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番外編 五百年前の話

00. プロローグ

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「アレアミラ、ごめんなさい。ありがとう」

 そう言って姉は涙を零した。
 両国が交えた矛を収める為に必要な婚姻。
 そのきっかけとなった姉は美しい人だった。

 だから多くの者が族長の命に嘆いた。
 そしてアレアミラに非難の眼差しを向けた。
 
「何故、お前ではないのか」

 族長の息子、レインズが苦々しげに呟く。
 当たり前だが彼でも族長の決定を覆すのは容易では無い。
 実際族長はそれを許さなかった。
 だからレインズは内密にアレアミラにその話を持ち込んだ。同じように花嫁の入れ替わりを望む眼差しに囲まれて、アレアミラは頷いた。そうして籠の中身は入れ替わった。

 両国の同盟の証の輿入れ。
 だからこそ、一度足を踏み入れれば「間違えました」ではすまされない。

 集落に残された姉たちは怒られるだろうけれど、でも幸せになれる筈だ……将来を誓い合った婚約者と共に──

 頭まですっぽりと隠れた婚礼衣装に身を包み、約束の場所で佇めば、平原の向こうから馬と馬車がこちらに向かってくるのが見えた。

 空になった籠が去っていく。
 
 ここからは一人で上手く乗り切らなければならない。
 緊張に強張る喉をごくりと鳴らし、アレアミラは両手をキツく握りしめた。

(これからずっと、一人で……)

「……お前たちが獣族の嫁とその従者か?」

 そんな問いかけにアレアミラはパッと顔を上げた。
「……え?」
 迎え人が示す先には一人の青年が立っていた。

「え……お義兄さん……?」
 姉の婚約者のセヴラン。

(どうしてここにいるの……?)
 
 訝しむ迎えの視線にも気付かず、アレアミラは暫く彼から目を背けられずにいた。
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