快晴歓声

古河のぎく

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序章

大切な兄弟で、同僚の会話。

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 騎士と兵士はその存在の仕方が違う。
 騎士は大切なものを守り通す者。兵士は害を受けないように護り戦う者。それは同様『まもる』者ではあるが、矛と盾のように裏表の考え方だった。騎士は兵士を見下しているし、兵士は騎士に劣等感を持っている。貴族と一部の運のいい平民しか所属できない騎士は国の花形であり、皆の憧れだ。

「でも俺は兵士でよかったと思うぜ。お前もそうだろう、カン。」

 そうケラケラと酒を飲んでいるのは同僚のニゲラだ。

「俺たちは使い捨ての命だ。死んだ数しか記録には残らない。騎士に比べたらそこまで給料がいい訳でもない。出世もできるわけがない。それでも、誰かのために戦い、守ることができることを誇りに思う。確かに国を守る騎士もかっこいいぜ。でも未来を守っているのは俺たち兵士だろう。戦争を起こし、他国の領地を奪うことで、畑が広がり、民も増える。この世界の国が一つになれば、少なくとも少しは差別が減る、と願いたいんだ。」

 ニゲラも分かっている。そんなこと、夢物語だということを。大国になったこの国で平民への差別は無くならない。才能のない人間は切り捨てることは当たり前の世界。ニゲラはせめて人種差別だけでも無くなって欲しいのだろう。差別されることは苦痛だ。人が人でいることを諦めてしまうから。優しいニゲラにカンは何も言えない。

 寂れた酒場。飲んだくれや金がないが酒は飲みたい貧乏人が集まる小さな酒場。安いアルコールで無理やり酔っ払って、寝かしつけられるような場所。トイレからは誰かの嘔吐物で酸っぱい匂いが充満している。肉を焼く音と酔っ払いの怒鳴り声、かちゃかちゃ鳴るのは客に怯える店員が震えながら料理を運ぶ音だ。そんな混ざり合った不協和音が反響するこの場所に好き好んで来る人間はあまりいない。                                                                                       

「理由付け、だよ。バーカ。」

 あまりお金を使いたくない二人はよくここで飲んでいた。
 同じ孤児院で育ったニゲラはこの国の民とは違う血が流れていた。褐色に黒の短髪。藍色の瞳は深海のように深い深い暗い色。この国は暗い色を好まない。虐げられ、傷つけられたニゲラがこんなに真っ直ぐなのは孤児院でしっかりと愛されたからだろう。物心着く前に孤児院にいられた幸福の形。

「ニゲラは強いな。」

 カンはいつも笑うだけだった。肌は白いが青い髪に青い瞳。それは藍色に近い青だ。青はこの国で身分の低いものの色だ。赤、橙、黄、緑、紫、そして青。この国は六色の色で人生が変わる。赤に近い色になればなるほど身分が高く、逆に青に近ければ存在価値はなくなる。

「カンは暗いんだよ。父さんも母さんもそんなんだから心配して兵士をやめろって言うんだ。自分のために生きろよ。」
「自分のために生きてるさ。私は孤児院のみんなのことが大好きだから、彼らのためになにかしたい。それが幸福なんだ。お前が国の未来のためになにかすることと同じだって。」

 ニゲラは眩しい。その光が強ければカンの影は濃くなっていく。劣等感が強くなる。ほとんど同じなのに、どうして少しだけ違うのだろうか。

「次の仕事は確か護衛だったな。」
「……ああ、東の洞窟で魔物が出たらしい。それの討伐をする前の情報収集と例の研究者様が魔物について調べたいらしいぜ。」
「ツァイホン、様か。」
「この国を継ぐ資格を捨てて研究者になった例の人だよ。あー、めんどくせぇな。魔物なんて調べても何も役に立たないだろ。」
「三大欲求のうちの一つが知識欲なんだろうな。」

 この国の王になるにはある条件がある。体のどこかに色のついた痣があることだ。髪と同じ色の痣を持つ。貴族にしか生まれない王の資格を持つ者の一人、ツァイホンは王になることを簡単に捨て、研究に没頭している。『魔』と呼ばれた穢れから生まれたもの。それをただ知りたい。王族の一員になった恩恵はそのまま手に入れ、王位継承権は捨て、国のためと銘打って研究しているが欲のままに我儘に存在している。しかし、事実彼の研究で人々の生活がより良くなっていることもあり、国民の一部では「ツァイホンを王に」という声も上がっている。

「調査だけだったのにな。」
「しかも、兵士だけじゃ危険だと騎士団もついてくるんだっけな。」
「四番隊だったか。」
「一番隊じゃなくて良かったぜ。」

 軽口を吐ける関係に安心感がある。ニゲラの安心した顔は溶けてるように力が抜けていた。騎士の文句を織り交ぜながら、たくさんの話をするニゲラの顔が大好きだった。兄弟として、同性として、友として、大切な存在だ。

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