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第5話 誓約
しおりを挟むテオドラに火竜の話を聞いた時、神託の話はあまり真に受けていなかった。
けれど、神仙扱いをされているだけあり、昔話で竜に差し出す人身御供の話を聞いた事があった。
それで自分の身一つで何とか取り繕う事は出来ないだろうかと考えたのだ。
貴族の娘として育てられたのなら、これが貴族らしい考え方だと思った。でも……
その通りだと言われたらきっと悲しかった。そして泣かずに強がって笑った。
だからサフィナは泣き出した。
◇
供物は無くなったのかと、取り巻いていた竜たちは飛び去って行った。
後に残ったのは、最初に会った二体の竜だけ。
「じゃあもう帰るね?」
ニヤニヤ笑いながら言う女性の竜に、テオドラはぐっと拳を握った。
「誓約を聞いて欲しい!」
その言葉に青年の竜が眉を上げた。
「何を」
分かったと言われたわけでは無い。けれど、これではただここに山登りに来ただけで終わってしまう。何も出来ない自分のまま、サフィナを泣かせただけだ。
まだ後ろで泣いてる彼女の手をギュッと握り、テオドラは口にした。
「俺は、兄上を────お祖父様を越える騎士になる! 誰にも優しく、頼もしいと思われる……誰かを守れる強さを持った騎士になるから……それまで……サフィナを助けてやってくれ……」
詰まる声で吐いた最後の台詞は、彼女を助けたいと言うものだった。自分の素直な心……
「さっき人が竜に渡せるものかあると言っただろう? 俺のそれを渡すから……だから……」
「テ、テオドラ!」
後ろを振り向かず、キツく繋いだ手に、更に力を込めた。
◇
ここまで来た馬に乗り、二人はぽくぽくと歩を進めた。
とても駆ける気にはなれなかった。
竜と、誓約を結んだ。
……けれど、その内容は覚えていのだ。
サフィナは首を傾げている。
覚えていないから何も話せない。
────そう言う事になっている。約束を果たすまで、誰にも言ってはいけないと結んだ竜との誓約で、求められたのはサフィナの記憶と、テオドラの誠実な心だった。
テオドラの記憶を無くしては、竜との約束を覚えていなくては意味が無いという事からだった。
……ついでにサフィナが庶子だという事も隠してもらえないかと思ったが、サフィナの出自は恥では無いと思い直してやめた。さっき自分で口にした通り、サフィナはサフィナなのだ。
テオドラは、領地まで続く長い道程の上、抜けるような空を見上げ、大きく息を吸い込んだ。
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