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41. この人と一緒に①
しおりを挟む圭太の父親は弁護士だった。
あの日、部屋の主が戻らなかった事をどこか面白く無さそうな顔で指摘してきた圭太に、河村君が説明してくれた事から、頼る事になった。
具体的には叔父さんの知り合いの、こっちを拠点にしている人だけれど。
混み入った話になった時も河村君は離れず傍にいてくれて、凄く心強かった。
本当は受験生の圭太に聞かせる話じゃなかったのだろうけれど、きっと圭太には教えない方が気になって集中出来ないだろうから。と、河村君に説得されて話す事にした。
──で、
それってストーカー予備軍じゃん! と慌てた圭太が叔父さんに相談してくれて、女の子の一人暮らしなんだからと叔母さんも慌ててしまって……
少しばかり大袈裟だけれど、住所が変われば。もう連絡も断っているし、会う事も無いだろうと、引っ越す事に決めた。
……そして私は何故か河村君──のご両親と一緒に住む事になったのだ。
これは引っ越し先を考えた際に、河村君から一緒に住もうと提案されたから、なのだけれど……
うちの親はとても古風な考え方で、厳格で、同棲なんて絶対に認めてくれないから、と断ったところ、ならばとプロポーズをされてしまったのだ。
セキュリティがどれ程万全でも不安だから、と。
正直折れるしか無かった……だって嬉しくて断れなかったから。
そんな事情が出来たので、とにかく私は河村君のご両親に急ぎ挨拶に行かなければならなかった。
けれどそれだけで済む話でもなく……
結局お互いの両親に会いに行く事となった。
元々河村君の妹さんと会う約束をしていたのと、妹さんがご両親に私の話をしていてくれていたので、あちらの両親は会いに行ったら凄く喜んでくれたけど。
それに同じく娘を持つ身として、私の事をとても心配してくれて、家に来なさいと。
驚く河村君に、ご両親が、「あちらの大事なお嬢さんなんだから」と、勢いに任せた同棲を窘めたのだ。
そうして、いくらでも居ていいと言ってくれる、何とも寛容なご両親で、つい泣きそうになってしまった。
河村君はモテるし、挨拶に来たのが私なんかでガッカリしなかったんだろうか、とちょっと不安だったけれど、ホッとしてしまったのもある。
「兄貴の女の趣味、数年前まですごーく悪かったんだけど、やっとまともな人を見つけてくれて、その人がお嫁さんだよって紹介してくれたんだから、文句なんて無いよ!」
妹の玖美ちゃんは私に腕を絡めて嬉しそうに教えてくれる。
(そう、なのかな……?)
大学時代の河村君の彼女は……そういえば、元カノを何人か亜沙美さんに教えて貰っていたのだった。中には大学のミスコン何位とかの子までいて、本当に人気があるんだなあと感心した事もあった。
私なんかがいいのかな、と改めて浮かんだ不安は河村君の科白が吹き飛ばした。
『ずっと好きだったって言っただろ。俺は、学生時代から数えて二年以上は三上さんの事が好きで……卒業しても離れたくなくて、職場も、住む場所も、同じにしたんだ……』
えっと、目を見開く。
だってそれはそれは世に言う……
目を白黒させる私の手を取って、河村君は困った風に笑って見せた。
『俺はもう、三上さんじゃないと駄目になっちゃった』
捨て犬のような表情で紡がれるその言葉が胸にぐさりと刺さり、私はあっさりと陥落してしまった。
今も玖美ちゃんから私を引き離そうと間に割り込んでくる河村君には、愛しさしか覚えられない。
私も自分がかなりの末期だと知ってしまったので、時々覚える不安は、出来る限りの努力で賄っていこう、と思う。
ご両親の前で畏まり、数日後にうちの両親に河村君が挨拶に来てくれて、やっぱりそれもとても緊張した。
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