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縛り付けるのは血縁の鎖
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しおりを挟む(クリスマスに、大人が仲良さそうに腕を組んで歩いている。
ただの友達…なんてこと、ないよな…。だったらどういう関係?恋人?でもそしたら、利弥さんとの関係は?二股?)
駅前で予約していたケーキを受け取り、家に帰宅すると菜月は、そのまま脱力するようにリビングにあるソファに身体を沈めた。
「ねぇ、うさこさん。
利弥さん、クリスマスはいい思い出ないんだって。
ふられたから、って。
それって、小牧さんに毎年振られてるって意味なのかな?
それとも別のひと?
利弥さんの大事な人って、誰なんだろうね?
小牧さんと利弥さんって親友…だけの関係なのかな?」
ソファの主である、うさこさんにむかい、喋りかけた。
縫いぐるみに喋りかけても、当然、返事なんてない。
(利弥さんにとっての大切な人は…俺にとっての、かっちゃんみたいな人なのかな。
自分の支えになってくれたくらいの大事なひと。
利弥さんにとっての俺のかっちゃんが、小牧さん、なの…?)
問答していたところで、ガチャ、と家のドアが開く音がした。
リビングのソファから玄関を覗くと、利弥の姿がみえた。
「おかえりなさい。利弥さん」
「ただいま、菜月。メリークリスマス。
プレゼント、ありがとう」
利弥は、菜月がいるリビングへと歩をすすめながら、手をはためかせる。
その手には菜月がクリスマスプレゼントにと贈った手袋がはめられていた。
「それに、こんなに御馳走も用意してくれたんだな。
私の好物ばかりだ。
随分料理が上手くなったんだな」
テーブルに並べられた料理の数々に、利弥は目を細め、菜月褒めてくれた。
「だって、お世話になっているし…。
いったでしょ?利弥さんと、いいクリスマスにしたい、って。
だから、料理くらい、頑張るよ」
「いやぁ、いい嫁を貰った気分だよ」
「よ、嫁…」
「そんな菜月に、俺からプレゼントだ」
利弥はそういって、仕事鞄と一緒に手に持っていた、クリスマスカラーにラッピングを施された30センチほどの長方形の箱を手渡した。
「俺に?いいの?」
「いいもなにも。クリスマスプレゼントだからな。
貰ってくれないと、私も困るぞ」
菜月が気に入るかわからないが…、と利弥は視線で菜月に早く箱を開けるよう、促す。
菜月も流行る気持ちを抑え、せっかく綺麗に包まれた包装紙をびりびりに破かぬように、慎重に包みを開けた。
箱の中身は華の絵が描かれた、完成済みのパズルであった。
3000ピースパズル、と包装された袋に書かれている。
華の種類は竜胆のようで、初めて会った日利弥が持っていた、あの花束の花でもあった。
「竜胆のパズル…」
「パズルだったら、枯れないし、いいかなと思ってな。
花あげるって約束しただろう?
だから、俺から菜月にクリスマスプレゼント、だ」
「花…」
「そう。頑張っている菜月に、俺から感謝と愛をこめて、な?3000ピース、なんて一度崩したらなかなか組み立て難しそうだけどな?菜月に、この花は似合うと思って…」
(俺には、もう花をあげるひとも貰う人もいない。
利弥さんに初めてあったとき、そう思ったのに…)
じんわりと、菜月は歓喜の感情が押し寄せる。
ただのクリスマスプレゼント。
利弥には、ただの贈り物のひとつに過ぎないのに。
思わず泣いてしまいそうなくらい、嬉しくて。
感謝の言葉がすぐに口につかないくらい、心の中に喜びが広がった。
「どうして…」
「ん…?」
「どうして、俺に優しくしてくれるの?」
パズルを机の上におき、菜月は利弥に静かに尋ねた。
「どうして、俺なんかに…優しいの。
利弥さんは、そんなに…そんなに、優しいの…?」
「…私がか…?」
「うん。すっごく…優しい。
おれみたいなダメ人間に…。
なんにもできない、身寄りもいない。どうしようもない俺に。
利弥さんは家においてくれて、ご飯も作ってくれて、優しく気遣ってくれて…」
「……」
「どうして、そんなに優しいんですか?
俺、馬鹿だからわかんない。
馬鹿だから…、だから知りたいんです。
貴方がどうしてここまで俺に優しくしてくれるのか。
貴方がどうして悲しそうな顔をするのか…俺は、知りたくて知りたくてたまらないんです。だって、俺は…」
菜月は、利弥の目を真っすぐに見つめ、
「俺は、貴方が好きだから、貴方のすべてが知りたいんです。貴方のこと、一番知っている俺でありたい…って思ってしまうんです」
目の前にいる利弥に、微笑んだ。
「私を…すき…?君が…?」
「はい」
「好きっていうのは…その、つまり…」
戸惑いがちに菜月を見つめる利弥に、「たぶん、その…恋愛感情のように好きだと思うんです」と菜月は答える。
「まだ知り合ったばかりで、利弥さんのこと、ほとんど知らないかもしれない。だけどね、誰よりも知りたくて、貴方のことばっかり考えている。多分、これって恋だと思うんです。
だから、貴方がなんで俺をここにおいてくれるのか、優しくしてくれるのか…俺、知りたいんです」
「……」
「同情、ですか?憐み…ですか?」
「憐み…か…」
利弥は、ふ、と小さく苦笑し、「君も、あいつと同じことをいうんだな」と呟く。
「おなじ…?」
「似ていると思ったんだ。あいつに。君が。
私が…一番大切に思った人に。
どれだけ愛しても、愛を受け取ってくれなかったあいつに。
初めてあったとき、似ていると…あいつがまた私の前にやってきたと…そう、思ったんだ…。
菜月を見て。
だから…私は…君を…」
利弥はぎゅっと唇をかみしめて、言葉を切る。
どこか戸惑いがちなその顔は、道に迷った迷子のように心もとない。
「利弥さん…?」
「…時折、私は君を恐ろしく感じてしまうよ…。
あいつと…同じような言葉を言うから。同じように笑うから。
だから、凄く…怖いよ、君が。私の思い通りにならない、君が」
「思い通り?」
「君がもっと、あいつと違っていたらよかったのに…そしたら…もっとー“俺はーー”」
利弥は、菜月の頬に手を添えて「君をここまで、思うこともなかったのに…」と呟く。
「俺を…思う…?それって…?」
菜月が利弥の顔を見つめると、利弥の双眸はゆらゆらと陽炎のように揺れていた。
「君の好きは…、きっと綺麗な好き、なんだろうな…。
とても純粋な。
私とは違う。私は…ーー」
利弥は菜月の頬から手を離すと、視線を落としながら「人間、失格、だからな…」と微笑する。
「人間…失格…?」
「そう。あいつが私の元をさった時から、ずっと…、人間らしい感情がないんだよ」
愁いを帯びた、その表情。
寂し気なその表情に、胸がざわついた。
(この人の…何がここまでこんな顔をさせるんだろう…?
なにが、この人をここまで…辛そうな顔をさせるんだろう…?
大切な人のせい…?俺だったら…そんな顔させないのに。俺が、利弥さんの大切な人だったら…絶対にそんな顔、させないのに…)
それ以上利弥の辛そうな顔を見ていたくなくて、そっと利弥の唇に己の唇を重ねた。まるで飼い犬が悲しんでいる飼い主を慰めるような、そんな口づけだった。
突然の菜月の行動に、利弥の身体が震えた。
「ねぇ、利弥さん。俺…利弥さんが好きです。
思わず、キスしたくなるくらい、俺、貴方を好きなんですよ?
出会って数か月で、俺、利弥さんのこと何も知らないかもしれない。だけど、もっと知っていきたい。
もっともっと知っていきたいんです。貴方のことを一番好きな俺でいたい。
来年のクリスマスも、その次のクリスマスも、ずっとずっと一緒にいたいんです。利弥さんさえ、よければ…」
突然こんなことを言って、利弥が重荷に感じたらどうしようか。
ちらりと利弥に視線をやっても、利弥は菜月を凝視したまま、動かない。
ただただ、じっと菜月を見ていた。
「ごめんなさい。急に、こんなこと言って。気持ち悪いと思ったら出ていくから。だからさ、今日くらいは一緒にいよう?だってほら、今日はクリスマスだし!思い出、作ろうよ…!…、さっきキスして嫌な思いになったかもしれないけど…。その…」
「いや…、嫌じゃなかったよ…。」
「え…」
「そうだな、菜月がせっかく用意してくれたんだから、今日は楽しむか」
利弥は、テーブルにつくと、菜月が用意していたケーキを箱から取り出した。
(嫌じゃなかったって…俺がキスしても嫌じゃなかったってこと?気持ち悪いって思われてないのかな?)
「菜月…?」
「あ、はい…」
「クリスマスパーティ、するんだろう?」
「うん。やるよ!あ、蝋燭つけて!火つけなきゃ…」
「誕生日じゃないんだぞ…」
「気分だよ!盛り上げるじゃん?」
菜月は先ほどの空気を払拭するようにことさら、明るくいうと、部屋の電気を消した。
クリスマスのツリーのライトの光と、ケーキの蝋燭の光だけが、仄かに部屋を灯る。
こうして、利弥と菜月の二人だけのクリスマスパーティが始まった。
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