快晴歓声

古河のぎく

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第一章

1.雲行きが怪しい

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「東の洞窟はここの森を抜けないといけないのかぁ。」

 馬車に揺られながらツァイホンはのほほんとつぶやく。彼の言葉に同席していた騎士は返事をする。

「この東の森は我が国コキセの中で一番に陽を浴びる森でございます。陽の力がもっとも集まり、止まる神聖な森。魔を寄せ付ける、ましてや住み着くことができない地でございます。」
「だからつまんないんだろうが。魔物を見たいのにいない森を通るんだから。時間の無駄だよ。この時間も有効に使いたかったのにさ。」

 馬車のスピードは外の護衛役に合わせてゆっくりとしたスピード。目的地への道のりは遠い。ツァイホンが苛つくのはよく分かるが、騎士は今度の言葉には返事をしなかった。その態度にため息をついたまま、ツァイホンは窓から見える森を見てため息をついた。
 その馬車を囲むように守る騎士。そしてその騎士を守るように囲むのは兵士。なぜ武器を持つ騎士を守らないといけないんだ。と不満を覚える兵士は多数いたが、ニゲラとカン、そして今回の任務のリーダーになった大尉の言葉でなんとかまとまっていた。そもそも不満不平があっても平民である彼らが列を乱して問題を起こすほど愚かではない。文句を言うだけ言ってそれでおしまい。ニゲラは周りの兵士とのほほんと会話をしている。カンは誰とも話さず、重い鎧を鳴らしながら前へ進む。今回の仕事は調査のみ。特に大きな事件が起きるとは思わなかったが、少しだけ嫌な気がする。それは騎士がいるからなのか。それとも王位継承権を持つ人間がいるからなのか。眉間に皺を寄せていると新米なのか、若い騎士が話しかけてきた。

「どうかしましたか?」

 桃色の髪。貴族の中でも地位が高そうな女性だった。凛とした声はカンの中で響く。

「いえ、特に何もございません。」
「しかし、眉間に皺を寄せて何かを感じたような表情をしておりました。」
「不快にさせてしまい申し訳ありません。少し嫌なことを思い出しただけでございます。」

 そう伝えると眉を顰め、その後「勘違いしてしまい、すみません。」とカンから視線を外した。しっかりとした若者に感は目を細める。騎士にしては少し素朴な雰囲気の女性は背筋を伸ばし、大柄の男性の一歩に負けじと足を早く動かし、進んでいく。小柄で普通の女性がどうして騎士としてここにいるのだろうか。

「あれってもしかして噂の神愛騎士様か。」
「神愛?」
「教皇様の御子で、貴族平民誰にでも手を差し伸べ救ってくださるお優しい方だそうだ。」
「大した実力もないのにあれこれ首を突っ込んでるらしいぜ。慈悲を配る前に戦う術を身につけて欲しいな。対処するこっちの身にもなってくれよ。」
「シスターになればいいのにわざわざ騎士になるなんて、まあ教会のアピールにはつながるんじゃないか。」
「教皇の御子は騎士になってみんなを護る盾となる!なんていい設定だもんな。」

 ゲラゲラと笑う騎士たちに女性は目を伏せ、耐えるような表情をする。カンは少しだけ、考え、小さく息を吐き、仕方なく話しかけた。

「ああいう奴らは陰口しか言えないからほっとくといい。反応すれば調子に乗る。そのうち飽きてやめるだろう。見返そうとしても、結局君が何をしても気に食わないんだ。気にするだけ無駄。君がしたいことを認めてくれる人を探して、その人のためにできることを探した方が良い。」
「えっ。」
「君は良い生まれで、いい人なんだろうな。見ず知らずの私の表情を見ていた。しっかりと周りを把握しているってことだ。力はそのうち身につくだろうし、身につかなかったら他の手を考えればいい。」

 教皇の子で騎士になれるほどの力があるなら彼女の望むことは叶えられる可能性が高い。彼女は運がいい。生まれた場所、育った環境が良かったから、彼女は素晴らしい選択をしている。ニゲラのように真っ直ぐで希望を持っているのだろう。・・・自分とは大違いだ。
 親に愛された子供は夢を持つことができる。未来を見ることができる。羨ましくて仕方ない。

「励ましてくださるんですか。」
「事実を言ったまでだ。」

 カンの顔を見て、一度だけ瞬きをすると女性は今度こそしっかり前を向いて歩き出した。こんな一般兵の言葉、そのうち忘れるだろう。彼女と自分では何もかもが違う。それでも今だけは彼女を守れたことに自己満足した。
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