【完結】暴君王子は執愛魔王の転生者〜何故か魔族たちに勇者と呼ばれ、彼の機嫌を取る役割を期待されています〜

藍生蕗

文字の大きさ
上 下
50 / 51

番外編 異類婚姻譚 ー魔族と人ー 10. 共に

しおりを挟む
 レイがいなくなった世界なのに、セラはまだ生きていた。
 レイが近くにいると考えるようになってから、死ねなくなった。

 そうして長い時間を過ごした。



 ◇  ※ ◇ ※ ◇



「どうしたんだ?」

 楽しそうに顔をニヤかせる同族に首を傾げた。

「……いや……変わったものを見つけたもので……」

 そう話す顔は、舌なめずりをせんばかりに醜悪だったけれど。

「ふうん……」

「……」

 立ち上がり背を向ける相手に声を掛けた。

「どこに行くんだ?」

「少し……ね」

 そういう彼の顔は、珍しい玩具を手に入れた子どものように、無邪気に見えた。



 ◇  ※ ◇ ※ ◇



 やがて長い時間を過ごす中、セラは未来を視る力を手に入れた。

 未来視

 長く生きる魔族が得る力。
 そしてそれが魔族に現れるという事は、近く次期魔王が産まれるという証。


 セラは名乗る事が無くなり、おばばと呼ばれるようになっていた。


 ◇


「やあ、おばば様。この子の世話を頼んでもいいかな?」

 そう言ってある魔族が連れてきたそれは、小さな男の子の姿をしていた。

 セラはしげしげとその子を見て確信した。
 この子がやがて番を見つける事。
 その相手の為に国を滅ぼし、邪魔者を排除する暴君となる事を。

 やがて二人幸せそうに笑い合う未来に苦笑し、そしてその中の、あるものに目を留めセラは息を飲んだ。


「レイ……?」


 レイの顔をはっきりと覚えているかと言われると、そうではないかもしれない。
 でも、珍しい虹彩の瞳と、それが細まり笑う仕草。それに優しくて温かな彼の……

 途端、未来視の中で彼が振り返った。


『ここに来い』


 ────セラ


 もうただの魔物に成り下がった自分。
 人も沢山殺した。
 それでも……

 セラの葛藤に応えるように、レイは目を細め、頷いた。


「……っ」


「どうした? 婆さん?」

 思わず滲んだ涙を誤魔化す為に、目の前の子どもの頭をパシリと叩いた。

「うるさいよ! 誰が婆さんだ!」

 いてえ! と叫ぶ子どもにふん、と息を吐き、セラは腕を組んだ。

「あんたは将来見込みがありそうだからねえ、特別にあたし自ら、しごいてやろうじゃあないか。ありがたく思いな!」

 げえ! という呻き声に口元を歪め、セラは泣き声を必死に噛み殺した。


 レイ……私、あなたに会いに……あなたと生きる場所に行く。




 ◇




「エデリー?」

 ぼんやりとしたまま本を片手に、いつの間にか微睡まどろんでいたらしい。
 長椅子に凭れているところを覗き込まれ、エデリーは頬を抑えた。

「パブロ様? まあ、いらっしゃるなら仰って下さい」

「無理を言って通して貰ったんだ。そしたらとても素敵なものが見れた」

 嬉しそうに目を細めるパブロに、エデリーは、もうと頬を膨らませた。

 エデリーの手を掬い取り、パブロは唇を落とす。

「どんな夢を見ていたんだい? とても幸せそうだったけれど」

 そう言って少しだけ険を孕む眼差しは、彼の嫉妬が混じっているからだと、エデリーは既に慣れていた。

 (こんなに嫉妬深い人だったかしら?)

 くすりと笑みを零す。

「あなたの夢よ。ずっとずっと前の……」

 パブロは眉間に皺を溜めた。

「私はずっとずっと先の、君との時間が欲しい」

 生真面目な顔で膝をつくパブロにエデリーは苦笑した。

「そしたらわたくしは、おばあちゃんになるわ……」

 一人年老いた時間を思い出し、少しだけ寂しい気持ちになる。

「その時は私もおじいちゃんだ。ずっと一緒だと言っただろう? エデリー・セラ・シャオビーズ、私と結婚してくれかい? ……今度こそ……君と共に……」

 パブロの瞳が思い詰めるように揺らぎ、エデリーはそれを無くしたくてそっと微笑んだ。

「ええ、パブロ・レイディ・ルデル。あなたを愛しているわ。わたくしには、あなたしかいなかった。きっとこれからもずっと……」

 そうして二人手を重ね額を寄せ、永遠を誓った。




 ◇



つ、続きます。
でも次回が最終回('ω')
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

この上ない恋人

あおなゆみ
恋愛
楽しさや、喜びが溢れるその世界で、寂しさという愛を知りました・・・ 遊園地でひっそりと存在した物語。 1話完結短編集です。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

処理中です...