【完結】暴君王子は執愛魔王の転生者〜何故か魔族たちに勇者と呼ばれ、彼の機嫌を取る役割を期待されています〜

藍生蕗

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18. 首飾り

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 月を見上げるアメジストの瞳は、その光を受け綺麗に瞬いている。
 バルコニーから夜空を見上げるリュフィリエナの背中を眺め、ラフィムは報告に対する応答を待った。

「聖水で確かめたって、ちゃんと三日間沈めたの?」

「……」

「それとも聖火で十二時間焼いた?」

「……いえ」

 その言葉にリュフィリエナは悩ましげにため息をついた。

「そう……でしょうね。この国に聖水や聖火が容易く用意できるとは思えないもの。それでは無実とは言えないわ」

「リュフィリエナ様、ここはメシェル国ではありません。暴力を振るえば裁かれます」

 リュフィリエナは小さく吐息を漏らした。

「ねえラフィム。確かにあなたは王家の傍系で、精霊の加護が与えられた者の血が流れているわ。けれど、そもそもわたくしは精霊に愛されているの」

 月明かりを背後に振り返る様は神々しい程に美しい。ラフィムは臣下の礼を取った。

「大変失礼致しました」

「わたくしがそうだと思う事こそ正しいのよ。今までわたくしが間違えた事があって?」

「……いえ」

 リュフィリエナは悲しそうに目を伏せた。

「わたくしの運命はナタナエル様なのに……魔に魅入られた侍女のせいで、御目が霞んでいらっしゃる。お可哀想に……」

 そしてぽっと頬を赤らめ嬉しそうに笑う。

「わたくし、あの方の妻になるのだって一目見て分かってしまったの。だから……」

 黙すリュフィリエナにラフィムはじっと続きの言葉を待つ。

「あの侍女の穢れはまだ祓えるのかしら?」

「……ええ……恐らくは……」

 リュフィリエナはふわりと微笑んだ。

「ではわたくし自ら清めて差しあげましょう。あの娘の魔を祓えばナタナエル様もわたくしを見てくれるもの。そうしたら、あの娘をわたくしの侍女にしてあげてもいいわ。ナタナエル様の幼なじみですものね」

 嬉しそうに微笑むリュフィリエナにラフィムは深く頭を下げた。

 ◇ ◇ ◇

 サラサラと流れる小川が見える。
 穏やかで静かな場所。
 遠くを囲む林では、遊びながら栗拾いをして遊んでいた。
 小川に入って兄たちと魚取り競争をした。
 ああ……ここは家だ。
 静かな田舎のシーラの実家。
 貧しいという程では無いが、領主というより村の地主のという言い回しの方がしっくりくるような領地。

 暖かな光に包まれたその景色をぼんやりと眺めていると、背後からキィと扉の開く音がした。
 振り返ると扉を開けて祖母が顔を出した。

『おばあちゃん!』

 驚いて駆け寄ると祖母はおっとりと目を細めてシーラの頭を撫でた。

『シーラや……』

 皺の溜まった目尻を下げて祖母が屈んだ。
 ……そういえば自分の身長が縮んだような気がする。

『シーラは何も悪いことをしていないのに、どうして家を出て行かないといけないんだろうねえ』

 あ……これは夢だ。
 王都に向かうと決めた時、一人暮らしのおばあちゃんに挨拶に来た。その時の、十二歳の時の事だ。
 夢とうつつを彷徨うように混濁する意識の中、シーラは祖母に目を向けた。

『大した物じゃ無いんだけどね』

 そう言って、長細い箱を開けて中から綺麗な石のついた首飾りを出した。

『昔おじいちゃんがくれたお守りだよ。何にも持たせてあげられないけど、せめてこれだけでも持っていきなさい』

『……駄目だよ。おじいちゃんがくれた大事なものなんでしょう?』

  そう言うと祖母は首を横に振った。

『大事なものだからお前に持ってて欲しいんだよ、シーラ。おじいちゃんがお前を守ってくれますように』

『おばあちゃん……』

 首に掛けられた首飾りはとても綺麗で、あの気難しそうだったおじいちゃんが選んだとは思えないくらい、素敵な贈り物だと思った。

『とっても素敵。ありがとう、おばあちゃん。大切にするね』

 そう言うと祖母は嬉しそうに笑った。

『けど……ねえ……』

『どうしたのおばあちゃん?』

 思い出すように頬に手を当てる祖母に、シーラは首を傾げた。

『こんなだったかなあって思ってね。いやだね年を取るとこんな事まで忘れちゃうんだから。これじゃあ、おじいちゃんに怒られちゃうね』

 シーラは一瞬きょとんとした後、祖母と一緒にくすくすと笑った。

 ありがとう、おじいちゃんおばあちゃん。絶対大事にするからね────

 ◇ ◇ ◇

 朝日が登り掛けた頃合いに、シーラはふっと目を覚ました。
 むくりと起き上がり、二度寝に逃げ込む前に、んんっと伸びをする。

 アンティナいらずの朝が来るとは……
 前回はラフィムと朝約束をしていたから、張り切って自分で起きたけど、何も無い時にこうやって自分で起きるのは珍しい。
 何か夢を見ていたような気がする。

「何だっけ?」

 ベッドの上で腕を組んで首を捻っていると、アンティナがドアから顔を覗かせた。因みに侍女の部屋に鍵はない。
 そこに入るまでにきっちり男女区画を区切っているからだ。

「わ。また自分で起きてる」

 ……友人と考えが見事にシンクロしている。喜ばしい限りだ。

「私ったらもしかしたら早起き体質になったのかもね。支度がすぐに出来ていいわ」

「寝起も良さそうね。夢も見なかったの?」

「ん? 何か見たけど、思い出せないやつ」

「……そ」

 そんな会話をして朝の支度を始めた。
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