切なさよりも愛情を

槇村焔

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切ないってこういうこと

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別れ際、小牧は香月が眠る墓の場所と、うさこさんについて教えてくれた。
香月が眠っているのは、ここからそう遠くない霊園らしい。
香月は、中川の家ではなく、利弥の母親と父親が眠る墓に一緒に眠っているようだった。

うさこさんは、クリスマスに小牧が利弥にプレゼントしたもので、利弥にとって物心ついてからのクリスマスプレゼントは、そのぬいぐるみだけらしい。
小牧曰く、うさこさんは香月がなくなってから、ずっと香月の代わりだと思い、大事にしていたんだそうだ。
香月の遺品はすべて利弥の実家に送ってあるのだが、うさこさんだけは思い出が強すぎるので、家に置いているようだった。

去り際に、クリーニングされたうさこさんと、興信所で調べたという書類を小牧は菜月に手渡した。
書類は、A4の封筒に入れられており、かなり分厚かった。
よくこんなに調べられたものだ…と感心していえば、小牧は胸をはり「友達のツテだよ」と得意げにいった。


家に帰り、うさこさんをソファー定位置に置いた。ただのぬいぐるみだと思っていたのに、うさこさんが定位置に収まると、あるべきものが戻ってきたようで安堵する。


「おかえり、うさこさん」

ぬいぐるみに声をかけて、着ていたコートをハンガーにかけ部屋着に着替える。
リラックスした状態でソファーに座り、小牧から貰った興信所の封書をあけ書類を取り出した。
てっきり書類だけだと思っていたのに、中に入っていたのは書類だけではなかったらしい。
書類を取り出した拍子に、ヒラリ、と数枚の写真が地面に散らばってしまった。
急いで拾い上げようと床に散らばった写真を掻き集めようと手を伸ばす。

(写真?これって…)
写真に写っているのは、香月。
当たり前だ。香月の調書なのだから。
だけど、香月だけの写真じゃなく、香月が利弥と写っている写真や小牧と写っている写真が混ざっていた。
それだけじゃない。

(お、俺…)
幼い菜月と香月が写った写真まであった。

「どうして、俺と写った写真が?それに、これ…。」
菜月と写っているものは枚数としては少なく5枚しかなかった。
しかし、その5枚のなかにたった1枚だけ菜月の記憶とは相反した写真があった。

 飾り付けられた部屋に、ケーキを前に微笑む香月と菜月の姿。
写真はピントがあっていない。自撮り写真のようで、香月の伸ばした腕が写り込んでいた。
ケーキはただのケーキではなく、クリスマスケーキのようで砂糖菓子のサンタとトナカイがショートケーキの上に乗っていた。
写真の中の香月と菜月は笑いあっていて、その表情に憎しみや悲しみなど負の感情はない。
写真に写る2人は本当に仲が良さそうなのだ。
本当の、兄弟のように。


「どういう…。
だ、だって、俺、クリスマスはかっちゃんとは過ごしてないはずなのに…。
クリスマスは会えなかったんだ。
なんで、こんな写真が…。こんな…」

なにか、自分は間違えているのか?
自分は記憶を取り違えている?

置き間違えたパズルのように、自分はなにかを勘違いしているのか?誤ったつなぎ合わせをしてしまっている?
なにを、間違えている?
なにが、違う?

菜月はしばらくの間、考えを張り巡らせていた。
そして突然、自室へと走り出したかと思うと机に広げられたパズルを手にした。
菜月は無心で、パズルを組み立てていく。
なかなかあうことのなかったピースが、どんどん埋まっていく。
頭が異様にさえているようだった。
神経が研ぎ澄まされて、まるで取りつかれたように菜月はパズルを埋めていった。
そして…。

「完成、した…」
あと数日はかかると思われていたパズルは完成した。
リンドウのパズル。
花言葉は、悲しんでいるときのあなたが好き。
それから、貴方の悲しみに寄り添う


「そうだ…、俺は間違えていたんだ。
大事なことを、忘れていたんだ」

菜月は瞼を閉じ、思い返す。

あの日の…
12月26日。
クリスマスの翌日、香月との間にあった出来事を
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