槇村焔

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1章

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「どうして、僕はみんなと違うの?」



幼い頃から、両親の接し方は僕とまりんで違った。

家族なのに疎外感を感じることが多く、一人家に残されたことも多かった。

みんなで外食に行った時も僕だけ置いてきぼり。

みんなが旅行にいったときも、僕だけ連れてってもらえなかったり。





「どうして、僕とまりんで同じじゃないの」

「貴方は周りと違うからよ」



幼い僕に、両親はいつも冷たく返した。



どうしてチガウの?どうして、だめなの?

僕の疑問に身近な大人たちはきちんと答えてくれることはなかった。

ただ鬱陶しそうに、



「あなたは異常なのよ。

貴方を養っているのは、産んでしまった義務だけ。産んでしまったことを後悔してるわ」



毎回そうぼやいていた。



 両性の中途半端な生き物。



 僕は身体も小さい。

身長も160以下と男の平均よりも低い。

美しく愛らしいまりんに比べ、僕の身体は貧相でいくら食べても太らない。



抱きしめても柔らかさを感じない体。

女の人のように胸も成長しない。

ペニスだって男にしては小さいだろう。

どっちの性にも該当しない中途半端な存在なのである。





 抱き締めたら柔らかそうで、ふわふわとした笑顔で笑うまりん。

かたや、ガリガリで根暗で可愛さのかけらもない僕。

話題豊富な甘え上手なマリンに、冗談のひとつも言えない他者に壁を張り拒絶する僕。





両親は、まりんばかりを可愛がり、僕のことを腫れ物のようにあつかっていた。

存在しないように、存在を周りから隠すようにして人前に出るのを嫌がった。





「あなたを理解できない。

普通じゃない貴方といると、息がつまるの。どうして、こんな異常なものを生み出してしまったんだろうって」



何度も僕に彼らは言い聞かせた。僕が異常だからいけないんだ…と。

実の子供なのに相手をしないのは、僕のせいだと。まるで、呪いのように。





「普通だったら良かったのに。そしたら少しは愛せたのに。



どうして、生まれてきたのかしら。

まりんとは全く違うあなたのような存在が。まりんみたいな綺麗な子だったらよかったのに…。まりんみたいな…」



まりんのようだったら、良かったのに。

本当にそう思ったよ。何度も。



 両親はまりんのように愛らしい子がもう一人欲しかったらしい。

でも生まれたのは、僕のような冴えない容姿の、それもふたなりで…。

両親は期待を裏切った僕に冷たく当たりつづけた。

他にも、色々あって両親は精神が病みそれを発散するために僕にあたり続けた。

僕が異常というのなら、彼らもまた、病気だった。





 この世界で、ふたなりが全くいないわけではない。

ふつうに暮らしている人間だっている。

でも、強い嫌悪を抱く人も一定はいるもので。



僕の両親も、僕の存在を持て余していた。

この身体に触れてくれたことなど稀だった。



会話も必要最低限なもののみ。



辛うじて死なない程度に食事を与えられるくらい。死んだら世間体が不味いから、生かされていたんだろう。



僕に対して普通に接してくれたのは、仁さんと同じふたなりの仲間だった。





『僕たちは、ふたなりだからね、普通を望まないのが幸せなんだよ』



僕と同じふたなり仲間が言っていた。



『ぼくらは何者でもないから受け入れる方が難しいんだ。

頭では自分と違うからと、差別するのはいけないってわかっている。



わかっているけど、それでも「区別」してしまうのが人なんだ。

人が好きだと思う感情と同じように、人が嫌いだと思う感情は誰も持ち得るものなんだよ。



そんなボクらを、それでも好きと言ってくれる人がいたら、僕は奇跡だと思うし、僕はその人を死ぬまで愛すると思うな。

きっと――ね…』



そういった彼の隣には、彼の事を慈しむように見ている男がいた。

彼はきっと、そんな奇跡に巡りあえたのだろう。







 人の噂はどこからたつかわからないもので、今も昔も僕は自分がふたなりということを口外していなかったのだが、いつも学校では虐められていた。



いつぞやは、裸に剥かれ、あまつ自分では触らない場所を触られたこともある。

あのときは、本当に怖くてただただ震え泣いていた…。



『お前たち…なにをしている…』

泣き叫ぶ僕を、まるでヒーロー みたいに助けてくれたのが、仁さんだった。





仁さんは、何度も僕が虐めを受けている時は助けてくれた。

一度だけじゃない、何度も僕は仁さんに助けられてきた。



『仁さん…』



仁さんは、いつも僕がなくと僕が泣き止むまでそばにいて背中を撫でてくれた。

いじめっこに対し本気になって叱ってくれた。

両親などは、僕が虐められても僕の身体がいけないと言っていたというのに。

彼は、いつだって物事を公平に見ていて、僕のことだって特別扱いせずに普通に扱ってくれた。





『仁さんは僕のこと…気持ち悪い?』

小さい頃、不安だった僕に

『いや、お前は気持ち悪くないよ…

お前はお前だ。』



仁さんは、言葉をくれた。

僕は、ボク。



《異系で、ぼくらは何者でもないから。受け入れる方が難しいんだ。

そんなボクらを、それでも好きと言ってくれる人がいたら、僕は奇跡だと思うし、その人を死ぬまで愛すると思うな》



僕の奇跡は、仁さんに会えたこと。

誰も味方がいない僕の〝唯一〟それが、仁さんだった。

 

 僕はふたなりだけど、顔は地味な男の顔だし思考も男だ。

女の子のように着飾りたいとも思わなければ、女のように扱ってほしいとも思わなかった。

化粧だってしたくないし、スカートだって、はきたくない。女として見て欲しくない。

疑似な女になりたいわけじゃない。

身体はふたなりだが、思考も顔も男。

ただ、仁さんについてはこと思考は乙女になった。



仁さんに抱かれたい。

あの逞しい腕に抱かれて、愛してると囁いてほしい。

仁さんと一緒にいたい。仁さんといるためなら、似合わないスカートだってはける。

仁さんのこととなると、たちまち僕は乙女になる。



仁さんが一番。

仁さんを、愛してる。

仁さんの唯一になりたい。

仁さんの番になりたい。



あの真面目で孤高な空気を持つ狼のような、仁さんとずっと一緒にいたい。

沢山の愛なんかいらない。

他の人の思い出もいらない。



ただ一つ。ただひとつだけのものが欲しい。

他の人にどれだけ嫌われたってちっとも苦ではない。僕が欲しいのはたった1つだけだから。

この燃え上がる様な気持ちはきっと、愛だった。



僕は男である仁さんに恋をしていた。





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