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6章
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■■■■■■6■■■■■■
人間は、平等だ、なんていつだれがそういったんだろう。常に人は平等であり、平等の権利を持って生まれてきたなんて。
人間は常に平等だ。そう思っている人間はこの世界で、どれほどいるんだろうか。
少なくとも、僕は平等とは思えなかった。
生まれた環境、愛され方や生き方で、人は大きく変わる。
例えば、僕がどれだけ欲しても手に入らないものもまりんはあっさり手にしてしまう様に。
人間は常に平等ではないのだ。
きっと、一度手放した愛情さえもあっさりと手に入れてしまうんだろう。
僕が恐々と作り上げたものすら、まりんは簡単に手にするんだろう。
『ねぇ、また私、仁に会いたいと思うの・・・。あの人に、謝りたいと思っているの・・・』
あいたいなんて、今更だ。
傷つけておいて、会いたいだなんて…会わないに決まっているだろう。馬鹿じゃないの?
仁さんと再び会おうとするまりんに頭にきて怒鳴った。
でも、まりんは僕に怒鳴られた事など想定内だったようで、僕に携帯アドレスが書かれた名刺を渡してきた。
また会えるかしら?そういって、僕に名刺を握らせた。
話しなんてないし、もう会いたくもない。
そう思って店を出たけれど…、実際、まりんに仁さんに会うなと言ったところで、関係ないだろうと言われれば何も言えないことに気付いた。
僕と仁さんは、身体は重ねあっているものの、この気持ちは僕の一方通行であり、仁さんからしてみたら、ただの友人と同じ立場でもある。
だから、まりんに恋人でもないのに、貴方に言う権利はあるの?と言われれば僕は口を閉ざすしかないのだ。
*****
「…んっ…んんっ」
仁さんの身体に跨りながら、僕は仁さんの動きに合わせて腰を揺らす。
仁さんも僕の腰に手を添えながら、強く楔を打ち付けていく。
どろどろと、結合した部分から白濁が毀れ落ちていく。どちらともない情欲の証でベッドは白く濡れていた。もう何度果てただろう?
最初はただ痛みしかないセックスだったのに、今は二人で快楽を追えるまでになっている。
「駿っ…、」
「仁さん……いく……仁さんも…」
「駿」
眉間に皺を寄せながら、低く掠れた声で僕の名を呼ぶ。
同時に、僕の身体に熱い飛沫が注がれた。
「これ、捨てていい…?」
情事後。
ベッドの上でまどろんでいた仁さんの隣で寝転びながら、尋ねてみた。
僕の手元には、いつもはベッドの横の棚においてある、幸せそうに笑う仁さんとまりんの写真たてがある。
写真たては、もう一つ、リビングにもある。
この2つの写真たてが、この家に残る仁さんとまりんの最後の思い出の品だった。
他は全て僕が勝手に捨ててしまい、残ったのはこの写真たてくらいだった。
唯一仁さんがまりんにあげ突っ返された思い出の指輪はまだ僕の手に嵌っている。
これもまりんの思い出だし捨てようかな…と思ったことは数回あるものの、どうしてもあの時突っ返された指輪が仁さんに重なって見えてしまい、どうしても捨てられなかった。
「これ、捨てちゃ駄目…」
「それは…」
仁さんは写真たてを見つめ、眉根を寄せた。
仁さんが自主的に、捨てのはこの指輪だけ。
僕が勝手にまりんのものを捨てているのに、最初は難色を示して僕と衝突していた仁さんだったけれどここ最近は僕が捨てるのを目撃しても何も口には出さなかった。
言わないだけで、何一つ仁さんは捨ててこなかった。
きっと、まだ仁さんはまだ〝捨てられない〟整理がついていないのだ。
この写真たてを捨てられたとき、それがきっとまりんへの未練を断ち切った時なのではないかなと思っている。
「いいよ、ごめんね…これは残しとくよ」
仁さんの言葉に少し落胆しながら、写真たてをベッド近くのもとの棚の上に戻した。
「どうして、これだけ聞くんだ?今まで俺が何を言おうと捨ててたのに」
「これだけは、仁さんの意思で捨てて貰いたかったから…。全てがふっきれた時に。
まだ駄目だったみたいだけど」
「…すまない」
申し訳なさそうに顔を歪める仁さんに、いいよ…の意味も含めて額にキスを送った。
「…なんで、まりんのこと好きになったの?」
静かに、尋ねる。
「…何故?」
「今更、だけど聞いてみたくなって…」
まりんに恋憂う仁さんというのを見たくなくて、ずっと聞いていなかった。
でも、ずっと本当は聞いてみたかった。彼女のどこに惹かれたんだろう…と。
もし、その惹かれる要素の一欠けらでも僕にあれば、仁さんは好きでいてくれるのかな…って。
「昔、ずっと一緒にいるって約束してくれたから」
仁さんは穏やかな顔でそう答えた。
「やくそく?」
「そう。約束。
俺とずっと一緒にいるって。一緒にいてくれるって…。
それを俺は信じていた…。ずっと。
その言葉を信じてずっとまりんを愛していた」
遠くを見据えながら仁さんは言う。
約束。
ずっと一緒にいるという約束…。
僕とだって、してくれたのに。
僕にも、ずっと一緒にいてくれるって約束してくれたのに。
それでも、まりんがいいんだ。
まりんが…。
黒い暗い思考が襲いかかる。
気が滅入りそうになり、一つ顔を横に振った。
「まりんには、あわないで…」
無造作にベッドの上に置かれた仁さんの手に自分の手を重ねて言う。
仁さんの視線を僕に映して、「あわないよ」と口にする。
「約束して」
「約束もなにも…もう連絡手段もないよ。
携帯変えてしまったし…まりんがどこに住んでいるかも今の俺は知らないし」
「それでも……」
仁さんは知らなくても、まりんは知っている。家の電話番号、ずっと変わっていないから。
仁さんは連絡取る気なくても、あちらからはいつだってかけられちゃうんだ。
また、いつ出会い恋に落ちるかわからないんだよ…。
「電話、しないで…お願い…。会わないで」
僕の顔は…その時悲痛な顔をしていたかもしれない。
あまりの僕の剣幕に、仁さんはあわないと約束してくれた。
「ああ。あわなければいいんだろ」
「絶対だからね」
「ああ」
「約束」
仁さんの小指に自分の指を絡ませて指切りをした。
〝また、独占している〟〝そして、また自由を奪ってなくしてしまうの…?昔好きだった猫のように〟片隅に沸いた言葉をかき消して。
人間は、平等だ、なんていつだれがそういったんだろう。常に人は平等であり、平等の権利を持って生まれてきたなんて。
人間は常に平等だ。そう思っている人間はこの世界で、どれほどいるんだろうか。
少なくとも、僕は平等とは思えなかった。
生まれた環境、愛され方や生き方で、人は大きく変わる。
例えば、僕がどれだけ欲しても手に入らないものもまりんはあっさり手にしてしまう様に。
人間は常に平等ではないのだ。
きっと、一度手放した愛情さえもあっさりと手に入れてしまうんだろう。
僕が恐々と作り上げたものすら、まりんは簡単に手にするんだろう。
『ねぇ、また私、仁に会いたいと思うの・・・。あの人に、謝りたいと思っているの・・・』
あいたいなんて、今更だ。
傷つけておいて、会いたいだなんて…会わないに決まっているだろう。馬鹿じゃないの?
仁さんと再び会おうとするまりんに頭にきて怒鳴った。
でも、まりんは僕に怒鳴られた事など想定内だったようで、僕に携帯アドレスが書かれた名刺を渡してきた。
また会えるかしら?そういって、僕に名刺を握らせた。
話しなんてないし、もう会いたくもない。
そう思って店を出たけれど…、実際、まりんに仁さんに会うなと言ったところで、関係ないだろうと言われれば何も言えないことに気付いた。
僕と仁さんは、身体は重ねあっているものの、この気持ちは僕の一方通行であり、仁さんからしてみたら、ただの友人と同じ立場でもある。
だから、まりんに恋人でもないのに、貴方に言う権利はあるの?と言われれば僕は口を閉ざすしかないのだ。
*****
「…んっ…んんっ」
仁さんの身体に跨りながら、僕は仁さんの動きに合わせて腰を揺らす。
仁さんも僕の腰に手を添えながら、強く楔を打ち付けていく。
どろどろと、結合した部分から白濁が毀れ落ちていく。どちらともない情欲の証でベッドは白く濡れていた。もう何度果てただろう?
最初はただ痛みしかないセックスだったのに、今は二人で快楽を追えるまでになっている。
「駿っ…、」
「仁さん……いく……仁さんも…」
「駿」
眉間に皺を寄せながら、低く掠れた声で僕の名を呼ぶ。
同時に、僕の身体に熱い飛沫が注がれた。
「これ、捨てていい…?」
情事後。
ベッドの上でまどろんでいた仁さんの隣で寝転びながら、尋ねてみた。
僕の手元には、いつもはベッドの横の棚においてある、幸せそうに笑う仁さんとまりんの写真たてがある。
写真たては、もう一つ、リビングにもある。
この2つの写真たてが、この家に残る仁さんとまりんの最後の思い出の品だった。
他は全て僕が勝手に捨ててしまい、残ったのはこの写真たてくらいだった。
唯一仁さんがまりんにあげ突っ返された思い出の指輪はまだ僕の手に嵌っている。
これもまりんの思い出だし捨てようかな…と思ったことは数回あるものの、どうしてもあの時突っ返された指輪が仁さんに重なって見えてしまい、どうしても捨てられなかった。
「これ、捨てちゃ駄目…」
「それは…」
仁さんは写真たてを見つめ、眉根を寄せた。
仁さんが自主的に、捨てのはこの指輪だけ。
僕が勝手にまりんのものを捨てているのに、最初は難色を示して僕と衝突していた仁さんだったけれどここ最近は僕が捨てるのを目撃しても何も口には出さなかった。
言わないだけで、何一つ仁さんは捨ててこなかった。
きっと、まだ仁さんはまだ〝捨てられない〟整理がついていないのだ。
この写真たてを捨てられたとき、それがきっとまりんへの未練を断ち切った時なのではないかなと思っている。
「いいよ、ごめんね…これは残しとくよ」
仁さんの言葉に少し落胆しながら、写真たてをベッド近くのもとの棚の上に戻した。
「どうして、これだけ聞くんだ?今まで俺が何を言おうと捨ててたのに」
「これだけは、仁さんの意思で捨てて貰いたかったから…。全てがふっきれた時に。
まだ駄目だったみたいだけど」
「…すまない」
申し訳なさそうに顔を歪める仁さんに、いいよ…の意味も含めて額にキスを送った。
「…なんで、まりんのこと好きになったの?」
静かに、尋ねる。
「…何故?」
「今更、だけど聞いてみたくなって…」
まりんに恋憂う仁さんというのを見たくなくて、ずっと聞いていなかった。
でも、ずっと本当は聞いてみたかった。彼女のどこに惹かれたんだろう…と。
もし、その惹かれる要素の一欠けらでも僕にあれば、仁さんは好きでいてくれるのかな…って。
「昔、ずっと一緒にいるって約束してくれたから」
仁さんは穏やかな顔でそう答えた。
「やくそく?」
「そう。約束。
俺とずっと一緒にいるって。一緒にいてくれるって…。
それを俺は信じていた…。ずっと。
その言葉を信じてずっとまりんを愛していた」
遠くを見据えながら仁さんは言う。
約束。
ずっと一緒にいるという約束…。
僕とだって、してくれたのに。
僕にも、ずっと一緒にいてくれるって約束してくれたのに。
それでも、まりんがいいんだ。
まりんが…。
黒い暗い思考が襲いかかる。
気が滅入りそうになり、一つ顔を横に振った。
「まりんには、あわないで…」
無造作にベッドの上に置かれた仁さんの手に自分の手を重ねて言う。
仁さんの視線を僕に映して、「あわないよ」と口にする。
「約束して」
「約束もなにも…もう連絡手段もないよ。
携帯変えてしまったし…まりんがどこに住んでいるかも今の俺は知らないし」
「それでも……」
仁さんは知らなくても、まりんは知っている。家の電話番号、ずっと変わっていないから。
仁さんは連絡取る気なくても、あちらからはいつだってかけられちゃうんだ。
また、いつ出会い恋に落ちるかわからないんだよ…。
「電話、しないで…お願い…。会わないで」
僕の顔は…その時悲痛な顔をしていたかもしれない。
あまりの僕の剣幕に、仁さんはあわないと約束してくれた。
「ああ。あわなければいいんだろ」
「絶対だからね」
「ああ」
「約束」
仁さんの小指に自分の指を絡ませて指切りをした。
〝また、独占している〟〝そして、また自由を奪ってなくしてしまうの…?昔好きだった猫のように〟片隅に沸いた言葉をかき消して。
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