また出会えたらその時は

華月

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妖精編

79.つるんでたいつメンとおっちゃんたち。

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 昼間はゆっくり過ごして、少し魔物も狩って。
 同日夕方、カランカラン、と入店を告げるベルが鳴る。

「おっ、来たな! 久しぶりだなぁカイ、レオ!」
「あらほんと。 おかえり~!」
「うわー久しぶり! ただいま、ラウロさんルフィナさん!」
「ご無沙汰してます。」

 店に入っていの一番に気づいた店主のラウロさんと奥さんのルフィナさん。覚えててくれた! 嬉しくて頬が緩んでしまう。すると、あちらこちらから俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

「お、カイト! 記憶喪失治ったか~?? 久々に見てもやっぱ可愛いなぁオイ」
「こら! レオに睨まれるからやめろ!」

「今日きてよかったー! カイ、俺とも後で話そ!」
「久しぶりだなぁ。ジル坊がここ最近ずっとそわそわしてたのこれか! レオも一緒だな。やっぱアレは本当だったか……」

 常連さんたちも覚えててくれたんだ……! ええ、ちょっと嬉しい……!

「おっちゃんたち久しぶりー! 元気してた?」

「おー元気元気! 俺たちゃいつも通り入り浸ってるぜ!」
「ジル坊たち待ってるから行ってやれ!」

 くいくいっと親指ではじのテーブル席を指されると、ジルドたちがひらひらと手を振っているのが見えた。

「うん、行ってくる! ありがと! レオ行こ。」
「……ん。」

 おっちゃんたちの席の間を縫うように移動して、ジルドたちの席にたどり着くと久しぶりのメンバーがいた。
「おーみんな久しぶり!」
「本当にな! いつになったら落ち着くのかと思ってた。」

 ジャンはやれやれと笑っている。

「や、ほんといろいろあったんだって。」
「とりあえず座って。レオも、ほら。」
「ああ。悪いな。」

 ルーベンが、俺たちのために空けてくれてあった席に座るよう促したから、遠慮なく座らせてもらった。

「で、だ。レオも一緒に来たということは……?」

 ジルドが、俺とレオを交互に見比べて訝しげな表情をしている。あ、そうだった! 彼らにも報告しとかないと。いやーしかし変に緊張するし照れくさいなぁ。

「うん、実はあの、「うわーーーッ、待って、ちょっと待って! 心の準備させて!」」

 割って入ったルーベンにびっくりして言うのをやめた。三人は、すーはーと深呼吸をしている。心の準備なんて大袈裟な。

「はぁ、ごめん、どうぞ……。」

 死んだ魚の目になっているルーベンに促されて、再び報告をしようと口を開く。

「あ、うん、えーと……俺とレオ婚約したんだよね。」
「そういうことだから、ちょっかい出すなよ?」

 レオ、甘い感じどこやったの? 顔が怖すぎだから! 

「ううわぁ……やっぱり情報は本当だったかーーー! あーくそ、レオが相手じゃ勝てねぇだろうが! いつから!? いつからおまえらそんな仲だったんだ!?」
「あー心臓が痛ぇ! 辛い……」
「んー、ここ出る時はまだ友達だったよ。その、告白はされてたけど。」
「じゃあやっぱ向こうついてからかぁ。あー俺たちの天使が!」

 天を仰ぐ三人がなんだか面白くて笑ってしまう。婚約したから更に会いにくくなっちゃうもんな。俺もちょっと寂しいもん。でも、レオと一緒なら会えるし大丈夫なのに。

「天使じゃないし! みんなしてなにしてんの。あはは!」
「うぅ、やっぱ可愛い……」
「はぁ……。ねえ、レオ。」
「ん?」

 ため息をついたルーベンが、レオに視線を送る。

「カイのこと、泣かせたりしたら承知しないから。もし辛い目にあわせたら、呪いをたっぷり詰めた呪具送り付けてやる。」
「それこそ心配いらない。俺は、カイを幸せにするためにいるんだから。幸せすぎて泣くことはあっても、その逆はないよ。」

 ああ、あったな、幸せで嬉しくて泣いたこと。思い出すと恥ずかしいわ。

「う、うん。俺幸せだから大丈夫!」
「カイ顔赤いぞ。くそ、見せつけやがって……。まあ、カイが幸せなら俺はいいや。でも辛くなったら言えよ? かっ攫いに行くからな。」
「俺も俺も! カイのためなら王子も怖くねぇからな!」
 ジルドとジャンがニヤリと笑って頭をわしわしと撫でてきた。
 あーみんな、俺の心配してくれるなんて優しいやつらだな。

「うん、ありがと。……って、みんな、レオが王子だってこと知ってんの?」

 あれ、お忍びで来てるのかと思ってた!

「この街の人ならみんな知ってるよ。街中で殿下殿下呼ぶのも危ないからさ、レオの人柄もあるけど、敢えてみんな気さくなの。全然忍んでないから、意味あるのかわかんないけどね。」
「街の改善したいところを進言してくれたり、これでも感謝してんだよ。仕事じゃないのに、ちゃんと見てくれててさ。」
「そうだな。この街の人はみんなレオが好きだぞ。だから、カイの相手がレオだって知った時は、辛かったけど安心したのもあんだよな。」

 へえ、俺が知らなかっただけで、レオは色々してたんだな。みんなに好かれてるなんて、中々ないよ。

「冒険者やってた時に、気になったことを城で話題に出しただけだから、そんな大層なもんじゃない。まぁ、この街は結構気に入ってるけどね。」
「レオ照れてるじゃん。素直じゃないなぁ。」

 レオは少し顔を赤くして照れていたけれど、それでも嬉しそうに少し微笑んでいた。俺も、レオがそんなふうに思われていて嬉しい。

「俺もこの街好きだし、みんなが仲良いの嬉しいや。ふふ。……あ。」

 レオが慕われていてほわほわした気分だったのが、すっと冷める感覚。……この和やかな空気で言いそびれるところだった。俺には、もう一つ言わなきゃいけないことがあったんだ。

 俺が、異世界人だってこと。

 陛下が宣言したから知っているとは思うけど。どんな理由があったにせよ、結果的に俺は皆に嘘をついていたことになる。もしかしたらもう疎遠になってしまうかもしれない。でも、これからも付き合っていきたいなら隠している訳にはいかないから。

「あのさ、みんな……俺、もう一つ言わなきゃいけないことがあって。俺さ、記憶喪失じゃなくて本当は──……」

 ジルドが、人差し指を唇に当てて、しーっ、てしてる。え?

「言わなくていい。……言いにくかったんだろ? お前見てれば、悪意があって隠してたわけじゃないってわかるし。神の愛し子だし?」
「そうそう。みんな知っても変わらず接しようって決めてるから、大丈夫。」

 驚いて声が出なかったけど、なんとか絞り出す。信じられない。

「うそ……。俺、嘘ついてたから、もう嫌われると思って……」
「嫌ってたらこんな風に話してないし、会った瞬間ぶっ飛ばしてるわ!」
「あ、そうか。それは……確かに。」

 確かにみんな、変わらず接してくれている。ラウロさんたちも、おっちゃんたちも、みんな。

「う、ありがと……」

 気づいたら涙がぼろぼろ出ていて、止められなかった。

「あ、バカ泣くなよ」
「俺たちが泣かしたみたいじゃんか! 泣きやめ! 肉やるから!」
「ほらレオどーにかしろ!」
「じゃあもう帰らないと」
「「「えっ」」」

 みんながわたわたと慌てているのが面白くて、今度は笑えてきてしまった。お酒が入っているせいもあって、俺の情緒はブレブレだ。……ああ、俺が目覚めたところがここでよかった。いつか、恩を返したい。

「おもしろいなーお前らは。これからも、よろしくな?」
「「「あたりまえだろ!」」」
「ハモりすぎだから!」

 息ピッタリすぎてめちゃくちゃ笑った。その後もたくさん話をしたけど、時間が経つのはあっという間で気づけば遅い時間になっていた。
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