また出会えたらその時は

華月

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記憶編

1.まだ死んでない

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とくん、とくん………


 どんどん心臓の音がゆっくりになっていっている気がする。

 あぁ、痛いなぁ……痛い。車に轢かれたんだっけ?目も開かないや。もう死ぬのか?もうか?早くない????
 嘘だろ?まだ十七歳なんだよ……若いんだよ! 走馬灯見てる場合じゃないだろ! ……あっ、そうそうあの時はあいつすっ転んで……懐かしいなぁ……ふふ………。はッ、いかんいかん

 見てる場合じゃない!と言いつつ走馬灯に影響されている自分を奮い立たせ意識を保とうとしていると、声が響いてきた。



黒瀬くろせ 海斗かいと




 誰かに呼ばれて、かっと目を開く。
 え、さっきまでめっちゃ瞼重かったのになんでだ

いや待てここはどこだ?

 見回すと、足元は一面色とりどりの花畑。それ以外は真っ白で、天井がどれだけ高いのかまったく距離感が掴めない。花畑は延々と広がっている。

 きょろきょろと辺りを見回して、最後に後ろを振り向くと、長い銀の髪に金の瞳を持った線の細い青年が立っていた。


「……俺の名前呼んだのはお兄さん? 俺、死んだの?確か道路に転がってたはずなんだけど……ここは天国?」
『私は創世神ゼルフォニフィア。君はまだ死んではいないよ。ちょっと事情があってね、来てもらったんだ。』

 柔らかな笑みを浮かべてゼルフォニフィアがゆったりと言うと、真っ直ぐにこちらに手をかざした。
たちまち胸のあたりがほわほわと淡く光っていく。
何かを感じ取っているのか、しばらくそのままでいると、ゼルフォニフィアは焦りだした。

『この子は……! ま、まずい』

 じっとりと見つめられている事に気づいたゼルフォニフィアは、こほん、とひとつ咳をしてから話し出す。

『まず、ここに来てもらった経緯から話そう。…君は今にも死にそうになっているわけだけれど、本来の寿命よりもかなり早いと下のものから報告があってね。精査するために来てもらった。今、君の魂を視てみたら、魂にとある記憶が埋め込まれているのを見つけた。多分これが異分子として君の運命に作用した。』

 そこまで話すと言い淀み、ゼルフォニフィアは額に手を当て大きく息を吐いた。

『…………ちょっと、私が転生させる世界を間違えてしまってね。世界が違ったから、埋め込まれた記憶が拒否反応起こして運命が捻れたと言うか……』
「それちょっとじゃなくない!?!?」

 つまりそれで事故ったってこと!? 思わず秒でツッこんでしまった。いやだって、そもそもの元凶!! 正しいところに転生? させてくれていたら、こんなに早く痛い思いはしなくて済んだってことだろ!? 文句を言いたくもなる。
 落ち着こうと息を吐いて、はっと気付いた。

「ん? 世界が違うから拒否反応ってことはその記憶とやらは俺が知らない世界の記憶ってことか? 
俺は今いるところの記憶しかないから。」

 世界が違うってことは地球とは異なるってことだよな、と顎に手を当てて考えてみる。

『中々頭の回転の早い子だね。その通りだよ。そしてその記憶は、条件を満たさないと開示されない。条件は術者によって秘匿されているな。』
「つーことは、行くはずだった世界に行かなきゃわかんないってことだな。ふんふん……あ、話それちゃったな。続きお願い。」

 続きを促すとゼルフォニフィアは、ふむ、と頷いて再び話しだした。

『私から提案があるのだけど。
一、このまま元の世界で死を待ち、転生を待つ。
二、この姿で元々生きる予定だった世界で生きる。
三、ここで私に仕える。

……どうかな?』

 二って、こ、これは噂の異世界転生ってやつでは…!? いや、この姿のままなら転移か? まあ細かいことはいいか!

「二! 元々生きる予定だった世界で生きたい!」

 異世界とか考えたただけでワクワクするし、もっと生きたいという未練もあったから即決できてしまった。記憶の件もあるしな。今いるとこのみんなには、申し訳ないけど新天地で頑張ります!!!!!

『そうか……ここで働く気は「ない」』

 半ば被せるように言い放つと、ゼルフォニフィアはあははと声を出して笑った。整った顔の笑顔はとても眩しい。

『ですよね! まぁこちらはいつでも待ってるからね。…………あぁ、今回のお詫びに私の加護を与えておこう。あと何か望む能力はある?』
「の、能力! 急に言われても思いつかねぇ~~!! 魔法はある世界?」
『魔法はあるし、魔物もいる世界だ。……魔法全属性などは強力だが、利用しようと狙われたり、保護だなんだのと周りもやかましくなりがちだから、よく考えて。』

 チートだ! と興奮していたのを見透かされたかのような発言にびっくりだ。神様だし、心が読めるのかもしれない。すごいな神。

「なるほどな…めんどくさいのは嫌だなぁ。うーん………とりあえず、魔力無制限と、聖属性と闇属性の全ての魔法使えるようにしてほしい。あとは、
そうだな……収納魔法とかの生活に便利な魔法かなぁ」
『ふむ、わかった。あとは多少、こちらで色をつけておこう。楽しみにしていて。あぁ、あちらの世界では自分のステータスを確認することができるから、また見てみるといいよ。』
「……なんかへんな能力寄越しそうだな」

 ついつい訝しげな目を向けてしまったが許して欲しい。なんだか言い回し的に嫌な予感がしたんだ。
 そんな目線も特に気にせず、ゼルフォニフィアはにこりと笑う。指先を何やらぐるぐる回すと、俺は白い光に包まれていく。

『じゃあこれで、君がいるべきだった世界へとばすよ。幸運を祈っている。』
「おう。元いた所も楽しかったけど、楽しみだな。えーっと、ゼル……ゼルフォ、ゼルフォン……」
『………ゼルでいいからね』
「あ、じゃあゼル! 間違えちまったミスはまぁ許してやる! またな~!」




言うや否や、その姿は光と共に掻き消えた。






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