また出会えたらその時は

華月

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騒乱編

104.隣国の使節団

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 身支度を終え、あとは待つだけ。今日は件の使節団が来る日だ。
 今日の俺の衣装には、やはりと言っていいのかレオの色が差し込まれている。今回はベストとジャケットの裏地。レオはといえば、王子様モードなので俺よりももっと装飾品が色々付いていて非常に豪華でかっこいい。そのかっこいい中に、俺の“黒色” が入っている。

「カイト様、そろそろ謁見の間にお願いします。」
「わかった。」

 ジュリオから移動を告げられる。もうすぐ隣国、ブランシャールからの使節団が到着するようだ。
 長い廊下を少し緊張気味に歩いていると、ジュリオが声をかけてきた。

「カイト様、少し緊張なさってますね? 緊張感も大事ですが、それに囚われすぎないように。周りをよく見ることを忘れないでください。」
「……そう、だね。うん、頑張ってみるよ。ありがとう。」

 確かにそうだ、ガチガチになって視野を狭めてしまうのはよくない。気づけるものにも、気づけなくなってしまう。
 ふう、と息を吐くと、頬を両手でパンッと叩く。結構いい音がしたからかジュリオを驚かせてしまった。

「よし!」






 謁見の間に着くと既に多数の貴族達が集まっていて、中央に敷かれた赤い絨毯の花道を挟んで皆おしゃべりに花を咲かせている。事前に聞いていたレオの場所を探すと、壇上には陛下と王妃が、その少し下段の左右にレオとその兄妹たちが勢ぞろいしていた。いつもはみんな座っているけど、今日は陛下と王妃以外は立ちっぱなしだ。歓迎の意を表しているのだろうか。

 壇上の玉座と王妃の席に座っていた国王夫妻に挨拶を済ませ、レオの側へと寄る。

「レオ」
「カイ、来たね。」
「いや俺、ホントにこの位置でいいの?」

 婚約者だからレオの隣らしいけど、いくら端っこでも皆の正面にいるのは正直落ち着かない。ここまで来てそんなこと言ってビビってんじゃねえ! ってかんじだけど、すごい晒されてる気分……。

「もちろん。ほら、兄上の婚約者や王子妃、王太子妃もいるでしょ。」

 ふと目線を向けると、確かに皆さんお揃いだ。ラヴィの婚約者は他国だからいないけれど。

「わ、わかった……。」

 大人しくレオの隣に収まると、広い謁見室に声がかかった。

「静粛に! ブランシャールの皆さんのご到着です!」

 重厚な扉が開け放たれると、隣国ブランシャールの使節団が入ってきた。先頭は、第二王子のロラン王子だ。今回は外遊も兼ねているとか。その後ろに使節団の団長と、たくさんの献上品を運び込む使用人たちや護衛が続々と続いた。

 全員が入り切ると、ロラン王子より後ろの者たちは全員膝をつき、ロラン王子は胸に手を当て腰を折ってお辞儀をした。

「初めまして。ブランシャール国 第二王子ロランと申します。この度はお目にかかれて光栄です。」

 そう言って顔を上げると、にこりと微笑む。レオもよくやる王子スマイルだ。

「ロラン王子、ようこそおいで下さった。其方の訪問を歓迎する。外遊も兼ねていると伺っておるゆえ、ゆるりと過ごされよ。」
「歓迎いただき感謝致します。こちら、僅かではありますが我が国の特産品などをお持ちしました。お納めください。」

 ロラン王子の少し後ろにいた使節団長が、近くにいた役人にすっと巻いた書簡を差し出した。

「こちら目録になります。ご確認ください。」

 役人はしゅるりと書簡を開くと、最初の数行を確認してまた元の形に戻す。

「目録、確かに受け取りました。後ほど照合し検品させていただきます。」

 役人がすっと礼をして下がると、陛下が立ち上がる。

「夕刻より歓迎の宴を行う。それまで各自適宜過ごしてくれ。」

 陛下の言葉が終わると同時に、ロラン王子の元へエドアルド様が近寄り、挨拶をし握手を交わしている。恐らく、ロラン王子の接待役を任されているのだろう。
 周りで見ていた貴族たちも各々動き始めたところで、俺はようやく詰めていた息を吐いた。

「ふぃー……。」
「なんとかなったろ?」
「まあ立ってるだけだったしね。」

 特に何もせず突っ立ってるだけだったからまだ何とかなったようなものだ。それでも、ちらちら目線が泳ぐだとか震えるだとか、そんな事があると注目の的になってしまう。立ってるだけというのも緊張するものなんだと初めて知った。……初めての夜会の時、よく俺挨拶なんて出来たよな……。勢いがあったからか?

 エドアルド様とロラン王子の話が終わったようで、エドアルド様の案内で退出しようとする姿を見送っていると、ロラン王子にすっと近づいた騎士の顔がちらりと見えた。



「──────え。」


 目を凝らしてもう一度見てみる。


「嘘だろ……」
 

 間違いない。俺、視力だけはめちゃめちゃいいから。

 髪の色も、恐らく瞳の色も違うけれど、見間違えるはずがないあの顔は。





「……桐、矢きり や…………。」




 元いた世界での親友、東雲桐矢しののめきりやだった。
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