【完結】暴君王子は執愛魔王の転生者〜何故か魔族たちに勇者と呼ばれ、彼の機嫌を取る役割を期待されています〜

藍生蕗

文字の大きさ
上 下
26 / 51

25. 魔王の役割

しおりを挟む

 仕方がないのでナタナエルは人間を物色する事にした。
 別に自分が女になれば同性でも構わないかと、男も見てみる。けれど何をどう判断すれば、人間に特別性を見出せるのか分からなかった。

 仕方が無いのでもっと人間に近づいてみる。
 富と権力があり見目が良い事。それに礼儀とやらを持ち合わせていれば向こうから近づいて来た。けれど物理的に近づいても人の機微に気づく事は出来なかった。

 こんな事を五百年も続けるのかと、げんなりと肩を落としていると、精霊王を名乗る輩に声を掛けられた。

「良さそうな人間はいたかい?」

 サラサラした長い白銀の髪を揺らした美しい青年がナタナエルを覗き込んだ。こいつのせいかとナタナエルは精霊王を睨んだ。

「……見つかってたら、こんなところで項垂れていない」

 精霊王は、はははっと明るく笑った。

「ちゃんと好きになれれば誰でもいいんだよ。どうせただの種の存続の手段だ」

 ナタナエルは訝しんだ。そう言えば何故こんな事をするのか聞いていなかった。

「魔族も精霊も同族で子孫を残すものじゃないからね。急にいなくなるんだ。その時に人間に残しておいた種が芽吹く。知らない方が凄いね。魔王認定される程長寿なのに」

「聞いた事はあるけれど……」

 どんなに長く生きてもそれに当たる事は無いだろう。種の絶滅の話だ。それを知っている事に矛盾も感じるが、言葉を持たない動植物とて命を繋ぐ術を知っている。魔族が何かしらの伝達手段を持っていたとしても不思議では無いだろう。

 しかもあのおばばが関わっているのだ。そもそもあれは殺しても死なないような、種の存続以前の存在だ。

「高い魔力を持つ者を王に選ぶのは、種が長く人間の遺伝子に残り続ける為だよ」

「相手は誰でもいいのか?」

 まだひと月経っていないが、正直ナタナエルは面倒になった。もう適当な人間で手を打とうと投げ出す事を目論んでいる。

「別に大丈夫だけど……あまり興味の無い人間を選ぶと君が辛いだけだよ? つがいじゃない相手を身篭らせる行為は、人間で言うところの家畜と交配するようなものだからね。君、あれと子ども作りたい?」

 そう言う精霊王の視線の先にいるものに目を止め、顔を顰める。

「……絶対に嫌だ」

 ナタナエルはため息をついた。

「私も君を推したけど、君が選ばれたって事は、君と番う相手がいるって事なんだけどね。魔族にも予知能力を持つ輩がいるだろう?」

「具体的に相手を教えて欲しかった」

 精霊王は、あははと笑った。

「自分で見つける方が楽しいよ」

 その言葉にナタナエルは顔を上げた。

「見つけたのか?」

「うん、とってもかわいい男の子」

「……お前男だろう?」

「今はね。でも私は彼の為に女になるんだ」

 精霊王はうきうきと答えた。

「精霊の予言は魔族のものと少し違うんだ。私たちは一足先に種を残して冬眠する事になるよ。だからバイバイ」

 暗にもう会う事は無いと告げられる。

「君の番も無事に見つかる事を願っているよ」

 そう言って精霊王は去って行った。
 ナタナエルはその背を見送りぼやいた。

「豚は無理だ……」

 ◇ ◇ ◇

 百年経った。見つからない。
 二百年経った。どこにもいない。
 三百年経った頃、あ、これはとっくに見落としたに違いない。自分の番とやらは何処かで死んでるなと諦めの境地に陥った。

「家畜か……魔王なんて引き受けるんじゃなかった」

 あと二百年待てば世界をうろつく真似はしなくて良くなる。だがナタナエルはこの人探しにいい加減飽き飽きしていた。適当な女を孕ませ終わりにしよう。

 そう思い立って手近な国に降り立った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

この上ない恋人

あおなゆみ
恋愛
楽しさや、喜びが溢れるその世界で、寂しさという愛を知りました・・・ 遊園地でひっそりと存在した物語。 1話完結短編集です。

処理中です...