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13 新たな場所
しおりを挟むリオの伴侶として──ジョアンナからの教育が始まりひと月。
『あの、別に結婚は……考えていないのですけれど……』
何度かそうリオやジョアンナに声を掛けてみたものの。リオには笑って受け流され、ジョアンナは「私にはどうする事もできません」と突っぱねられてしまうだけだった。
いつものように授業が始まり、今日はこの国の剣の重みを聞いた。何でも優れた魔法剣士であった初代国王に因み、いくつかそれらに含まれた意味があるのだそうだ。その内の一つ──
『決闘の申込みとも、されておりました』
ジョアンナの授業の中、そんな話が柚子の耳に響いた。
女性に剣の峰を押し当て、刃を相手の男に向ける行為。
『まあ、今ではあまり聞きませんがね。決闘自体が廃れた文化でありますし、女性の所有権を主張する言動が野蛮だと、嫌う女性も増えましたから』
(決闘……? 主張? ……えーと、つまりリオはロデルに喧嘩を売ってたって事なのかな? 私が理由で……?)
思わず首元を摩る。
確かにあの時、ひやりとした感触はあったけれど、痛みも傷も無かった。柚子に当たっていたのは剣の峰だったのだ。
「……っ」
「どうかしたの、柚子」
赤くなる顔に手を当て押さえていると、リオが部屋に入ってきた。
「な、んでもない……」
「そう? 少し休憩しようか」
ジョアンナに手を振り下がらせ、リオは柚子の手からそっと羽根ペンを取り上げた。
じっとリオを見れば、リオは以前と変わらぬ様子で柚子に笑いを返す。
彼の苛立ったような、冷たい眼差しを覚えている柚子にはその表情に戸惑う事が多いけれど。
……以前、そんなリオを受け入れられなくて、柚子はリオに当たり散らしてしまった事がある。
ころころ態度を変えられてもどうしたらいいのか──リオが何を考えているのか分からないと。
『僕だって人間だ、どうしていいか分からない時くらいあるよ。……まだ君に対して、どう接していいのか分からなかった時期もあった』
王族としての立場、前例を覆す儀式、二人いる聖女……
厳しい顔で告げられれば、柚子は何も言えなくなってしまう。リオは頬を緩め、柚子の頭を撫でた。
『君の為に、って思ってた。……でもさ、その度に気付く自分の気持ちに振り回されてもいたんだ。君は当たり前のように僕から離れていくし……自分の気持ちを確信したかったし、仕方がない時間だって思ってたけど、寂しかったし、苛立ってた』
そんな目で見てた。
そう言われてしまえば、柚子には何も言えなくなってしまう。
『そうだったんだね。ごめんなさいリオ、ありがとう』
柚子はそっとリオの手に触れた。
『いいよ、柚子。これから一緒にいてくれればね』
『その事なんだけどね、メイドとか使用人とかでもいいと思うんだ、私──』
『駄目だよ』
『……はい』
意気込む柚子にリオはぴしゃりと言い切った。
段々と分かってきた。これは「有無を言わさぬ笑み」だ。
◇
「柚子、今日は衣装合わせだよ」
「……本当に私も出なきゃ駄目?」
「勿論」
「……」
にっこりと笑うリオに柚子は曖昧な笑みを返した。
柚子が王城に来てから三ヵ月。
もうじきセレナの聖女の任命式がある。
それと同時にリオは王位継承権の放棄を行うそうだ。
聖女セレナを召喚したけれど、何者にもならない異世界人の柚子も喚び出してしまった。
リオはその事で議会に混乱を齎したとして、以後は国境を最前線で守り、国の為に尽くす。
それらの儀式に柚子も出席するように言われている。
(確かに私のせいでもあるんだけれど)
本当に、このままリオについていって、いいのだろうか──
身に余る数々の贅の重みに耐えられず、柚子は小さく息を吐いた。
◇
聖女セレナの授与式はそれは豪華なものだった。
それに臆す事なく、セレナは全国民からの盛大な歓迎に笑顔で手を振り、聖女としての器を国民に示し国の安寧を保障した。
……自分にはあれほどのパフォーマンスはできないだろう。自分を邪魔に思っていた人物であるし、心情としては複雑だけど、柚子にはあれをやってのけろと言われて成せる自信はない。
リオの隣で出来るだけ息を殺して、けれど存在を消せる訳ではないようで。刺さる視線にジョアンナ直伝──淑女の微笑みを浮かべながら、柚子は貴賓席で背中に嫌な汗を掻きつつ、やっと座っていた。
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