【完結】婚約している相手に振られました。え? これって婚約破棄って言うんですか??

藍生蕗

文字の大きさ
上 下
6 / 10

第6話 模索と言う名の迷走のようです

しおりを挟む

 皆が一斉に声が聞こえて来た方を見る中、マリュアンゼは一時ジェラシルの剣に目を留めてから、そちらを向いた。
 ジェラシルの一人二人、武器を持って掛かってこようと怖くは無いが、抜刀でもされて面倒事に巻き込まれるのは御免である。

 改めて入り口付近のその人を見遣れば、息を切らしたオリガンヌ公爵がこちらにつかつかと歩み寄って来ていた。

「兄上! どういう事です!」

「ど、どうとは??」

 玉座に張り付く様に座っていた国王は、今度は身体を強張らせ弟の言動に警戒している、というか────怯えている。

「彼女を伯爵家に迎えに行ったら、既に別の馬車が来て連れて行ったと。馬車にカサブランカの家紋があったから公爵家のものと勘違いしたそうですよ」

 キッと睨むフォリムに国王は目を泳がせた。

「わ、私はヴィオリーシャが、お前の恋人を見たいと言うから……」

「仮にも一国の王が、くだらぬ事に時間を費やすべきではないでしょう。私が誰と婚約をして、あなたにどんな迷惑を掛けると言うのです? 二度としないで頂きたい」

 そう言うとフォリムはマリュアンゼの手を取り、恭しく口付けた。こちらが目を丸くしている間に玉座を振り返り、その口で言う。

「……という訳なので、私の方の心配は無用ですのであしからず」

 にやりと笑い、颯爽とその場を立ち去った。勿論マリュアンゼを連れて。

 ◇

 (やっと解放された)

 フォリムは馬車の中で背を預け、深く息を吐いた。
 ヴィオリーシャとは長年婚約関係だった。
 子どもの頃一目惚れをされて、ずっと付き纏われていたのだ。
 こう言う言い方をすると万人に非難されるが、こちらとしてはその通りなのだから、仕方がないと思うのだ。

 愛せなかった。
 何かしらの情を示す事にも苦痛を感じ、何度も逃げたくなったが、彼女は有力公爵家の令嬢で、無碍には出来ないまま時間だけが過ぎて行った。

 けれど、いよいよ結婚まで秒読みと言う段階で、兄がずっとヴィオリーシャに恋心を抱いていたと聞き、驚きと同時に嬉しかった。
 ああ、やっと解放されるのだと。

 ヴィオリーシャもまた喜んだ。
 何故なら彼女は、自分がフォリムに好かれていないと分かっていたからだ。それでもフォリムに執着していた。それがまた重かった。

 けれど、人から受ける愛────愛される事を知った彼女は、フォリムへの執着をあっさり捨て、直ぐに兄と婚約を結び直した。

 そして彼女はそのまま変な方向へ行った。
 兄と出会った事で、愛される自信がついたのだ。
 それが何故か、フォリムも本当は自分が好きだったのだと言う解釈になり、今に至る。

 愛されなかったが故に愛に溺れた。
 今も一人もがいているように、フォリムには見える。
 必死に伸ばす兄の手に目もくれず、未だ血走った目で自分を捉え続けている。
 
 そろそろ勘弁して欲しい。

 そう言う意味で自分もさっさと結婚したかったが、見渡す女性がほぼ、ヴィオリーシャに見える程に末期症状だった。

 友人であるアーノリルズに話を持ちかけたのは、そんな事が理由だ。彼の妹────
 武芸に秀でた脳筋令嬢。

 馬鹿の方が扱いは楽だと踏んだ。
 また、アーノリルズの人柄には助けられる事が多く、そんな奴の妹であるなら、ヴィオリーシャや他の令嬢に持てなかった何らかの情を抱けるかもしれないと考えた。

 なんかもう行き詰まっていた。
 友愛でも親愛でも家族愛でも何でも良いから、愛しいと思える存在を探していた。
 例え相手が熊のような友人と生き写しの妹であっても……あの時は何とかなるような気がしたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気弱令息が婚約破棄されていたから結婚してみた。

古森きり
恋愛
「アンタ情けないのよ!」と、目の前で婚約破棄された令息がべそべそ泣きながら震えていたのが超可愛い!と思った私、フォリシアは小動物みたいな彼に手を差し出す。 男兄弟に囲まれて育ったせいなのか、小さくてか弱い彼を自宅に連れて帰って愛でようかと思ったら――え? あなた公爵様なんですか? カクヨムで読み直しナッシング書き溜め。 アルファポリス、ベリーズカフェ、小説家になろうに掲載しています。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

悪役令嬢になりそこねた令嬢

ぽよよん
恋愛
レスカの大好きな婚約者は2歳年上の宰相の息子だ。婚約者のマクロンを恋い慕うレスカは、マクロンとずっと一緒にいたかった。 マクロンが幼馴染の第一王子とその婚約者とともに王宮で過ごしていれば側にいたいと思う。 それは我儘でしょうか? ************** 2021.2.25 ショート→短編に変更しました。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】己の行動を振り返った悪役令嬢、猛省したのでやり直します!

みなと
恋愛
「思い出した…」 稀代の悪女と呼ばれた公爵家令嬢。 だが、彼女は思い出してしまった。前世の己の行いの数々を。 そして、殺されてしまったことも。 「そうはなりたくないわね。まずは王太子殿下との婚約解消からいたしましょうか」 冷静に前世を思い返して、己の悪行に頭を抱えてしまうナディスであったが、とりあえず出来ることから一つずつ前世と行動を変えようと決意。 その結果はいかに?! ※小説家になろうでも公開中

幼馴染に奪われそうな王子と公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
「王子様、本当に愛しているのは誰ですか???」 「私が愛しているのは君だけだ……」 「そんなウソ……これ以上は通用しませんよ???」 背後には幼馴染……どうして???

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

処理中です...