やっぱり幼馴染がいいそうです。 〜二年付き合った彼氏に振られたら、彼のライバルが迫って来て恋人の振りをする事になりました〜

藍生蕗

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34. 従弟が来た②

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「今日、来てくれてありがとう。あと、昨日酷い事言ってごめんなさい。あの……」
 謝らないと。
 自分の事しか考えずにとった行動を。その気持ちが急いて慌て過ぎたのか、河村君の方が受け止められないように、両手を目の前にかざした。

「──え? そ、それは待って。後でにしてっ……今から立ち直れないダメージ受けたら、家まで歩いていける自信がないっ、せめて心の準備をさせてくれるっ?」

 そう言って河村君は強張った顔でそっぽを向いてしまった。荷物を持っているせいか、上手く顔が隠せないようで、一生懸命顔を背けている。

(──やっぱり怒らせちゃったのかな?)
 それでも、見通しの悪い私が、成長した圭太に戸惑う事を見越してしまったのかもしれない。そう思ったら、やはり、気になってしまったんだろうなあ、優しいなあ。なんて思ってしまって……思わず緩みそうになる頬を押さえた。

「……喧嘩でもしてるの?」
 私たちの様子を横目で見ながら圭太が口にする。
「ああ、うん。何でもないよ? 気にしないで」
 慌てて手を横に振れば、ふうんと疑わしそうな声が返ってきて。
「付き合い始めたばっかりなのに、もう喧嘩って……変なの」
 なんて突っ込みまで放ってくる。
(あ、まあ……実際は付き合っていないので……)

「お気になさらず」
 動揺してる私を庇い、河村君がそつなく返して、助かったと胸を撫で下ろす。
 河村君には後で改めて謝罪を口にするにしても……思い掛けず顔を合わせる機会が得られ、変に意識してしまう。

 時期尚早、とは思うけれど……
 ごくりと喉を鳴らす。

(こ、告白というのは……どうやってするものなんだっけ??)

 急にばくばくと鳴り出す胸に気を取られつつ、何とかかんとか、河村君の家に辿り着いた。


 ◇


 土曜日に圭太が来た翌日、荷物の整理もひと段落して、今は三人で少し遅めのお昼を食べている。
 結局河村君のご好意に甘えに甘えて、圭太は河村君の家で居候させて貰う事になった。
 日中は仕事でいないし、ご飯は私も一緒に食べる。という事で圭太も納得してくれた。

「まあちょっと残念だけど、これだけ熱心な人なら仕方ないよね」
 圭太の納得の仕方が不思議なのだが。
 最初は険悪な雰囲気があったけれど、昨日一日を二人で一緒に過ごして和解したのか、そんな空気は見当たらない。
「圭太と仲良くなれて良かったよ。俺も雪子以外の事なら進んで協力するから遠慮なく相談してくれ」
 
 にっこりと笑いかける河村君に圭太の顔が僅かに引き攣る。小さく雪ちゃんかわいそー。と呟いたのが聞こえたけど、意味がよく分からなかった。

「飯食ったら勉強するから家借りるよ貴也さん。あと今日の夕飯は寿司ね」
「こら圭太!」
 にやりと笑う圭太を叱り飛ばす。
 食費は預かっているからちゃんと用意する。けれどそんな態度はいただけない。

「まあ……俺も寿司は暫く食べて無いし、いいんじゃないかな」
 けれど咎める私を宥めながらも、河村君はどこか嬉しそうに告げて。
「でも……」
「そーそー、食べ終わったんなら出てって下さーい。受験生は勉強しないとね」
 ぱっぱと埃でも払うように手を振られ、苦笑いをする河村君に手を取られた。

「行こう」
 圭太に追い出されるような形で、けれど河村君に手を引かれ、一体どちらが部屋の主人なのか分からない。そんなぼやきを胸に、私たちは河村君のアパートから出たのでした。


 ◇


 どこに行けばいいんだろう、とはたと止まり、行き先といえば自分の家しか無いと思い立つ。
 けれど、もしそうなるのなら、河村君が私の家に入るのは初めてなのだ。

 何と言っていいか分からなくなり、そのまま歩き出す。

(私は何度もお邪魔しているから……不公平かしら? 呼ばないなんて失礼かしら?)
 ぎくしゃくと歩いていると河村君から声が掛かった。

「あのさ……」

 振り返ると、少し気まずそうに笑顔を見せる河村君が頭の後ろを摩っている。

「流石に悪いから、三上さんの家にお邪魔するのはちょっと……」
 苦笑いする河村君に私は思わず声を張る。
「そんなっ、迷惑かけてるのはこっちなんだから!」
 
 自分の口から飛び出した言葉に目を丸くするも、どこか腑に落ちた気もする。
「……ありがと」
「えっと。う、うん……」

 お礼を言われるのも少し違う気がするけど、河村君の家から家主を追い出したのは自分なのだし。
 けれど嬉しそうに顔を綻ばせる河村君に何だか照れてしまって。その上これから一緒に部屋で過ごすのかと思うと、何て言うか……

「雪子?」

 けれど戸惑う私に掛けられた言葉に、河村君が強張った。
 いや──

 河村君の視線の先に……私の名前を呼んだ人物がいるからだ。
 学生時代はほぼ毎日見ていた反動か。

 懐かしいとすら思えるくらい、久しぶりに見たその顔は、元恋人──日向智樹その人だった。
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