今宵、君と、月を

槇村焔

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4章

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「それで、なんで俺のスマホ勝手に覗いて勝手にメール送ったんです?
話によってはただではすみませんから」
「そりゃ、怖いな…」

怒っている夏目くんを前に従兄弟さんは、呑気に赤ワインを口にしている。
従兄弟さんには、敵わないと言っていた意味がわかる気がする。
夏目君とそっくりな従兄弟さんはゴウイングマイウエイをいく人のようで、とにかく俺様だった。


「大事な話があるって書いておきながら、先延ばしにするお前がいけないんだろ。だから俺が取り持ってやろうと…」
「タイミングがあるんだから、余計なことするな。
今は忙しいんだ」
「忙しい…ね。
ま、俺には関係ないことだし。今日の目的は果たせたし…」

従兄弟さんはそういうと、立ち上がり…

「急に悪かったな。宮沢さん。また機会があれば」
僕の口端に、口づけを落とした。


「…あ、あの…」
「おい…」
「呼び出したお詫びに、俺の代わりにフルコース食べていいから。勘定はやっておく」
従兄弟さんはそういうと、ヒラヒラと手を振りながら、立ち去っていった。

「嵐のような従兄弟さんですね…。って、夏目くん…」

夏目くんに声をかけてみたら、がっくりと椅子に項垂れていた。

「あの…大丈夫ですか…?」
「…大丈夫、です。
まさかあの人がこんなことするなんて思ってなくて…、ちょっと驚いてて…それに…」
「それに?」
「会わせたくなかったから…。宮沢さんにあの人を…。俺とあの人、そっくりでしょ?」

「そうだね…。
顔のパーツはそっくりだったかも。性格は違うみたいだけど」
夏目君の方が年下だからだいぶ、可愛い性格をしていると思う。
あの従兄弟さん相手だと僕なんかじゃいいようにあしらわれそうだ。


「宮沢さんから見て、あの人、どう思いました?」
「どうって…?」
「かっこいいな…とか」
「そりゃ、かっこいいと思いましたけど…。」
「ですよね…」

なつめくんは僕の返事に深く落ち込んだ。
従兄弟さんのこと、敵わないって言っていたし、夏目くんなりに気にしているのかな。

「あの、でも、夏目くんのほうがかっこいいと思いますよ?」

夏目くんの従兄弟さんは、確かに夏目くんよりも凄味があって芸能人みたいなオーラがある美形で、人目をひくのは従兄弟さんのほうかもしれない。
でも僕の中で不動の1番は夏目くんである。

僕が褒めると夏目くんは口元を緩めて、
「…ホントですか」と上目遣いで僕を見つめる。

「ほ、ほんとです…。あ、あのそれで話って…」
「ああ。相良先生のことでお話しようと思いまして。
先生のトラウマについて宮沢さん、詳しく知ってますか?」
「ええ…っと、あまり。
先生、あまり話したがらないから」
「そうですか。」

夏目くんの大事な話というのは相良先生のトラウマのことだったのか。
僕はてっきり…あのときのおまじないのキスのことかと思っていたのに…ーー。

あの時のキスの意味…

「夏目くんの家ではキスが挨拶だったりするんですか?」
「へ…?」
「違うんですか?」
「違いますけど?どうしてそんな…」
「さっき、従兄弟さんにもキスされましたし。
それに夏目くんも…この間おまじないを僕にしましたし」
「俺の家では挨拶でキスなんかしませんよ。キスするのは…俺が…」

 夏目くんの言葉の途中で、ウエイターさんがきて頼んでいたコース料理を持ってきてくれた。


「この話は、また今度でもいいですか?」
「今じゃ駄目なのかな?」
「すみません。俺ヘタレなんで…ほんと、すみません」
「う、うん…??」

しきりに謝る夏目くんに、それ以上聞くこともできず。
その日は、結局あの時のキスの意味も聞けぬままにお開きになってしまった。

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