やっぱり幼馴染がいいそうです。 〜二年付き合った彼氏に振られたら、彼のライバルが迫って来て恋人の振りをする事になりました〜

藍生蕗

文字の大きさ
上 下
3 / 45

3. 逃げろ! 無かった事になる筈だ!

しおりを挟む

「ご、ごめんなさい!」

 再び平伏し、謝罪を口にする。

「本当にご迷惑をお掛けしました! ……あの、すぐ帰りますからっ」

 申し訳無くて目も合わせられないまま、わたわたとドアを探す。

「三上さん?」
「うぇい!?」

 突然苗字を呼ばれて変な声が出る。
 ばくばく言う胸を押さえて、相手と目を合わせれば形の良い唇が弧を描き、どきりとする。

「やっぱり三上さんだよね……俺の事覚えてる?」

 その科白につい顔を顰めてしまうのは許して欲しい。寝起きの嫌な夢を思い出してしまったじゃないか。
 けれど目の前はそんな話、当然知る術もない訳で。首を傾げて薄く笑う。

「俺は河村貴也だよ、大学一緒だったろ?」
「……えーと?」


 河村……



「ああ!」

 記憶の底に眠るあの男を思い出し、ざわっと警戒心が湧く。
 
「……ふ、フットサル部の……オフェンスで……」
「うんそう」

 満足気に頷く男性は河村貴也、大学時代に智樹が入っていたサークルのメンバーだ。
 確か人見知りしない性格で、何度か話しかけられた覚えがあるんだけど……

(智樹は苦手にしてたんだよね……)

 何がかは良く分からないんだけど、河村君を智樹は嫌ってた。だから私もあまり親しくしないようにと、癖みたいなものがついてしまっている。

「覚えてくれてて良かったよ。三上さんて日向の事しか見てなかったからさあ……俺も流石に見ず知らずの女性を家に入れたりしないよ」

 朗らかに笑う河村に思わず毒気を抜かれ、瞳を瞬かせる。

「あ……それはどうも……ありがとう、ございます……」

 ……こんなところでこんなタイミングで元カレの縁で助けを受けるとは……
 ひょっとして今の状況は元カレのおかげ……いや、せいか?? うぬうと口をへの字にして唸っていると、河村が再び吹き出したのでそちらに顔を向ける。

「別れちゃったんだ?」
「うっ……」

 そんな事まで話したのか酔った私よ。とはいえ人の傷口に塩塗るの止めてくれないかな。まだ赤々としてかなり痛いんだけど……?

「仲良さそうだったのに?」
「……上辺だけでしたから」

 それに情を持って接してたのは私だけだったみたいだしね。……それじゃあ駄目だったんだよ、恋人として……

「そんな風には見えなかったけどね」

 ケロリと返される声に私はぎっと眼差しを強めた。泣かない為に。


「っじゃあ私はこれで! これ以上居座るのはご迷惑かと思いますので帰ります!」

 がばりと立ち上がれば河村が目を丸くしたので、少しだけ溜飲が下がる。

「……そう、じゃあまたね。あ、お返しとかはいいから」

 澄ました顔で手を振る河村君には無理矢理作った笑顔を向けてやる。

「良かったです! じゃあさようなら!」

 ダダっと玄関に向かい、その勢いのまま外に飛び出した。
 考えて見れば知らない(いや、少しは知ってるけれど)男性の家に入るなんて、怖い……

 私の歩調は段々と早くなり、方向も分からない街中で、気付けば私は駆け出していた。



 ──そんな雪子の様子を窓から眺めてながら、
「そっかあ、別れたのかあ」
 そんなどこか嬉しそうな声は、発した本人以外に届く事は無かった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

記憶のない貴方

詩織
恋愛
結婚して5年。まだ子供はいないけど幸せで充実してる。 そんな毎日にあるきっかけで全てがかわる

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

処理中です...