48 / 51
番外編 異類婚姻譚 ー魔族と人ー 8. 祟り
しおりを挟むやがてレイはリザリアと結婚し、イオル伯爵となった。
セラは今までの知識を活かして人として生きた。
度々人族の男たちに襲われるようになったが、セラは彼らを遠慮なく殺し、魔力を手に入れていった。
セラはレイに背を向けて生きていた。
けれど、いつもその背にレイの気配を感じて生きていた。
忘れられなかった。
だから人の親切を感じた時は、返す努力をした。
不遇な者に出会ったら、少しだけ手を貸した。
全部レイに教えて貰った事。レイがきっかけで……
セラが生きて……自分を好きになれる時間。
セラは数年毎に居住を移し、同じように暮らしていた。
助け、助けられ、殺し、レイを想った。
セラは歳を重ねて行った。
魔族であるならば老化を表す必要は無い。年若い方が人に混じりやすく、また、取り入り易い。
けれど、セラはレイと同じ時を生きたかった。
そして同じように死にたかった。
だけどレイの寿命は分からない。
その気配はいつもセラの近くにあったけれど、最後にセラを冷たく見据えたあのレイは、今どうしているのか……。
年老いてからは人に襲われる事は無くなったので、セラは住み易い街を見つけ、長く一人で暮らしていた。
会いたい……
最後に一目でいいから。
セラは思い立ち、レイの元へと向かった。
その頃にはもうセラの魔力は、セラに不自由を与えない程に大きくなっていた。
◇
昔数ヶ月だけ暮らした街。
セラは宿屋に目を向けた。
レイが紹介してくれた場所。
厳しく面倒見の良かった女将さん。
人の寿命を考えると、彼らの命がまだあるかは分からなかった。
それはレイにも言える事だとは、ここに来る途中で気がついた。
「いらっしゃい! お客さん?」
明るい声に振り向けば、昔見た女将を若返らせたような若女将がこちらに笑顔を向けている。
「ああ……食事をね……やってるかい?」
若女将の笑顔に釣られ、つい答える。
若女将は満面の笑みで返事をし、セラは宿屋に入った。
勧められるまま席につき、店内を見回す。まるで時が巻き戻ったようなそこで、一息をつくように目を閉じた。
(懐かしい……)
約半世紀、色んな街を渡り歩いて来たけれど、ここはセラの故郷のようだ。育み、大事にされた場所。
「何にする? この辺のメニューが柔らかくて食べ易いよ」
若女将の親切に勧められるままそれを頼んだ。
魔族は食事を摂らないが、食べないと人に混じって生きるのは難しい。
歳を取り、街外れに住むようになると特に何とも思われなくなったが。
『あの婆さんは歳を取りすぎて仙人にでもなっちまったんだ。霞で腹が一杯になるのさ』
当たらずとも遠からず。
日持ちのする物を家に置き、食べる振りをして過ごしていた。
こうしてちゃんとした食事を摂るのは久しぶりだ。
一応美味しいと思う感覚はセラにもある。
ぎこちなく食事を始めるセラを、若女将は興味深そうに眺めていた。
「お客さんどこから来たの?」
「北から……昔の知り合いに会いに」
「へえ……いいね」
そう言って若女将は目を細めた。
その仕草にセラはふと食事を止める。
レイと似てる。
こうやって笑う人間は何人かいた。
その度にセラはレイを思い出した。
「あたし、この街から出た事が無いんだ。だから、いいなあ羨ましい。旅ってどうだい? 楽しいかい?」
セラは思い返した。
「……どこに行っても心は一つだったよ」
若女将は片眉を上げた。
「そうなんだ……それもまた、羨ましいね」
若女将はそれきり口を閉じた。
何かを察したのか、宿屋をやっていれば人のあしらいなんて日常茶飯事なのだろう。その瞳に賢明な瞬きを見て、セラは口を開いた。
「もし……知ってたら教えて欲しいんだけど……貴族街は、どっちだい?」
「……貴族……」
その言葉に若女将は眉を顰めた。
やはり関わり合いになりたくないのだろう。セラは苦笑した。
「いいんだ。すまないね。間違えたくなかったからさ、方向だけね、確認しておきたかっただけなんだ」
その言葉に若女将はホッと息を吐いた。
セラが貴族街に近づきたく無い故の質問と受け取ってくれたのだろう。大抵の平民は、貴族とは、お近づきにはなりたくとも、近づきたくは無いものだ。
「そうだね。あんまり大きな声じゃあ言えないけど、この国の貴族には近づかない方がいいよ。祟られてるって噂だから」
「祟り?」
目を丸くするセラに若女将は重苦しく首肯した。
「うちのおばあちゃんが女将をしてた頃の話なんだけど……」
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
侍女から第2夫人、そして……
しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。
翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。
ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。
一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。
正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。
セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる