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好きだった、昨日までは
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情事後。
真夜中。
辺りは無音である。
静かすぎて、まるで音がなくなったかのようだ。
どうやらまた、利弥に抱かれた最中に菜月は気を失っていたらしい。
利弥の攻めは激しすぎて、負担が大きい。
利弥自身も、いつもお酒を飲んでから行為に及ぶので、疲労はあるはずなのだが、けしてこの意味のない行為をやめようとはしなかった。
(また新しい…パジャマ着せられてる)
利弥はいつも後処理をきちんとしてくれる。
中に注がれたものはもちろん、汗なども拭いてくれ、毎回綺麗なパジャマを着せられていた。
後処理はしっかりやってくれるおかげで、菜月は利弥に抱かれてもお腹を壊したりした事はなかった。
(嫌いなら、こんなやさしさやめてほしい。
とことん突き放してくれたら、嫌いになれたかもしれないのに。未だにご飯も用意してるし…、抱かれるのは確かに激しいけど、でもソレ以外は何もしてこないんだよな。まるで利弥さんのほうが俺の存在を持て余しているみたいな…)
酷いことをされているのに、些細な優しさで菜月の心は揺れてしまう。
嫌いになりきれたら、こんな風にやさしさのひとつで心なんか揺れないはずなのに。
(利弥さん…)
「ごほっ、ごほ…ごほ」
数回、菜月は激しくせき込んだ。
ここのところ、寒いのに連夜で抱き合ったせいで、風邪をひいてしまったかもしれない。
一度むせてしまったせきはなかなか止まることはなかった。
利弥も風邪をうつすことのないように…と、菜月は隣に眠る利弥にはだけてしまった毛布をかけなおす。
利弥の部屋のベッドはキングサイズのベッドなので、男二人でも隅に余裕がある。
情事の時はあんなに近かった二人の身体も、今はだいぶ離れていた。
まるで心の距離のようだ。
そ…っと、利弥の背に両手で触れ、顔を寄せる。
利弥が起きている時などは、菜月が自分から利弥に触れない。
なにも知らなかったときはべたべたと触ることができたけれど、今は素面のときは、拒絶が怖くて触れることができなくなってしまった。
好きだけれど。
側にいたいけれど。
甘えたいけれど。
利弥は菜月を恨んでいるようだから。
だから、こうして利弥が寝ている間しか菜月は彼に触れることができない。
利弥が寝ている時にしか、菜月からは触れられないのだ。
(せつないって…こういうこと…なのかな…)
初めて、すきになった人。
初めて、温もりをくれた人。
でも…憎まれていた人。
(切ないって言葉は、悲しさや恋しさで、胸がしめつけられるような気持ち…。今の俺みたいな状態なのかな。触れられなくて、悲しい。それでも愛しくて、憎しみをぶつけられるたびに、胸が締め付けられる…。苦しい…)
『ねぇ菜月くん。
優しい人はいっぱいいるんだよ。
利弥にこだわる必要ないじゃないか』
小牧はそう、言っていた。
なにも、利弥だけに執着する必要はないと。
自分を傷つけるだけの相手と、これ以上そばに至ってなんの利益もうまない。ただ、傷つくだけ。
それでもいいのか?
傷は浅いうちのほうがなおる。
あとになればなるほど、取り返しのつかないことになるんだぞ、っと。
(優しい人と付き合えたら、凄く毎日楽しいのかな…。
俺は辞めろって言われて意地になってる?
もし普通の女の人と穏やかな恋をすることができたら、それは幸せなのかな)
何度か普通の恋愛というものを考えてみる。
だが、最終的には利弥の存在が浮かびあたってしまう。
さみし気に笑う彼の顔が頭から離れず、一人泣かせたくないと思ってしまう。
菜月を苛み復讐に燃える利弥ではなく、あの一人孤独に迷う利弥こそ本物の彼だと信じてしまっている。確証など、どこにもないのに。
「利弥さん。
好きです。俺、あなたが」
寝ているときだからこそ、何度もいえる愛の言葉。
起きているときの利弥は、菜月の愛の言葉すら、患わしげに口で塞いでしまうから。
寝ているときにしか、言えないのだ。
愛の言葉、すらも。
「ねぇ、利弥さん。利弥さんはかっちゃんを愛していたんだよね。
かっちゃんは利弥さんを愛していたのかな?どうして、かっちゃんは俺に復讐なんてしようとしていたんだろう?
利弥さんは母親を玩具にされた。だけど、かっちゃんは?
かっちゃんは、なんで…俺を恨んでいたんだろうね。利弥さんとかっちゃんって、どんな仲だったんだろう?」
どんな思いで、香月は菜月のそばにいたのだろう。
利弥と同じで、自分を懐かせて、突き放そうとしたのか。
であれば、何故、自分を守るように助けて死んでしまったのだろう。
「あの時、かっちゃんが俺の身代わりにならなければ利弥さんは幸せになれた?
俺はかっちゃんを奪って…利弥さんの幸せを奪っちゃったのかな」
「うぅ…」
突然、利弥は苦し気なうめき声をあげた。
「利弥さん…?」
首を掻きむしり、苦しげに肩を上下している。
発作だろうか。
「利弥さん、大丈夫…?利弥さん…、ねぇ…大丈…」
利弥の身体をゆっくり揺らす。
(凄い…汗)
利弥の顔には大粒の汗が浮かび上がっていた。
近くの棚からタオルを持ってきて、菜月は利弥の大量の汗を拭ぐった。
汗は拭っても拭っても、次から次へと流れ、比例するように体は冷たくなっていく。
「母さん……。母さ…」
「利弥さん」
利弥、たまに言うんだ。
時々、家族の顔を夢で見てしまう、って…。
家族が夢に出て、幸せになるな…って言うんだって。
小牧の言葉が頭を過ぎった。
菜月が悪夢を見ていたように、利弥もこうして悪夢を見ていたのだろうか。
1人で、憎しみに心を縛られながら。
「利弥さん」
小刻みに震える利弥の手を握る。
菜月が悪夢で魘されていたとき、いつもこうして、利弥は手を握ってくれた。
「大丈夫だよ…なにも怖くない。もう怖くないんだ。
もう、大丈夫だよ。なにも怖くないから」
利弥の背を摩りながら、優しく話し掛ける。
そんな菜月の声をきいて、利弥はそっと閉じていた瞳を開いた。
不安に揺れる、利弥の視線。
菜月と視線があったとき、利弥は安堵したように視線を和らげて、
「香月…か…」
香月の名前を口にした。
「香月…戻って…きたのか…」
「え…」
「香月…」
利弥は香月の名前を口にし、力無く菜月に笑いかける。
普段は見せない優しげなその表情にチクン、と胸が疼いた。
(…かっちゃんにはこんな優しい表情を、するんだ…)
真相を知る前は優しい顔をされたこともあった。
でもこんな風に安堵した、優しい表情じゃなかった。
優しさを感じた真相を知る前の利弥も、香月への愛には遠く及ばなかった。
「香月…」
「…うん…」
「香月…」
香月と口にしながら、菜月を抱きしめる利弥。
フワリ…と微かに利弥のコロンが香る。
(利弥さんとであったのは、かっちゃんが合わせてくれたんだって思ったけど、本当にそうだったんだね。かっちゃんと、利弥さんの匂いはそっくりだ。泣きたくなるくらい、好きな匂いなんだ)
「香月」
好きな人に抱きしめられているのに…どこか遠い。
きつく抱きしめられる度に、泣いてしまいそうになる。
どれだけ抱いても、そこに彼の瞳に自分は映らないのだから。
「…利弥さん…」
「もう…いなくなるな。
俺を一人にしないでくれ…。俺はお前がいないと孤独だ。俺は何もできない。何も誇るべきものもない。空っぽな人間なんだ。だから…ーー」
抱きしめている腕の力が強くなった。
まるで…菜月を腕から逃がさないような束縛だった。
「香月…」
「うん」
「俺の側にいてくれ…。俺を一人にしないでくれ…」
「…っ」
ずっと、一緒に、いる。
頼まれなくても一緒にいたいのに。
利弥が望んでいるのは、菜月ではなく、香月なのだ。
自分にいてほしいわけではない。
「香月…?」
「…」
自分は、香月ではない。
だから、ずっとはいられない。
菜月が利弥の言葉に黙っていると、利弥は悲しげな表情を浮かべる。
「駄目なのか?
またお前はどこか行ってしまうのか」
「大丈夫…だよ。…ずっと、一緒にいる…ずっと、一緒だよ」
香月ではないのに…菜月はそう答えていた。
「俺も…一緒にいたい…から。利弥さんが好き、だから…さ…」
利弥の手を取り、指までからませて、唇をよせる。
触れるだけの、柔らかな口づけ。
誓いの儀式のように、利弥の手を握ったまま
「春の日も夏の日も冬の日も、ずっと一緒にいるよ。
クリスマスも、バレンタインも、ずっと。
利弥さんを、悲しい気持ちにはさせない。
俺達は多分、今までずっと悲しい思いをしてきたからさ。だから、今度は今まで苦しかった分二人で笑って過ごそう」
菜月は、利弥に笑いかけた。
「香月」
「だから泣かないで、俺はここにいるから。
利弥さんの側にいるから…俺は…ずっとあなたが好きだから」
側にいたい。
自分でいいならずっと。
自分ならば、ずっと利弥の傍にいてあげる。
飽きるほどに。
「…んっ…」
利弥は菜月の顎を取り、口にキスをした。
上唇を舐められ、何度も角度を変えてキスを送る。
菜月の…香月の存在を確かめるかのように。
荒々しくも、優しいキス。
菜月は夢中でそれに答えた。
流れる涙を、見ないふりして。
翌日、だん、となにかを叩きつけるような大きな音がして、菜月はベッドから飛び起きた。
「ん…なに…?」
突然の物音に驚く菜月に対し、ベッドのそばにいた利弥は、はっと息をのんだ。
「…なつき…」
「利弥さん、どうしたの…?」
「……」
菜月の問いかけに利弥が答えることはなく、利弥は部屋のドアを乱暴に音をたてて開き、そのまま部屋を出て行った。
真夜中。
辺りは無音である。
静かすぎて、まるで音がなくなったかのようだ。
どうやらまた、利弥に抱かれた最中に菜月は気を失っていたらしい。
利弥の攻めは激しすぎて、負担が大きい。
利弥自身も、いつもお酒を飲んでから行為に及ぶので、疲労はあるはずなのだが、けしてこの意味のない行為をやめようとはしなかった。
(また新しい…パジャマ着せられてる)
利弥はいつも後処理をきちんとしてくれる。
中に注がれたものはもちろん、汗なども拭いてくれ、毎回綺麗なパジャマを着せられていた。
後処理はしっかりやってくれるおかげで、菜月は利弥に抱かれてもお腹を壊したりした事はなかった。
(嫌いなら、こんなやさしさやめてほしい。
とことん突き放してくれたら、嫌いになれたかもしれないのに。未だにご飯も用意してるし…、抱かれるのは確かに激しいけど、でもソレ以外は何もしてこないんだよな。まるで利弥さんのほうが俺の存在を持て余しているみたいな…)
酷いことをされているのに、些細な優しさで菜月の心は揺れてしまう。
嫌いになりきれたら、こんな風にやさしさのひとつで心なんか揺れないはずなのに。
(利弥さん…)
「ごほっ、ごほ…ごほ」
数回、菜月は激しくせき込んだ。
ここのところ、寒いのに連夜で抱き合ったせいで、風邪をひいてしまったかもしれない。
一度むせてしまったせきはなかなか止まることはなかった。
利弥も風邪をうつすことのないように…と、菜月は隣に眠る利弥にはだけてしまった毛布をかけなおす。
利弥の部屋のベッドはキングサイズのベッドなので、男二人でも隅に余裕がある。
情事の時はあんなに近かった二人の身体も、今はだいぶ離れていた。
まるで心の距離のようだ。
そ…っと、利弥の背に両手で触れ、顔を寄せる。
利弥が起きている時などは、菜月が自分から利弥に触れない。
なにも知らなかったときはべたべたと触ることができたけれど、今は素面のときは、拒絶が怖くて触れることができなくなってしまった。
好きだけれど。
側にいたいけれど。
甘えたいけれど。
利弥は菜月を恨んでいるようだから。
だから、こうして利弥が寝ている間しか菜月は彼に触れることができない。
利弥が寝ている時にしか、菜月からは触れられないのだ。
(せつないって…こういうこと…なのかな…)
初めて、すきになった人。
初めて、温もりをくれた人。
でも…憎まれていた人。
(切ないって言葉は、悲しさや恋しさで、胸がしめつけられるような気持ち…。今の俺みたいな状態なのかな。触れられなくて、悲しい。それでも愛しくて、憎しみをぶつけられるたびに、胸が締め付けられる…。苦しい…)
『ねぇ菜月くん。
優しい人はいっぱいいるんだよ。
利弥にこだわる必要ないじゃないか』
小牧はそう、言っていた。
なにも、利弥だけに執着する必要はないと。
自分を傷つけるだけの相手と、これ以上そばに至ってなんの利益もうまない。ただ、傷つくだけ。
それでもいいのか?
傷は浅いうちのほうがなおる。
あとになればなるほど、取り返しのつかないことになるんだぞ、っと。
(優しい人と付き合えたら、凄く毎日楽しいのかな…。
俺は辞めろって言われて意地になってる?
もし普通の女の人と穏やかな恋をすることができたら、それは幸せなのかな)
何度か普通の恋愛というものを考えてみる。
だが、最終的には利弥の存在が浮かびあたってしまう。
さみし気に笑う彼の顔が頭から離れず、一人泣かせたくないと思ってしまう。
菜月を苛み復讐に燃える利弥ではなく、あの一人孤独に迷う利弥こそ本物の彼だと信じてしまっている。確証など、どこにもないのに。
「利弥さん。
好きです。俺、あなたが」
寝ているときだからこそ、何度もいえる愛の言葉。
起きているときの利弥は、菜月の愛の言葉すら、患わしげに口で塞いでしまうから。
寝ているときにしか、言えないのだ。
愛の言葉、すらも。
「ねぇ、利弥さん。利弥さんはかっちゃんを愛していたんだよね。
かっちゃんは利弥さんを愛していたのかな?どうして、かっちゃんは俺に復讐なんてしようとしていたんだろう?
利弥さんは母親を玩具にされた。だけど、かっちゃんは?
かっちゃんは、なんで…俺を恨んでいたんだろうね。利弥さんとかっちゃんって、どんな仲だったんだろう?」
どんな思いで、香月は菜月のそばにいたのだろう。
利弥と同じで、自分を懐かせて、突き放そうとしたのか。
であれば、何故、自分を守るように助けて死んでしまったのだろう。
「あの時、かっちゃんが俺の身代わりにならなければ利弥さんは幸せになれた?
俺はかっちゃんを奪って…利弥さんの幸せを奪っちゃったのかな」
「うぅ…」
突然、利弥は苦し気なうめき声をあげた。
「利弥さん…?」
首を掻きむしり、苦しげに肩を上下している。
発作だろうか。
「利弥さん、大丈夫…?利弥さん…、ねぇ…大丈…」
利弥の身体をゆっくり揺らす。
(凄い…汗)
利弥の顔には大粒の汗が浮かび上がっていた。
近くの棚からタオルを持ってきて、菜月は利弥の大量の汗を拭ぐった。
汗は拭っても拭っても、次から次へと流れ、比例するように体は冷たくなっていく。
「母さん……。母さ…」
「利弥さん」
利弥、たまに言うんだ。
時々、家族の顔を夢で見てしまう、って…。
家族が夢に出て、幸せになるな…って言うんだって。
小牧の言葉が頭を過ぎった。
菜月が悪夢を見ていたように、利弥もこうして悪夢を見ていたのだろうか。
1人で、憎しみに心を縛られながら。
「利弥さん」
小刻みに震える利弥の手を握る。
菜月が悪夢で魘されていたとき、いつもこうして、利弥は手を握ってくれた。
「大丈夫だよ…なにも怖くない。もう怖くないんだ。
もう、大丈夫だよ。なにも怖くないから」
利弥の背を摩りながら、優しく話し掛ける。
そんな菜月の声をきいて、利弥はそっと閉じていた瞳を開いた。
不安に揺れる、利弥の視線。
菜月と視線があったとき、利弥は安堵したように視線を和らげて、
「香月…か…」
香月の名前を口にした。
「香月…戻って…きたのか…」
「え…」
「香月…」
利弥は香月の名前を口にし、力無く菜月に笑いかける。
普段は見せない優しげなその表情にチクン、と胸が疼いた。
(…かっちゃんにはこんな優しい表情を、するんだ…)
真相を知る前は優しい顔をされたこともあった。
でもこんな風に安堵した、優しい表情じゃなかった。
優しさを感じた真相を知る前の利弥も、香月への愛には遠く及ばなかった。
「香月…」
「…うん…」
「香月…」
香月と口にしながら、菜月を抱きしめる利弥。
フワリ…と微かに利弥のコロンが香る。
(利弥さんとであったのは、かっちゃんが合わせてくれたんだって思ったけど、本当にそうだったんだね。かっちゃんと、利弥さんの匂いはそっくりだ。泣きたくなるくらい、好きな匂いなんだ)
「香月」
好きな人に抱きしめられているのに…どこか遠い。
きつく抱きしめられる度に、泣いてしまいそうになる。
どれだけ抱いても、そこに彼の瞳に自分は映らないのだから。
「…利弥さん…」
「もう…いなくなるな。
俺を一人にしないでくれ…。俺はお前がいないと孤独だ。俺は何もできない。何も誇るべきものもない。空っぽな人間なんだ。だから…ーー」
抱きしめている腕の力が強くなった。
まるで…菜月を腕から逃がさないような束縛だった。
「香月…」
「うん」
「俺の側にいてくれ…。俺を一人にしないでくれ…」
「…っ」
ずっと、一緒に、いる。
頼まれなくても一緒にいたいのに。
利弥が望んでいるのは、菜月ではなく、香月なのだ。
自分にいてほしいわけではない。
「香月…?」
「…」
自分は、香月ではない。
だから、ずっとはいられない。
菜月が利弥の言葉に黙っていると、利弥は悲しげな表情を浮かべる。
「駄目なのか?
またお前はどこか行ってしまうのか」
「大丈夫…だよ。…ずっと、一緒にいる…ずっと、一緒だよ」
香月ではないのに…菜月はそう答えていた。
「俺も…一緒にいたい…から。利弥さんが好き、だから…さ…」
利弥の手を取り、指までからませて、唇をよせる。
触れるだけの、柔らかな口づけ。
誓いの儀式のように、利弥の手を握ったまま
「春の日も夏の日も冬の日も、ずっと一緒にいるよ。
クリスマスも、バレンタインも、ずっと。
利弥さんを、悲しい気持ちにはさせない。
俺達は多分、今までずっと悲しい思いをしてきたからさ。だから、今度は今まで苦しかった分二人で笑って過ごそう」
菜月は、利弥に笑いかけた。
「香月」
「だから泣かないで、俺はここにいるから。
利弥さんの側にいるから…俺は…ずっとあなたが好きだから」
側にいたい。
自分でいいならずっと。
自分ならば、ずっと利弥の傍にいてあげる。
飽きるほどに。
「…んっ…」
利弥は菜月の顎を取り、口にキスをした。
上唇を舐められ、何度も角度を変えてキスを送る。
菜月の…香月の存在を確かめるかのように。
荒々しくも、優しいキス。
菜月は夢中でそれに答えた。
流れる涙を、見ないふりして。
翌日、だん、となにかを叩きつけるような大きな音がして、菜月はベッドから飛び起きた。
「ん…なに…?」
突然の物音に驚く菜月に対し、ベッドのそばにいた利弥は、はっと息をのんだ。
「…なつき…」
「利弥さん、どうしたの…?」
「……」
菜月の問いかけに利弥が答えることはなく、利弥は部屋のドアを乱暴に音をたてて開き、そのまま部屋を出て行った。
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