今宵、君と、月を

槇村焔

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1話

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 終電だから…と、帰ろうとする夏目くんを、お酒が入って図々しくなった僕は「泊まってもいいから、まだいて」と強請った。

「…いいんですか…」
「いいよ。ずっと一緒にいて?夏目くんと、ずっと一緒にいたい…」
「そんな風に男を誘惑して…どうなっても、知りませんからね?」
「ふへ?」

ニヤリ、と妖しく微笑む夏目くん。
その顔がいつもの爽やかな夏目くんと違って、ちょっとエロチックな妖しい笑みで。
僕は胸のドキドキを紛らわせるために、持っていた缶ビールを飲み干した。

それから、ひたすら飲んで…
12時も過ぎた頃になると僕の意識は朦朧としていて、呂律も回っていなかった。
自分の家だからって、羽目を外し過ぎたらしい。
視界がぐるぐる回り、足取りもふわふわしている。


「宮沢さん、ダメですよ。そんな、無防備じゃ…。
こうして、狼に襲われても、文句は言えないんですよ…?
こんな無防備なのは、俺だけにしてくださいね」

ぐったりと倒れ込んでしまった僕は、夏目くんに抱きかかえられていた。
夏目くんにぬいぐるにを抱くように、背後からすっぽり抱きかかえられている。
どうしてこうなった?なんて、そんなこと酔っ払った僕には冷静に考えることなどできなくて。

「なるめぐん…。えへへー」

大好きな夏目くんに抱きしめられていることが嬉しくって、抱きしめられている夏目くんの胸にすり寄った。
夏目君は着やせするタイプなのか、実際に触ると凄い筋肉がついている。
ふにょふにょした自分のカラダと違って、がっちりとした筋肉を触っているのが楽しくて、ふにふにと夏目君の腕やらおなかを触っていたら、

「ああ、もうほんと…。
ね、宮沢さん。こっち、むいて?」
「ん…あぅ…」

夏目くんの方へ顔を捻れば、夏目くんは僕の顎元を掬い、そのまま口付けた。

「ん…ぁ…んん」
「宮沢さん…」
「なる…め…ひゅ…んん…」

荒々しい口付けに、ぎゅっと夏目くんの服を握れば、夏目くんはクスッと微笑むと、
「可愛いことしないでください」と僕の頭を撫でた。


「宮沢さん…」
「んー?」
「宮沢さんって、ほんと、お酒弱いですよね。
初めての飲み会のときもそうでしたね。ベロベロによって…?を赤らめて…。
俺はあの時から、貴方に釘付けなんですよ。
俺以外とそんなに飲んじゃダメ、ですよ。
じゃないと、俺嫉妬でどうにかなっちゃいますから…」
「しっと?」
「そうですよ、宮沢さん…」
「んっ…」

夏目くんは、そっと僕のシャツに手を潜り込ませると肌を優しく撫でていく。
夏目くんの冷たい手が、火照った身体をなぞっていく。
なんだか、凄くきもちがいい。
夏目くんの愛撫に身を任せ、うっとりと目を閉じる。


「キモチイイ…」
「宮沢さん…。
きっと、初めての飲み会の時みたいに、俺がこうして悪戯しちゃってることも忘れちゃうんでしょうね。
それはそれで嬉しいような、悲しいような…。

ね、宮沢さん。これ、俺の従兄弟様の話なんですけどね」

夏目君は僕の頭を撫でながら、子守歌のように耳元で囁く。


「俺の従兄弟様、ほんと、完璧超人だったんです。
非の打ち所がないっていうのかな。何やってもいつもソツなくこなして、なんでもできる、すっごい人だったんだ。
俺は、ずっとあの人に憧れてあの人を目標にしていたんだけどね、
あの人、大事なところで取り返しのつかないヘマをしちゃったんだ」
「ヘマ?」
「そう。
とっても大事にしていた人を、すっごい傷つけてしまったんだって。
すぐに謝ろうとしたんだけど、あの人が駆けつけた時には大事にした人は、いなくなってしまったんだ。
それまで完璧だったあの人が、見る見る間に壊れていって…。
それを見ていたら、俺まで怖くなって…。
自分でもびっくりするほど、ヘタレになっちゃったんですよ。
変わってしまった従兄弟を見て…俺まで臆病になってしまったんです。
俺まで、従兄弟のように腑抜けになってしまったんです。
貴方が素面の時には、愛を告げられないほど、臆病な男になってしまった…。
あの人は、俺のトラウマなんです。ごめんなさい…」


ちゅっちゅ、と僕の首筋に痕を残すと、夏目くんは僕の耳元で「好きです」と囁いた。

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