔することになってしまった。
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