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永遠編
136.気になっていたこと
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今回のお茶会でも、俺の交友関係はまた少し拡がった。まだ結婚していないけど、皆もう俺のことはリュシェール公爵家の者として扱っているようで、公爵家があることによる期待だとかを皆嬉しそうに語ってくれた。
この日集まっていた貴族は皆王族派だ。対立する派閥は貴族派があるけど、全体の二割にも満たないため今のところは驚異じゃない。レオの兄様方のお相手も皆王族派だしね。それでも、いつその派閥が大きくなるかは分からない。その為にもリュシェール公爵家という存在は抑止力としてとても大きなものだということがよくわかった。
その力の一部になる、ということが俺にとって若干のプレッシャーになったのは言うまでもないけど、そこは跳ね除けてやろうと思う。
会話も弾んですっかりいい時間になったころ、フィンツィ家の使用人に声をかけられた。
「リュシェール公爵様がお見えです。」
「そうですか、ありがとうございます。」
あ、そうか迎えに来るって言ってたな。ベルタ嬢と皆に挨拶して……。……と思っていたら、どこかで待っていると思っていたレオが部屋に入ってきて俺の腰を抱いた。身体を真横にピッタリくっつけている。
「え、レオ!?」
「待ちきれなくて来てしまった。帰ろう?」
「か、帰るけど、これ恥ずかしいんだけど……」
レオは綺麗に微笑むと、皆の方に顔を向けて、よく通る声で挨拶を述べた。
「皆様、本日は私の婚約者がお世話になりました。これにてお暇致します。これからも是非仲良くしてくださると嬉しいです。」
そう言うと、『さ、行こうか』と手を引かれて連れていかれそうになったから、大慌てだ。自分の口で挨拶したいよこういうのは! レオの手を解いて、ベルタ嬢の所へ赴く。
「ベルタ嬢、今日は招待ありがとう。今度手紙で、今日出されたスイーツについて教えてくれますか?」
「ええ、もちろんですわ。調べておきますわね。」
「ありがとう。では、また! 見送りはいいので。」
よし、次は皆様へご挨拶をしなければ。
「皆様、ありがとうございました。これにてお暇いたします。またお会いしましょう。」
「ええ、また是非!」
「カイト様のお勧めのお店、また教えてくださいましね。」
「あ、それなら一つ。三番街の横道に入ったところにある、小さなお店おすすめですよ。ふふ。」
「あら! ありがとうございます。早速伺ってみますわ。」
「へえ。わたくしも行ってみようかしら。」
「ぜひぜひ。では、また!」
よし、ちゃんと挨拶を終えたぞ。俺はレオの方に向きを変えてコソコソと文句を言う。折角の社交が台無しになるとこだったんだから当然だな。
「ちょ、挨拶ぐらいちゃんとさせろよ! 失礼だろ!」
「ごめん、もう挨拶したのかと思ってた。」
「しっかりしろよ、公爵だろ。」
「おっしゃる通りです……。」
ちょっとしょんぼりしているレオと、使用人について歩く。長い廊下を過ぎ、玄関をくぐり夏の香りがする庭園を抜けて、馬車へと乗り込んだ。間もなくして馬車が動き出すと、ふぅ、と一息ついた。
「そんなに待ちきれなかった?」
「うん、カイがいない一人の時間は、やっぱり寂しいよ。出会うまでは一人のようなものだったのに、変な感じだ。」
「仕事以外は大体一緒だもんなぁ。……あ。ただいま、レオ。迎えありがと。」
「おかえり。はぁ、カイがいる……」
しみじみとしているレオを横目で見ていると、可愛いなぁ、と笑みがこぼれた。たった少し離れていただけなのに、寂しくて気がせいちゃったとか。俺依存か~~? ってこれは調子に乗りました。はい。
脳内で茶番を繰り広げていると、ふと思い出したことがあった。気になっていたのに、タイミングを逃してからすっかり忘れていたこと。思い出したらやっぱり気になるし聞いておこう。
「そういやすっかり聞きそびれてたんだけど、レオさぁ、俺に隠してることとかないよな?」
「え、突然だね? 特にないけど。どうして?」
背中を起こして、しゃんと座ったレオは、じっと俺の顔を覗き込んでいる。
「いや、俺最初、ジュリオたちがこっちに来るとか聞いてなかったし。結構さ、知らされずに出かけることとかもあっただろ? 今までのは、その……後で知って嬉しかったことだけだけど、その逆があったら嫌だなって思って。」
「逆……? 悲しいこととか辛いこと?」
「そ。俺が泣いちゃうようなこと。」
「……俺が、カイを泣かせるようなことほっとくわけないでしょ……?」
冗談めかして言っただけなのに、なぜかレオが辛そうな表情をしている。そう思われたのが嫌だったとか?
「そりゃわかってるけど……でも不安だからこうやって聞いてるんだよ。」
「そう、だね。ごめん。隠していることは無いよ。例えあったとしても、悲しかったり辛かったりすることは絶対にないから。ジュリオとエレナのことは、単に言い忘れてた……ごめんね。」
「……うん。」
「あと、これは……まだ別に言うべき時じゃないから言うつもりがない事が一つある。」
ん? なんだって?? なんかこんがらがりそうなこと言わなかった??
「き、気になる……」
「だよね! うーんと、結婚して子供を持って……大きくなって継がせたら、俺は自分に呪いをかけようと思ってる。」
「は? 呪い……?」
いきなり物騒なワードが飛び出して、びしりと固まる。いやいやいや呪いってなんだよ耳障り悪すぎなんすけど。
「あはは、そんな顔しないで。俺がかける呪いは、“カイが死んだら、俺も死ぬ”呪いだよ。」
「…………道連れってこと?」
「ま、そうだね。死ぬ時は一緒がいい。」
「そういうことね……。」
でもそれは気持ちわかるなぁ。残された人達にとっちゃあれかもだけど。
「言ってないことはそれだけ。……他に何かある? なんでも言って欲しい。」
レオは真剣な顔をして俺を見つめている。俺が不安にならないように、まっすぐ強い瞳で。ああ、この瞳は嘘をつかないな、なんて思えるほどだ。
「ないよ。それだけ聞けたら充分。」
「そう? 何かあったらすぐに言って。ね? 」
「……うん。」
その後は、ずっとレオにくっついて馬車に揺られていた。あんな話を聞いたからか、今隣にある温もりが無くなることを考えてちょっと泣きそうになってしまった
この日集まっていた貴族は皆王族派だ。対立する派閥は貴族派があるけど、全体の二割にも満たないため今のところは驚異じゃない。レオの兄様方のお相手も皆王族派だしね。それでも、いつその派閥が大きくなるかは分からない。その為にもリュシェール公爵家という存在は抑止力としてとても大きなものだということがよくわかった。
その力の一部になる、ということが俺にとって若干のプレッシャーになったのは言うまでもないけど、そこは跳ね除けてやろうと思う。
会話も弾んですっかりいい時間になったころ、フィンツィ家の使用人に声をかけられた。
「リュシェール公爵様がお見えです。」
「そうですか、ありがとうございます。」
あ、そうか迎えに来るって言ってたな。ベルタ嬢と皆に挨拶して……。……と思っていたら、どこかで待っていると思っていたレオが部屋に入ってきて俺の腰を抱いた。身体を真横にピッタリくっつけている。
「え、レオ!?」
「待ちきれなくて来てしまった。帰ろう?」
「か、帰るけど、これ恥ずかしいんだけど……」
レオは綺麗に微笑むと、皆の方に顔を向けて、よく通る声で挨拶を述べた。
「皆様、本日は私の婚約者がお世話になりました。これにてお暇致します。これからも是非仲良くしてくださると嬉しいです。」
そう言うと、『さ、行こうか』と手を引かれて連れていかれそうになったから、大慌てだ。自分の口で挨拶したいよこういうのは! レオの手を解いて、ベルタ嬢の所へ赴く。
「ベルタ嬢、今日は招待ありがとう。今度手紙で、今日出されたスイーツについて教えてくれますか?」
「ええ、もちろんですわ。調べておきますわね。」
「ありがとう。では、また! 見送りはいいので。」
よし、次は皆様へご挨拶をしなければ。
「皆様、ありがとうございました。これにてお暇いたします。またお会いしましょう。」
「ええ、また是非!」
「カイト様のお勧めのお店、また教えてくださいましね。」
「あ、それなら一つ。三番街の横道に入ったところにある、小さなお店おすすめですよ。ふふ。」
「あら! ありがとうございます。早速伺ってみますわ。」
「へえ。わたくしも行ってみようかしら。」
「ぜひぜひ。では、また!」
よし、ちゃんと挨拶を終えたぞ。俺はレオの方に向きを変えてコソコソと文句を言う。折角の社交が台無しになるとこだったんだから当然だな。
「ちょ、挨拶ぐらいちゃんとさせろよ! 失礼だろ!」
「ごめん、もう挨拶したのかと思ってた。」
「しっかりしろよ、公爵だろ。」
「おっしゃる通りです……。」
ちょっとしょんぼりしているレオと、使用人について歩く。長い廊下を過ぎ、玄関をくぐり夏の香りがする庭園を抜けて、馬車へと乗り込んだ。間もなくして馬車が動き出すと、ふぅ、と一息ついた。
「そんなに待ちきれなかった?」
「うん、カイがいない一人の時間は、やっぱり寂しいよ。出会うまでは一人のようなものだったのに、変な感じだ。」
「仕事以外は大体一緒だもんなぁ。……あ。ただいま、レオ。迎えありがと。」
「おかえり。はぁ、カイがいる……」
しみじみとしているレオを横目で見ていると、可愛いなぁ、と笑みがこぼれた。たった少し離れていただけなのに、寂しくて気がせいちゃったとか。俺依存か~~? ってこれは調子に乗りました。はい。
脳内で茶番を繰り広げていると、ふと思い出したことがあった。気になっていたのに、タイミングを逃してからすっかり忘れていたこと。思い出したらやっぱり気になるし聞いておこう。
「そういやすっかり聞きそびれてたんだけど、レオさぁ、俺に隠してることとかないよな?」
「え、突然だね? 特にないけど。どうして?」
背中を起こして、しゃんと座ったレオは、じっと俺の顔を覗き込んでいる。
「いや、俺最初、ジュリオたちがこっちに来るとか聞いてなかったし。結構さ、知らされずに出かけることとかもあっただろ? 今までのは、その……後で知って嬉しかったことだけだけど、その逆があったら嫌だなって思って。」
「逆……? 悲しいこととか辛いこと?」
「そ。俺が泣いちゃうようなこと。」
「……俺が、カイを泣かせるようなことほっとくわけないでしょ……?」
冗談めかして言っただけなのに、なぜかレオが辛そうな表情をしている。そう思われたのが嫌だったとか?
「そりゃわかってるけど……でも不安だからこうやって聞いてるんだよ。」
「そう、だね。ごめん。隠していることは無いよ。例えあったとしても、悲しかったり辛かったりすることは絶対にないから。ジュリオとエレナのことは、単に言い忘れてた……ごめんね。」
「……うん。」
「あと、これは……まだ別に言うべき時じゃないから言うつもりがない事が一つある。」
ん? なんだって?? なんかこんがらがりそうなこと言わなかった??
「き、気になる……」
「だよね! うーんと、結婚して子供を持って……大きくなって継がせたら、俺は自分に呪いをかけようと思ってる。」
「は? 呪い……?」
いきなり物騒なワードが飛び出して、びしりと固まる。いやいやいや呪いってなんだよ耳障り悪すぎなんすけど。
「あはは、そんな顔しないで。俺がかける呪いは、“カイが死んだら、俺も死ぬ”呪いだよ。」
「…………道連れってこと?」
「ま、そうだね。死ぬ時は一緒がいい。」
「そういうことね……。」
でもそれは気持ちわかるなぁ。残された人達にとっちゃあれかもだけど。
「言ってないことはそれだけ。……他に何かある? なんでも言って欲しい。」
レオは真剣な顔をして俺を見つめている。俺が不安にならないように、まっすぐ強い瞳で。ああ、この瞳は嘘をつかないな、なんて思えるほどだ。
「ないよ。それだけ聞けたら充分。」
「そう? 何かあったらすぐに言って。ね? 」
「……うん。」
その後は、ずっとレオにくっついて馬車に揺られていた。あんな話を聞いたからか、今隣にある温もりが無くなることを考えてちょっと泣きそうになってしまった
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