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4章
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・■
見えなくなった背中。
雑踏の中、人の笑い合う声がどこか遠くに聞こえた。
まるで僕だけ時が止まったみたいだった。
楽しげなクリスマスの雰囲気に、一人置きざりにされている
「はは…」
なさけなく、笑いが毀れた。
はは…はは…と乾いた空しい笑いが止まらない。
「言っちゃったなぁ…」
仁さんを掴もうとした手は、所在無く宙を彷徨った。
「言っちゃった…」
さっきまで、仁さんが隣にいて幸せだったのに。
ちゃんとしっかりと手をつないでいたのに。
それでも、簡単に手は解かれ、仁さんはいってしまった。
僕が手の届かない、人ごみの中へと…。
まりんの影を追って。
結局、まだ仁さんはまりんを忘れてはいなかった。切なげな顔で写真たてをみなくなっただけで。
たった一目みただけで、人ごみの中、彼女の影を必死になって追ってしまうほどまだ彼女を忘れてはいなかった。
周りも見えなくなるほど、わき目もふらずまりんを追いかけていた。
最近、まりんの写真たてを見てないし、まりんのこと忘れたのかな…、特別になってる…なんて、僕の思い過ごしもいいところだった。
仁さんの中で、まだまりんは生きていた。
取り乱し必死になって彼女の後をおうくらい、仁さんは、まだまりんを求めていた。
「…ふっ…」
ガクリ、と膝から崩れ落ちる。
突然崩れ落ちた僕を周りはじろじろと不躾な視線を送った。クリスマスの浮かれた雰囲気にそぐわないその姿はとても惨めだった。
みっともない。情けない
でも、立ち上がることができない。
身体全ての力が抜けてしまったかのようだった。
目頭が熱い
瞳からは、自分では止められない涙がぼろぼろと毀れ落ちた。
「いかないでって…いったのに…」
恨みがましく口から言葉が漏れた。
いかないで。
そんな風に縋っても、僕は仁さんの瞳には映らない。どんなに隣にいたって…。どんなに思ったって…。
いかないで、そう懇願しても、煙のように手からすり抜ける。
どんなに必死につかんだって、ひらりと空をかいてしまう。その手には、何も残らない。
そう改めて知らされた気がした。
それでいいとわりきっていたはずなのに、涙は止まることはない。
パラ、ぱら…。
上空から、粉雪が冷めた空気の中、舞い落ちてきた。
ホワイトクリスマスになるっていっていたっけ…。
ロマンチックだな、って浮かれていたあの時の自分を怒りたい。
どんなにロマンチックな演出があっても、どう転がるかなんてわからないのに…。
幸せに終わることもないのに。
どんな、ロマンチックに場面を整えても…。
「置いて行かないで…いかないで…」
顔についた粉雪は涙と一緒になってきえた。
仁さんは、まりんを見つけたら、なにを話すんだろう…。もし、仁さんがまりんと一緒にいたいと僕にいってきた、その時は僕はあの家から出なくてはいけない。
でも、もし、まりんを捕まえられなかったら…
まりんが仁さんを煩わしく思い、相手にしなかったら…。
気づけば、僕は仁さんと一緒に住むマンションの前で、何時間も傘もささずに仁さんを待っていた。
いつマンション前まで戻ってきたか、記憶にない。いつの間にか、戻っており、マンション前で膝をかかえ、仁さんを待っていた。
粉雪がちらつく中、一人の部屋で仁さんを待っていたくなくて。朝の幸せな時間の記憶を壊してくなくて、延々と、仁さんを待っていた。
僕がそこで待っていて、どれくらいの時間がたっただろう…。仁さんが、肩を落としながら、マンション前までやってきたとき、止まっていた涙はまた流れ出した。
「駿…か…?」
恐々とした声で、仁さんが声をかける。
膝を抱えて、地面にしゃがみこむ僕に近寄り、仁さんは狼狽した。
「なんで…、ここで…雪が降っているんだぞ…風邪を…」
しゃがみこんで、僕の頭についている雪を払う仁さん。僕は顔をあげられず、俯いたまま、
「部屋に帰りたくなかったから…」と雪にかき消されてしまうくらい小さな声で呟いた。
「部屋に…?」
「仁さんが、いないから…。それに、ちゃんと待っていたかったから…」
「ちゃんと…?」
だって、もし、仁さんがまりんに会えなかったら、また一人部屋に戻ることになるでしょう。
僕がいなかったら、また捕まえられなかったとき、泣いちゃうでしょう。
だから…。
「おかえりなさい…仁さん…」
伏せていた顔をあげて、仁さんをまっすぐ見据えた。
「おかえりなさい…」
まだまりんのこと、覚えているんだね。
まりんとまた一緒にいたいと思ってるんだね。
色々いいたいことはあったけど…今は…。
「おかえりなさい…」
その言葉しか、僕の口からは出なかった。
許すことも、また、愛なのよ。
あの恋愛スペシャリストの言っている言葉があのときは全然わからなかったけど、今なら少し理解できる気がする。
許すことも、愛。許してしまえる。
置いてけぼりをくらっても、掴んだ手を振り払われても、馬鹿みたいに貴方が好きだから。
「おかえりなさい…」
「駿…」
〝おかえりなさい〟
仁さんは僕のその言葉に驚きに目を丸め…そして、そのまま膝を抱え座っていた僕の身体ごとぎゅっと力強く僕を抱きしめた。
「すまない…」
申し訳なさそうな仁さんの声が、心地よく耳に落ちる。
「すまない…」
大好きな、低い声。
「俺は…」
何をいうべきか迷っている仁さんの瞳が揺れていた。
いいのに、謝罪なんて…。
肩を落とし帰ってきた仁さんを見て、まりんを捕まえられなかったんだな…と気づき安堵した自分がいた。
まだ、ここにいられる。
仁さんの隣にいられる…と。
「仁さん、まだ…僕、家にいてもいいよね」
貴方がまた泣いて戻ってきても、落ち込んだ時も一緒にいたいから。
貴方が、まだまりんを思ったまま、彼女を手に入れてないのなら。また貴方は彼女のことを思い出してうだうだとしちゃうだろうから。
だから…。
「仁さんの…傍にいて…いいよね…」
「ああ…」
「このまま、ずっと…?」
「ああ…」
「ありがとう…」
仁さんの背に手を回し、胸元に頬を寄せる。
厚い胸板。すっぽりと僕を包んでしまえる腕。
「もう…置いて行かないで…」
呟けば、仁さんの拘束が返事をするように、きつくなった。
抱きしめてくれた仁さんの身体は凄く温かだった。
このまま、ずっと腕の中にいたいくらい…
とても、温かだった。
・
その夜、仁さんには沢山抱いてもらった。
お互いに気が高ぶっていたんだろうか。
いつもより激しいセックスをし、何度も何度も果てた。何度も何度もキスを貰った。
愛の言葉よりも、キスを。
溢れる感情よりも、激しい抽送を。
突き上げられる度、甘い声が漏れ、身体が痺れた。
なにか考える暇もないほどに、その営みは激しくて。
生も根もつきた頃、指先まで手を絡めて、二人とも泥のように眠りにおちた。
何度も抱いてもらっていたが、あんなに激しく気絶するくらいどろどろに溶け眠ってしまったのは初めてだった。
激しいセックスをしてどろのように眠りにおち…。次の日、僕は仁さんの腕の中で目を覚ました。
仁さんはすでに起きて瞼を開けた僕をみるなり、「今日は昨日のやり直しをしたい」と、真剣な顔で、いってきた。
「べつにいいのに…。ごろごろしたいんじゃなかったっけ?」
昨日、置いて行かれた分、抱いてもらったし、置いて行かれたのはショックだけど、改めて仁さんの想いの深さを思い知らされただけ。
だから、そんな気にやまなくったっていいのに。
「いや…あんなふうにお前を置いて行ったし…お前がいいなら、やり直しをしたいんだ…」
真剣なまなざしで、僕を見つめながらいう仁さんは、やっぱり惚れた欲目をさしひいてもかっこよくて…
僕は仁さんの申し出をありがたくうけて、クリスマス当日の今日も、仁さんと出かけることになった。
わざわざやり直してくれるだなんて、仁さんは僕の気持ちに気づき始めたんだろうか。
僕が、ただの興味で抱かれ傍にいるんではなくて、仁さんが好きだから傍にいることに。
聞いてみたい。
けど、もし聞いたとして、それが僕の望まない返事だったら…。
同情で、昨日のやり直しをしたいと言っているのなら…。
「駿?」
「あ、あの…今日どこいくの…?
僕昨日散々仁さんに付き合ってもらったし、行きたいとことくにないけど…」
話を逸らすようにいった僕に、とくに訝しむ様子もなく、仁さんは「じゃあ、俺の行きたいところでいいか?」と僕に尋ねた。
「行きたい場所?」
「そう…。お前と行きたい場所があるんだ…」
「別にいいけど…」
僕が了承すれば、仁さんは満足そうに笑い、僕の頭を一撫ですると、ベットから出て行った。
仁さんの行きたい場所か…。どこだろう…。
いつも家でのんびりするのが好きな仁さんなのに…。
ぼんやりと考えて、はた、と思いだす。今日という日を。
今日は、クリスマス。クリスマスといったら…
「仁さん!」
「ん?」
振りむいた仁さんに、背伸びして、真っ黒なマフラーを首にかけた。昨日、渡しそびれた枕元においてあったクリスマスプレゼント。
「メリークリスマス…だからプレゼント!寒いからマフラーにしてみました!」
仁さんに似合いそうな黒のカシミアのマフラー。
寒い日でも、コート1枚でいる仁さんに、手袋かマフラー買ったら?って言っていたんだけど、コートだけで大丈夫だ…って言い跳ねるから、クリスマスプレゼントとして買っていた。
クリスマスプレゼントとして買ったのなら、少しは使ってくれそうだし。
仁さんは「いきなりで首絞められるかと思ったぞ…」と笑い、その後「ありがとな…」と僕に礼をいった。
仁さんが行きたい場所は、自宅から少し距離があるらしい。
仁さんが行きたい場所まで車を出してくれるらしく、僕は簡単に支度をし車の助手席に乗り込んだ。っと、乗り込むとき、股関節が猛烈に痛みガクリ、と体制が崩れ落ちた。慌てて仁さんが大丈夫か?と僕の顔を覗く。その痛みに身に覚えのある僕はさっと顔を赤らめた。
「駿?」
「だ、大丈夫!」
「大丈夫って…。本当に大丈夫なのか?昨日、雪にふられてそのままで…風邪でもひいたんじゃ…」
心配する仁さんにぶんぶんと首を振る。
あんなに雪にふられ、その後散々仁さんと抱き合ったけど、風邪はひかなかった。
この痛みは風邪とか病気ではない。
「違う違う…その…エッチが…ーーーしすぎたから…」
「え?」
聞こえなかったのか、なんだって?と聞き返す仁さん。
僕は真っ赤になりながらも、
「エッチが激しすぎたの!」と今度は大声で仁さんに言ってやった。
「あ…ああ…」
今度は仁さんも真っ赤になって、ぼりぼりと頬をかく。
「そ…そうか…」
「そうです…」
「そうか…あ、い、いくか…」
仁さんはどもりながら、車のキーを回す。
僕も助手席のシートベルトをしめた。
見えなくなった背中。
雑踏の中、人の笑い合う声がどこか遠くに聞こえた。
まるで僕だけ時が止まったみたいだった。
楽しげなクリスマスの雰囲気に、一人置きざりにされている
「はは…」
なさけなく、笑いが毀れた。
はは…はは…と乾いた空しい笑いが止まらない。
「言っちゃったなぁ…」
仁さんを掴もうとした手は、所在無く宙を彷徨った。
「言っちゃった…」
さっきまで、仁さんが隣にいて幸せだったのに。
ちゃんとしっかりと手をつないでいたのに。
それでも、簡単に手は解かれ、仁さんはいってしまった。
僕が手の届かない、人ごみの中へと…。
まりんの影を追って。
結局、まだ仁さんはまりんを忘れてはいなかった。切なげな顔で写真たてをみなくなっただけで。
たった一目みただけで、人ごみの中、彼女の影を必死になって追ってしまうほどまだ彼女を忘れてはいなかった。
周りも見えなくなるほど、わき目もふらずまりんを追いかけていた。
最近、まりんの写真たてを見てないし、まりんのこと忘れたのかな…、特別になってる…なんて、僕の思い過ごしもいいところだった。
仁さんの中で、まだまりんは生きていた。
取り乱し必死になって彼女の後をおうくらい、仁さんは、まだまりんを求めていた。
「…ふっ…」
ガクリ、と膝から崩れ落ちる。
突然崩れ落ちた僕を周りはじろじろと不躾な視線を送った。クリスマスの浮かれた雰囲気にそぐわないその姿はとても惨めだった。
みっともない。情けない
でも、立ち上がることができない。
身体全ての力が抜けてしまったかのようだった。
目頭が熱い
瞳からは、自分では止められない涙がぼろぼろと毀れ落ちた。
「いかないでって…いったのに…」
恨みがましく口から言葉が漏れた。
いかないで。
そんな風に縋っても、僕は仁さんの瞳には映らない。どんなに隣にいたって…。どんなに思ったって…。
いかないで、そう懇願しても、煙のように手からすり抜ける。
どんなに必死につかんだって、ひらりと空をかいてしまう。その手には、何も残らない。
そう改めて知らされた気がした。
それでいいとわりきっていたはずなのに、涙は止まることはない。
パラ、ぱら…。
上空から、粉雪が冷めた空気の中、舞い落ちてきた。
ホワイトクリスマスになるっていっていたっけ…。
ロマンチックだな、って浮かれていたあの時の自分を怒りたい。
どんなにロマンチックな演出があっても、どう転がるかなんてわからないのに…。
幸せに終わることもないのに。
どんな、ロマンチックに場面を整えても…。
「置いて行かないで…いかないで…」
顔についた粉雪は涙と一緒になってきえた。
仁さんは、まりんを見つけたら、なにを話すんだろう…。もし、仁さんがまりんと一緒にいたいと僕にいってきた、その時は僕はあの家から出なくてはいけない。
でも、もし、まりんを捕まえられなかったら…
まりんが仁さんを煩わしく思い、相手にしなかったら…。
気づけば、僕は仁さんと一緒に住むマンションの前で、何時間も傘もささずに仁さんを待っていた。
いつマンション前まで戻ってきたか、記憶にない。いつの間にか、戻っており、マンション前で膝をかかえ、仁さんを待っていた。
粉雪がちらつく中、一人の部屋で仁さんを待っていたくなくて。朝の幸せな時間の記憶を壊してくなくて、延々と、仁さんを待っていた。
僕がそこで待っていて、どれくらいの時間がたっただろう…。仁さんが、肩を落としながら、マンション前までやってきたとき、止まっていた涙はまた流れ出した。
「駿…か…?」
恐々とした声で、仁さんが声をかける。
膝を抱えて、地面にしゃがみこむ僕に近寄り、仁さんは狼狽した。
「なんで…、ここで…雪が降っているんだぞ…風邪を…」
しゃがみこんで、僕の頭についている雪を払う仁さん。僕は顔をあげられず、俯いたまま、
「部屋に帰りたくなかったから…」と雪にかき消されてしまうくらい小さな声で呟いた。
「部屋に…?」
「仁さんが、いないから…。それに、ちゃんと待っていたかったから…」
「ちゃんと…?」
だって、もし、仁さんがまりんに会えなかったら、また一人部屋に戻ることになるでしょう。
僕がいなかったら、また捕まえられなかったとき、泣いちゃうでしょう。
だから…。
「おかえりなさい…仁さん…」
伏せていた顔をあげて、仁さんをまっすぐ見据えた。
「おかえりなさい…」
まだまりんのこと、覚えているんだね。
まりんとまた一緒にいたいと思ってるんだね。
色々いいたいことはあったけど…今は…。
「おかえりなさい…」
その言葉しか、僕の口からは出なかった。
許すことも、また、愛なのよ。
あの恋愛スペシャリストの言っている言葉があのときは全然わからなかったけど、今なら少し理解できる気がする。
許すことも、愛。許してしまえる。
置いてけぼりをくらっても、掴んだ手を振り払われても、馬鹿みたいに貴方が好きだから。
「おかえりなさい…」
「駿…」
〝おかえりなさい〟
仁さんは僕のその言葉に驚きに目を丸め…そして、そのまま膝を抱え座っていた僕の身体ごとぎゅっと力強く僕を抱きしめた。
「すまない…」
申し訳なさそうな仁さんの声が、心地よく耳に落ちる。
「すまない…」
大好きな、低い声。
「俺は…」
何をいうべきか迷っている仁さんの瞳が揺れていた。
いいのに、謝罪なんて…。
肩を落とし帰ってきた仁さんを見て、まりんを捕まえられなかったんだな…と気づき安堵した自分がいた。
まだ、ここにいられる。
仁さんの隣にいられる…と。
「仁さん、まだ…僕、家にいてもいいよね」
貴方がまた泣いて戻ってきても、落ち込んだ時も一緒にいたいから。
貴方が、まだまりんを思ったまま、彼女を手に入れてないのなら。また貴方は彼女のことを思い出してうだうだとしちゃうだろうから。
だから…。
「仁さんの…傍にいて…いいよね…」
「ああ…」
「このまま、ずっと…?」
「ああ…」
「ありがとう…」
仁さんの背に手を回し、胸元に頬を寄せる。
厚い胸板。すっぽりと僕を包んでしまえる腕。
「もう…置いて行かないで…」
呟けば、仁さんの拘束が返事をするように、きつくなった。
抱きしめてくれた仁さんの身体は凄く温かだった。
このまま、ずっと腕の中にいたいくらい…
とても、温かだった。
・
その夜、仁さんには沢山抱いてもらった。
お互いに気が高ぶっていたんだろうか。
いつもより激しいセックスをし、何度も何度も果てた。何度も何度もキスを貰った。
愛の言葉よりも、キスを。
溢れる感情よりも、激しい抽送を。
突き上げられる度、甘い声が漏れ、身体が痺れた。
なにか考える暇もないほどに、その営みは激しくて。
生も根もつきた頃、指先まで手を絡めて、二人とも泥のように眠りにおちた。
何度も抱いてもらっていたが、あんなに激しく気絶するくらいどろどろに溶け眠ってしまったのは初めてだった。
激しいセックスをしてどろのように眠りにおち…。次の日、僕は仁さんの腕の中で目を覚ました。
仁さんはすでに起きて瞼を開けた僕をみるなり、「今日は昨日のやり直しをしたい」と、真剣な顔で、いってきた。
「べつにいいのに…。ごろごろしたいんじゃなかったっけ?」
昨日、置いて行かれた分、抱いてもらったし、置いて行かれたのはショックだけど、改めて仁さんの想いの深さを思い知らされただけ。
だから、そんな気にやまなくったっていいのに。
「いや…あんなふうにお前を置いて行ったし…お前がいいなら、やり直しをしたいんだ…」
真剣なまなざしで、僕を見つめながらいう仁さんは、やっぱり惚れた欲目をさしひいてもかっこよくて…
僕は仁さんの申し出をありがたくうけて、クリスマス当日の今日も、仁さんと出かけることになった。
わざわざやり直してくれるだなんて、仁さんは僕の気持ちに気づき始めたんだろうか。
僕が、ただの興味で抱かれ傍にいるんではなくて、仁さんが好きだから傍にいることに。
聞いてみたい。
けど、もし聞いたとして、それが僕の望まない返事だったら…。
同情で、昨日のやり直しをしたいと言っているのなら…。
「駿?」
「あ、あの…今日どこいくの…?
僕昨日散々仁さんに付き合ってもらったし、行きたいとことくにないけど…」
話を逸らすようにいった僕に、とくに訝しむ様子もなく、仁さんは「じゃあ、俺の行きたいところでいいか?」と僕に尋ねた。
「行きたい場所?」
「そう…。お前と行きたい場所があるんだ…」
「別にいいけど…」
僕が了承すれば、仁さんは満足そうに笑い、僕の頭を一撫ですると、ベットから出て行った。
仁さんの行きたい場所か…。どこだろう…。
いつも家でのんびりするのが好きな仁さんなのに…。
ぼんやりと考えて、はた、と思いだす。今日という日を。
今日は、クリスマス。クリスマスといったら…
「仁さん!」
「ん?」
振りむいた仁さんに、背伸びして、真っ黒なマフラーを首にかけた。昨日、渡しそびれた枕元においてあったクリスマスプレゼント。
「メリークリスマス…だからプレゼント!寒いからマフラーにしてみました!」
仁さんに似合いそうな黒のカシミアのマフラー。
寒い日でも、コート1枚でいる仁さんに、手袋かマフラー買ったら?って言っていたんだけど、コートだけで大丈夫だ…って言い跳ねるから、クリスマスプレゼントとして買っていた。
クリスマスプレゼントとして買ったのなら、少しは使ってくれそうだし。
仁さんは「いきなりで首絞められるかと思ったぞ…」と笑い、その後「ありがとな…」と僕に礼をいった。
仁さんが行きたい場所は、自宅から少し距離があるらしい。
仁さんが行きたい場所まで車を出してくれるらしく、僕は簡単に支度をし車の助手席に乗り込んだ。っと、乗り込むとき、股関節が猛烈に痛みガクリ、と体制が崩れ落ちた。慌てて仁さんが大丈夫か?と僕の顔を覗く。その痛みに身に覚えのある僕はさっと顔を赤らめた。
「駿?」
「だ、大丈夫!」
「大丈夫って…。本当に大丈夫なのか?昨日、雪にふられてそのままで…風邪でもひいたんじゃ…」
心配する仁さんにぶんぶんと首を振る。
あんなに雪にふられ、その後散々仁さんと抱き合ったけど、風邪はひかなかった。
この痛みは風邪とか病気ではない。
「違う違う…その…エッチが…ーーーしすぎたから…」
「え?」
聞こえなかったのか、なんだって?と聞き返す仁さん。
僕は真っ赤になりながらも、
「エッチが激しすぎたの!」と今度は大声で仁さんに言ってやった。
「あ…ああ…」
今度は仁さんも真っ赤になって、ぼりぼりと頬をかく。
「そ…そうか…」
「そうです…」
「そうか…あ、い、いくか…」
仁さんはどもりながら、車のキーを回す。
僕も助手席のシートベルトをしめた。
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