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◆◇第十四章 求婚◇◆
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たびたび王宮で舞踏会が催されるようになった。その理由を、知らぬ者はなかった。年ごろの娘を持つ貴族の親たちはこぞって娘たちを飾り立て、そして王宮の広間は、その度ごとに花開く乙女たちで埋め尽くされた。国王が病床にあるということで賑やかすぎるものは避けられたが、それでも、そこに集う娘たちだけで、王宮は春のように華やいだ。
その中心には、王太子、セラフィスがいた。
「なぜ、お嫌なのですの?」
クレアは舞踏会への出席を拒み、衣装を替えるよう迫る侍女を困らせている。
「姫さまは、ああいう場がお好きではありませんでしたか?」
確かに、彼女は舞踏会や園遊会と言った場が好きだった。人のさざめきや賑わいを好み、着飾ることも嫌いではなかった。
「どうなさったのですの?」
心配そうな侍女に、然りとて理由を言うわけにもいかなかった。
どこに、恋人の花嫁選びの場に立ち会える者がいるというのだろうか。
「殿下も、心配しておられましたわ」
「そんな……」
そんなはずはないのに。自分が出席したくない理由を一番よく知っているのは彼ではないか。クレアは、窓の外に視線をやり、そしてため息をついて言った。
「お兄様には、クレアは気分が勝れませんから参りませんとお伝えしてちょうだい」
「姫さま……」
クレアは、振り向いた。
「私は、行きたくないの。そう、伝えてちょうだい。クレアは参りません」
舞踏会に来ているのは、王太子妃の座を狙う娘たちばかりではなかった。
クレアは、もう十五だ。来年には成人し、早々にも結婚の話が持ち上がってもいい年だった。つまり、この舞踏会には、そんな目論見を持つ貴族たちの若者も集まっている。クレアを手に入れるために。現国王の王女を手に入れることができれば、それ以上の家の安泰はないのだから。
そのことを知っているからこそ、侍女はクレアに出席を勧め、そしてクレアは拒んだ。
それは、何度か行われた舞踏会の後。そして、クレアが再三にわたって出席を促されながら、ことごとくをそれを拒否してきたある日。
◆◇
クレアは、そっと部屋を抜け出した。それは、宵の口。また、舞踏会が催されるはずだった。年嵩の侍女が、自分の衣装を用意しているのを見たクレアは、それを着せられる前に逃げたのだった。
わずかにまだ空には薄明るい夕日の名残が残っている。そして、クレアの私室がある棟から見える広間は、無数の人工の光でまばゆく輝いていた。
あそこで、セラフィスが美しく着飾った娘たちに囲まれるのだ。クレアは嘆息した。
舞踏会はいくつ開かれただろうか。クレアは、その数を覚えてはいなかった。ともすると、もう妃の候補は決まったのかも知れない。あれから、兄には会っていない。会議などの公式の場で顔を合わせることはあっても、言葉を交わす機会もなく、クレアは彼の目に触れないようにそそくさとその場を去る。こんな、さいなまれるような時間がいつまで続くのだろうか。クレアは、その度に針の蓆を踏むような思いをしながら、それでも彼の顔は見られなかった。
罪が、怖い。
それは、自らの心に対する裏切りだろうか。罪を犯すことと、自らの心を押し殺すこと、どちらがより辛く、どちらがより恐ろしいものか。クレアは罪を恐れた。セラフィスの手を取ってしまうこと、そして、その胸に身を預けること。それを、何よりも渇望していながら、否定できない事実が目の前に立ちはだかる。それに抗う術を、クレアは持たなかった。
夜の空気に触れた下草が、クレアの衣装の裾にこすられてかさかさと音を立てる。そこは、王宮のもっとも奥深いところにある裏庭だった。そこは、存在を知らぬ者すらいる場所で、クレアの格好の逃げ場所だった。家庭教師たちの押し込みがいやで、ここに逃げ込んだことすら稀ではなかった。
クレアは、そこにある石の段の上に腰を下ろす。そして、頬杖を突いて天を見上げる。そこに浮かぶのは、半円の月。半身を失って、頼りなげにぼんやり浮かぶ悲しげな月。
「……」
それから、視線は外せなかった。そのはかなさは、自分の心にも似て。ため息が洩れる。
このまま逃げて、そして、自分はどうなるのだろうか。セラフィスからも、自分に定められた未来からも。逃避が自らを救うことはないとわかっているのに、それでもクレアは逃げること以外できなかった。想いからも、定めからも。
かさ、と音がしてクレアははっと顔を上げた。そして、冷たい風を浴びせられたように凍りつく。
セラフィスだった。
「お、兄様……」
声が震える。彼を呼ぶのは、あの夜以来だった。涙はもう乾き、腫れた頬もその痕を残してはいないが、鋭いうずきを抱えた胸だけは今も激しくクレアをさいなむ。
「どうして、ここへ……?」
立ち上がることも忘れて、クレアは震える声で尋ねた、月の光を背に浴びて、セラフィスは微笑む。
「お前の部屋を訪ねたら、お前がいないと侍女たちが騒いでいたものでね。探しに来たんだよ」
セラフィスは、穏やかな笑みを浮かべたままだった。それに気恥ずかしささえ覚えて、クレアはそっと座り直した。
「どうして、私がここにいるとご存知なの?」
このような場所を、セラフィスが知っているとは驚きだった。
「座っても、いいか」
セラフィスは、りりしいまでの正装に身を包んでいた。その胸から下がる飾り紐が、風にわずかに揺れた。
「どうぞ」
クレアがそっと腰を寄せると、セラフィスはその隣に腰を下ろした。クレアは、落ち着かなく顔をうつむかせた。
「私が、お前の行動を読めないとでも思っているのかい?」
セラフィスは笑って、クレアの疑問に答えた。
「お前は何か責務から逃げ出すときは、必ずここにいるだろう」
「ご存知でしたの……?」
誰も知らないと思っていた秘密を知られていたとあって、クレアは頬を染めた。
「お前のことは、何でも知っているよ」
セラフィスは空を見上げた。そこに迫る闇は、少しずつ濃くなっている。
「お兄様、今日も、舞踏会があるのではなかったですか……?」
クレアは心配になってそう聞いた。
「出席、なさらないんですか」
セラフィスは空から視線を外し、クレアを見た。
「お前が、そんな心配をしてくれるのか。そう言うお前は、どうなんだい?」
きまり悪く首をすくめるクレアに、セラフィスは笑った。
「何回も、出席するように使いをよこしたはずだが。お前にまで届かなかったのか?」
「……いえ。そうではありません」
クレアは消え入りそうな声で言った。
「お使いは、いただきました。ただ、私、行きたくなくて」
セラフィスはただ、そんな彼女を見る。セラフィスからの使いの言葉を無視した事すらも咎めはしない。
「行けません、そんな、私……」
声を詰まらせるクレアの背に、セラフィスの手がかかった。それにはっとする間もなく、唇に柔らかいものが触れ、そして、消えた。
「お妃様は、決まったのですか?」
それをかき消すように、クレアは慌てて言った。実に自然に与えられたくちづけは、わずかに甘い香りだけを残してすぐに消えた。
「臣下たちも、業を煮やしているよ。なかなか私が決めようとしないのでね」
セラフィスは苦笑した。
「決められるわけなどないのにね。お前が、あそこにいないのに」
「お兄様」
咽喉にその名が絡みつく。
「わかっているよ」
セラフィスは微笑んだ。
「お前を苦しめようとは思わない。ただ……」
ふと、その瞳に寂しさがよぎる。
「ただ、変わらず私を愛しているとの言葉だけが、聞きたい」
「変わるはずも、ありませんわ」
セラフィスはつぶやいた。
「愛して、おります。変わらずに、ずっと」
ささやきは風に乗って、そしてセラフィスのもとに届いたようだった。彼は微笑みを浮かべたが、それは見る者の胸を突き刺すようなものだった。
「クレア、お前を探しに来た」
セラフィスは手を伸ばし、クレアの手を取った。
「舞踏会に出るんだ。今日は、逃がさない」
「……!」
とられた手は、逃げられない強さで捕まれた。クレアがそれを引っ込めようとしても、もうそれは遅かった。セラフィスはそれを、痛いほどの力で掴み、そしてクレアをいつになく真剣な顔で見つめた。
「王女としての、義務だ。これ以上、それを放棄する気か」
「できません、私、できません……!」
クレアは小さく悲鳴を上げた。
「できません、私、お兄様が……」
「忘れたのか」
セラフィスは厳しく言った。
「お前は、マインラードの王女だ。いかなる理由でも、それを放棄することは許されない。その責務を、逃れるのか?」
「……」
クレアは手をつかまれたまま、息を飲んだ。セラフィスの、曙の色の瞳が王太子のそれになってクレアを刺した。会議の時に見るような、厳しい色だった。
「クレア」
その瞳に射られ、クレアは幾度か浅い息を付き、そして肩を落とした。
「離して、ください」
解かれた手が、わずかな痛みを伴った。
「わかりました」
ため息のような声が洩れた。
「参ります」
セラフィスはうなずいた。
「お前は、今までは体調が思わしくないという理由で出席していないと言い繕ってある。口裏を、合わせておいてくれ」
「……どうして」
クレアは、立ち上がろうとするセラフィスを引き止めた。
「なぜですの、なぜ、こんな……」
なぜ、セラフィスを求めて集まる女たちの中に混ざらねばならないのか。なぜ、自分を手に入れようと群がる男たちの中にその身をさらさねばならないのか。
「私が、罪を恐れているからですか?」
セラフィスは、そんなクレアを振り返る。
「わたくしが、罪を恐れて自らの思いを貫くことができないから、これは、その報いだというのですの?」
仰ぐように、クレアはセラフィスを見上げた。瞳がかち合う。それは絡み合って、抱擁を交わすよりも確かな思いを伝えあった。
「それは、私も同じだ」
セラフィスのつぶやきは、風に流れる。
「お前をさらっていってしまえばいい。どこか、誰も知らないところに。私たちが、血を分けているなど、誰も知らないところへ」
何度もそのことを考えたのだろう、それは、さらりと口を付いて出た。
「そうできればと、そう願った。しかし、私にはできない。私には、父上を、臣下たちを、そしてこの国を捨ててしまうことなどできない。たとえ、愛するものをこの手に抱けないとしても私は私の背負うものを捨てられない」
「当然、です」
セラフィスは、そういう男だった。それを、クレアが一番よく知っていた。
「お兄様が、そうお思いになるのは当然です」
「そして、それはお前も同じだ」
それは、寂しげなつぶやきだった。
「お前も、また国のものだ」
セラフィスは立ち上がり、クレアに手を差し伸べた。
「私たちが、心のままに生きることは許されないのだろう。王家に生まれたこと、そして、背徳の恋に身を投じたこと」
それが、すべての罪。
クレアは彼の手に従った。つながれた手からは、せめてもの暖かさが伝わってくる。
「お前のことだけを思って、生きていたい」
「お兄様……」
かすめるようなくちづけが去った。
「お前の部屋まで行こう。ともに、広間まで向かわないか」
「……はい」
手を取られ、まるでその姿が恋人同士のようだ、と想像することだけがクレアの心の慰めだった。そんな、傷を逆なでするような慰めは、かえってそれを深くしたとしても。
◆◇
ざわめきが走った。クレアは、それにわずかに体を震わせる。
クレアはセラフィスに手を取られて、広間の扉をくぐる。彼女の長い髪は緩やかに結い上げられ、それを淡い大輪の花が飾っていた。身を包む、淡い紫の衣装は長い袖でクレアの肌を隠すのに、まるで冬の寒さが襲うかのように、そこに渦巻く視線がクレアの身を凍えさせる。
「姫」
初めて広間に顔を見せた王女を、待ちかねた貴公子たちが取り囲む。広間を埋め尽くす、互いに負けじと着飾った人々。彼らの身を包む宝石と、光沢のある衣装が広間の明かりをさらに明るいものに見せる。それに目を奪われて、クレアは眩暈さえ感じた。
セラフィスの手が、離れた。ふたりは、それぞれを取り囲む人の群れの中に引き離される。クレアは彼に視線をやったが、彼はもう、それの届くところにはいなかった。
「姫、お加減がお悪いと聞いておりましたが」
「もう、大丈夫でいらっしゃいますか」
いずれも、年若い男たちだった。ここに来た目的をやっと果たせると、安堵した表情が一様に広がる。
「ええ、ご心配をおかけいたしましたわ」
クレアは、戸惑いながら返事をした。今まで、舞踏会に出席したことがないわけではない。しかし、このようにたくさんの者に取り囲まれ、にわかに主役に押し上げられるなどは初めてだった。成人に満たぬ幼い姫など、貴公子たちの相手にはならなかったのだ。クレアは、戸惑ってあたりを見回した。
「姫さま」
クレアの背後に近寄ってきた影があった。クレアは、ほっとしてその見慣れた姿に歩み寄る。
「マリエル」
「どうぞ、姫さま、こちらへ」
クレアに昔から仕える、古参の侍女だ。彼女はこのような場に慣れないクレアを、導くように手を差し伸べた。こういう役目は、本来なら娘の母が務める。しかし、とうに母のないクレアには、彼女のような母代わりの侍女が務めることになっていた。
「皆さま、姫さまは、今までお加減が悪かったのでございますから、そのように、取り囲んでおしまいにならないでくださいませね」
彼女の声に、男たちはわずかにふたりとの間に距離を開けた。
「あ」
クレアが、長い衣装の裾をたぐり寄せ、壁の方に足を踏みだしたとき、小さく目の前に男の腕にぶつかった。
「失礼いたしました」
クレアは、その男を見上げた。
「とんでもない」
それは、セラフィスと同じような髪の色をした男だった。クレアは、その色にわずかに胸を高鳴らせる。
「姫、今日のお召し物は、いつになくお似合いですね」
その声も、わずかに似ているような気がする。見上げる長身に、黒いビロードの衣装をまとい、白い手袋をはめてその彩りのない彩色が、すらりとしたその体を見事に包み込んでいた。
「……ありがとう」
セラフィスに似た声でそう言われ、クレアはどきまぎしてうつむく。男は優しく微笑んで、クレアのゆく道をあけた。
「お加減が悪かったのは、長いこと異国におられたからでしょうか?」
クレアは顔を上げた。
「聞き及んでおりますよ、ラグラールは、マインラードとはまったく違う風土を持つ国だ。姫君には少々辛いお仕事であられたのではと」
「いいえ、そのようなこと、ありません」
首を振って、クレアは答えた。侍女はその傍らにひかえて、何も言わない。
「国のためですもの」
その言葉に、彼はにっこりと微笑んだ。
「稀に見る立派な姫君だ。噂に聞いていた通り」
クレアは、振り返って侍女を見る。彼女は、そっとクレアにささやきかけた。
「隣国、セレスティア公国の第二王子様、レジナウド様にいらっしゃいます」
その国の名は、聞いたことがあった。マインラードともっとも親しい関係にある国だったはずだ。
「お初にお目にかかります、クレア姫。レジナウド・セリスと申します」
「初め、まして」
ひざまずかれ、手を取られた。手袋に包まれた手の甲に、唇を受けて体が硬直する。
「お噂通り、お美しい」
その姿勢で、レジナウドはちらりと視線を上げた。それと瞳がかち合って、クレアはさっと頬を染めた。
「姫さま」
促されて、クレアは彼の前から去った。レジナウドは彼女を追いかけはしなかったが、そのかわりにこやかな視線でクレアを見送った。
「素敵な方ではありませんか」
侍女がそう言うのに、クレアは肩をすくめた。
「あの方なら、婿がねとして不足はございませんね」
わかってはいたが、この場が結婚を前提とした場なのだと改めて自覚させられて、クレアは何も言わずに侍女の差し出す小さなグラスをとった。中には、赤い花が浮いている。
「姫」
話しかけてくる者は後を絶たなかった。クレアは、それらに小さな返事を返しながらちらりと視線を広間の真ん中にやった。
小さなクリスタルを束ねた、豪奢なシャンデリアが天井からつるされている。その放つ光は虹色に光り、真っ白な大理石の引かれた床を照らし、そこに集う人を照らしている。音楽が響く。それは、広間の向こう側に席を構える楽団がかき鳴らすものだった。さまざまな楽器があった。今、音を奏でているのは黒い衣装の男だった。顎に挟んで長い弦で弾くように鳴らす楽器は、最近見るようになった、マインラードに入ってきてまだ新しいものだった。
広間の真ん中には、踊りの輪ができている。白、赤、青、紫。黄、藍、橙、緋。さまざまに光る衣装をつけた者たちが、そこを滑るように踊っている。その中で、ひときわ華やかに広間を彩るのは、一組の男女だった。
ひとりは、王太子。そうでないはずがない。クレアの、自慢の兄なのだから。その腕に抱かれていささかぎこちなく足を合わせるのは、輝くばかりの金の髪をなびかせた、息を飲むほどの美少女だった。
その美貌は、兄の艶姿と同じくらいクレアの視線を釘付けにした。
「あれは、ラクシュ神族ですわよ」
ささやくように侍女が言った。自分の視線の先を読まれ、クレアは恥じ入るとともにその言葉に驚いた。
「ラクシュ神族? あの、ラクシュ神族?」
念を押すようにクレアが言うと、侍女はうなずいた。
「ええ」
彼女と同じ方向に視線を合わせ、侍女は言った。
「随分立派に女の形をとってはいますけど」
その言い方には、いささか刺があった。クレアは、ラクシュ神族がその成り立ちの特異さゆえに差別を避けられない種族であることを思いだした。
彼女の瞳はこぼれんばかりに大きく、そしてその色は緑だった。そのような色は、宝石箱の中の宝石にすら見たことはない。彼女のまとう、深い緑のドレスは、彼女の姿を際立たせた。
「殿下は、ラクシュの娘などをお妃になさるおつもりなのでしょうか」
あの、美少女がセラフィスに選ばれるのだろうか。視線の先のふたりは笑顔さえ交わし、楽しげに手を取りあう。それはあまりに遠く、クレアには届くことすらない光景だった。
「姫」
声をかけられて、振り向く。そこには、レジナウドがいた。
「姫、落ち着かれましたか?」
侍女はすっとその身を引いた。レジナウドに目の前に立たれ、クレアの視線からはセラフィスとあのラクシュの娘の姿は消え去った。
「もし、およろしければ」
すっと手が差し伸べられる。クレアはそれに戸惑った。
「姫」
レジナウドが言葉を述べ終わらないうちに、別の手が差し伸べられた。それは、レジナウドを押しのけんばかりにクレアに差し出され、言葉を取られて驚くレジナウドを尻目にこう言った。
「ダンスのお相手を」
クレアは、その黒い手袋をはめた手を見、そして顔を見た。そこに、意外な顔を見つけて驚きに息を飲む。
「エクス・ヴィト!」
それは、いつもの衣装は取り払い、正装に身を包んだエクス・ヴィトだった。彼のまとう黒の衣装はレジナウドのそれよりも深く、艶を帯びて彼の美貌を引き立たせている。施された銀の刺繍は目を奪うのに十分な繊細さで、エクス・ヴィトのそのような格好を初めて見たクレアがすっかり視線を奪われている間に、彼女の手は取られ、そして広間のただ中に誘いざなわれる。
「エクス・ヴィト……」
驚きのまま、腰に手を回され、クレアは習い覚えたステップを踏み始めた。
「エクス・ヴィトが来ているとは思わなかったわ」
彼はにこりと笑って、クレアが驚くほど巧みに彼女をリードする。
「お仕事、なの?」
見知ったエクス・ヴィトになら、このような扱いを受けても気恥ずかしくはない。クレアは、見知らぬどこぞの王子にそうされるよりはよっぽどまし、とエクス・ヴィトに体を預けた。
「いえ、今日は、宮廷魔道師の俺としてじゃなく、ラグール家の一員として参りました」
エクス・ヴィトのダンスの腕は、巧みだった。それは、クレアが驚くほどで、彼女はまったく気負いなくそれに合わせる。
「そう、なの」
その意味はわからず、とりあえずといったようにクレアはうなずいた。
「おきれいですね、姫さま」
いつもの魔道師としての衣は脱ぎ捨てて、貴公子然としたその口から出る賛辞は、違和感なく耳の中に滑り込む。
「姫さまの髪に合わせた色ですね、そのドレス」
「ええ」
クレアは微笑んだ。
「今日初めて袖を通したのだけれど、私も、この色は好きよ」
「よくお似合いです」
クレアの耳もとに唇を寄せて、エクス・ヴィトは頬を真っ赤に染めてしまうようなことをさらりと言う。
「今まで、ずっと着てもらえなくてそのドレスも泣いていたでしょうがね、散々出席をすっぽかしてた姫さまは、何で今日は機嫌を直されたのです?」
からかうように言われて、クレアは唇をとがらせた。
「別に、機嫌を直したとかいうわけではないわ」
エクス・ヴィトは、眉を小さく上げて見せる。
「お兄様が、どうしてもっておっしゃるから」
「……ふぅん」
曲が緩やかにテンポを変えた。エクス・ヴィトの、クレアの腰を抱える力が強くなる。
「殿下、ね」
「……」
何も話したことはないとはいえ、この魔道師はすべてお見通しであるようだった。それはそうだろう、セラフィスとのつきあいの長さでは、宮廷中でもエクス・ヴィトが一番だったし、自然、クレアに関わる機会も多く、この兄妹の一番近くにいるのはこのエクス・ヴィトであると言ってもよかった。
「エクス・ヴィト」
クレアは少しためらいながらも、エクス・ヴィトに尋ねた。
「あの、お兄様と踊っていらっしゃる、ラクシュ神族の方はどなたなの?」
エクス・ヴィトはきょとんとクレアを見、そしてにやりと笑って言った。
「ソティラ・アストリア。騎士団の一員です」
「……は?」
クレアは、不意をつかれて妙な声を出した。
「騎士なの、あの方は?」
「はい」
「女の方なのに?」
エクス・ヴィトはますますにやにやして、クレアを見た。
「気になりますか?」
その口調が完全に自分を馬鹿にしているとクレアは憤慨し、唇を反らせた。
「そういうわけではないわ」
しかし、また視線はそちらへ向く。そして、小さな声で付け加えた。
「なぜ、女の方とは言え、騎士団の方がドレスを着て、あそこでお兄様と踊っているの?」
「そんなの、私は知りませんよ」
エクス・ヴィトは不満げに言った。
「殿下が、そうしろとおっしゃるのでね」
「お兄様が?」
エクス・ヴィトはうなずいた。
「殿下が辺境の民の孤立を良しとせずに融合策に出たのは知っていましたがね。そのうちのひとりを騎士団に入隊させたのもね。ソティラ・アストリアはあの暴動の時、随分活躍してたらしくて殿下も一目置いていらっしゃいました」
クレアは目をしばたたかせてそれに聞き入った。
「妃選びの話が出たとき、殿下が命令なさったのです。ソティラ・アストリアを呼んで、彼女にドレスを着て自分のダンスの相手をしろとね。いくら王都のものには馴染みはないと言っても、ラクシュ神族は見ての通り、美貌に秀でた一族ですからね、人目を引くくらいのことはわけありません」
「そうなの」
クレアは小さく言った。
「お兄様は、あの方をお妃になさるつもりなのかしら」
「さぁ」
エクス・ヴィトは冷たく言った。
「何をお考えになってそんなことを命令されたのかは知りませんけどね。ともかく、人の話題を攫っているのは事実です」
顎でエクス・ヴィトが指し示す先では、セラフィスとソティラが談笑していた。それを取り巻く人々が、皆そちらを見ているのは確かめなくてもわかることだった。
「作戦かも知れませんけどね」
「なんの?」
そう尋ねるクレアに、エクス・ヴィトはまたにやりと笑う。
「それより、姫さま、あなたのほうはどうなんです」
クレアはそれに、肩をすくめて見せる。
「姫さまも、婿選びを迫られてるんでしょう? さっき、セレスティアの王子さんといいムードでいらしたけれど、姫さまはああいう方がお好みですか」
「違うわ」
クレアは膨れて言った。
「あれは、あちらから話しかけてきただけです。私は、結婚する気などないですもの」
「ふぅん」
エクス・ヴィトはそれを、さぞ面白いと言った顔つきで聞き入った。
「そりゃまた、なんでですか」
「……」
クレアは、口をつぐんだ。
「お姉様のようには、なりたくないもの」
エクス・ヴィトは何も言わなかった。音楽が終わって、次の音楽が始まるまでの間、壁際に集まって話をする者たちの中に混じったクレアはそっと言った。
「よそのお国にお嫁に行って、マインラードを裏切らなくてはいけないようなことになれば、私は耐えられないわ。私は、マインラードを愛しているの。外国に嫁げば、この国に背を向けるようなことにならないとも限らないでしょう」
エクス・ヴィトは、クレアの言葉を取って、愛してる、ですか、とつぶやくように言った。
「じゃ、外国に嫁に行くんじゃなけりゃいいんですね」
「エクス・ヴィト?」
エクス・ヴィトはクレアに手を差し出した。クレアは反射的にそれを取ったものの、そしてエクス・ヴィトがクレア引きずるように連れて行くのに驚いて、わずかに抵抗した。
「エ、エクス・ヴィト? なんなの?」
クレアは慌てた。しかし、エクス・ヴィトは有無を言わせぬ力でクレアを抵抗させない。そして、広間の中ほどに集まる人々の群れをかき分けた。
「殿下」
エクス・ヴィトの呼びかけに振り返ったのはセラフィスだった。そして、その傍らには美しいラクシュ神族の騎士、ソティラ・アストリアもいた。話には聞いたとはいえ、間近で見てもまだ彼女が騎士団の一員だとは信じられなかった。
「エクス・ヴィト」
クレアを連れたエクス・ヴィトに、セラフィスは驚いたように声をかけた。
「お前も来ていたのか」
エクス・ヴィトは恭しく頭を下げた。それが、友達の間で交わされるそれではないことに、セラフィスもさっと姿勢を変える。主従であり親友でもあるこのふたりは、こうすることによってその境界線をうまく使い分けていた。
「殿下に、お願いがございます」
「許す、申せ」
そこにいたすべての者の視線がふたりに集まる。その不躾な視線にクレアは居心地悪く身を揺らした。
「エクス・ヴィト・ラグールが申し上げます」
エクス・ヴィトの意図が見えなくて、クレアは戸惑う。エクス・ヴィトは膝を折り、セラフィスを見上げてこう言った。
「殿下の妹君、クレア・ナディ・シュザレーン姫殿下に求婚する許しをお与えくださいませ」
「エクス・ヴィト!?」
クレアはそんな悲鳴を上げて、エクス・ヴィトににらまれた。そして、そんな驚きはあたりの者も同じだった。セラフィスは、一瞬息を飲んでエクス・ヴィトを見た。彼の視線とかち合って、そのまま何も言わず、それをとらえた。
「そうか、お前が」
長い沈黙を破って、セラフィスは言った。
「良かろう、許す。後は、クレア次第だ」
「ありがたく存じます」
「お兄様?」
クレアはただただ驚くことしかできなかった。薄い赤に塗られた唇が驚きに開いたまま、閉じることを忘れていた。そして、目の前の兄とわずかに絡み合った視線にもその戸惑いをかき消すことはできなくて、クレアはその場に立ち尽くした。
その中心には、王太子、セラフィスがいた。
「なぜ、お嫌なのですの?」
クレアは舞踏会への出席を拒み、衣装を替えるよう迫る侍女を困らせている。
「姫さまは、ああいう場がお好きではありませんでしたか?」
確かに、彼女は舞踏会や園遊会と言った場が好きだった。人のさざめきや賑わいを好み、着飾ることも嫌いではなかった。
「どうなさったのですの?」
心配そうな侍女に、然りとて理由を言うわけにもいかなかった。
どこに、恋人の花嫁選びの場に立ち会える者がいるというのだろうか。
「殿下も、心配しておられましたわ」
「そんな……」
そんなはずはないのに。自分が出席したくない理由を一番よく知っているのは彼ではないか。クレアは、窓の外に視線をやり、そしてため息をついて言った。
「お兄様には、クレアは気分が勝れませんから参りませんとお伝えしてちょうだい」
「姫さま……」
クレアは、振り向いた。
「私は、行きたくないの。そう、伝えてちょうだい。クレアは参りません」
舞踏会に来ているのは、王太子妃の座を狙う娘たちばかりではなかった。
クレアは、もう十五だ。来年には成人し、早々にも結婚の話が持ち上がってもいい年だった。つまり、この舞踏会には、そんな目論見を持つ貴族たちの若者も集まっている。クレアを手に入れるために。現国王の王女を手に入れることができれば、それ以上の家の安泰はないのだから。
そのことを知っているからこそ、侍女はクレアに出席を勧め、そしてクレアは拒んだ。
それは、何度か行われた舞踏会の後。そして、クレアが再三にわたって出席を促されながら、ことごとくをそれを拒否してきたある日。
◆◇
クレアは、そっと部屋を抜け出した。それは、宵の口。また、舞踏会が催されるはずだった。年嵩の侍女が、自分の衣装を用意しているのを見たクレアは、それを着せられる前に逃げたのだった。
わずかにまだ空には薄明るい夕日の名残が残っている。そして、クレアの私室がある棟から見える広間は、無数の人工の光でまばゆく輝いていた。
あそこで、セラフィスが美しく着飾った娘たちに囲まれるのだ。クレアは嘆息した。
舞踏会はいくつ開かれただろうか。クレアは、その数を覚えてはいなかった。ともすると、もう妃の候補は決まったのかも知れない。あれから、兄には会っていない。会議などの公式の場で顔を合わせることはあっても、言葉を交わす機会もなく、クレアは彼の目に触れないようにそそくさとその場を去る。こんな、さいなまれるような時間がいつまで続くのだろうか。クレアは、その度に針の蓆を踏むような思いをしながら、それでも彼の顔は見られなかった。
罪が、怖い。
それは、自らの心に対する裏切りだろうか。罪を犯すことと、自らの心を押し殺すこと、どちらがより辛く、どちらがより恐ろしいものか。クレアは罪を恐れた。セラフィスの手を取ってしまうこと、そして、その胸に身を預けること。それを、何よりも渇望していながら、否定できない事実が目の前に立ちはだかる。それに抗う術を、クレアは持たなかった。
夜の空気に触れた下草が、クレアの衣装の裾にこすられてかさかさと音を立てる。そこは、王宮のもっとも奥深いところにある裏庭だった。そこは、存在を知らぬ者すらいる場所で、クレアの格好の逃げ場所だった。家庭教師たちの押し込みがいやで、ここに逃げ込んだことすら稀ではなかった。
クレアは、そこにある石の段の上に腰を下ろす。そして、頬杖を突いて天を見上げる。そこに浮かぶのは、半円の月。半身を失って、頼りなげにぼんやり浮かぶ悲しげな月。
「……」
それから、視線は外せなかった。そのはかなさは、自分の心にも似て。ため息が洩れる。
このまま逃げて、そして、自分はどうなるのだろうか。セラフィスからも、自分に定められた未来からも。逃避が自らを救うことはないとわかっているのに、それでもクレアは逃げること以外できなかった。想いからも、定めからも。
かさ、と音がしてクレアははっと顔を上げた。そして、冷たい風を浴びせられたように凍りつく。
セラフィスだった。
「お、兄様……」
声が震える。彼を呼ぶのは、あの夜以来だった。涙はもう乾き、腫れた頬もその痕を残してはいないが、鋭いうずきを抱えた胸だけは今も激しくクレアをさいなむ。
「どうして、ここへ……?」
立ち上がることも忘れて、クレアは震える声で尋ねた、月の光を背に浴びて、セラフィスは微笑む。
「お前の部屋を訪ねたら、お前がいないと侍女たちが騒いでいたものでね。探しに来たんだよ」
セラフィスは、穏やかな笑みを浮かべたままだった。それに気恥ずかしささえ覚えて、クレアはそっと座り直した。
「どうして、私がここにいるとご存知なの?」
このような場所を、セラフィスが知っているとは驚きだった。
「座っても、いいか」
セラフィスは、りりしいまでの正装に身を包んでいた。その胸から下がる飾り紐が、風にわずかに揺れた。
「どうぞ」
クレアがそっと腰を寄せると、セラフィスはその隣に腰を下ろした。クレアは、落ち着かなく顔をうつむかせた。
「私が、お前の行動を読めないとでも思っているのかい?」
セラフィスは笑って、クレアの疑問に答えた。
「お前は何か責務から逃げ出すときは、必ずここにいるだろう」
「ご存知でしたの……?」
誰も知らないと思っていた秘密を知られていたとあって、クレアは頬を染めた。
「お前のことは、何でも知っているよ」
セラフィスは空を見上げた。そこに迫る闇は、少しずつ濃くなっている。
「お兄様、今日も、舞踏会があるのではなかったですか……?」
クレアは心配になってそう聞いた。
「出席、なさらないんですか」
セラフィスは空から視線を外し、クレアを見た。
「お前が、そんな心配をしてくれるのか。そう言うお前は、どうなんだい?」
きまり悪く首をすくめるクレアに、セラフィスは笑った。
「何回も、出席するように使いをよこしたはずだが。お前にまで届かなかったのか?」
「……いえ。そうではありません」
クレアは消え入りそうな声で言った。
「お使いは、いただきました。ただ、私、行きたくなくて」
セラフィスはただ、そんな彼女を見る。セラフィスからの使いの言葉を無視した事すらも咎めはしない。
「行けません、そんな、私……」
声を詰まらせるクレアの背に、セラフィスの手がかかった。それにはっとする間もなく、唇に柔らかいものが触れ、そして、消えた。
「お妃様は、決まったのですか?」
それをかき消すように、クレアは慌てて言った。実に自然に与えられたくちづけは、わずかに甘い香りだけを残してすぐに消えた。
「臣下たちも、業を煮やしているよ。なかなか私が決めようとしないのでね」
セラフィスは苦笑した。
「決められるわけなどないのにね。お前が、あそこにいないのに」
「お兄様」
咽喉にその名が絡みつく。
「わかっているよ」
セラフィスは微笑んだ。
「お前を苦しめようとは思わない。ただ……」
ふと、その瞳に寂しさがよぎる。
「ただ、変わらず私を愛しているとの言葉だけが、聞きたい」
「変わるはずも、ありませんわ」
セラフィスはつぶやいた。
「愛して、おります。変わらずに、ずっと」
ささやきは風に乗って、そしてセラフィスのもとに届いたようだった。彼は微笑みを浮かべたが、それは見る者の胸を突き刺すようなものだった。
「クレア、お前を探しに来た」
セラフィスは手を伸ばし、クレアの手を取った。
「舞踏会に出るんだ。今日は、逃がさない」
「……!」
とられた手は、逃げられない強さで捕まれた。クレアがそれを引っ込めようとしても、もうそれは遅かった。セラフィスはそれを、痛いほどの力で掴み、そしてクレアをいつになく真剣な顔で見つめた。
「王女としての、義務だ。これ以上、それを放棄する気か」
「できません、私、できません……!」
クレアは小さく悲鳴を上げた。
「できません、私、お兄様が……」
「忘れたのか」
セラフィスは厳しく言った。
「お前は、マインラードの王女だ。いかなる理由でも、それを放棄することは許されない。その責務を、逃れるのか?」
「……」
クレアは手をつかまれたまま、息を飲んだ。セラフィスの、曙の色の瞳が王太子のそれになってクレアを刺した。会議の時に見るような、厳しい色だった。
「クレア」
その瞳に射られ、クレアは幾度か浅い息を付き、そして肩を落とした。
「離して、ください」
解かれた手が、わずかな痛みを伴った。
「わかりました」
ため息のような声が洩れた。
「参ります」
セラフィスはうなずいた。
「お前は、今までは体調が思わしくないという理由で出席していないと言い繕ってある。口裏を、合わせておいてくれ」
「……どうして」
クレアは、立ち上がろうとするセラフィスを引き止めた。
「なぜですの、なぜ、こんな……」
なぜ、セラフィスを求めて集まる女たちの中に混ざらねばならないのか。なぜ、自分を手に入れようと群がる男たちの中にその身をさらさねばならないのか。
「私が、罪を恐れているからですか?」
セラフィスは、そんなクレアを振り返る。
「わたくしが、罪を恐れて自らの思いを貫くことができないから、これは、その報いだというのですの?」
仰ぐように、クレアはセラフィスを見上げた。瞳がかち合う。それは絡み合って、抱擁を交わすよりも確かな思いを伝えあった。
「それは、私も同じだ」
セラフィスのつぶやきは、風に流れる。
「お前をさらっていってしまえばいい。どこか、誰も知らないところに。私たちが、血を分けているなど、誰も知らないところへ」
何度もそのことを考えたのだろう、それは、さらりと口を付いて出た。
「そうできればと、そう願った。しかし、私にはできない。私には、父上を、臣下たちを、そしてこの国を捨ててしまうことなどできない。たとえ、愛するものをこの手に抱けないとしても私は私の背負うものを捨てられない」
「当然、です」
セラフィスは、そういう男だった。それを、クレアが一番よく知っていた。
「お兄様が、そうお思いになるのは当然です」
「そして、それはお前も同じだ」
それは、寂しげなつぶやきだった。
「お前も、また国のものだ」
セラフィスは立ち上がり、クレアに手を差し伸べた。
「私たちが、心のままに生きることは許されないのだろう。王家に生まれたこと、そして、背徳の恋に身を投じたこと」
それが、すべての罪。
クレアは彼の手に従った。つながれた手からは、せめてもの暖かさが伝わってくる。
「お前のことだけを思って、生きていたい」
「お兄様……」
かすめるようなくちづけが去った。
「お前の部屋まで行こう。ともに、広間まで向かわないか」
「……はい」
手を取られ、まるでその姿が恋人同士のようだ、と想像することだけがクレアの心の慰めだった。そんな、傷を逆なでするような慰めは、かえってそれを深くしたとしても。
◆◇
ざわめきが走った。クレアは、それにわずかに体を震わせる。
クレアはセラフィスに手を取られて、広間の扉をくぐる。彼女の長い髪は緩やかに結い上げられ、それを淡い大輪の花が飾っていた。身を包む、淡い紫の衣装は長い袖でクレアの肌を隠すのに、まるで冬の寒さが襲うかのように、そこに渦巻く視線がクレアの身を凍えさせる。
「姫」
初めて広間に顔を見せた王女を、待ちかねた貴公子たちが取り囲む。広間を埋め尽くす、互いに負けじと着飾った人々。彼らの身を包む宝石と、光沢のある衣装が広間の明かりをさらに明るいものに見せる。それに目を奪われて、クレアは眩暈さえ感じた。
セラフィスの手が、離れた。ふたりは、それぞれを取り囲む人の群れの中に引き離される。クレアは彼に視線をやったが、彼はもう、それの届くところにはいなかった。
「姫、お加減がお悪いと聞いておりましたが」
「もう、大丈夫でいらっしゃいますか」
いずれも、年若い男たちだった。ここに来た目的をやっと果たせると、安堵した表情が一様に広がる。
「ええ、ご心配をおかけいたしましたわ」
クレアは、戸惑いながら返事をした。今まで、舞踏会に出席したことがないわけではない。しかし、このようにたくさんの者に取り囲まれ、にわかに主役に押し上げられるなどは初めてだった。成人に満たぬ幼い姫など、貴公子たちの相手にはならなかったのだ。クレアは、戸惑ってあたりを見回した。
「姫さま」
クレアの背後に近寄ってきた影があった。クレアは、ほっとしてその見慣れた姿に歩み寄る。
「マリエル」
「どうぞ、姫さま、こちらへ」
クレアに昔から仕える、古参の侍女だ。彼女はこのような場に慣れないクレアを、導くように手を差し伸べた。こういう役目は、本来なら娘の母が務める。しかし、とうに母のないクレアには、彼女のような母代わりの侍女が務めることになっていた。
「皆さま、姫さまは、今までお加減が悪かったのでございますから、そのように、取り囲んでおしまいにならないでくださいませね」
彼女の声に、男たちはわずかにふたりとの間に距離を開けた。
「あ」
クレアが、長い衣装の裾をたぐり寄せ、壁の方に足を踏みだしたとき、小さく目の前に男の腕にぶつかった。
「失礼いたしました」
クレアは、その男を見上げた。
「とんでもない」
それは、セラフィスと同じような髪の色をした男だった。クレアは、その色にわずかに胸を高鳴らせる。
「姫、今日のお召し物は、いつになくお似合いですね」
その声も、わずかに似ているような気がする。見上げる長身に、黒いビロードの衣装をまとい、白い手袋をはめてその彩りのない彩色が、すらりとしたその体を見事に包み込んでいた。
「……ありがとう」
セラフィスに似た声でそう言われ、クレアはどきまぎしてうつむく。男は優しく微笑んで、クレアのゆく道をあけた。
「お加減が悪かったのは、長いこと異国におられたからでしょうか?」
クレアは顔を上げた。
「聞き及んでおりますよ、ラグラールは、マインラードとはまったく違う風土を持つ国だ。姫君には少々辛いお仕事であられたのではと」
「いいえ、そのようなこと、ありません」
首を振って、クレアは答えた。侍女はその傍らにひかえて、何も言わない。
「国のためですもの」
その言葉に、彼はにっこりと微笑んだ。
「稀に見る立派な姫君だ。噂に聞いていた通り」
クレアは、振り返って侍女を見る。彼女は、そっとクレアにささやきかけた。
「隣国、セレスティア公国の第二王子様、レジナウド様にいらっしゃいます」
その国の名は、聞いたことがあった。マインラードともっとも親しい関係にある国だったはずだ。
「お初にお目にかかります、クレア姫。レジナウド・セリスと申します」
「初め、まして」
ひざまずかれ、手を取られた。手袋に包まれた手の甲に、唇を受けて体が硬直する。
「お噂通り、お美しい」
その姿勢で、レジナウドはちらりと視線を上げた。それと瞳がかち合って、クレアはさっと頬を染めた。
「姫さま」
促されて、クレアは彼の前から去った。レジナウドは彼女を追いかけはしなかったが、そのかわりにこやかな視線でクレアを見送った。
「素敵な方ではありませんか」
侍女がそう言うのに、クレアは肩をすくめた。
「あの方なら、婿がねとして不足はございませんね」
わかってはいたが、この場が結婚を前提とした場なのだと改めて自覚させられて、クレアは何も言わずに侍女の差し出す小さなグラスをとった。中には、赤い花が浮いている。
「姫」
話しかけてくる者は後を絶たなかった。クレアは、それらに小さな返事を返しながらちらりと視線を広間の真ん中にやった。
小さなクリスタルを束ねた、豪奢なシャンデリアが天井からつるされている。その放つ光は虹色に光り、真っ白な大理石の引かれた床を照らし、そこに集う人を照らしている。音楽が響く。それは、広間の向こう側に席を構える楽団がかき鳴らすものだった。さまざまな楽器があった。今、音を奏でているのは黒い衣装の男だった。顎に挟んで長い弦で弾くように鳴らす楽器は、最近見るようになった、マインラードに入ってきてまだ新しいものだった。
広間の真ん中には、踊りの輪ができている。白、赤、青、紫。黄、藍、橙、緋。さまざまに光る衣装をつけた者たちが、そこを滑るように踊っている。その中で、ひときわ華やかに広間を彩るのは、一組の男女だった。
ひとりは、王太子。そうでないはずがない。クレアの、自慢の兄なのだから。その腕に抱かれていささかぎこちなく足を合わせるのは、輝くばかりの金の髪をなびかせた、息を飲むほどの美少女だった。
その美貌は、兄の艶姿と同じくらいクレアの視線を釘付けにした。
「あれは、ラクシュ神族ですわよ」
ささやくように侍女が言った。自分の視線の先を読まれ、クレアは恥じ入るとともにその言葉に驚いた。
「ラクシュ神族? あの、ラクシュ神族?」
念を押すようにクレアが言うと、侍女はうなずいた。
「ええ」
彼女と同じ方向に視線を合わせ、侍女は言った。
「随分立派に女の形をとってはいますけど」
その言い方には、いささか刺があった。クレアは、ラクシュ神族がその成り立ちの特異さゆえに差別を避けられない種族であることを思いだした。
彼女の瞳はこぼれんばかりに大きく、そしてその色は緑だった。そのような色は、宝石箱の中の宝石にすら見たことはない。彼女のまとう、深い緑のドレスは、彼女の姿を際立たせた。
「殿下は、ラクシュの娘などをお妃になさるおつもりなのでしょうか」
あの、美少女がセラフィスに選ばれるのだろうか。視線の先のふたりは笑顔さえ交わし、楽しげに手を取りあう。それはあまりに遠く、クレアには届くことすらない光景だった。
「姫」
声をかけられて、振り向く。そこには、レジナウドがいた。
「姫、落ち着かれましたか?」
侍女はすっとその身を引いた。レジナウドに目の前に立たれ、クレアの視線からはセラフィスとあのラクシュの娘の姿は消え去った。
「もし、およろしければ」
すっと手が差し伸べられる。クレアはそれに戸惑った。
「姫」
レジナウドが言葉を述べ終わらないうちに、別の手が差し伸べられた。それは、レジナウドを押しのけんばかりにクレアに差し出され、言葉を取られて驚くレジナウドを尻目にこう言った。
「ダンスのお相手を」
クレアは、その黒い手袋をはめた手を見、そして顔を見た。そこに、意外な顔を見つけて驚きに息を飲む。
「エクス・ヴィト!」
それは、いつもの衣装は取り払い、正装に身を包んだエクス・ヴィトだった。彼のまとう黒の衣装はレジナウドのそれよりも深く、艶を帯びて彼の美貌を引き立たせている。施された銀の刺繍は目を奪うのに十分な繊細さで、エクス・ヴィトのそのような格好を初めて見たクレアがすっかり視線を奪われている間に、彼女の手は取られ、そして広間のただ中に誘いざなわれる。
「エクス・ヴィト……」
驚きのまま、腰に手を回され、クレアは習い覚えたステップを踏み始めた。
「エクス・ヴィトが来ているとは思わなかったわ」
彼はにこりと笑って、クレアが驚くほど巧みに彼女をリードする。
「お仕事、なの?」
見知ったエクス・ヴィトになら、このような扱いを受けても気恥ずかしくはない。クレアは、見知らぬどこぞの王子にそうされるよりはよっぽどまし、とエクス・ヴィトに体を預けた。
「いえ、今日は、宮廷魔道師の俺としてじゃなく、ラグール家の一員として参りました」
エクス・ヴィトのダンスの腕は、巧みだった。それは、クレアが驚くほどで、彼女はまったく気負いなくそれに合わせる。
「そう、なの」
その意味はわからず、とりあえずといったようにクレアはうなずいた。
「おきれいですね、姫さま」
いつもの魔道師としての衣は脱ぎ捨てて、貴公子然としたその口から出る賛辞は、違和感なく耳の中に滑り込む。
「姫さまの髪に合わせた色ですね、そのドレス」
「ええ」
クレアは微笑んだ。
「今日初めて袖を通したのだけれど、私も、この色は好きよ」
「よくお似合いです」
クレアの耳もとに唇を寄せて、エクス・ヴィトは頬を真っ赤に染めてしまうようなことをさらりと言う。
「今まで、ずっと着てもらえなくてそのドレスも泣いていたでしょうがね、散々出席をすっぽかしてた姫さまは、何で今日は機嫌を直されたのです?」
からかうように言われて、クレアは唇をとがらせた。
「別に、機嫌を直したとかいうわけではないわ」
エクス・ヴィトは、眉を小さく上げて見せる。
「お兄様が、どうしてもっておっしゃるから」
「……ふぅん」
曲が緩やかにテンポを変えた。エクス・ヴィトの、クレアの腰を抱える力が強くなる。
「殿下、ね」
「……」
何も話したことはないとはいえ、この魔道師はすべてお見通しであるようだった。それはそうだろう、セラフィスとのつきあいの長さでは、宮廷中でもエクス・ヴィトが一番だったし、自然、クレアに関わる機会も多く、この兄妹の一番近くにいるのはこのエクス・ヴィトであると言ってもよかった。
「エクス・ヴィト」
クレアは少しためらいながらも、エクス・ヴィトに尋ねた。
「あの、お兄様と踊っていらっしゃる、ラクシュ神族の方はどなたなの?」
エクス・ヴィトはきょとんとクレアを見、そしてにやりと笑って言った。
「ソティラ・アストリア。騎士団の一員です」
「……は?」
クレアは、不意をつかれて妙な声を出した。
「騎士なの、あの方は?」
「はい」
「女の方なのに?」
エクス・ヴィトはますますにやにやして、クレアを見た。
「気になりますか?」
その口調が完全に自分を馬鹿にしているとクレアは憤慨し、唇を反らせた。
「そういうわけではないわ」
しかし、また視線はそちらへ向く。そして、小さな声で付け加えた。
「なぜ、女の方とは言え、騎士団の方がドレスを着て、あそこでお兄様と踊っているの?」
「そんなの、私は知りませんよ」
エクス・ヴィトは不満げに言った。
「殿下が、そうしろとおっしゃるのでね」
「お兄様が?」
エクス・ヴィトはうなずいた。
「殿下が辺境の民の孤立を良しとせずに融合策に出たのは知っていましたがね。そのうちのひとりを騎士団に入隊させたのもね。ソティラ・アストリアはあの暴動の時、随分活躍してたらしくて殿下も一目置いていらっしゃいました」
クレアは目をしばたたかせてそれに聞き入った。
「妃選びの話が出たとき、殿下が命令なさったのです。ソティラ・アストリアを呼んで、彼女にドレスを着て自分のダンスの相手をしろとね。いくら王都のものには馴染みはないと言っても、ラクシュ神族は見ての通り、美貌に秀でた一族ですからね、人目を引くくらいのことはわけありません」
「そうなの」
クレアは小さく言った。
「お兄様は、あの方をお妃になさるつもりなのかしら」
「さぁ」
エクス・ヴィトは冷たく言った。
「何をお考えになってそんなことを命令されたのかは知りませんけどね。ともかく、人の話題を攫っているのは事実です」
顎でエクス・ヴィトが指し示す先では、セラフィスとソティラが談笑していた。それを取り巻く人々が、皆そちらを見ているのは確かめなくてもわかることだった。
「作戦かも知れませんけどね」
「なんの?」
そう尋ねるクレアに、エクス・ヴィトはまたにやりと笑う。
「それより、姫さま、あなたのほうはどうなんです」
クレアはそれに、肩をすくめて見せる。
「姫さまも、婿選びを迫られてるんでしょう? さっき、セレスティアの王子さんといいムードでいらしたけれど、姫さまはああいう方がお好みですか」
「違うわ」
クレアは膨れて言った。
「あれは、あちらから話しかけてきただけです。私は、結婚する気などないですもの」
「ふぅん」
エクス・ヴィトはそれを、さぞ面白いと言った顔つきで聞き入った。
「そりゃまた、なんでですか」
「……」
クレアは、口をつぐんだ。
「お姉様のようには、なりたくないもの」
エクス・ヴィトは何も言わなかった。音楽が終わって、次の音楽が始まるまでの間、壁際に集まって話をする者たちの中に混じったクレアはそっと言った。
「よそのお国にお嫁に行って、マインラードを裏切らなくてはいけないようなことになれば、私は耐えられないわ。私は、マインラードを愛しているの。外国に嫁げば、この国に背を向けるようなことにならないとも限らないでしょう」
エクス・ヴィトは、クレアの言葉を取って、愛してる、ですか、とつぶやくように言った。
「じゃ、外国に嫁に行くんじゃなけりゃいいんですね」
「エクス・ヴィト?」
エクス・ヴィトはクレアに手を差し出した。クレアは反射的にそれを取ったものの、そしてエクス・ヴィトがクレア引きずるように連れて行くのに驚いて、わずかに抵抗した。
「エ、エクス・ヴィト? なんなの?」
クレアは慌てた。しかし、エクス・ヴィトは有無を言わせぬ力でクレアを抵抗させない。そして、広間の中ほどに集まる人々の群れをかき分けた。
「殿下」
エクス・ヴィトの呼びかけに振り返ったのはセラフィスだった。そして、その傍らには美しいラクシュ神族の騎士、ソティラ・アストリアもいた。話には聞いたとはいえ、間近で見てもまだ彼女が騎士団の一員だとは信じられなかった。
「エクス・ヴィト」
クレアを連れたエクス・ヴィトに、セラフィスは驚いたように声をかけた。
「お前も来ていたのか」
エクス・ヴィトは恭しく頭を下げた。それが、友達の間で交わされるそれではないことに、セラフィスもさっと姿勢を変える。主従であり親友でもあるこのふたりは、こうすることによってその境界線をうまく使い分けていた。
「殿下に、お願いがございます」
「許す、申せ」
そこにいたすべての者の視線がふたりに集まる。その不躾な視線にクレアは居心地悪く身を揺らした。
「エクス・ヴィト・ラグールが申し上げます」
エクス・ヴィトの意図が見えなくて、クレアは戸惑う。エクス・ヴィトは膝を折り、セラフィスを見上げてこう言った。
「殿下の妹君、クレア・ナディ・シュザレーン姫殿下に求婚する許しをお与えくださいませ」
「エクス・ヴィト!?」
クレアはそんな悲鳴を上げて、エクス・ヴィトににらまれた。そして、そんな驚きはあたりの者も同じだった。セラフィスは、一瞬息を飲んでエクス・ヴィトを見た。彼の視線とかち合って、そのまま何も言わず、それをとらえた。
「そうか、お前が」
長い沈黙を破って、セラフィスは言った。
「良かろう、許す。後は、クレア次第だ」
「ありがたく存じます」
「お兄様?」
クレアはただただ驚くことしかできなかった。薄い赤に塗られた唇が驚きに開いたまま、閉じることを忘れていた。そして、目の前の兄とわずかに絡み合った視線にもその戸惑いをかき消すことはできなくて、クレアはその場に立ち尽くした。
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