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35. とある魔族の行方
しおりを挟む「我が君、良かったですね」
嬉しそうにする魔族にナタナエルは目を向けた。
裏庭まで歩いてきたところで、人目を偲んだ彼らに声を掛けられた。
「何がだ」
「うん? 勇者の気持ちが分かったんですから、さっさと手籠めにして下さいよ。目障りな奴も帰った事だし、他に気を割く必要も無くなりましたから」
ナタナエルはもじりと身じろいだ。
「む、無理強いをして嫌われるのはちょっと……」
「……」
魔族たちは揃ってため息を吐いた。
何というか、この魔王は、拗らせている。
勇者の周囲に目を光らせて、邪魔になりそうな障害物を排除するのは得意だが、肝心の自己アピールが壊滅的に下手なのだ。
魔族の感覚としては、襲っちゃえばいいんじゃない?
言う事聞くようになる迄、囲いこんどけばいいんじゃない?
と言ったところではあるのだが……駄目らしい。人間って面倒臭いと思う。
勇者の監視を命じられた魔族は二匹。
アンティナとセドリックだった。
とはいえ、何をしたらいいのかはよく分かってはいなかった。
とりあえず面倒を見て、シーラに興味を持ちそうな輩を片っ端から遠ざけた。後は、シーラ自身が誰かに興味を持たないかに注意を払い、もし出来たら内密に葬ろうと目論んでいたのだが、すっかり出し抜かれていた為驚いた。
単純な娘だと思っていたのに、これが勇者の実力かと感心したものだ。
「ならせめて今度こそまともにアピールして下さいよ。好きな子をいじめたがる、子どもみたいな絡み方ばかりしてないで、ちゃんと好きとか愛してるとか口にするように」
ナタナエルはぐうと赤くなる。
「し、シーラが好きって言ったら、僕も言う」
乙女か。もじもじ赤らむな。
「まあ、婚約者になればそう言ったやりとりは日常的に可能になるでしょうが、問題は……子作りが遠ざかる事でしょうか」
魔族たちはふうと息を吐いた。先日のオフィールオの台詞が蘇る。魔族たちは別に勇者が愛妾でも構わないのだが、魔王が嫌だと言うのだ。待ってるのに。任務達成はまだ遠そうだ。
或いはあの時二人共に死んでしまったなら、魔王の魔力を受け取り別の器に託そうかと考えていた。
時間が掛かる上、魔族の力は著しく低下してしまうが、魔王の本望が叶うのなら、自分たちは嬉しいと思った。
不思議なものだ。
人間の恋愛事情は面倒臭いと思うのに。
「ああ、そう言えば、おばばから伝言ですが」
「はっ? あいついるのか? どこにいるんだ? 全然見ないんだが」
ナタナエルはその名にぎょっと目を剥く。
「え? 先程会ったでしょう?」
「は?」
「おばばは、エデリーと言う女性に憑依転生してますよ」
ナタナエルは白目を剥いた。
「嘘だろ」
絶対に兄は知らない方がいい話だ。
「伝言ですが、『下手打ったら襲うからな』だそうです」
思わず喉を鳴らす。
死ぬ。そんな事になったらあらゆる意味で精神が持たなくて絶対に死ぬ。そして今度こそ兄に殺されるだろう。
ナタナエルは青くなり、全身から大量に汗を垂らした。
確か残り一匹いた魔族は侍医だった。魔力が尽きかけていて、目についた輩に入り込んだ。それでも出来るだけ城に留まれるようにとの人選らしいが……
他にそんな懸念事項が無いかと頭を巡らされていると、ふと愛しい自分の勇者の声を聞いたような気がして、ナタナエルは空を見上げた。
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