槇村焔

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3章

12ーside駿

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駿side

 仁さんの家に無理やり押しかけて、同居させることを了承させた僕。
僕がまず最初にやったことは部屋の掃除と、仁さんの生活改善からした。

 非力な僕なんかに押し倒されるくらい弱っていた仁さんは、こと健康に対してはルーズであった。

 お酒はのむし、夜更かしもする。
休日は家でゴロゴロし、運動なんかしない。ご飯だってコンビニ弁当がほとんどだ。
仁さんは僕が知らないうちに、煙草を吸うようになっていたようで、イライラすると日に何本も吸っていた。
休日はソファーでごろごろしながら、煙草を加えたまま、スマホ片手に1日をおえることも多かった。
服装も簡単なTシャツやジャージ、それかださいスウェットがほとんど。

 真面目でいつもカッチリしていた仁さんも、人が見えていないところでは、だいぶ緩んでやさぐれていた。


「仁さん、それ、今日で何本目?
そんなに吸わないでよ!部屋がけむくなります!」
「…嫌なら出ていけばいいだろう…」
「そんな問題じゃないの!タバコなんて百害あって一利もないんだから。
お金の無駄!タバコなんて辞めて、ガムでも食べてよ。頭とかスッキリするよ」

家ではよく注意する僕。それをうるさそうに交わす仁さんというのがお決まりになっていた。
一緒に住むようになってわかったことだけど、仁さんは実は凄く子供っぽかった。
すぐふてくされたり、むきになったり。

無理矢理居候を承諾させたけど、仁さんはできるだけ僕とは顔をあわせぬように、休日は自分の部屋に籠もっていた。顔をあわせればお小言を言う僕を、内申では凄く追い出したいと思っていただろう。


仁さんは無理に追い出すことはなかった。
ただ必要以上に干渉せず、僕が部屋を掃除しても料理を作っても何もいわず黙っていた。

仁さんは、僕の前ではふてくされている態度はとるものの、基本的には激しく怒ったりすることはなかった。
僕がやることなすこと、無関心を貫いている。
仁さんは昔、テニスやゲームという趣味もあったはずなんだけど、まりんと別れて以来色んなことに無気力になっていた。

ただ、僕がまりんのものを捨てるときは激怒していた。ふっきれた…と、友達にはそういっていたものの、本当は全然ふっきれていないのだ。

「俺のものだ。俺のうちだ…勝手にするな…」

そう忌々しくいって僕の頬を叩いたこともある。
叩かれた頬がじんじん痛み、ショックを受けたけど、僕も負けじと仁さんにビンタを入れた。

「うるさい…!こんなものあるから、いけないんだ…!悔しかったら、自分で捨てろ!」

まりんのものを捨てるのに、それから何度も仁さんと喧嘩した。捨てたがる僕と、残したがる仁さん。

「捨てればいいんだろ…。捨てれば…」

僕が文句を言い、逆上した仁さんは、ある時初めて自分の意思でまりんが残したものをゴミ箱に投げた。
投げ捨てられたのは、まりんに与えた指輪だった。
まりんに置き去りにされ、捨てられた仁さんに重ねられた指輪。

それだけは捨ててほしくなかったから、指輪だけは僕が貰った。
まりんへのプレゼントだったけれど捨てられた指輪は、僕にとって仁さんに重なって見えたから。


「この指輪、僕が貰っていい?」
「なんでそんなお古の指輪なんか…」
「いいの…これで。ね、いいの?悪いの」
「俺はもう捨てたんだ…勝手にしろ…」
「うん、勝手にする」

ゴミとして捨てられた指輪が、僕のものになった日。
まりんのお古だったけれど、その指輪は僕の宝物になった。


 仁さんの為に、掃除だけじゃなく料理もした。
簡単な料理だったら本など見なくてもすぐできる。
高校の時からいまの飲食店でバイトもしてきたから、レパートリーだって少なくない。
ただ家を出たいという一心で飲食店のバイトをしてきたけれど、今ではやっていて良かったと思う。


 僕がやることになにも言わない仁さんだけど、本当に勝手にしろ…って感じで、用意した仁さんのぶんの食事を作ってもなかなか食べてくれなかった。


食事をとらず、僕に冷たくあたりつづければ、僕が嫌気をさしてこの家からでていく、そんな算段があったんだろう。

そんなことじゃ、僕は出ていかないのにさ。

冷たく当たり、子供っぽくふてくされる仁さん。
そんな仁さんに母親の様に叱り本心を隠して傍にいる僕。
しっかりした仁さんのちょっとだらしないところ。
きっとまりんにも…ほかの女の人にも見せられない、だらしない姿。
わがままでも子供っぽくて偏屈な仁さんも。たまらなく愛おしいと思う。
どんな仁さんも、全部好きだなぁ…なんて、そんなことを言える自分を僕は呆れつつも誇りに思うのだった。

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