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縛り付けるのは血縁の鎖
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「うーん、これでいいのかな?ってか間違えている気もするんだよな。こっちのほうがあいそうな…いやいや、やっぱりこっち…?ああ、もう、イライラするー!どれもおなじに見えてきた」
パズルにあたってみたところで、ヒントなど出てくるはずもない。
いっそ、バラバラにしてみたらすっきりするのかなぁ…などと、元も子もないことを考え始めたりする有様である。
これでは完成するはずもない。
「これ、本当に完成するのかな…」
ちょっと息抜きをしよう…と、菜月が身体を伸ばしたところで、ピンポンとタイミングよくインターフォンがなった。
警戒心なく扉を開くと、玄関先には、小牧が立っていた。
こうやってあうのは、クリスマスの翌日以来である。
「小牧さん…」
「お久しぶりだねー…。
ってなに、ちょっと警戒してる?」
前回パズルを壊したことを小牧は覚えていないんだろうか?
そう疑問に思うほど小牧の口調は明るく、後ろめたさを感じさせない。
ニコニコと笑っているその姿は、パズルを壊してイラついていた小牧と同一人物だと思えない。
なにもしていないはずの菜月の方が、居心地の悪さを感じた。
「あの…俺、利弥さんの恋人になったんです。
だから、これ以上、俺たちの間柄に口を挟まないでくれませんか?」
「恋人に…?ふぅん…」
小牧は菜月の言葉に、驚いた様子はない。
「それは良かったね」
「あ…はい」
思いもよらない返事に菜月が気を緩めた隙に、小牧はズカズカと部屋に入り込んだ。菜月がとめるのも聞かず、リビングへと歩いていく。
「小牧さん!あの…!勝手にはいらないでください」
「はいはい。おじゃましますー入るねー…っと。
このぬいぐるみ、まだあるのね…」
リビングのソファに長い脚を投げ出して座りこんだ小牧は、傍らのソファの主・うさこさんを手に取った。
かわいらしいうさぎのぬいぐるみを、小牧は白けた視線で見つめている。
「それ、利弥さんのですから、触って汚しでもしたら怒られますよ」
菜月が注意すれば、小牧は「知っているよ」と、ぽいっとぬいぐるみを床に投げ捨てた。
「ちょっと…!」
「君はいま、大好きな利弥と恋人になれて、幸せいっぱいなんだろうね?
気分は春?」
「だったらなんなんです?あなたに関係ないでしょう?」
「関係は…ないけどね。いったでしょ?君みたいななにも知らない子供、見ているとイライラする…ってさ。
俺、“イイヒト”だからさ…、こうして、忠告してんだよ?」
悪い大人と付き合うのは、お子様には荷が重いよってね。
小牧は睨みつける菜月に、にっこりと含んだ笑みを浮かべる。
利弥も、小牧も自分を子供扱いするが、そこまで自分は無知な子供なのだろうか。
子供子供って、そんなに年齢が違うことが悪いことだろうか。
たかが10違うだけだ。
「子供って…。俺、そんな子供じゃないです」
「子供だよ。
夢だけしか見てない、綺麗な部分しかみようとしない子供。
おとぎ話のように、綺麗にすべての物語が終わると思っている、夢見がちな子供だろ?
そうだね、そんな子供の君に俺が魔法の言葉、教えてあげようか…。
そうすれば、君の偽りの毎日なんて、あっさり崩れると思うよ?
君の今の日々なんて、儚い蜃気楼みたいなものなんだからさ」
「魔法の言葉…?」
「そう」
小牧の瞳が、不思議の国のアリスにでてくる茶シャ猫のように妖しく煌めいた。
小牧はソファから起き上がると
「俺、貴方のこと、全部教えて貰いました。
あなたの本当をすべてを…って」
菜月の耳元で、静かに囁く。
「魔法の…?」
「そう。君が今の現状を変えたいなら言ってみるといいよ。
といっても、今のままを維持したかったら言わない方がいいと思うけどね。
魔法の言葉をいうかは、君次第ってことで…。
ああ、このぬいぐるみ、ちょっと借りるよ」
床に投げ捨てられたうさぎのぬいぐるみを拾い上げると、小牧はそのまま玄関にむかった。
「ちょっと…」
「大丈夫。クリーニングして返すからさ。
パズルみたいにバラバラにはしないって…。このうさちゃん、あいつが大事にしてるの知っているから。
俺もあいつを怒らせるの、怖いからね」
小牧はぬいぐるみを片手に、そのまま扉の向こうに消えた。
魔法の言葉ってなんだろう?
小牧に教えられた言葉を言ったら、本当に自分たちの関係は変わるのだろうか?
たった一言で?
この関係が揺らぐ?
12時過ぎて魔法がとけたシンデレラみたいに、ガラリと関係は変わってしまうんだろうか。
(そんな馬鹿な…。
魔法の言葉なんて…そんなのあるわけないよ。
そんな一瞬で現状が変わる言葉なんて。
‘全部教えてもらいました’この言葉になんの意味がある?
その言葉をいったら変わるって…、今の俺は利弥さんの全部を知らないっていうんだ…?)
否定したい気持ちと、だけど本当に変わってしまうかもしれない言いしれぬ不安が、じわりじわりと、シミのように大きく広がっていく。じわじわと、心を蝕んでいく。
言葉一つで変わるはずがない。
20歳になったら、お試しじゃなくて本当の恋人同士になるのだから、不安に思うことなんてない。
そう信じていたいのに、利弥が時々見せる突き放した態度が、菜月を疑心暗鬼にさせる。
彼を好きな分だけ、より彼を信じられない自分がいる。
やめようか?
そう簡単に関係を断ち切れるほど、利弥にとって自分はそれほど価値のない人間だから。
言葉一つで変わらない可能性がないとも言い切れない。
信じたい。だけど、信じられない。
否定したい。だけど、否定するほど自信がない。
優しくしてくれているが、愛されている自信などないのだ。
頭を撫でて貰って、心配してもらって、隣にいてくれて。
好きだと思う気持ちは強くなっていくのだけれど、与えられる日々が怖くて何も言い出せない。
利弥のお陰で自分は少し変われたと思ったのに、自信がないところは変えられていない。
パズルにあたってみたところで、ヒントなど出てくるはずもない。
いっそ、バラバラにしてみたらすっきりするのかなぁ…などと、元も子もないことを考え始めたりする有様である。
これでは完成するはずもない。
「これ、本当に完成するのかな…」
ちょっと息抜きをしよう…と、菜月が身体を伸ばしたところで、ピンポンとタイミングよくインターフォンがなった。
警戒心なく扉を開くと、玄関先には、小牧が立っていた。
こうやってあうのは、クリスマスの翌日以来である。
「小牧さん…」
「お久しぶりだねー…。
ってなに、ちょっと警戒してる?」
前回パズルを壊したことを小牧は覚えていないんだろうか?
そう疑問に思うほど小牧の口調は明るく、後ろめたさを感じさせない。
ニコニコと笑っているその姿は、パズルを壊してイラついていた小牧と同一人物だと思えない。
なにもしていないはずの菜月の方が、居心地の悪さを感じた。
「あの…俺、利弥さんの恋人になったんです。
だから、これ以上、俺たちの間柄に口を挟まないでくれませんか?」
「恋人に…?ふぅん…」
小牧は菜月の言葉に、驚いた様子はない。
「それは良かったね」
「あ…はい」
思いもよらない返事に菜月が気を緩めた隙に、小牧はズカズカと部屋に入り込んだ。菜月がとめるのも聞かず、リビングへと歩いていく。
「小牧さん!あの…!勝手にはいらないでください」
「はいはい。おじゃましますー入るねー…っと。
このぬいぐるみ、まだあるのね…」
リビングのソファに長い脚を投げ出して座りこんだ小牧は、傍らのソファの主・うさこさんを手に取った。
かわいらしいうさぎのぬいぐるみを、小牧は白けた視線で見つめている。
「それ、利弥さんのですから、触って汚しでもしたら怒られますよ」
菜月が注意すれば、小牧は「知っているよ」と、ぽいっとぬいぐるみを床に投げ捨てた。
「ちょっと…!」
「君はいま、大好きな利弥と恋人になれて、幸せいっぱいなんだろうね?
気分は春?」
「だったらなんなんです?あなたに関係ないでしょう?」
「関係は…ないけどね。いったでしょ?君みたいななにも知らない子供、見ているとイライラする…ってさ。
俺、“イイヒト”だからさ…、こうして、忠告してんだよ?」
悪い大人と付き合うのは、お子様には荷が重いよってね。
小牧は睨みつける菜月に、にっこりと含んだ笑みを浮かべる。
利弥も、小牧も自分を子供扱いするが、そこまで自分は無知な子供なのだろうか。
子供子供って、そんなに年齢が違うことが悪いことだろうか。
たかが10違うだけだ。
「子供って…。俺、そんな子供じゃないです」
「子供だよ。
夢だけしか見てない、綺麗な部分しかみようとしない子供。
おとぎ話のように、綺麗にすべての物語が終わると思っている、夢見がちな子供だろ?
そうだね、そんな子供の君に俺が魔法の言葉、教えてあげようか…。
そうすれば、君の偽りの毎日なんて、あっさり崩れると思うよ?
君の今の日々なんて、儚い蜃気楼みたいなものなんだからさ」
「魔法の言葉…?」
「そう」
小牧の瞳が、不思議の国のアリスにでてくる茶シャ猫のように妖しく煌めいた。
小牧はソファから起き上がると
「俺、貴方のこと、全部教えて貰いました。
あなたの本当をすべてを…って」
菜月の耳元で、静かに囁く。
「魔法の…?」
「そう。君が今の現状を変えたいなら言ってみるといいよ。
といっても、今のままを維持したかったら言わない方がいいと思うけどね。
魔法の言葉をいうかは、君次第ってことで…。
ああ、このぬいぐるみ、ちょっと借りるよ」
床に投げ捨てられたうさぎのぬいぐるみを拾い上げると、小牧はそのまま玄関にむかった。
「ちょっと…」
「大丈夫。クリーニングして返すからさ。
パズルみたいにバラバラにはしないって…。このうさちゃん、あいつが大事にしてるの知っているから。
俺もあいつを怒らせるの、怖いからね」
小牧はぬいぐるみを片手に、そのまま扉の向こうに消えた。
魔法の言葉ってなんだろう?
小牧に教えられた言葉を言ったら、本当に自分たちの関係は変わるのだろうか?
たった一言で?
この関係が揺らぐ?
12時過ぎて魔法がとけたシンデレラみたいに、ガラリと関係は変わってしまうんだろうか。
(そんな馬鹿な…。
魔法の言葉なんて…そんなのあるわけないよ。
そんな一瞬で現状が変わる言葉なんて。
‘全部教えてもらいました’この言葉になんの意味がある?
その言葉をいったら変わるって…、今の俺は利弥さんの全部を知らないっていうんだ…?)
否定したい気持ちと、だけど本当に変わってしまうかもしれない言いしれぬ不安が、じわりじわりと、シミのように大きく広がっていく。じわじわと、心を蝕んでいく。
言葉一つで変わるはずがない。
20歳になったら、お試しじゃなくて本当の恋人同士になるのだから、不安に思うことなんてない。
そう信じていたいのに、利弥が時々見せる突き放した態度が、菜月を疑心暗鬼にさせる。
彼を好きな分だけ、より彼を信じられない自分がいる。
やめようか?
そう簡単に関係を断ち切れるほど、利弥にとって自分はそれほど価値のない人間だから。
言葉一つで変わらない可能性がないとも言い切れない。
信じたい。だけど、信じられない。
否定したい。だけど、否定するほど自信がない。
優しくしてくれているが、愛されている自信などないのだ。
頭を撫でて貰って、心配してもらって、隣にいてくれて。
好きだと思う気持ちは強くなっていくのだけれど、与えられる日々が怖くて何も言い出せない。
利弥のお陰で自分は少し変われたと思ったのに、自信がないところは変えられていない。
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