上 下
3 / 16

第1章

しおりを挟む
柔らかい……これは、タオル?

私の知らない香り。

あれ、私は確かに車に轢かれて……?あれ、もしかして助かったのかな

微睡む意識の中、私は安堵した。
どうせ病院のベッドかどこかだろうと思い、安心してもう一度眠りにつこうとしたとき、見知らぬ男性の声が聞こえた。

慌てて私は目を開けた。

男性は私の事をずっと見詰めていたのか、気怠そうな顔をした男性とばっちりと目が合った
驚いた私は思わず声を上げた……筈。しかし喉から上がってきた物は悲鳴でも罵声でもなく、シャー!という明らかに猫の威嚇のそれだった
男性は突然の威嚇に目をまん丸くして驚いている。
いや、驚きたいのは私だよ

「あー……、猫って目ぇ合わせると喧嘩の合図だっけ……。えー、と……こんな時どーすりゃいいんだ?」
そう言って彼は『猫の飼い方 初心者編』という本に目を向けた。

猫…猫!?

そこで私は初めて自分の手を見た。

真っ白で……ふわふわ……そしてピンクの柔らかそうな肉球。まぁかわいらしいおてて。じゃないんだよ!
なんて私が手を見詰めながら自問自答していると、記憶から存在を消していた彼が私の顎に手を伸ばしてきた。

思わず耳を後ろにピンと反らし、全身の毛が逆立つのが分かる。警戒の姿勢に入った私は先程と同じ威嚇の鳴き声を喉から絞り出す
彼はそんな私の様子に、困った様に眉を下げ手をゆっくりと引っ込める
「あ、やっぱいきなり触んのは不味かったか。えーと……仲良くなるにはー、玩具で遊ぶ?」
彼は先程の本に目を向けながらブツブツと何か言っている。

は?玩具?私が猫の玩具で遊ぶとでも……?あ、私猫だった。
私が彼を呆れたようにじっとりと睨みつけていると、彼がピンク色の猫じゃらしを取り出した。
そんなピンクのふわふわした物体が左右に揺れてるのを見たところで……私が飛びつくなんてこと……ある、わけ……

嗚呼、最悪だ。なんだこの身体、全く私の思考と一致しない。
そう。私は無意識のうちに猫じゃらしという獲物に飛びついていたのだ。
なんだこれ、楽しいぞ。いや身体が勝手に……!

「おぉ!食いついた。やっぱり猫って言ったら猫じゃらしなんだな。これ好きかー?」

好きじゃない、私は断じて猫じゃらしが好きなわけじゃない。
ただ勝手に身体が反応するだけ、そう、全部この身体のせいだ!

30分程だろうか、結局猫じゃらしに翻弄され続けてしまった。
子猫の私の身体は疲れ果ててしまい、強い睡魔が私を襲った。

私は元のタオルの場所にごろん、と寝転がると直ぐに意識が飛びそうになる
その睡魔に身を委ねるように目を閉じると、再び彼の手が顎の下へと伸びてきた。
懲りないやつだ、引っ掻いてやろうか。
なんて思うも、襲ってくる睡魔と撫でられる心地よさで私は眠ってしまった。

こうして、私の猫としての第二の人生…猫生?が始まったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる

ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。 モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。 実は前世が剣聖の俺。 剣を持てば最強だ。 最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。 俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。 そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。 理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。 ※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。 カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

処理中です...