また出会えたらその時は

華月

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記憶編

43.休日最終日

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 3日目は、どこかへ行きたいっていう漠然とした希望だったけれど、レオが行先を決めてくれた。城の北に、綺麗な泉があるのだとか。水遊びできないかな~っていう淡い期待を胸に、着替えとタオルを何枚か荷物に忍ばせておいた。
 今日は、俺とレオと護衛二人。王子なんだからもう少しつけたほうがよさそうなのにな。結界とか、張れるもんみんな張っとこ。

 馬で二時間ぐらい進むと、森に少し入った所が開けていて、澄んだ水がきらきらと陽光を反射させていた。寄ってみると、水底が見える。

「きれい……。」

 思わず声が出るくらい綺麗だ。すごい透明度。

「どう? 気に入って貰えたかな。」
「うん、ありがとうレオ。入ってもいい?」
「いいよ。気をつけて。」

 嬉々として服を脱ぎ出す俺に、待ったがかかった。

「ちょ……っと待て! 全身入る気!?」
「え、そうだけど?」

 だって、こんな綺麗なんだし泳ぎたくない??

「その、目のやり場が……。」
「は、はあ!? 常にそんな目で見てんの!?」
「ちが、……そりゃ、見るだろ! 好きな人の裸なんて! じ、自重して!」
「う、そ、そうかごめん……。じゃあ、シャツと下穿きは着てるから! それでいい?」
「…………うん。」

 あんなことしといて何ピュアなこと言ってんだと思わなくもないけど、まあここで盛られても困るから妥協した。服着てると泳ぎにくいけどしょうがない。
 すっかり服を脱ぎ終えて、つま先を水につけてみる。冷たい! けど、腰の少し上位までしかないから意外とすんなり入れた。

「レオも入ろ?」
「俺はここでいい……。」
「そ?」

 ざぶんと潜ってみると、水底に水面の光がゆらゆらゆらめいてすごく綺麗だ。そのまま上を向くと、太陽の光がきらきらゆらゆらしている。

(はあ、綺麗……おちつく。)

 音のない世界ときらきらな光をしばらく見ていたら、苦しくなって水面に顔を出す。息を整えてからまた潜った。

(あ、バブルリングとかできないかな。深さが足んないかぁ。)

 試しにやってみたら出来なかった。そりゃすぐには無理か。
 上を向いてじっと水面を見つめていた。小さな空気の泡が上に向かって行くのが見える。綺麗だなぁ……。力を抜いてたゆたっていると、ふと高校の頃を思い出す。

(学校のプールの中から見た景色もそんなに変わらないのに。ここは、異世界なんだもんな。)

 しみじみしていると、急に水から引き上げられた。ひんやりした肌寒さと、レオの声。

 俺はレオに抱き上げられていた。

「カイ!」
「!? ん、なんかあった!?」
「潜ったまま全然動かなかったから……。はぁ、よかった……」
「お、俺は大丈夫……。なんかごめん。はは、レオも濡れちゃったな。」

 潜ったの、そんなに時間経ってなかったと思うけど。うーん……。
 結局濡れたな、と笑っていたら、レオが何かに気づいたようにはっとして目を逸らした。

「…………! カイ、休憩しよう。服乾かさないと、ね? 君ね、透けちゃってるからね。」
「んなッ……!」

 自分の服を見下ろすとシャツは肌に張り付いているし、水の冷たさで乳首はピンと勃っていた。あ、あ~~~~、確かにえっちなマンガで見た事あるやつ……女の子の絵でだけど……。

 木陰に二人で座ると、レオが魔法で服と髪を乾かしてくれた。ふわりと心地いい。

「ありがと!」
「ん。ごめん、せっかく潜っていた所を。」
「ううん、俺こそ心配かけてごめんな。……もしかして、レオさ、また俺が早死にしないか気にかけてる……?」

 直感でピンときた。前世でのことで、俺がまた早くに死んでしまうんじゃないかと気を揉んでいる気がして。もしそうなら、不安を与えたらダメだ。多少自分の行動を制限してでも、俺はここにいると安心させてやらなければ。

「……少し、だけ。」
「やっぱり! 不安にさせてごめん。でもレオ、俺ちゃんといるから。なるべく気をつけてるから! だからそんな顔すんなよ……。」

 触れるだけのキスをすると、レオはへにゃりと笑った。この顔初めて見た気がする……。

「あ~~~~もう俺かっこ悪……!」

 レオはがしがしと頭をかいて、でっかいため息をついた。そんなことないのにな。

「レオはいつもかっこいいだろ。俺の自慢の恋人なんだけど?」
「お、男前……ッ!!」

 それはレオだろ。と思いつつ頭をよしよしする。

「あ、前世と言えば聞き忘れてたことがあったんだけど、いい?」
「ん、なに?」
「記憶埋め込んでた魔法、開示の条件は何だったんだ?」

 そう、あの時はそれ以外のことがインパクトありすぎて聞きそびれていた。なぜあのタイミングで思い出したのか。

「………………言わなきゃ「ダメです。」」

 食い気味に言うと、レオを見上げる。参りましたとばかりに眉を下げたレオは、ぽつりと言った。

「これだけは言うの避けられると思ったんだけどな。ダメかぁ。
 …………俺のは、君に恋をしたら。君のは、俺と思いが通じあったら。だよ。」
「微妙な差は何。」
「俺はもし先に思い出せたら、君を手に入れる為に頑張るだろうし、君は、もしも俺と結ばれなくても余計な記憶を持たなくて済むだろ?」
「な…………」

 まあ、君が先に好きになってくれる可能性もあったけれどね。とレオは笑っている。
 何を言っているんだ……? じゃあ俺がレオを振ったら、レオにはあの命をかけた記憶だけが残るってこと? 

「なにその自己犠牲……。」
「うーん、俺がしたくてしただけだから。君にとっての最善を考えたらそうなっただけだよ。」
「レオはさ、もっと自分も大事にしてよ。今回は良かったかもしんないけど、レオが辛いのはやだよ?」
「……善処する。ありがとう。愛してるよ、カイ。」

 そうしてレオは甘い甘いキスをくれた。



 少し休んでから、今度はレオも一緒になって遊んだ。二人で子供みたいにはしゃいでしまったけれど、少しくらい羽目を外してもバチは当たらないと思う。昼食を挟んで、そのあと少し二人で話して、ちょっとだけ昼寝して。夕食になる前に帰城した。本当に充実した一日だったと思う。俺のしたいこと、叶えてくれてレオには感謝しかない。





「え。」
「まだ一日は終わりじゃないよ?」

 夜。さあもう寝ようかとベッドに入ると、上にのしかかるレオが。

「抱いてもいい?」

 首筋にキスをひとつ。

「…………ッ、や、優しくしてくれるなら。」
「ふふ、仰せのままに。」



 そして俺はまたしっかり頂かれて、休日最終日を終えたのだった。
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