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3話
・・・
しおりを挟む「んで、お前はそんなに落ち込んでいるわけ?
たかが、担当を外されたくらいじゃんか…、いいじゃん。
面倒なひとだったんだろ?」
落ち込み塞ぎこんだ僕に対して、満は励ましの言葉をかけながら、おつまみを差し出す。
満は落ち込んだ僕を励ますために、仕事終わりに食事に誘ってくれたのだ。
お酒が入った僕らの前には、焼き鳥や枝豆などが置かれている。
「でも…なんとかしてあげたかったんだ……」
「なんとかねぇ。それで、仕事クビになってちゃ世話ないけど…」
「クビじゃないって…。ミスが多くなってきたから、編集長が少し休めって言われて休んでいるだけ…」
先生の担当を外れミスが多くなってきた僕に、編集長が、気遣ってくれて、休みをくれた。
およそ、2週間。
有給も溜まっていたし、気分転換でも…と編集長はいってくれたけど…。
「とかいって、本当はクビ言い渡されるんじゃないかってビクビクしてるんだろ?2週間後にお前が担当していた作家さん、全て後輩くんに取られていて、お前の席はなくなってるんじゃないかって、ありもしない妄想してるんじゃないか?」
僕と付き合いが長い満は僕の考えなんてバレバレだった。
気分転換にと与えられた休日だけれど、全然気持ちは晴れず、悩んでばかりいる。
休みをくれたのも、役立たずな僕を切りたいから遠回しに仕事から離れさせているのかも…なんて、悪い妄想ばかりが広がっていった。
リフレッシュ休暇として与えられたのに、悩んでばかりで全然リフレッシュができていない。
「その先生っておまえが好きな男なの?」
「違うよ、先生にそんな感情はないし…。僕が好きなのは…」
「年下の爽やか系の男、だろ。
もうなんども聞いたから、知ってるし…。
いつもみたいに見ているだけで、告白しないのもね」
片思いなんて面倒なこと、よくやる…と、満はスマホを弄りながら零した。
「ねぇ、満はどうしたらトラウマって克服できると思う?」
「さぁ?いいんじゃない、別に無理に治さなくても…」
「でもいつまでも、トラウマにとらわれてちゃ前に進めないじゃないか」
「そりゃ、トラウマ克服できるに越したことはないけどさ。でも色々してダメだったんだろ?
なら、もう割り切るしかないんじゃないの?案外、その方が楽かもよ」
「割り切れたら苦労はしないよ…。
みんながみんな、満みたいな性格じゃないんだよ。
強いわけじゃないんだ。満みたいに…」
言った後に無神経な言葉だったかと満を見やれば、案の定満は不機嫌に顔を顰め
「俺だって好きでこんな性格してんじゃねぇよ…」と吐きすてる。
「ごめん…。怒った?」
「べつに…。
それより、さ。その先生のことよりお前だよ。お前のトラウマはどうなのさ。
人のトラウマ克服よりもさ、まず自分のことじゃないのか?」
「う、うん…。でも、別に、今僕のことは…」
「僕のことは…じゃないよ。
お前さ、まだ観覧車、乗れないんだろう?」
「……」
言い返すことができず、俯く。
脳裏に浮かぶのは、観覧車の思い出。
男同士で観覧車なんて恥ずかしい、そういった僕に彼は
『いいじゃん。俺お前となら恥ずかしくないぞ』
そう言ってくれて。
『また行こうか?今度はクリスマスにでも。綺麗なイルミネーションを見ながら、観覧車のてっぺんでキス、しようか。』
そんな言葉を信じていたわけではないけれど、彼と別れて以来、観覧車が乗れなくなった。
彼のことなんて、もう忘れたいと思っているのに。
過去を断ち切ろうと、満を連れて行ったり1人でいったこともあるけれど、何度試しても乗ることができなかった。
忘れたいと思っても、忘れることができていない。
先生の対人恐怖症と同じで、僕だって変わりたいと思っているのに、未だに過去を捨てきれていない。
彼は、もう僕のそばにはいないのに。
僕だけが、いつまでも時が止まったように過去から動けないでいる。
いつまでも成長できず、流れてしまった月日に取り残されている。
きっと、彼はもう僕のことなんて忘れてしまっているのに…。
「…自分のトラウマ治せてないのに、必死になって先生に治せますなんて言って…烏滸がましかったかな…。
自分だってずっと過去のことを囚われすぎて、人の顔色を伺ってしか動けなくなってしまったのに…」
「お前のトラウマの原因って初めての恋の相手だったんだろ。仕方ないんじゃないの。すぐに割り切れないの。
なんでもはじめての相手って特別じゃん。乙女思考なお前の場合は、初恋とかこじらせるタイプなんじゃないの?
場合によっちゃ、お前が担当してる先生のトラウマよりもお前のトラウマの方が根が深いかもな?
なにせ、一生恋を諦めます病にかかっているんだから」
一生恋を諦めます病…って。
満のネーミングセンスに苦笑いを浮かべる。
「だからさ、まずは先生より自分のトラウマを真剣に克服してみたら…。
自分が克服してから、それから先生のこと考えるべきじゃない?
仕事よりプライベートを優先させなきゃ。」
「でも…、僕は…」
「でも、じゃない。やれるの」
ずいっと満は僕に顔を近づけて、僕のダラダラ続きそうな言い訳を封じる。
「結局は、自分のトラウマって他人にどうこうされるわけじゃなく自分で克服するものだろ。
他人がどれだけ頑張っても、自分で立ち向かわなきゃ、いつまでも逃げることしかできなくなるし。
お前や周りは、先生を甘やかしているから、その先生だってそれに甘んじているのかもしれないぞ」
「甘やかし…?」
「そう。もっと、自分自身で考えさせてあげろよ。
立ち直ろうとしているんだから。
いい機会じゃん。
先生だってお前から離れて、しっかりしたいって言っているんだろ?
なら、それを悲しまないで、早く立ち直れますように…って明るく見守ってやれよ。
お前がトラウマ克服したら、先生だってお前に引きずられてトラウマ克服できるかもしれないし…」
「そんなもの?」
「案外そんなもん、だ。お前は暗く考えすぎなんだよ。まずは自分のことが最優先。人のことは次、だ」
叱咤激励のように背中をバンバン叩かれる。
「痛いよ、満」と小声で訴えると、満は「カツをいれてやったんだよ」とカラカラと笑った。
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