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9. 粛清
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「えっ、ちょっと! 何を言い出すのよ! あんたはアタシの事が好きなのよね!?」
腕に縋り付いて叫ぶメイルティンをテレスフィオは冷たく眺める。
「……何故?」
「何故って……アタシ……可愛いし……」
呆然と呟くメイルティンにテレスフィオは口の端を吊り上げた。
「失礼、俺にはあなたは野卑で粗雑な節操なしにしか見えておりません。魅力なんてどこにあるのですか? 是非教えて頂きたい」
「な……何ですって……? じゃあなんでオリランダになんて付いて行ったのよ? どうしてわざわざこの子の情報なんて教えて来て……アタシの気を引きたかったんじゃないの?」
オーリーも混乱する。
メイルティンの為で無いのなら……何故テレスフィオはオーリーに付いて来て、メイルティンたちにその情報を渡す……そんな相反する行動を取っているのだろう?
「必要があった為です」
メイルティンを振り払い、困惑を顔に出すオーリーに目を合わせて真剣な眼差しを向ける。
「必要……って?」
震える声で問いかければ、テレスフィオは翡翠の瞳を和らげた。
「メイルティンに王妃の資質が無い事はずっと言われておりました。それでも聖女ならば国の利になるからと認められた。ですが俺は公爵家でメイルティンが偽りの聖女だと聞いてしまい、それならばいずれオリランダ様を陛下たちが必要とするのではと危惧したのです。その為に探されないよう、敢えてこちらから最低限の情報を渡して来ました。……けれど貴方を守るつもりでしていた事とは言え、結果こいつらに探り当てられ貴方を危険に晒してしまった。本当に申し訳ありませんでした」
「……本当に……?」
「はい」
真っ直ぐに見つめられると信じてしまいそうになる。
「お、お前。テレスフィオ……う、裏切ったのか? 逆賊め! 捕らえよ!!」
ロレンフィオンの指示を受けて動き出す兵士に向かって別の鋭い怒号が飛んだ。
「もういい! 控えよ!!」
びくりと動きを止める兵士も、ロレンフィオンにメイルティンも、怒りに肩を震わせる神官に視線を向ける。
「もう結構! ロレンフィオン陛下。どうやら私が聞いてた話とは全く違っているご様子! この話は無かった事に致します! それとこの神殿の長を賜る私を愚弄した事、正式に連合国へ抗議させて頂きます! あなたは今連合国から追われていると聞いていますが、ここであなた方をお預かりする事はありませんから、須くこの地を出て行って頂きたい! それでよろしいですね!? 連合国騎士団師団長、エイルダ男爵────テレスフィオ様?」
「な、なんだと!」
神官の勢いにロレンフィオンが動揺を示すが、テレスフィオが当然とばかりに首肯する。
「はい、勿論です。この度は俺の母国の国王夫妻がイリロ神殿長様に大変ご不快な思いをさせてしまい、元主君へ便宜を図って頂いたのにこの有り様……この通り謝罪させて頂きます」
「ちょっと、どういう事よ!」
「……こういう事ですよ」
テレスフィオがチラリと視線を向けた先には連合国の兵士がズラリと並んでいた。
「ロレンフィオン国王とメイルティン王妃はここだ! 捕らえよ!」
テレスフィオの掛け声と共にロレンフィオンとメイルティンに縄が掛かる。
オーリーはテレスフィオの腕の中で混乱しながらその様を見守った。
見上げれば、そこには心配そうに揺れる翡翠の眼差しがあり……こんな時なのにオーリーの胸には甘い痛みと安堵が広がった。
腕に縋り付いて叫ぶメイルティンをテレスフィオは冷たく眺める。
「……何故?」
「何故って……アタシ……可愛いし……」
呆然と呟くメイルティンにテレスフィオは口の端を吊り上げた。
「失礼、俺にはあなたは野卑で粗雑な節操なしにしか見えておりません。魅力なんてどこにあるのですか? 是非教えて頂きたい」
「な……何ですって……? じゃあなんでオリランダになんて付いて行ったのよ? どうしてわざわざこの子の情報なんて教えて来て……アタシの気を引きたかったんじゃないの?」
オーリーも混乱する。
メイルティンの為で無いのなら……何故テレスフィオはオーリーに付いて来て、メイルティンたちにその情報を渡す……そんな相反する行動を取っているのだろう?
「必要があった為です」
メイルティンを振り払い、困惑を顔に出すオーリーに目を合わせて真剣な眼差しを向ける。
「必要……って?」
震える声で問いかければ、テレスフィオは翡翠の瞳を和らげた。
「メイルティンに王妃の資質が無い事はずっと言われておりました。それでも聖女ならば国の利になるからと認められた。ですが俺は公爵家でメイルティンが偽りの聖女だと聞いてしまい、それならばいずれオリランダ様を陛下たちが必要とするのではと危惧したのです。その為に探されないよう、敢えてこちらから最低限の情報を渡して来ました。……けれど貴方を守るつもりでしていた事とは言え、結果こいつらに探り当てられ貴方を危険に晒してしまった。本当に申し訳ありませんでした」
「……本当に……?」
「はい」
真っ直ぐに見つめられると信じてしまいそうになる。
「お、お前。テレスフィオ……う、裏切ったのか? 逆賊め! 捕らえよ!!」
ロレンフィオンの指示を受けて動き出す兵士に向かって別の鋭い怒号が飛んだ。
「もういい! 控えよ!!」
びくりと動きを止める兵士も、ロレンフィオンにメイルティンも、怒りに肩を震わせる神官に視線を向ける。
「もう結構! ロレンフィオン陛下。どうやら私が聞いてた話とは全く違っているご様子! この話は無かった事に致します! それとこの神殿の長を賜る私を愚弄した事、正式に連合国へ抗議させて頂きます! あなたは今連合国から追われていると聞いていますが、ここであなた方をお預かりする事はありませんから、須くこの地を出て行って頂きたい! それでよろしいですね!? 連合国騎士団師団長、エイルダ男爵────テレスフィオ様?」
「な、なんだと!」
神官の勢いにロレンフィオンが動揺を示すが、テレスフィオが当然とばかりに首肯する。
「はい、勿論です。この度は俺の母国の国王夫妻がイリロ神殿長様に大変ご不快な思いをさせてしまい、元主君へ便宜を図って頂いたのにこの有り様……この通り謝罪させて頂きます」
「ちょっと、どういう事よ!」
「……こういう事ですよ」
テレスフィオがチラリと視線を向けた先には連合国の兵士がズラリと並んでいた。
「ロレンフィオン国王とメイルティン王妃はここだ! 捕らえよ!」
テレスフィオの掛け声と共にロレンフィオンとメイルティンに縄が掛かる。
オーリーはテレスフィオの腕の中で混乱しながらその様を見守った。
見上げれば、そこには心配そうに揺れる翡翠の眼差しがあり……こんな時なのにオーリーの胸には甘い痛みと安堵が広がった。
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