切なさよりも愛情を

槇村焔

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縛り付けるのは血縁の鎖

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 利弥は、恋人宣言してから菜月の身体を触りたがる。
が、初日以来、一度も己のものを菜月に入れようとはしなかった。
ただ、ひたすら菜月の身体をならすだけである。
一度も抱こうとしない利弥に、己の魅力がないせいだろうか…と落ち込み。
菜月ばかり鳴かされる状況に、菜月も思うものがあり一度「俺も口でやろうか?」といったところ、その申し出は「もっと菜月が慣れてからだ」拒否された。


(俺ってお子様扱いされているのかな…。
ちょっとくらい、痛くてもいいのに。
そりゃ、男同士であんなところ使う、しかも俺が受け手側って最初は怖かったけどさ…。でも…、あれから、結構ならされたし。

変な道具とかで慣れさせるくらいだったら、いっそもう抱いて欲しいんだけど…。
ってか、これで変な性癖がついちゃったら、どうしよう…。俺、この前なんて後ろの刺激だけでいっちゃったし…。俺がどれだけないても、利弥さん、やめてくれなかったし…。
利弥さんって、結構鬼畜なとこ、あるよな…)

 利弥からされたことを思い出すと、身体が熱くなる。
己の半身は、実に素直なもので、思い出しただけで反応しかけていた。

(…思い出しただけで勃つなんて…、しかも女の人の裸とかじゃないのに。俺ももうすっかり男好きなんだなー…。
いやいや、こうなるのは利弥さんだけ…!
でもこんな状態のまま、利弥さんのところにいったら、期待してたんだ?とか、からかわれそう…。
利弥さんってスイッチ入るとねちっこいからなぁ…)

このまま処理してから、戻ろうと菜月が自身のものに手をかけたところで、ガラリと浴室の扉が開いた。


「と、利弥さん…!?俺まだ入ってるよ…?」
「一緒に入ろうかと思ってな…。
どうせ、私も入るし、一緒に入ったほうがすぐにレッスンに入れるだろう?」

そういう利弥の顔は、憎らしいほど、清々しい。

「いいだろ?それにほら…」

利弥は背後から菜月を抱きすくめ、反応しかけた菜月の半身を握りしめると
「ここも、私を待っていたようだしな…?」
耳元で囁いた。

「まってない…!まってないか…ぁ…」

口からこぼれるのは、甘いあえぎ声で。
すぐに、先端からは愛液がこぼれ落ち、利弥の手を汚していく。


「…んぁ……、としや…さぁ…」
 
官能的な身体のうずきに、菜月は身体を仰け反らせた。
利弥は首筋に口づけを落としながら、あいている方の手で、菜月の腰をかきだく。

刹那、利弥の堅くそそり立ったものが太股に触れた。


「…っ、あ…、」
「…菜月……」

低く囁かれ、利弥の顔が、ゆっくりと近づいてくる。


「ん…っ」

貪るような激しい口づけ。
絡められた舌先。

初めてのキスはただただ、翻弄されてばかりだった菜月だが、今では自分から絡めることもできる。

激しい口づけにこぼれ落ちた唾液が、口端から顎元を伝った。


「手で洗ってやるよ、もっと隅々まで…、ここも、ここも…、もっと、お前をかえてあげるよ…。“俺”が…」

菜月の下肢を弄る手が早くなっていく。
教え込まれた快感に、イキたくてたまらなくなって、菜月はその手に合わせ、腰を揺らしてしまう。



「ほら…菜月…」
「ぅん…、」
「いいんだろ…?」

耳を甘噛みされながら、問われれば菜月は頷くことしかできなくて。

「イケよ…“男”の手で、女みたいに…」
「―あぁ…っ!」

利弥らしくなく荒っぽい言葉に菜月は大きく嬌声をあげて、達した。


「菜月…ほら、洗い流すぞ」

射精したばかりの敏感な下肢に、シャワーの飛沫の刺激は強くて。


「ん…」
「ん?どうした…」

涙目になってやめてと懇願しても、利弥は楽しそうな顔で聞き耳を持たず、その手をとめることはない。
悔しくて涙目で睨みつければ、利弥はその涙を拭うように目元にキスを落とした。



「利弥さん…だって、こんなに、なっているのに…俺だけ…ずるい…俺も…」

利弥のものに伸ばす。
が、その手は利弥によって、やんわりと制された。

「私はいい」
「…でも…」
「菜月がいっている姿を見るだけで満足しているからな。それに、中途半端に火がついて盛ってしまったら、困るのは菜月だぞ?もう少し君が慣れてから、だ」

(もう少しっていつなんだよ…!
それに、好き同士ならもっと身体、欲しくなるんじゃないの?
小牧さんの話じゃ、二人でセックスしたっていってたし…。小牧さんの話ってあれって…ほんとなのかな…)


「としやさん…小牧さんとは、こんなこと、するの?」
「こんなこと?」
「だから、俺にいましていることとか…。それ以上のこととか。
二人は親友なんだよね。それってただの親友?」

菜月の問いかけに、利弥は「意外に鋭いんだな…」と曖昧に笑う。


「鋭いって…じゃあ…」
「小牧と寝たこともあるよ…。しかし、菜月に小牧の存在を話したこと…ああ一度だけあったか…。
お前の言葉通り、それ以上のこともしたことがある。
一時期だが恋人のような間柄でもあったよ…」
「恋人…」
「でも…、長くは続かなかったな。
お互いに、同じタイプだったからな…。
たとえるなら、磁石のSとSで。
どれだけくっつこうと、二人で足りない部分を補おうとしても、駄目だったよ」
「そう…」

(小牧さんと、やっぱり抱き合っていて…俺よりも進んだ関係だったんだ…。恋人同士、って。まだ小牧さんは別れたつもりじゃなかったとしたら?
あれ…でも、利弥さんのこと愛してないっていってたっけ…?)


二人の関係は一体、どんな関係なのだろう?
尋ねようとした矢先、酷い立ちくらみがして、菜月はその場に蹲った。
目の前が、チカチカフラッシュバックする。


「大丈夫か…?」
「ん…なんかフラフラした…だけ…」
「すまない…やりすぎてしまったな…、ベットまで連れていく」

利弥は軽々と菜月を抱き上げると、そのまま自室に連れていき、パジャマに着替えさせて、己のベットに寝かせた。
今日はしないの?と菜月が聞くと、病人を襲うほど野獣ではないよ、と利弥は苦笑する。


「野獣でもいいのに。俺、利弥さんにだったら、襲われてもイイよ?」
「子供が大人を煽るんじゃない」
「子供じゃないのに」
「子供だよ」
利弥はベッドに横になる菜月の頭を撫でると、鷹揚おうように微笑んだ。 
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