また出会えたらその時は

華月

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騒乱編

125.傍に side.桐矢

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 海斗の婚約者、レオナルド王子から接触があったのは、海斗と再会した次の日だった。正直まだ傷も癒えてねーのに鬼かよって思ったわ。取り繕うのしんどいんだけど?

 夕方、海斗と再会した部屋で待っていると、くだんの人物は『レオナルド王子の指示に従うように』と書かれたロラン殿下からの書簡を引っさげてきた。くそ、悔しいが顔がいいな。
 ロラン殿下がクソみたいな問題を起こしやがったのは聞いていたから、きっといろいろとやり取りがあった上での接触なんだろうなと察しが着いた。

「ロラン王子が捕らわれているのは知っているな?」
「聞いています。」
「……ひとつ聞くが、お前はロラン王子とカイト、どちらを取る?」
「海斗ですね。」

 もちろん間髪入れずに即答だ。どんな理由があったとしても、俺が最優先するのは海斗一択だからな。それは何があっても揺るがない。

「はは、さすがここまで追ってくる親友殿の想いは伊達ではないな。」
「それはあんただって同じだろう? 王子様?」
「分かりきったことを。……さて、ここからは仮とはいえ主従関係だ。言葉には気をつけるといい。」

 ピリッと空気が一変する。流石は王族ってかんじ? すげー圧。

「は、これは失礼を。」
「ロラン王子と我が国の貴族が共謀して、カイトをブランシャールで囲おうとしていた。王子が吐いた。王子が捕まった事により、貴族が単独で動くかもしれないと言う話だ。実際手を汚すのは下働きの連中だが、そこにはブランシャールの騎士一名も含まれている。そこで、だ。貴殿には、今その任に宛てがわれている騎士と成り代わって欲しいのだ。」
「……ロラン殿下が捕まっているのに、騎士は置いたままなんですか? 貴族に花を持たせて何の益が?」
「逆だ。捕まっているからこそ、撤退の指示が出せないんだ。こうなることは想定していなかったようだな。詰めが甘い。」
「ああ、なるほど……。それを利用しようってことですか。」
「話が早くて助かる。人質を使って脅されれば、カイトは必ず出向く。その時に貴殿が傍にいれば安心だろう。非常に優秀だと話に聞いている。」

 言いたいことはわかるけど、なんでこの王子は淡々と自分の婚約者が攫われる前提で話してんだ? おかしいだろ。まずそうならないようにするもんじゃねーの? わざわざ危険に晒す意味がわからない。一番避けたいことだろうが。

「海斗が攫われる前提で話されてますけど、まずはそうならないようにするのが先では? 貴族は捕らえることはできないんですか。」
「名を聞いた時点で出向いたが、既に邸は空だった。まだ見つからない。誰かが誘拐された話もないから、人質もまだいないのかもしれない。手がかり不足なんだよ。王子に吐かせた場所も捜索したが、読まれていたのか誰もいなかった。」
「事が起こらないと何もかもがわからないってことですか……。」
「そういうことだ。俺も考えあぐねているんだよ。」

 最ッ悪じゃねーかよ。まあこの王子も、海斗を為す術なく送らねばならない状況でどうしようもないんだな。じゃなきゃ俺に大事な海斗を預けるような真似しないだろ。

「海斗を守るためなら、その騎士に成り代わることもしましょう。でも、ロラン殿下からの指示とはいえ、俺は仕える主人は自分で決める。

……裏切り者の立場として単騎で潜るんです、ひとつ、条件を聞いていただけませんか。」

 ま、海斗の幸せの根底はこの王子にあるだろうから、海斗と同じように大事にするさ。でも俺だってさ、頑張って引いてんだからおねだりの一つくらいよくね? ……戦争になれば速攻危険地帯に放り込まれる騎士のくせに理由が甘っちょろいけどな!

「……なんだ。聞くだけ聞いてやる。」
「無事済んだら、俺をどうにかしてバルテルの騎士団に入れてください。」
「…………お前……。」
「あ、勘違いしないでくださいよ? 俺はただ、海斗の近くに居れたらそれでいいので。手なんて出しませんよ、死にたくないし。それに……」 

 レオナルド王子は俺と視線を合わせたまま逸らさない。気圧されそうになるけど耐える。

「俺、んで。」
「────ッ!」

 すました顔が一瞬崩れた。あれ、今の地雷でしたか。してやったり。
 レオナルド王子は、はぁ、とため息をついて、渋々という様子で条件を飲んだ。

「……背に腹は代えられない。わかった、何とかしてみよう。では、頼まれてくれるか。」
「御意に。」
「……なかなか食えない男だな。」
「はは、なんの事です?」

 そんなこと言ってるけど、この王子もなかなかのもんだと思うけどな? いろいろと心当たりがあるようだし? まぁなんにせよ、俺は海斗の邪魔はしない。あいつを泣かせるのだけは勘弁だからな。
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