2 / 45
2. 土下座します。許して下さい。
しおりを挟む『前に会った事あるよね? 受験の時に教室が一緒で、席が隣だった』
『そう……でしたっけ? 緊張で全然覚えて無いです』
元カレ、日向智樹とは大学一年生から知り合いで、三年生から付き合い始めた。
最初は彼の好きな子の話を聞いてるだけの──友人だった。
嬉しそうに幼馴染を語る彼。
そんなに人を好きになるなんて凄いなあ、と関しているのも束の間。彼の一途な気持ちに私の心はあっさり捕らわれ、いつしか恋をしてしまっていた。
自分の恋愛遍歴を見ても、大層なものは何一つ無い。ほんの少しの勇気も持てずに終わった恋がチラホラあるだけ。
羨ましかったのもある。
そんなに想って貰えるなんて、と。それが自分に向けられたらな、なんて……
でも、無理矢理向かせた彼の視線は、やっぱり心からのものでは無かったようで。
優しい彼ならと打算と期待で告白して、暫く困らせてしまった。
けれどもう幼馴染の子を忘れたいからってOKを貰って嬉しくて……
でも今考えたら喜ぶところじゃなかったのかもしれないなー、あれ。
(悪い事しちゃったな……)
二年も付き合った。それで社会人になってすぐ、振られた。
(嫌だったかな? ……でも結果、一番好きな人が誰だか分かったんだからさ……)
申し訳なさと悔しさが、ないまぜになって睡魔と溶けた。
◇
『ごめん、俺やっぱアイツじゃないと……愛莉じゃないと駄目なんだ』
(忘れたいって、忘れたって言ってたくせに……)
恋人だった男の最後の言葉。
ずっと引っかかってた過去の女性。
気にしちゃ駄目だって、そんな事してたら、あの人に不誠実だっていつも言い聞かせてきたけど……
私の勘は正しかった──
(くそう……)
私は過去の女に負けたのだ。
一緒にいた時間は何だったのだろう……
彼が彼女を求める確信の時間だろか。
私は真剣だったのに……
(ずっと私の事なんて見て無かった……)
本当は、付き合ってる時も、時々感じた違和感。
別れたから、今はもう解禁していい気持ちは、向き合うとこんなに辛い。
そんな最悪の金曜日の夜。
ぎゅっと目を瞑る。
腕時計を見れば時刻は深夜を回っていた。
──だから言ったのに
どこかで聞いた事のあるような声が、私の意識に入り込み、ゆったりと暗闇に沈んで行った。
◇
金曜日──
罪悪感と喪失感が無い混ぜになり、仕事上がりにお酒をがぶ飲みして帰った。
自宅の最寄りの駅近の飲み屋だし、歩いて帰れる。
誰に迷惑を掛ける訳でも無いので、一人羽目を外して飲んだ……ような気がする。
(あー、嫌な夢見たわー)
ころりと寝返りをうてば、何だか枕の硬さが気になってしまう……
(あれ? 枕カバー洗ったばかりじゃないんだけどな? なんでこんな肌触りなんだろ?)
疑問に思って半身を上げれば頭がぐわんぐわんと鳴り響く。
「うー」
そして痛む頭を押さえて回る視界をやり過ごせば、ざあっと血の気が失せた。
……知らない部屋である。
元カレのものでも、勿論自分のアパートでも無い。
泡を食って起き上がれば、部屋の端で毛布に包まった見知らぬ男が眠っていた。
……自分は一体何をやらかした?
(自分で言うのも何だけど、真面目で品行方正なこの私が!?)
ええええ! と、内心で悲鳴を上げていると、男がぴくりと反応したので息を止める。
いっそこのまま存在を消したい……
(多分何もしていないと、思うけど……)
自分の服装を見るに、スーツのジャケットは脱いでいるが、その他はストッキングまで着たままだ。……人様の寝床に何だか申し訳がないが。
こういう場合はお礼を言って帰るのが礼儀なのだろうか? 経験が無いので分からない……けど、うん! よく寝てるようだし黙って帰ろう!
そろそろと男の様子を見ながら部屋を移動すれば、唐突にぱちりと開いた瞳とかち合った。
「……」
どっどっどっ
心音である。
口から心臓が飛び出しそうな程、心臓がやばい。
「……おはよう」
「お、おはようございます!」
もう、こうするしか無いだろうと判断した私はその勢いのまま男性に向かって土下座した。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません!」
私の土下座に男性は驚いた様子だったけれど、吹き出した声が降ってきて思わず顔を上げてしまう。
くすくすと笑う男性は、寝起きながらもなかなかのイケメンさんで思わず固まってしまった。
少し茶色がかった髪に切長の瞳。
眉はきりりと上向いて意思が強そうだ。
(……寝起きドッキリだ……)
ん……でも、この顔どこかで……?
ぽやんと惚ける私をどう思ったのか、少し生真面目な顔をしてから男性は気分はどうだ? と聞いてきた。
思い当たるのは昨夜の飲酒。
……確かに飲みすぎた……気がする。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説




忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる