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後編

12. 決意

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「ソアルジュ、よく戻ったねえ。治って良かったねえ」

 そう言って細い目を更に細め、目尻に皺を溜め笑うのはリオドラ公爵。ソアルジュの義父であり、王弟だ。
 城に戻った翌日直ぐに義父に挨拶へと向かった。

「ありがとうございます義父上」

 応接室で向かい合わせにソファに掛け、ソアルジュは義父と対峙していた。
 義父は、うんうんと首を縦に振りながら、で────と、口にする。

「どうするの? 君は王になるかい?」

 その言葉にソアルジュは首を横に振った。

「いいえ、私が王など。他にその場に相応しい者がいるのに名乗り出れば、国が混乱しますから」

「ははは。君は本当に面倒臭がりだよねえ……治ったみたいだからさあ、そんな立候補もしてくるんじゃないかとも思ったんだけど。まあ、今はその言葉を受け取っておくよ。だってさあ、君。らしく無い事してるらしいじゃない」

 ソアルジュは眉を上げた。何を────とは、昨日の実父との対話で察せられるものがあった。

「平民の治癒士を連れ帰ったんだって? 平民だよ? どうするつもりなのかな? 勿論公爵夫人にも、王妃にもなれないからね。それ位分かってるよね?」

 ソアルジュは口元を引き結び頷いた。

「当然です。私は王にはなりませんが、あなたの後継になりと思っております。その為に必要なのはあの娘ではありません」

 公爵は、うん。と満足気に頷いた。

「分かっているようで何よりだ。……それにしてもアンシェロ公爵家は馬鹿な事をしたよねえ。馬鹿と縁が切れたのは別にいいんだけど、せめて君が死んでから婚約破棄の話を持ってくれば良かったのにねえ。……こっちは病を盾にされちゃ断るしか無かったけど、知ってるかい? 今あの家は早々に君を見限った薄情な家として、肩身の狭い思いをしてるんだ。何とか挽回しようとしているらしいけど、巻き込まれないように気をつけてね」

 ソアルジュもまた、頷き口を開いた。

「勿論分かっております」

 ◇

 義父は油断ならない人間だった。
 薄情とも取れる。
 ただ全く情の無い人間という訳でも無く、あんな女としか結婚出来なくて兄は────国王というのは可哀想だと口にしていたのを聞いた事があった。
 そのせいか母を庇う立場でいて、ソアルジュの事も守る体を見せている。
 けれど邪魔だと、不要と思えば即切り捨てるだろう。

 ただ自分の産まれを考えると、この手の人物が身近にいるのは非常にありがたかった。苦手を感じるより慣れるしかないと、腹を括れたのだから。

 しかし、そんな義父からロシェルダに会いたいと言われれば、構えてしまうのは当然だ。……何を言う気なんだ。

 義父には二週間前────戻って最初に挨拶に行った後、特に何の連絡も入れていない。そもそも義父は普段からソアルジュに好きにさせていた。ソアルジュが立場を見誤らない限り、放任主義を貫いた。
 だからこそ嫌な予感しかしない。

 今この自分の恋心を見透かされれば……どうなるのだろう。そして自分は公爵家の後ろ盾が無くなれば、何者でも無くなるのだ。

 俯いていたソアルジュは肩に温もりを感じ、ふと顔を上げると優しくこちらを見つめるリサの顔があった。
 少しだけ笑みを返して正面に目を向ければ、相変わらず無神経というか無防備に眠りこけるロシェルダがいる。
 思わず脱力しそうになるが、気合を入れ直し馬車の外を見た。

 (守らなければ)

 ロシェルダを傷つけてはいけない。
 それに────

 (変わりたいんだ……)

 好かれたい。
 ただそれだけの理由だけれど。
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