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番外編 異類婚姻譚 ー魔族と人ー 10. 共に
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レイがいなくなった世界なのに、セラはまだ生きていた。
レイが近くにいると考えるようになってから、死ねなくなった。
そうして長い時間を過ごした。
◇ ※ ◇ ※ ◇
「どうしたんだ?」
楽しそうに顔をニヤかせる同族に首を傾げた。
「……いや……変わったものを見つけたもので……」
そう話す顔は、舌なめずりをせんばかりに醜悪だったけれど。
「ふうん……」
「……」
立ち上がり背を向ける相手に声を掛けた。
「どこに行くんだ?」
「少し……ね」
そういう彼の顔は、珍しい玩具を手に入れた子どものように、無邪気に見えた。
◇ ※ ◇ ※ ◇
やがて長い時間を過ごす中、セラは未来を視る力を手に入れた。
未来視
長く生きる魔族が得る力。
そしてそれが魔族に現れるという事は、近く次期魔王が産まれるという証。
セラは名乗る事が無くなり、おばばと呼ばれるようになっていた。
◇
「やあ、おばば様。この子の世話を頼んでもいいかな?」
そう言ってある魔族が連れてきたそれは、小さな男の子の姿をしていた。
セラはしげしげとその子を見て確信した。
この子がやがて番を見つける事。
その相手の為に国を滅ぼし、邪魔者を排除する暴君となる事を。
やがて二人幸せそうに笑い合う未来に苦笑し、そしてその中の、あるものに目を留めセラは息を飲んだ。
「レイ……?」
レイの顔をはっきりと覚えているかと言われると、そうではないかもしれない。
でも、珍しい虹彩の瞳と、それが細まり笑う仕草。それに優しくて温かな彼の……
途端、未来視の中で彼が振り返った。
『ここに来い』
────セラ
もうただの魔物に成り下がった自分。
人も沢山殺した。
それでも……
セラの葛藤に応えるように、レイは目を細め、頷いた。
「……っ」
「どうした? 婆さん?」
思わず滲んだ涙を誤魔化す為に、目の前の子どもの頭をパシリと叩いた。
「うるさいよ! 誰が婆さんだ!」
いてえ! と叫ぶ子どもにふん、と息を吐き、セラは腕を組んだ。
「あんたは将来見込みがありそうだからねえ、特別にあたし自ら、しごいてやろうじゃあないか。ありがたく思いな!」
げえ! という呻き声に口元を歪め、セラは泣き声を必死に噛み殺した。
レイ……私、あなたに会いに……あなたと生きる場所に行く。
◇
「エデリー?」
ぼんやりとしたまま本を片手に、いつの間にか微睡んでいたらしい。
長椅子に凭れているところを覗き込まれ、エデリーは頬を抑えた。
「パブロ様? まあ、いらっしゃるなら仰って下さい」
「無理を言って通して貰ったんだ。そしたらとても素敵なものが見れた」
嬉しそうに目を細めるパブロに、エデリーは、もうと頬を膨らませた。
エデリーの手を掬い取り、パブロは唇を落とす。
「どんな夢を見ていたんだい? とても幸せそうだったけれど」
そう言って少しだけ険を孕む眼差しは、彼の嫉妬が混じっているからだと、エデリーは既に慣れていた。
(こんなに嫉妬深い人だったかしら?)
くすりと笑みを零す。
「あなたの夢よ。ずっとずっと前の……」
パブロは眉間に皺を溜めた。
「私はずっとずっと先の、君との時間が欲しい」
生真面目な顔で膝をつくパブロにエデリーは苦笑した。
「そしたらわたくしは、おばあちゃんになるわ……」
一人年老いた時間を思い出し、少しだけ寂しい気持ちになる。
「その時は私もおじいちゃんだ。ずっと一緒だと言っただろう? エデリー・セラ・シャオビーズ、私と結婚してくれかい? ……今度こそ……君と共に……」
パブロの瞳が思い詰めるように揺らぎ、エデリーはそれを無くしたくてそっと微笑んだ。
「ええ、パブロ・レイディ・ルデル。あなたを愛しているわ。わたくしには、あなたしかいなかった。きっとこれからもずっと……」
そうして二人手を重ね額を寄せ、永遠を誓った。
◇
つ、続きます。
でも次回が最終回('ω')
レイが近くにいると考えるようになってから、死ねなくなった。
そうして長い時間を過ごした。
◇ ※ ◇ ※ ◇
「どうしたんだ?」
楽しそうに顔をニヤかせる同族に首を傾げた。
「……いや……変わったものを見つけたもので……」
そう話す顔は、舌なめずりをせんばかりに醜悪だったけれど。
「ふうん……」
「……」
立ち上がり背を向ける相手に声を掛けた。
「どこに行くんだ?」
「少し……ね」
そういう彼の顔は、珍しい玩具を手に入れた子どものように、無邪気に見えた。
◇ ※ ◇ ※ ◇
やがて長い時間を過ごす中、セラは未来を視る力を手に入れた。
未来視
長く生きる魔族が得る力。
そしてそれが魔族に現れるという事は、近く次期魔王が産まれるという証。
セラは名乗る事が無くなり、おばばと呼ばれるようになっていた。
◇
「やあ、おばば様。この子の世話を頼んでもいいかな?」
そう言ってある魔族が連れてきたそれは、小さな男の子の姿をしていた。
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この子がやがて番を見つける事。
その相手の為に国を滅ぼし、邪魔者を排除する暴君となる事を。
やがて二人幸せそうに笑い合う未来に苦笑し、そしてその中の、あるものに目を留めセラは息を飲んだ。
「レイ……?」
レイの顔をはっきりと覚えているかと言われると、そうではないかもしれない。
でも、珍しい虹彩の瞳と、それが細まり笑う仕草。それに優しくて温かな彼の……
途端、未来視の中で彼が振り返った。
『ここに来い』
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もうただの魔物に成り下がった自分。
人も沢山殺した。
それでも……
セラの葛藤に応えるように、レイは目を細め、頷いた。
「……っ」
「どうした? 婆さん?」
思わず滲んだ涙を誤魔化す為に、目の前の子どもの頭をパシリと叩いた。
「うるさいよ! 誰が婆さんだ!」
いてえ! と叫ぶ子どもにふん、と息を吐き、セラは腕を組んだ。
「あんたは将来見込みがありそうだからねえ、特別にあたし自ら、しごいてやろうじゃあないか。ありがたく思いな!」
げえ! という呻き声に口元を歪め、セラは泣き声を必死に噛み殺した。
レイ……私、あなたに会いに……あなたと生きる場所に行く。
◇
「エデリー?」
ぼんやりとしたまま本を片手に、いつの間にか微睡んでいたらしい。
長椅子に凭れているところを覗き込まれ、エデリーは頬を抑えた。
「パブロ様? まあ、いらっしゃるなら仰って下さい」
「無理を言って通して貰ったんだ。そしたらとても素敵なものが見れた」
嬉しそうに目を細めるパブロに、エデリーは、もうと頬を膨らませた。
エデリーの手を掬い取り、パブロは唇を落とす。
「どんな夢を見ていたんだい? とても幸せそうだったけれど」
そう言って少しだけ険を孕む眼差しは、彼の嫉妬が混じっているからだと、エデリーは既に慣れていた。
(こんなに嫉妬深い人だったかしら?)
くすりと笑みを零す。
「あなたの夢よ。ずっとずっと前の……」
パブロは眉間に皺を溜めた。
「私はずっとずっと先の、君との時間が欲しい」
生真面目な顔で膝をつくパブロにエデリーは苦笑した。
「そしたらわたくしは、おばあちゃんになるわ……」
一人年老いた時間を思い出し、少しだけ寂しい気持ちになる。
「その時は私もおじいちゃんだ。ずっと一緒だと言っただろう? エデリー・セラ・シャオビーズ、私と結婚してくれかい? ……今度こそ……君と共に……」
パブロの瞳が思い詰めるように揺らぎ、エデリーはそれを無くしたくてそっと微笑んだ。
「ええ、パブロ・レイディ・ルデル。あなたを愛しているわ。わたくしには、あなたしかいなかった。きっとこれからもずっと……」
そうして二人手を重ね額を寄せ、永遠を誓った。
◇
つ、続きます。
でも次回が最終回('ω')
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